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5/17/2026

【過去完了形】④:秋田方言辞典編

ここでとりあげる資料は、用法編とは別にし
て整理しました。

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

編集者:千葉光

秋田方言辞典編
次の資料では、「てあった・たった」につい
て、語形・分布・用例・語の成り立ちなどを
詳細にとりあげています。


語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
てあった・たった〔助動詞〕

【解説】
動詞・同型助動詞の連用形に付いて完了態の
過去(過去完了。大過去)を表す。詠嘆的な
回想の気持ちを表す。

〔テアッタ〕鹿 北 山 南 市 河 仙 由
〔テアタ〕山 南
〔テァッタ〕市
〔テァタ〕市 河
〔タッタ〕北 山 市
〔タタ〕河 仙

【用例】
「アノ 時 アイヅモ 来テアッタナ」
「次ノ 朝マ 起ギダバ、飯(ママ)ノ 仕度 シテアッタド」
「アノ 映画 去年 見デァッタ
「昔、昔、アル オ寺サ 和尚(オッ)サンド
 三人ノ 小僧 居デアッタド」
「急イデ 行ッタキャ、オ爺サン 鉢巻シテ
 赤ァ 顔 シテ 寝デアッタド」
「マグレルエニ シテ(ころがるようにして)
 馳シェデ 行ッタッタ
「アノ 山ノ 所ニ 吾作テ 若ァ者 居ダッタオノ」

【全国的分布】日本方言大辞典
《たった》
青森三戸郡 岩手 宮城宮城郡 群馬勢多郡
埼玉秩父郡 千葉安房郡・夷隅郡 東京都利島
神奈川愛甲郡 新潟岩船郡・西蒲原郡 山梨南巨摩郡
岐阜揖斐郡 静岡富士郡 三重度会郡・北牟婁郡
滋賀高島郡 大阪市 兵庫神崎郡・明石郡
奈良吉野郡 和歌山新宮市 島根 長崎 大分南海部郡

《たた》
青森南津軽郡 三重志摩郡 鹿児島市

【語源考察】
以上のように全国的にはタッタの形であるが
、本県では、タッタ・タタも時に用いるが、
多く原形のテアッタを用いる。

テアッタ、テアッタのような無声母音に
続くときや、行ッテアッタのような促音便に
続くときは〔テ〕、漕イデアッタ、死ンデア
ッタ、飛ンデアッタ、住ンデアッタのように
、ガ・ナ・バ・マ行五段の音便形に続くとき
は〔デ〕(本濁音・鼻濁音)、その他の場
合は居デアッタ・寝デアッタなどのように
〔デ〕(中濁音・単なる濁音化)となる。

接続助詞「て」+補助動詞「ある」の音便形
「あっ」+過去の助動詞「た」の一語化した
ものであるが、「て」には本来の、完了の助
動詞「つ」の連用形としての意味があると思
われる。

〔注〕
南秋田郡・山本郡に「行ったのだ」の意の「
行ッタッタ」(「行ッタアツダ」の転)が
あるが、「行ッテアッタ」の転の「行ッタッ
タ」と混同しないように注意を要する。

【補足】
この資料では、「てあった・たった」につい
て、完了態の過去(過去完了・大過去)を表
し、詠嘆的な回想の気持ちを表すとしていま
す。

秋田における分布については、「テアッタ」
が北部の鹿角郡、北秋田郡(大館市など)、
山本郡(能代市など)、中心都市の秋田市、
南秋田郡、河辺郡、仙北郡、南部の由利郡
(本荘市など)と幅広く分布しています。

また、「テアッタ」と「タッタ」の中間形と
思われる「テアタ・テァッタ・テァタ」も見
られます。

一方、「タッタ・タタ」は、北秋田郡、山本
郡、秋田市、河辺郡、仙北郡に分布していま
す。

これを基にすると、「テアッタ形・タッタ形
」の併用地域は、北秋田郡、山本郡、秋田市
、河辺郡、仙北郡となります。

解説にあるとおり、秋田全体では原形である
「テアッタ形」が多く用いられる傾向にある
ようです。

「テアッタ・タッタ」は日本語(全国共通語
)には存在しない用法ですが、日本方言大辞
典によれば、「タッタ」が関東・新潟・山梨
・静岡・三重・関西・島根・長崎・大分に分
布し、「タタ」が青森(津軽)・三重・鹿児
島に分布しています。

語源考察では、「てあった・たった」につい
て、接続助詞「て」+補助動詞「ある」の音
便形「あっ」+過去の助動詞「た」の一語化
したものとしています。

また、接続時の「テ」の濁音化についても詳
細に解説しています。

濁音化しない条件については、無声母音・促
音便「ッ」に続くときとしています。

無声母音とは、子音に続く母音が息の音のみ
で発音される現象です(口形は母音のままの
ため、聞き分けできる)。「来テアッタ・シ
テアッタ」の「来・シ」が該当します。

濁音化する条件については、ガ・ナ・バ・マ
行五段(例:漕グ・死ヌ・飛ブ・住ム)の音
便形に続くときは本濁音化・鼻濁音化し、そ
れ以外の音便形(例:居ル・寝ル)に続くと
きは中濁音化(単なる濁音化)するとしてい
ます。


編集者:千葉光

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5/07/2026

【過去完了形】⑤:青森県の方言編

ここでとりあげる資料は、用法編とは別にし
て整理しました。

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

編集者:千葉光

青森県の方言編
次の資料では、過去完了形について、助動詞
・形容詞・形容動詞ごとにとりあげています。
※引用欄を二つに分けてあります。


みちのく双書第二十一集 青森県の方言(此島正年, 1966年)
5、助動詞

行ッタッタというような言い方のあるのも、
方言のタがなお完了の意を強く持っている現
れである。

すなわち、タッタは西洋文法で言う過去完了
に相当する形で、完了のタに過去のタがつい
たものと言うことができる。

青森県ではこのタッタは南部弁に主として用
いられるようで、行ッタが単純な完了ないし
過去を表わすだけなのに対して、行ッタッタ
と言うと、「もうとっくに行った・すでに行
っている」という強めや、あるいは「行った
ことがある」という経験を表わすのである。

津軽では、行ッテアッタというようにタを本
来のテアルに戻して言うことが多いようであ
る。(「寒かった・静かだった」を寒クテア
ッタ・静カデアッタと表現するのと関連)。
3、用言

形容詞について。
(中略)
かくて、方言の形容詞では終止形を基本とし
て活用が単純化されるが、なお注意してよい
のは、いわゆるカリ活用の「赤かろ(う)・
赤かっ(た)」という形が津軽では発達しな
いでしまって、「赤かった」はアケェクテア
ッタのように、「―クテアッタ」(→クタッ
タ)の形を用い、「赤かろう」はアケェベで
済むからもともと「―かろ」のような形は必
要としないのである。

クテアッタなどという言い方は長たらしくて
不便なような感じがするが、実は便利なこと
もあって、たとえばアカクテアリマシタのよ
うにすぐにマスを入れて丁寧表現にすること
ができるが、共通語式の「赤かった」では、
丁寧表現にするばあいに「ます」が入れられ
ず、少し旧式に「赤うございました」と言う
か、あるいは「赤かったです」というぎこち
ない言い方をしなければならない。

「赤いです」という現在形をそのまま過去形
にして「赤いでした」と言えればよいのだが
、これはまだこなれていない(最近はこれが
かなり聞かれるようになっては来たが)。

このばあいに津軽式に「赤くてありました」
と言えば簡単におさまるのである。

こどもは正直なもので、津軽の低学年の子の
作文を見ると、「おなかがずきんずきんいた
くてありました」「そのくすりはにがくてあ
りました」のような表現をどしどししている。

もっとも、中に「たいへんおもしろかったで
した」「だいこんのつけものがいちばんおい
しかったでした」のような言い方が交ってい
るのは、こどもなりの方言と共通語との対応
意識からオモシロクテアッタを「おもしろか
った」と訳し、それに「でした」を加えたの
であって、共通語に完全な言い方がないため
の苦肉の策なのである。

形容動詞について。
(中略)
なお、共通語では「静かだろ(う)・静かだ
っ(た)」という形が活用の中に入れられる
が、方言では、「静かだろう」に当る表現は
シジカダベ(終止形プラス「べ」)と言うか
ら特にこの形をとりあげる必要はない。

「静かだった」は南部では同様に用いられる
が、津軽ではシジカデアッタというふうに本
来のシジカデにアルをつける形で言うから、
シジカダッ(タ)という形を立てる必要がな
い。ちょうど形容詞のばあいにサムカッタが
なくてサムクテアッタと言うのと同じである。

【補足】
この資料では、「行ッタッタ」の「タッタ」
について、西洋文法の過去完了に相当する形
であり、「もうとっくに行った」という強め
や、「行ったことがある」という経験を表わ
す用法としています。

尚、「タッタ」は南部弁に主に用いられ、津
軽では「行ッテアッタ」というように、本来
の「テアル」に戻して言うことが多いようで
す。

形容詞の解説では、津軽の「クテアッタ」の
用法であれば、「アカクテアリマシタ」のよ
うに丁寧表現への移行が容易であるのに対し
、共通語式のばあい、「赤かったです」とい
うぎこちない言い方をしなければならないこ
とを指摘しています。


編集者:千葉光

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5/06/2026

【過去完了形】②:仙台市方言の研究編

ここでとりあげる資料は、用法編とは別にし
て整理しました。

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

編集者:千葉光

仙台市方言の研究編
次の資料では、東北大学大学院が仙台市の話
者を対象に行なった調査を基に、過去完了形
(経験)について、文法カテゴリー(テンス
・アスペクト)に基づき、体系的に記述して
います。
※引用欄を二つに分けてあります。


宮城県仙台市方言の研究(小林隆, 2000年)
4.3 仙台市方言におけるテンス・アスペクトの形式的特徴

4.3.1 形式の種類と動詞への接続
 仙台市方言におけるテンスに関わる形式に
は、―タ、―タッタ、アスペクトに関わる形
式には、―テル(―テタ、―テタッタ)がある。

本章は、ル形(終止形)、タ形、タッタ形、テ
ル形、テタ形、テタッタ形を主に扱うことと
し、テンスに深く関わる―ケについては場合
によって触れる程度にとどめる。

当該方言におけるテンス・アスペクト形式が
動詞に接続した形を、動詞の活用ごとに例示
すると下の表のようになる。


表 4-1 仙台市におけるテンス・アスペクト形式

運動動詞:書く 食う 起きる する
①ル形
 カグ クー オギル スル
②タ形
 カイダ クッタ オギダ シタ
③タッタ形
 カイダッタ クッタッタ オギダッタ シタッタ
④テル形
 カイデル クッテル オギデル シテル
⑤テタ形
 カイデダ クッテダ オギデダ シテダ
⑥テタッタ形
 カイデダッタ クッテダッタ オギデダッタ シテダッタ

状態動詞(存在):居る 有る
①ル形   :イル アル
②タ形   :イダ アッタ
③タッタ形 :イダッタ アタッタ
④テル形  :― ―
⑤テタ形  :― ―
⑥テタッタ形:― ―

(中略)

共通語にない特徴的な形式としては、③タッ
タ形は動詞にタッタが付いたもの、⑥も同様
に動詞+テにタッタが付いたものがある。

⑤テタ、⑥テタッタなどのテに連なるタは濁
音化し、シテダ、シテダッタとなることがあ
る。
4.5 伝統的方言のテンス・アスペクト体系

4.5.1 運動動詞の完成的場面
 最初に、1998年調査の結果を主な考察対象
として伝統的方言の体系の記述を行う。
(中略)
以下、話者を生年(元号による)と性別によっ
て〔大11男〕、〔大14男〕などと示すことが
ある。

運動動詞の未来における完成的場面にはル形
、過去ではタ形とタッタ形が用いられる。

(1)今度ノ 日曜日、従兄弟ガ 東京カラ 来ル
 (完成相・未来)〔大14男〕
(2)昨日、従兄弟ガ 二年振リニ 遊ビサ 来タ/来タッタ。
 (完成相・過去)〔大14男〕

次の(3)(4)は、(3)今日、(4)先週、という時
間表現によって(3)よりも(4)がより昔の出来
事を表現しているのだが、タ形とタッタ形を
入れ替えても同じように使用できる。

そのため、タ形とタッタ形には時間副詞との
共起において差はなく、過去の出来事を表す
という機能においては同様であるため、過去
の完成的場面では違いを明確に説明できない
といってよいだろう。

(3)今日 マタ 新聞ノ勧誘 来タ/来タッタ ワ。〔大14男〕
(4)((3)の発話直後、「またって、前はいつ?」と聞かれて)
 先週 来タッタ/来タ。〔大14男〕

次の(5)(6)は、同一時の過去の出来事(午後
一時頃に昼飯を食べた)についての表現だが
、出来事の結果の残存を含んで表現する場合
にはタ形しか用いられないという違いがみら
れる。

(5)(お昼ご飯は何がいいかと聞かれて)
 昼飯 モー 食ッタ ワ。〔大11男〕
(6)((5)の発話直後「何時頃?」と時刻を聞かれて)
 一時頃に 食ッタッタ/食ッタワ。〔大11男〕

(5)はパーフェクト的な場面であり、(6)は完
成的な場面である。タ形は(5)(6)の両方で用
いることができるが、タッタ形は、現在パー
フェクト的場面(5)には用いられない。

タ形もタッタ形も過去の出来事の完成的な場
面では用いられるが、タッタ形はタ形が用い
られる現在パーフェクト的場面では用いられ
ないため、完成相過去専用形式とすることが
できる。

タ形を用いるよりもタッタ形を用いるほうが
、出来事と現在との切り離し、つまり断絶性
が明確に表され、(6)ではタ形もタッタ形も
現在と切り離された過去(完成的過去場面)の
出来事の表現にも用いられるが、タッタ形を
用いた場合には、記憶の検索によって確かめ
られた過去の出来事であるという意味がより
明確になる。
--- 引用ここまで ---

【補足①】
「4.3.1 形式の種類と動詞への接続」では、
テンス・アスペクト形式が動詞に接続した形
を、動詞の活用ごとに例示しています。

資料では運動動詞が7つ例示してありますが
、そのうち4つの語をここでは引用しました。
③タッタ形に「書いだった・食った・起ぎだ
った・したった」などが、⑥テタッタ形に「
書・食ッテダッタ・起ギダッタ・シテダッタ
」などが例示されています。

状態動詞(存在)では、③タッタ形に「イダ
ッタ・アッタッタ」が例示されています。

そして、「タッタ形・テタッタ形」について
、共通語にない特徴的な形式としています。

【補足②】
「4.5.1 運動動詞の完成的場面」では、1998
年に大正11年・14年生まれの男性話者に面接
調査を行った結果を基に、仙台市方言のテン
ス・アスペクト体系について記述しています。

タ形・タッタ形の両形が使用できる場面では
、タッタ形を用いた場合、「記憶の検索によ
って確かめられた過去の出来事であるという
意味がより明確になる。」としています。


編集者:千葉光

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【過去完了形】③:秋田のことば編

ここでとりあげる資料は、用法編とは別にし
て整理しました。

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

編集者:千葉光

秋田のことば編
次の資料では、過去完了形について、テンス
(未来・現在・過去)、アスペクト(継続性
現在・完成相過去、継続性過去)の文法カテ
ゴリーを基に、例文を交えながら記述してい
ます。
※引用欄を二つに分けてあります。


秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
3 述語の表現
3-2 テンス・アスペクトの表現

(1) 状態述語のテンス
-----------------------------------
(1) オメァ アシタノ ユーカ°ダ エエルガ?
 (おまえ、明日の夕方家にいるか?)〈未来〉

(2) [近所の家に訪ねていって] ジッチャ エダガ?
 (おじいさん、いるか?)〈現在〉

  (3) オメァ キンニャノ ユーカ°ダ エエデアッタガ?
 (おまえ、昨日の夕方家にいたか?)〈過去〉

※用例の採集地である南秋田地方では、人や
 事物の〈存在場所〉を助詞「デ」で表す。
-----------------------------------

状態動詞「エル(居る)」のテンス表現を見
てみよう。(2) の例のように〈現在〉の存在
を表す場合にタ形を用いるのは、東日本方言
に広く見られる現象である。

「エダ」は〈現在〉だけでなく〈過去〉にも
用いられるが、〈過去〉であることを明確に
するためには、(3) のように「エテアッタ(
有声化して「エデアッタ」)」(県北部・中
央部)、「エタッタ(有声化して「エダッタ
」)」(県南部)を用いることになる。

(中略)

「エル」以外の状態述語のテンス表現は次の
ようになる。

①名詞述語
〈現在〉
キョーバ タエシタ エー テンキ
(今日はとてもいい天気だ。)

〈過去〉
キンニャバ タエシタ エー テンキデアッタ
(昨日はとてもいい天気だった。)

※形容動詞述語は、名詞述語の用法に準ずる。

(中略)

③可能動詞
〈現在〉
コノ ワラシ モー ヒトリデ フグ キレダ
(この子はもう一人で服を着ることができる。)

〈過去〉
コノ ワラシ キンニャバ ヒトリデ フグ キレデアッタ
(この子は昨日は一人で服を着ることができた。)

④存在動詞「アル」
○本動詞
〈現在〉
チグエノ ウエデ ショモジ アル
(机の上に本がある。)

〈過去〉
チグエノ ウエデ ショモジ{アッタアッテアッタ}。
(机の上に本があった。)

○補助動詞
〈現在〉
ベサ チラシ ハッテ アル
(壁にチラシが貼ってある。)

〈過去〉
ベサ チラシ{ハッテアッタ/ハッテアッテアッタ}。
(壁にチラシが貼ってあった。)

以上は、いずれも南秋田地方の方言の例であ
る。名詞述語の〈過去〉に「デアッタ」を用
いるのは主に県北部・中央部であり、県南部
では「ダッタ」を用いる。

同様に〈過去〉を表す「シテアッタ」(上の
例の「キレデアッタ」「アッテアッタ」「ハ
ッテアッテアッタ」)は県北部および中央部
、「シタッタ」(上の例に対応する形として
は「キレダッタ」「アッタッタ」「ハッテア
ッタッタ」)は県南部で用いられる傾向が強
い。
(2) 動態述語のテンス・アスペクト
-----------------------------------
(1)
アシタ オエノ アバ オデン コシェル
(明日、うちのお母さんはおでんを作る。)
〈完成相未来〉

(2)
アシタノ エマコ°ロバ オエノ アバ オデン コシェデル
(明日の今頃は、うちのお母さんはおでんを作っている。)
〈継続相未来〉

(3)
エマ アバ オデン コシェデダ
(今、お母さんがおでんを作っている。)
〈継続相現在〉

(4)
キンニャ アバ オデン{コシェダコシェデアッタ}。
(昨日、お母さんがおでんを作った。)
〈完成相過去〉

(5)
キンニャ オレ エサ キタ ジギ アバ チョード オデン
コシェデアッタコシェデエデアッタ}。
(昨日、私が家に帰ったとき、お母さんが丁度おでんを
作っていた。)
〈継続相過去〉
-----------------------------------
動態動詞の場合、まず、上の (1) (2) に見
られるように〈未来〉の表現に〈完成相〉で
「スル」、〈継続相〉で「シテル」が用いら
れるのは、全県的なものである。特徴的なの
は、〈現在〉と〈過去〉の表現であり、これ
には県内で著しい地域差がある。

上の例にあげた南秋田地方の方言の場合、(3)
のように〈継続相現在〉で「シテタ」(有声
化して「シテダ」)が用いられる点、および
〈過去〉の表現として「シテアッタ」(完成
相/継続相)、「シテエテアッタ」(有声化
して「シテエデアッタ」)(継続相)が用い
られるところに特色がある。

能代市などの県北部の方言では、〈継続相現
在〉で「シテラ」、〈継続相過去〉で「シテ
アッタ」が多く用いられ、大曲市などの県南
部の方言では、〈継続相現在〉で「シテダ/
シテラ」、〈完成相過去〉で「シタッタ」、
〈継続性過去〉で「シテダッタ/シテラッタ
」が多く用いられる。

以上をまとめると、次のようになる(なお、
県南部由利地方の体系は中央部と一致する)。
-----------------------------------
継続相現在
 県北部:シテラ
 中央部:シテダ
 県南部:シテダ/シテラ

完成相過去
 県北部:シタ
 中央部:シタ・シテアッタ
 県南部:シタ・シタッタ

継続相過去
 県北部:シテアッタ
 中央部:シテアッタ・シテエデアッタ
 県南部:シテダッタ/シテラッタ
-----------------------------------
※〈継続相現在〉の「シテダ」「シテラ」は
、「発話時現在を含む以前」を表すので、〈
継続相過去〉でも用いることができる。しか
しながら、発話時現在を含まない純粋な〈継
続相過去〉は、「シテアッタ」「シテエデア
ッタ」等によらなければ表すことができない。

(中略)

ところで、シテアッタ形あるいはシタッタ形
が〈完成相過去〉を表す中央部・県南部の方
言では、動態動詞において、〈完成相過去〉
の形式にシタ形とシテアッタ/シタッタ形が
併存することになる。

この場合、ふたつの形式には、どのような機
能の違いがあるのだろうか。従来、シタは「
完了」、シタッタは「回想」「経験」「過去
完了」などと説明されることが多かった。

ここでは、シタ形とシテアッタ/シタッタ形
の機能の違いを次のように考える。
-----------------------------------
★シタ形の表す過去
一般的・抽象的な過去、相対的な過去(完了
)、状態を表す。

★シテアッタ/シタッタ形の表す過去
具体的・個別的な過去を表す。従来、「回想
的過去」と説明されることが多かったが、こ
れは「シテアッタ/シタッタ」が「過去(発
話時以前)に当該の事態・出来事が存在した
」ことを、話者が自分自身の判断(体験)を
ふまえて述べるものであることによる。
-----------------------------------

例えば、上の (4) の例では、「コシェダ」
という場合には、当該の事態を話し手とは無
関係に成立した事実として中立的に描写する
表現となるが、「コシェデアッタ(コシェダ
ッタ)」とすれば、当該の事態を話し手が自
ら認定した事実として述べるものとなる。

【補足①】
「3-2 テンス・アスペクトの表現」では、
状態述語のテンス表現について、例示して
います。

「デアッタ」を用いるのは主に県北部・中
央部であり、県南部では「ダッタ」を用い
るとしています。

【補足②】
「(2) 動態述語のテンス・アスペクト」で
は、継続性現在・完成相過去・継続相過去
ごとに県北部・中央部・県南部における用
法について分類しています。


編集者:千葉光

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【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、東北各地の言
語資料を基に、過去完了形(経験)「たった
・てあった」の用法について整理しました。

【過去完了形】②:仙台市方言の研究編
【過去完了形】③:秋田のことば編
【過去完了形】④:秋田方言辞典編
【過去完了形】⑤:青森県の方言編

編集者:千葉光

目次:

01. 用法
02. 例文
 - 動詞(自身の経験)
 - 動詞(自身が目撃)
 - 動詞(連体形・仮定形)
 - 動詞(継続性過去)
 - 無声母音に続く例
 - 促音に続く例
 - 形容詞・名詞
03. 複数の過去形こそ世界標準
04. 全国的な分布
05. 各地の言語資料より
 【青森】津軽① 津軽② 南部
 【秋田】由利
 【岩手:旧盛岡藩】北部
 【山形】全般 最上
 【福島】会津 浜通り北部
06. 編集後記

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用法

たった・てあった
〔用法〕過去完了形(経験を表わす)
〔その他〕「たった形・てあった形」は併用可

尚、標準東北語としては、東北六県に分布す
る「タッタ形」を優先して使うことを想定し
ています。

ここでとりあげる過去完了形の用法について
、仙台・秋田の資料では、次のように記述し
ています。

宮城県仙台市方言の研究(小林隆, 2000年)
タッタ形を用いた場合には、記憶の検索によ
って確かめられた過去の出来事であるという
意味がより明確になる。

秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
具体的・個別的な過去を表す。従来、「回想
的過去」と説明されることが多かったが、こ
れは「シテアッタ/シタッタ」が「過去(発
話時以前)に当該の事態・出来事が存在した
」ことを、話者が自分自身の判断(体験)を
ふまえて述べるものであることによる。

目次 ↑

例文

例文を「たった形・てあった形」を並列する
形で、7つのカテゴリーにて作成しました。

目次 ↑

動詞(自身の経験)
動詞(自身の経験)

これは、話者が「行った・登った・書いた」
ことを、自身の体験として明示しています。

目次 ↑

例文 ↑

動詞(自身が目撃)
動詞(自身が目撃)

これは、壁にチラシが貼ってあったこと、こ
の席に大統領が座ったこと、あの人が現場に
居たことを、話者自身が目撃したことを明示
しています。

目次 ↑

例文 ↑

動詞(連体形・仮定形)
動詞(連体形・仮定形)

連体形「〜ごど」、仮定形「〜ら」の例です。

目次 ↑

例文 ↑

動詞(継続性過去)
動詞(継続性過去)

継続性過去「〜ていた」は、過去のある時点
で、物事が継続している状況を指します。

例文では、話者自身が過去のある時点で「開
けていた」「書いていた」体験を明示し、皆
が宴会で「盛り上がっていた」場面を話者自
身が回想したことを明示しています。

目次 ↑

例文 ↑

無声母音に続く例
無声母音に続く例

無声母音に続くときは、「った・あった
」の「た・て」は濁音化しません。例文では
、「来(き)」「し」が無声母音です。

目次 ↑

例文 ↑

促音に続く例
促音に続く例

促音「っ」に続くときは、「った・あっ
た」の「た・て」は濁音化しません。

目次 ↑

例文 ↑

形容詞・名詞
形容詞・名詞

例文は、形容詞「白かった」「寒かった」、
名詞「天気」「不良」に続く例です。

目次 ↑

例文 ↑

複数の過去形こそ世界標準
次の資料では、宮城県登米市中田町で使われ
ている二つの過去形について、言語学の観点
からとりあげています。

目次 ↑

複数の日本語 方言からはじめる言語学
(工藤真由美・八亀裕美, 2008年)
東北方言の体験証言

ところで、日本語の方言で、エヴィデンシャ
リティーを表す形を持っているのは、ウチナ
ーヤマトゥグチだけではない。

ここでは、宮城県登米(とめ)市中田町の言
語事実について簡単に紹介をしておきたい。

この方言では、過去形に二つの形があり、そ
のうちのひとつ(第二過去形)は、発話主体
の体験性を明示する過去テンス形式である。

たとえば、「太郎は昨日この席に座った」と
いう場合、次の二つの言い方がある。

(7) タロー キノナ コノ セギサ スワッタ
 [第一過去形]

(8) タロー キノナ コノ セギサ スワッタッタ
 [第二過去形]

第一過去形「スワッタ」は、標準語のシタと
同じように、単に出来事が発話時より前に起
こったことを示す形である。この形は、体験
の有無には無関心で、(7) の場合は、話し手
が体験(目撃)している可能性もあるし、し
ていない可能性もある。

これに対して、第二過去形の「スワッタッタ
」を使うと、話し手が体験した過去の出来事
であることを明示することができる。

この二つの過去形は、動詞述語文だけではな
く形容詞述語文や名詞述語文にもある。

「壁のペンキは赤かった」をどのように言う
かみてみよう。

(9) カベノ ペンキ アゲガッタ
 [第一過去形]

(10) カベノ ペンキ アゲガッタッタ
 [第二過去形]


「あの子は隣町の小学生だった」だとこのよ
うになる。

(11) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタ
 [第一過去形]

(12) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタッタ
 [第二過去形]

形容詞や名詞が述語になる場合も、基本は動
詞述語の場合と同じで、第一過去形は、体験
の有無には無関心で、体験していてもしてい
なくても用いることができるが、第二過去形
は、話し手が体験をしていないと使うことが
できない。

なお、参考までに、この「〜タッタ」という
形は「〜テアッタ」から発展したものと考え
られている。

先に見たウチナーヤマトゥグチの「シヨッタ
」の形は、目撃を表すので、自分自身のこと
については(自分で自分を目撃できないから
)使うことはできない。

しかし、中田方言の第二過去形は、体験性を
明示する形なので、自分自身の体験について
も語ることができる。

(13) [さっき何をしていたのと質問されて]
  マド アゲデダッタ(窓を開けていた)

(14) [あのときあなたは何を切っていたのと聞かれて]
  スイガ キッテダッタ(すいかを切っていた)


先にアイケンヴァルトによるエヴィデンシャ
リティーの概観を紹介したが、ウチナーヤマ
トゥグチのように目撃を明示するタイプも、
中田方言のように体験を明示するタイプも、
世界の諸言語では報告されていることがわか
る。

日本語だけを見ていると、標準語ではこのよ
うな目撃性や体験性を形態論的にマークする
ことがないので、とても不思議な形のように
思ってしまうのだが、世界的に見れば珍しく
はない。

(中略)

さまざまな言語で、過去形に二つの形があり
、その一方が体験性や目撃性と関係している
という報告があることを知っていれば、中田
方言のような例を見ても驚くことはない。

標準語には二つの過去形がないので、奇妙に
思ってしまうのだが、実は世界的なレベルか
ら見れば、中田方言のほうが「標準的」であ
るとも言える。

広い視野から言語現象を観察することの必要
性を確認できるのではないだろうか。
--- 引用ここまで ---

引用にある用語や人物について補足します。
【エヴィデンシャリティー】
話し手が情報をどこから(どのように)得た
のかを明示する形

【ウチナーヤマトゥグチ】沖縄大和口

【テンス】
発話の時点から見て、時間軸上のどこに位置
するかを表す文法的なカテゴリーのこと

【アイケンヴァルト】ロシア出身の言語学者

この資料では、二つの過去形を使った例文を
、動詞・形容詞・名詞ごとにとりあげ、第二
過去形を使うと、話し手が体験した過去の出
来事であることを明示することができるとし
ています。

この情報源を言い表す文法である「エヴィデ
ンシャリティー」について、ウチナーヤマト
ゥグチには、通常の過去形のほかに、話し手
本人が目撃したことを明示する形があり、中
田方言の例と同様、二つの過去形を比較する
形でとりあげています。

このように、中田方言の体験を明示するタイ
プやウチナーヤマトゥグチの目撃を明示する
タイプは、世界の諸言語でも報告されており
、決して珍しくはないとのことです。

そして、さまざまな言語で過去形に二つの形
があり、むしろ世界的なレベルから見れば、
中田方言の方が「標準的」であるとしていま
す。

目次 ↑

過去形が二つあることこそ世界標準 ↑

全国的な分布
次の資料では、「たった」の意味と全国的な
使用地域について載せています。

目次 ↑

日本方言大辞典(小学館, 1989年)
たった〔助動〕

①他の語に添えて過去を回想して言う。
したものだ。してしまった。

青森三戸郡「神様だってておら聞いたったい」
岩手県 宮城県宮城郡 秋田市 群馬県勢多郡
埼玉県秩父郡 千葉県安房郡・夷隅郡 東京都利島
神奈川県愛甲郡 新潟県岩船郡・西蒲原郡
山梨県南巨摩郡 岐阜県揖斐郡 静岡県富士郡
三重県度会郡・北牟婁郡 滋賀県高島郡 大阪市
兵庫県神崎郡・明石郡 奈良県吉野郡
和歌山県新宮市 島根県 長崎県 大分県南海部郡

《たた》
青森県南津軽郡 三重県志摩郡 鹿児島市

【補足】
東北以外では、関東(茨城・栃木以外)甲信
越、東海(愛知以外)、関西(京都以外)、
中国(島根のみ)、九州(福岡・佐賀・熊本
・宮崎以外)と、広範囲に分布しているよう
です。

派生形の「たた」が、青森県南津軽郡などに
見られます。

目次 ↑

全国的な分布 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、用法について整理
しました。
*資料名の( )内は、著者・発行年

目次 ↑

青森(津軽①)
日本列島方言叢書② 東北方言考① 東北一般・青森県
(井上史雄・篠崎晃一・小林隆・大西拓一郎編, 1994年)
(『国語学』20集所収 S30・12)

津軽方言の文法に関する一考察(日野資純)
 三 津軽方言の文法

四、語形変化
◎エマ、キテアッタンダケドナー
(今来ていたんだがな)

◎ショーソーエンテン、ハクブチカンデ、
 ヤッテアリマシタ。
(正倉院展を博物館でやっていました)
―学生の教師に対することば―

このように「ている」の意を「テアル」で表
わすことが多い。これは次のように連声形式
としても現われる。

◎(歯を)ニホン、ヌエタッタ
 (二本抜いておいた)

なお「タッタ」は津軽よりも南部地区に特に
多いようである。

(中略)

すでにいくつか「連声形式」としてふれてき
たものがその中の一つであるが、ここまでま
とめておくと、例えば先にあげた
◎ニホン、ヌエタッタ。
の「タッタ」は「テアッタ」と意味的に対応
しているので、その項でも述べたように「テ
アッタ」の連声形式とみとめられる。

「テアッタ→タッタ」という音声的変化の結
果こういう対応を示しているわけである。

【補足】
津軽では「てあった」が使われますが、とき
には、その連声形式である「たった」も併用
されるようです。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(津軽②)
全国方言資料 第1巻 東北・北海道編(日本放送協会, 1981年)
青森県南津軽郡黒石町
 収録日 1953年9月2日

ハー アメ フッタタラ マダ アノ
トワダダバ ナニモ マイネネシァ
雨が 降ったら また あの
十和田は ちっとも よくないですね。

ナンボ アメ フテ キタタテ
アメ フリャ アメ フルホドシ
エーモンダシァ
いくら 雨が 降ってきても
雨が 降れば 雨が 降るほどね
いいものだよ。
※下線は当方にて

【補足】
日本方言大辞典に載っている「たった」に、
派生形「たた」の使用地域として青森県南
津軽郡とあり、原資料(全国方言資料)の収
録会話を確認したところ、「タッタ形」とし
て「アメ フッタラ」(雨が降ったら)、
「アメ フテ キタテセ」(雨が降ってきて
も)が見られました。

これらは「降った+た+ら」(降ったら)、
「降ってきた+た+て+せ」(降ってきても
)という仮定形の表現です。

会話全体では、「テアッタ形」の「エフテア
タ」(よかった)、「オモシロフテアタ」(
おもしろかった)、「サカシ ワラシコデア
ッタ」(りこうな こどもであった)が見ら
れました。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
十 助動詞
⑤ 時
(4)過去完了

<たった>
過去の経験を表す語で、動詞の連用形に接続する。

ずっと前、上方(カミガダ)さ行ったった
(ずっと以前、関西に行ったことがある)(終止形)

幼え時(チセ)、行ったったごどおべでる(連体形)

幼え時でも、行ったったら覚えでるべ
(行ったとしたら、覚えているでしょう)(仮定形)

聞いだった。読んだった。見だった。
投げだった。当てだった。来たった。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
てあった・たった〔連語〕

〔解説〕
完了したことの過去を表す。詠嘆の想いを表す。

〔例〕
「おめぁ えねぁどき きたったど。
(あなたがいない時に来てあったそうよ)」

【補足】
秋田県由利地方では、「てあった形・たった
形」が併用されています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手:旧盛岡藩(北部)
種市のことば 沿岸北部編(堀米繁男, 1989年)
助辞
一、助動詞

【回想】
った〔過去完了「た」につけて、過去に、若
しくはすでに完了していることを回想して言
う〕

未然:ったべえ
連用:○
終止:った
連体:ったとき
仮定:たらば たれ
命令:○

「大阪の博覧会さ お前も 行ったったべえ」
(・・・お前も行ったでしょう)

「昨年の盆には あれも踊ったった」
(昨年の盆には、あれも踊った)

「食って来たったども 又食うがなぁ」
(食って来たけれども 又食おうかなぁ)

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
(11) 過去。

(中略)

次に「〜タッタ」の用法が西村山郡西部から東置賜
・西置賜の一部及び最上地方にあり、山田二男氏の
宮内町方言研究書にも「行ったった」「見たった」
「在ったった」の例をあげ、上の「た」は完了、下
の「た」は過去を示すと解している。

北村山地方では、「〜じゃないか」の意のンナエが
が接する時、例えば「お前も行(エ)ッタッタンナ
エが(お前も行ったというじゃないか)」と相手を
なじるように問責することばの中に用いられるだけ
のようである。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

山形(最上地方)
新庄弁考 改訂版(森勇, 2021年)
たった
〔解説〕
 かったと同様、過去の習慣や出来事をいう。

〔例〕
「あの床屋さ、通ったった」
「いづもあの人さ、投票すたった」
「十字路さ、雷音堂てゆう店があったった」
「あの年、小磯さんが来たった」


かった
〔解説〕
 動詞終止形につき、過去の事実や習慣を表す。
「いづも、あの店で買うがった」
「九時(ず)には寝っかった」

 過去形につくと、過去の特別な出来事や状況をいう。
「新庄にも、空襲があったがった」
「昔は、もっと雪が降ったがった」

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島・会津
田島町史 第4巻 民俗編(田島町史編纂委員会, 1977年)
方言の語法

助動詞
 過去・完了・回想

過去・完了の助動詞にはタがあり、タッ・タ・タ
・タラと活用し、共通語に等しい。

「ヤマサノボッタッタ」などのタッタは過去の経
験を示し、過去完了の働きをしている。さらに詠
嘆をともなって「ノボッタッタナー」となれば回
想の意にもなる。

通常回想を表すにはケを用い、「ヤマサノボッタ
ッケ」などのいい方をする。
 

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島:浜通り(北部)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
第三篇 語法

3.時
 ロ、過去

「行ったった」「みったった(見てゐたった
)といふ普通口語と同じ形があり、「けり」
の名残の「ケ」がある。

行ったっケ。死んだっケカナー。(回想形)
悪えっケ。原釜さ揚った鯨、うんと大っきっケ。(詠嘆形)
行ったったサ。ほだったサ。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

目次 ↑

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3/28/2026

博労する(ばぐろする)

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、東北各地の言
語資料を基に、「博労する」の用法・語源に
ついて整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 活用
03. 語尾のウ音は脱落
04. 名詞としての現代的な使い方
05. 語源
06. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】由利
 【岩手:旧盛岡藩】北部
 【山形】全般
 【宮城】全般
 【福島】全般
07. 編集後記

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意味

博労する

〔読み方〕ばぐろする・ばくろする
〔意味〕(物と物とを)交換する
〔品詞〕名詞+サ変動詞

目次 ↑

活用

「博労(ばぐろ)する」のサ変動詞としての
活用について整理しました。

目次 ↑

【活用】博労する(ばぐろする)
参考:【え・あ中間音】

未然形および連用形に接続する希望助動詞は
「え・あ中間音」のため、変体仮名で表記し
ています。

目次 ↑

語尾のウ音は脱落

東北の言語では、ウ音便形の「ウ」が脱落す
る傾向にあります。

したがって、「博労(バクロウ)」は「バグ
ロ」となりますが、「バグロー」と併用され
ることもあります。

他の語の事例を挙げます。

例①:
○ども→ども
○ありがと→ありか゜ど
○おはよ→おはよ

例②:音読み
【方】おら方(おらほう)→おらほ・おらほー
【道】街道(かいどう)→けァーど

全体的には「ウ音」が脱落する傾向が強いで
すが、長音と併用されることもあります。

目次 ↑

名詞として現代社会に適応させた使い方

名詞「博労(ばぐろ)」の、現代社会に適応
させた使い方について整理しました。

【経済】
・株式博労—株式交換
・金利博労—金利交換
・通貨博労協定—通貨スワップ協定

【日常・ビジネス】
・名詞博労—名詞交換
・意見博労—意見交換
・土地博労屋—不動産屋
・(商品の)返品博労—返品交換

「土地博労屋」については、青森の資料「南
部のことば」でとりあげていた「田地博労(
現在の不動産屋)」に着想を得ました。

目次 ↑

語源

東北各地の言語資料では、「博る」の語源を
、「博労」の動詞化とする説が一般的です。

次の資料では、名詞「博労」の語源について
とりあげています。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
ばくろう〔名〕〔他サ変〕
〔意味〕交換。交易。とりかえっこ。
〔バグロ〕平鹿郡
〔例〕「コノ 林檎ド ソノ 柿ド バグロシネァガ」

〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
(「はくらく(伯楽)」の転)
馬や牛の交易売買をする人、またその職業。
これから転じて、物と物とを交換すること、
交易の意に用いられる。

*雑俳-大福寿覚帳「人げんのばくろうをし
 てくてとおる」〈『日本国語大辞典』〉
 ―これに基づくもの。
【補足】
この資料では、例文に「バグロシネァガ」と
、サ変動詞としての使い方を挙げています。

「ばくろう」の語源については、「伯楽(は
くらく)」の転であること、馬や牛の交易売
買をする職業から、物と物とを交換する意に
用いられるようになったとしています。

尚、文献として、江戸時代中期の大福寿覚帳
(だいふくじゅ-おぼえちょう)をとりあげて
います。この時代には、江戸において、「ばく
ろうをして〜」と、サ変動詞として使われて
いた形跡があることが窺えます。

目次 ↑

語源 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、意味・用例などに
ついて整理しました。
*言語資料名の( )内は、著者・発行年

目次 ↑

青森(津軽地方)
津輕方言集(齋藤大衛・神正民, 1902年)
ばくろする
〔意味〕トリカヘル
〔解説〕
物品(シナモノ)を交換(トリカヘ)ルコト
馬ヲ交換スルモノヲ馬喰(バクロ)トイヘル
ヨリ起リタルカ
【補足】
発行年の1902年は、明治35年です。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
第三版増補改訂 南部のことば(1992年、佐藤政五郎)
ばぐろ
〔解説〕
ばくる—交換する—人—売買の仲買人
博労・馬喰。

○馬ばぐろ
○牛ばくろ
○田地ばくろ
○ばくろ宿
でんちばくろ
〔解説〕田地博労—現在の不動産屋
※引用欄を見出し語ごとに分けました。

【補足】
「博労(ばぐろ)」とは、もともとは売買の
仲買人を指す語です。したがって、「馬」を
扱う者は「馬博労」、農地を含む土地を扱う
者は「田地博労」となるわけです。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
ばぐろ・ばくろー〔名〕
①博労。牛馬商。
②交換。
【語源】「はくらく(伯楽)」から転じた語。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)
バグロー
〔解説〕
牛馬の売買を業とする人 馬喰(古語)
「ばくろう(馬を売買・周旋する人。物と物
とを交換すること)」。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
ばぐロ
〔意味〕交換
〔分布地点〕東置賜郡・西置賜郡・東村山郡・北村山郡

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

宮城(全般)
胸ば張って仙台弁(後藤彰三, 2001年)
バグロ

<馬喰>
牛馬を売買する商人。以前は売買のバグロと
病気を治療するハグラグ<伯楽>と別れてい
た。上手な伯楽と人気のあった博覧会とを結
びつけて、うまくいった時など、「ジョウト
ウハクランカイ」などと称した。

物と物を交換することをバグルというがこの
バグロに由来する。また、教員の人事異動の
会議をバグロ会議といったりした。

東鑑
「長沼五郎正宗博労の奉行すべき旨仰せつけらる。」
【補足】
解説で、動詞「バグル」が「バグロ」に由来
するとあり、それに続く形で、教員の人事異
動の会議を「バグロ会議」と言っていたとあ
ります。

この「バグロ」とは、ある学校の教員を、別
の学校の教員と置き換える(博労する)こと
を指していたものと考えられます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島・全般

福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
バクロ【名詞】
〔意味〕交換(伯楽)
〔使用地域〕県北・県中

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

目次 ↑

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3/22/2026

んだって・んだて

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、東北六県の言
語資料を基に、「んだって・んだて」の用法
について整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 用例
 ・仮定逆接法
 ・確定逆接法:日常
 ・  〃  :長文
 ・  〃  :ビジネス・仕事
 ・  〃  :人生
03. 語源探求 秋田方言辞典
04. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】全般 県南 由利
 【岩手:旧盛岡藩】中部
 【岩手:旧仙台藩】内陸 
 【山形】全般 庄内 置賜
 【宮城】仙台 県北 三陸圏 県南
 【福島】全般 会津 中通り中部
05. 編集後記

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意味

んだって・んだて

【仮定逆接法】
 でも・だって・そうはいっても・
 そうであっても

【確定逆接法】
 しかし・だが・そうだけれども

東北各地の言語資料に従い、意味を二通りに
分けました。

目次 ↑

用例

「んだって」を用いた標準東北語としての用
例を、仮定逆接法・確定逆接法ごとに作成し
ました。

【仮定逆接法】でも・だって・そうはいっても・そうであっても
【確定逆接法】しかし・だが・そうだけれども

目次 ↑

仮定逆接法
【仮定逆接法】
参考:
【え・あ中間音】
【ha助詞】

目次 ↑

用例 ↑

確定逆接法:日常
【確定逆接法】日常
参考:
【え・あ中間音】

目次 ↑

用例 ↑

確定逆接法:長文
【確定逆接法】長文
参考:
【え・あ中間音】

目次 ↑

用例 ↑

確定逆接法:ビジネス・仕事
【確定逆接法】ビジネス・仕事
参考:
【え・あ中間音】

目次 ↑

用例 ↑

確定逆接法:人生
【確定逆接法】人生
参考:
【え・あ中間音】
【合略仮名】
【ha助詞】

目次 ↑

用例 ↑

語源探求 秋田方言辞典

次の資料では、「んだって・んだて」の意
味について、詳細にとりあげています。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
そだって・そだたって、
んだって・んだたって、
したって・したたって
〔接続〕

〔ソダテ〕平
〔ソダタテ〕山 南 河 平 雄
〔スダタテ〕由
〔ンダッテ〕市 仙 平 由
〔ンダッテナヤ〕仙
〔ンダッテモ〕仙 由
〔ンダテ〕北 山 市 河 雄 由
〔ンダテモ〕平
〔ンダタッテ〕南 市 平 仙 雄
〔ンダタッテセァナ・ンダタッテナヤ〕仙
〔ンダタテ〕山 南 市 河 平 雄 由
〔ウダタテ〕平
〔ンダシタテ〕(丁寧)平
〔シタッテ〕南 市 由
〔シタテ〕鹿 北 山 市 平 由
〔シタタッテ〕市
〔シタタテ〕北 山 南 市 仙 由

これらの接続詞は、その場によって次の二つ
の意味で用いられるようである。

(1)
相手の言う事柄などについて、不承知で反論
する場合に用いる。
そうはいっても。そうであっても。だって。
でも。修辞的仮定逆接法。

ンダテ オラ 知ラネァガッタモノ」
ンダタテ オレニバ デギネァ 話ダ」

「『サットデ 良(エ)ガラ 戸コ 開ゲデケレ』
シタタテ、ナッタラ(決して)家ノ 人ダヂ
戻ッテ来ルマデ 誰 来テモ 開ゲダテ
ヤザネァッツケオノ(だめだと言ったもの)』」
(『秋田むがしこ』太田村〈現太田町〉)


(2)
確定逆接。そうだけれども。そうだが。だが。

「昨日ァ エー 天気デアッタ。ンダッテ
体ノ アンベァ 悪リクテ 仕事 休ンデシマッタ」

「オレモ 戸 開ゲルニ 行ッテミダ。シタタテ
、トデモ 開ゲレネァガッタ」

〔語源考察〕
ソダッテ・ンダッテは「それ(代名詞)+だ
(断定の助動詞の終止形)+と(引用の格助
詞)+いっ(「言う」の連用形)+ても(仮
定逆接法の接続助詞)」の転化。
(中略)
「たとえ・・・そうだといっても」の意であ
るが、実際には修辞的な仮定逆接法として相
手のいう事柄などについて、不承知で反論す
る場合に用いる。

そして、この(1)の用法から転じて(2)
の確定逆接法にも用いるようになったもの。
※使用郡市名
鹿:鹿角郡  北:北秋田郡 山:山本郡
南:南秋田郡 市:秋田市  河:河辺郡
仙:仙北郡  平:平鹿郡  雄:雄勝郡
由:由利郡

【補足】
この資料では、見出し語を6通り挙げており
、「そだって・んだって・したって」の3系
統ごとに、秋田県内における言い方を17通
り挙げ、その使用郡市名を示しています。

意味については、(1)「そうはいっても。
そうであっても。だって。でも。」と、(2
)「そうだけれども。そうだが。だが。」の
2通り挙げています。

そして、(1)の修辞的仮定逆接法の用法か
ら転じて、(2)の確定逆接法にも用いるよ
うになったものとしています。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典 ↑

各地の言語資料より

各地の言語資料より、「んだって・んだて」
の意味・用例などについて整理しました。

尚、参考までに、同じ意味の「んだたて」(
福島を除く東北5県に分布)についても、
とりあげています。

*言語資料名の( )内は、著者・発行年

目次 ↑

青森(津軽地方)
津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
ンダバタテ

【意味】そうだけれども
【その他】
形容動詞「ンダ」に接続助詞「バタテ」が付
いた形である。「ンダバタテ」「ンダタテ」
ンダテ」「ンダバッテ」の四種類の似た形
の語があるのでこの項で扱った。意味は四
つとも同じである。

詳しくは「シタバッテ」「バ」の項で考える。

「ンダバタテ」で接続詞とみてもよいのかも
しれない。その場合、逆接の接続詞というこ
とになる。

【用例】
ンダバタテ、今忙シハンデ行ゲネ。
(そうだけれど、今忙しいから行けない)
シタバッテ
【意味】そうだけれども・だけれど
【品詞】接続詞
【その他】
「シタ」は補助動詞(の過去形)。「バッテ
」は接続助詞で、それぞれ独立の一語である
。しかし「シタバッテ」と、一語として遣わ
れることが極めて多い。一語の接続詞と見て
いいのではないか。
(中略)
この「シタバッテ」と同義の語に「シタバタ
テ」「シタタテ」「シタテ」の語がある。
(中略)
いずれも逆接の接続詞。

【用例】
運動会ノ準備終タ。
シタバッテ明日雨ノ予報ダ。
(運動会の準備は終了した。
しかし、明日の天気予報は雨だ)
※引用欄を見出し語ごとに分けました。

【補足①:ンダバタテ】
見出し語の解説に「ンダテ」が見られたので
、当方にて下線を施しました。用例の「ンダ
バタテ」を「ンダテ」に置き換えても意味は
同じです。品詞については、逆接の接続詞と
しています。

【補足②:シタバッテ】
「シタバッテ」に「ンダバタテ」が対応し、
「シタテ」に「ンダテ」が対応します。いず
れも、逆接の接続詞としています。用例では
、「シタバッテ」の訳に「しかし」があてら
れています。

目次 ↑

青森(南部地方)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
んだて んだって(副詞)
〔意味〕そうですが。
〔例〕
 んだてどもなね
 (そうですが、どうもなりません)。


んだたて(副詞)
〔意味〕そうだけれども。
〔例〕
 んだたて仕方ながべ
 (そうだけれども仕方がないでしょう
 ・いまさらどうにもならない)。

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第三版増補改訂 南部のことば(佐藤政五郎, 1992年)
んだって
〔意味〕だって・でも 「んだだて」と同じ。
〔例〕んだって変だな


んだたて
〔意味〕でも・だって・そうだが
〔例〕
 んだたて、おら嫁きたいの
 (でも、あたし嫁きたいの)

目次 ↑

秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
んだて(連)
〔意味〕さうだって、それだって。
〔例〕「んだって、知らなかったもの。」
〔方言採集地〕雄勝郡

んだたって(連)
〔意味〕だって。
〔例〕「んだたって やるもの。」
〔方言採集地〕南秋田郡・平鹿郡・雄勝郡

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秋田(県南)
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)
ンダッテ
〔意味〕
 連語 :そうであっても。
 接続詞:しかし。それでも。

ンダタテ 連語
〔意味〕そうであっても。そうだとしても。
【補足】
この資料では、「ンダッテ」について、連語
と接続詞に分類してとりあげています。

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秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
んだたて・んだて・んだっても〔句〕
①だって。そうはいっても。でも。
〔例〕
んだたて 電車 おぐえで 間に合わねぁがったもの。
(だって、電車が遅れて間に合わなかったもの)

②・・・だけれども。だが。
〔例〕
何日ぶりがで 雨ふった んだたて
このぐれぁでは なっもならねぁ。
(何日ぶりかで雨が降った、だが
この程度では何にもならない)
【補足】
この資料では、見出し語の意味を①②に分類
してとりあげています。

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岩手・旧盛岡藩(中部)
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
ンダテ 接続
〔意味〕だって

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藩境北上市周辺の話しことば(1993年、及川慶郎)
んだって
〔意味〕そう言ったって

んだて
〔意味〕そうは言ったって

んだてこだて
〔意味〕何と言ったって

んだてすか
〔意味〕そうですか

んだたって
〔意味〕そうは言ったって
【補足】
この資料では、「んだ〜」の「だ」について
、「た」の右肩に小さい「△」を付けて鼻濁
音表記しています。

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岩手・旧仙台藩(内陸)
胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
んだって
〔意味〕そうだって。そうだけれども

んだってなぁ んだってねぇ
〔意味〕そうだってね。でもね

んだってよー
〔意味〕でもね

んだたって
〔意味〕そうだって

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山形(全般)
山形県方言集(山形県師範学校, 1933年)
んだつて
〔意味〕さうですけれど
〔言〕ndatte
〔品詞〕連続語
〔使用地方〕庄内・置賜
〔用例〕
んだつて 先生が だめだて ゆた
(さうですけれど 先生が だめだと おつしやつた。)


んだて
〔意味〕さうですけれど
〔言〕ndate
〔品詞〕連続語
〔使用地方〕最上・村山・置賜
〔用例〕
んだて 都合が悪いもんださげ。
(さうですけれど 都合が悪いものだから。)

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山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
ンダッテ(連語)
〔意味〕だって。しかし。ンダテとも。
〔分布地点〕置賜。村山。最上。

ンダタテ(連語)
〔意味〕しかし。そうだとて。
〔分布地点〕村山・最上・鶴岡

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山形(庄内地方)
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)
んだって
〔意味〕そうであっても。

んだたって
〔意味〕そうであっても。

目次 ↑

庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)
ンダッテ ンダテ
〔意味〕
連語。そうであっても。
接続詞。しかし。それでも。

ンダタテ
〔意味〕
連語。そうであっても。そうだとしても。
接続詞。しかし。
庄内一般。
【補足】
この資料では、「ンダッテ・ンダテ・ンダタ
テ」の意味を、連語・接続詞に分けています。

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山形(置賜地方)
読む方言辞典 置賜のことば百科(菊地直, 2007年)
んだて [接続詞]
〔意味〕
 かといって。そうではあるが。だけど。
 とは言うものの。
〔例〕
 「んだて 違うどこ あんでねえか」
〔解説〕
 先行の事柄に対し、それを承認しながら
 も、それと矛盾する事柄を述べるときに
 用いる。

んだたて [連語]
〔意味〕そうだろうけど。だけれども。
〔例〕
「んだたて こっちの方 ええみてえだ」
「そげにゆわっちぇも んだたて」

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宮城(仙台)
仙台の方言(1938年、土井八枝)
標準口語と仙台方言との対照

六十、
だが、だいぶん ねむさうだね。
んだって なんだが ねむそーだな。
【補足】
この資料では、「だが」(逆接の接続詞)の
訳に「んだって」をあてています。

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宮城(県北)
古川市史 下巻(古川市史編纂委員会, 1972年)
んだて
〔意味〕それはそうと

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宮城(三陸圏)
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)
んだたて
〔意味〕そうだって、けれども、等の意。
〔例〕
 「あんだも一緒にえばえちゃ」
 「んだたてお留守居ねぐなるぉ」

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けせんぬま方言アラカルト(菅原孝雄, 2006年)
んだって
〔意味〕でも。ためらう、しり込みすること。
〔例〕「んだって天気予報は雨降りだっつよぉ」

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宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)
 宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
んだって
〔意味〕
 そうだけれども・そうはいうものの・
 そうはいっても。
 ほだって(前述)、と同じ。

〔例〕
「んだって、おれは、嫌えなものは、嫌えなんだ」
「んだって、あの人は偉えど思う」。

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福島・全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
ンダッテ【句】
〔意味〕さうだけれども
〔使用地域〕中通り中部・会津・浜通り

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福島・会津
会津方部 方言の手引書(蜃気楼, 2008年)
んだって
〔意味〕そうだけれども
〔例〕んだって、兄(あん)ちゃだって悪りいだから。

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福島:中通り(中部)
どごんわらしえ 故郷福島県「正直」の言葉(鈴木節子, 2017年)
ん・・・
〔意味〕そう・・・
〔解説〕
だ(そうだ)」
だって(でも)」
【補足】
この資料では、「ん」に続く語として、「ん
だ」「んだって」などをとりあげています。

尚、資料名の「正直(しょうじき)」という
地名は、「福島県郡山市守山町大字正直」の
ことです。

目次 ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

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奥州東北語について

当方では標準東北語について、「奥州東北語
」という呼称を用いています(ただし、最終
的には「日高見語」が理想です)。

奥州とは、陸奥(青森・岩手・宮城・福島)
の別称ですが、「奥州藤原王国」の「奥州」
が、その支配領域である東北全土として認識
されているように、歴史的・慣習的に東北地
方全体を指して使われている現実があります。

また、室町時代に設置された「奥州総大将」
や「奥州管領」は奥羽を統括するための官職
ですが、これは当時の中央政権が「奥州」と
いう呼称を東北全土を指すものとして認識し
ていたことを示しています。

これらの歴史的な慣習に従い、当方では奥州
東北語の「奥州」を、東北全土を指す呼称と
して用いています。

尚、東北全体を指す呼称として、陸奥と出羽
をつなぎ合わせた「奥羽」という語がありま
すが、後ろにある出羽が陸奥に従属している
印象があり、当方としては使用を避けたい思
いがあります。

文:千葉光

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2/17/2026

博る:語源編

「博る」の語源について、東北各地の言語資
料を基に整理しました。

【参照】博る:用法編

編集者:千葉光

目次:

01. 語源
02. 語源探求 秋田方言辞典
03. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】全般 由利
 【岩手・旧盛岡藩】北部
 【岩手・旧仙台藩】沿岸
 【福島】会津 中通り南部
 【福島・浜通り】北部 南部
04. 編集後記

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語源

東北各地の言語資料では「博る」の成り立ち
について、牛馬の売買を生業とする「ばくろ
う(博労・馬喰)」という名詞が動詞化した
ものとする説が一般的ですが、語源を遡ると
、古代中国語の「伯楽(はくらく)」に辿り
着きます。

経路を整理すると、次の通りです。
伯楽(はくらく)→博労・馬喰(ばくろう)
→ばくろうする(サ変動詞)→ばくろする・
ばぐろする→ばぐる・ばくる

江戸時代中期の雑俳に「ばくろうをして〜」
とあり、この時代には江戸において、サ変動
詞として使われていた形跡がありますが、四
段(五段)動詞化した「ばぐる」が、どの時
代から使われるようになったのか、文献から
探ることは難しいようです。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典

次の資料では、「ばくる」「ばくろう」の語
源について、とりあげています。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
ばくる〔他ラ五〕
〔意味〕交換する。物と物とをとりかえる。

〔バクル〕北秋田郡・平鹿郡
〔バグル〕北秋田郡・山本郡・南秋田郡・仙北郡・平鹿郡・雄勝郡・由利郡

〔例〕
「オ前ノ 米ド オレノ サヅマエモド バグラネァガ」
「林檎ド 柿ド バグルガ」

〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
馬や牛を交易売買する人、またその職業。こ
れから転じて、物と物を交易することの意に
用いられる。この物と物を交易する意の「ば
くろう」をバクル(ラ五)と動詞化した語。
ばくろう〔名〕〔他サ変〕
〔意味〕交換。交易。とりかえっこ。
〔バグロ〕平鹿郡
〔例〕「コノ 林檎ド ソノ 柿ド バグロシネァガ」

〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
(「はくらく(伯楽)」の転)
馬や牛の交易売買をする人、またその職業。
これから転じて、物と物とを交換すること、
交易の意に用いられる。

*雑俳-大福寿覚帳「人げんのばくろうをし
 てくてとおる」〈『日本国語大辞典』〉
 ―これに基づくもの。
※引用欄を見出し語ごとに分けました。

「バグル」「バクル」の秋田県内における分
布は、濁音化した「バグル」が圧倒的に多い
ですが、これは、二音目の「カ行」が濁音化
する東北共通の法則に基くものです。

語源考察では、「ばくる」について、「ばく
ろう(博労・馬喰)」を動詞化した語として
います。

その「ばくろう」については、「伯楽(はく
らく)」の転であること、馬や牛の交易売買
をする職業から、物と物とを交換する意に用
いられるようになったとしています。

尚、文献として、江戸時代中期の大福寿覚帳
(だいふくじゅ-おぼえちょう)をとりあげて
います。この時代には、江戸において、「ばく
ろうをして〜」と、サ変動詞として使われて
いたことが窺えます。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典 ↑

各地の言語資料より

青森・秋田・岩手・福島の言語資料より、語
源に関する箇所をとりあげます。尚、引用欄
外の補足は当方によるものです。
*( )内は著者名・発行年

目次 ↑

青森(津軽地方)
津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる(小笠原功, 1998年)
ばぐる
〔意味〕とりかえる
〔例〕
「お前(め)の大きビダ(めんこ)一枚ど、
吾のタマコ(ビー玉) つど、ばぐらねが。
五つ出しても良(え)や。」←ばくろう(する)。

〔解説〕
「ばくろう(博労)」は、馬・牛などの家畜
の売買の仲に入る人。津軽弁の「ばぐる」は
、博労の仕事と同じく、物と物とを交換する
という動詞。

「博労、バクラウ。馬商人也(節用集)」→はくらく

「はくらく(伯楽)は、中国の春秋時代、馬
の良否を見分ける名人で、駿馬(しゅんめ)
を発見、育てた人として有名。

「日本にも亦馬を相する人を呼んで伯楽と云
ふなり(庭訓抄)」

【補足】
この資料では、「ばぐる」の語源について、
「博労」および「伯楽」を挙げています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
教育適用 南部方言集(簗瀬栄, 1906年)
ばくる
〔解説〕
品物を交換することにて馬を売買する馬喰
(ばくらふ)の義より轉(てん)じたるか

【補足】
この資料では、「ばくる」について、馬喰の
義より転じた語ではないかとしています。

目次 ↑

青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
ばぐる(動ラ四)
③ばぐるは博労(後述)の動詞化か。


ばぐろ(名)古語
①馬の仲買人。古くは伯楽という。伯楽は天
馬を守る星の名。後に馬を見る人となる(支
那の故事)。伯楽(ハクラク)→博労(ハク
ロウ)。馬食(バクロ)う(交換 (バクル)
人か)の意は俗説。


㋑伯楽と云ふ事、京都にて室町より始まれり
。又伯楽は戦国の時に馬を相する人なり。是
によって日本にも亦馬相をする人を呼んで伯
楽と言ふなり。<庭訓抄下>

㋺周の人、姓は孫、名は陽。
○及至伯楽日我善治馬<荘子 馬蹄>
○伯楽一過冀北之野、馬群遂空。<韓愈・送温処士序>

【補足】
この資料では、「ばぐる」について、「博労
」の動詞化した語か?としています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田の方言(打矢義雄, 1970年)
バグる
〔意味〕交換する。
〔解説〕
伯楽は馬の交換をも職業とし、日本ではこれ
を「ばくろう」といった。それを動詞にする
と「バグる」となる。

【補足】
この資料では、「バグる」について、「伯楽
」に由来する「ばくろう」を動詞にしたもの
としています。

目次 ↑

秋田ことば語源考(三木藤佑, 1996年)
バグル

〔解説〕
「俺の鉛筆ど、おみゃの消しゴムどバグロデ
ァ」とか、「道具なんぼ、バグタッテ腕上が
るわげぇねぇ」とか使われている。「取り替
える」こと「交換する」ことが「バグル」こ
とだ。
(中略)

この語のもともとは、漢字の「博」だと考え
られる。「博」には「バク」という読みもあ
り、「取る。取得する」意味になっている。

また、「博」だけで「ばくちなどの金品を賭
けた勝負事」の意味もある。

「博労」(ばくろう)は、馬の取引に従事し
た者だが、後には「交換」の意味が忘れられ
て「馬喰」「馬労」と書かれるようになって
しまった。

筆者は、方言「ばぐる」は「博る」であった
と考えている。そして、もともとは「取引す
る」意味だけだったのが、いつの間にか「交
換」に変わっていったのだと思う。

馬の取引の博労から「バグル」の方言が始ま
ったとする説があるが、逆だと思う。「博る
」という動詞がまずあって、これから博労が
派生していったと考えたい。

【補足】
この資料では、「バグル」は「博る」であっ
たとし、「博る」という動詞から「博労」へ
派生していった可能性について指摘していま
す。

東北全体の資料では、「博労」から「博る」
へ派生していったとする見方が一般的ですが
、必ずしも確定的とは言えません。

したがって、定説とは真逆の、この見方につ
いても、貴重な指摘であり、充分に価値があ
るといえます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
村の方言集(村松長太, 1965年)
バグル
〔解説〕
馬喰が牛馬交換の仲立を職業とするところか
ら出たことば、全県的に共通する。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)
バグル
〔意味〕交換すること
〔解説〕「バグロー」の動詞化
〔例〕時計とラジオとバグル。
バグロー
〔解説〕
牛馬の売買を業とする人 馬喰(古語)
「ばくろう(馬を売買・周旋する人。物と物
とを交易すること)」。
※引用欄を見出し語ごとに分けました。

【補足】
この資料では、「バグル」について、「バグ
ロー」の動詞化したものとしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
バクル(動)
〔解説〕
交換すること。多少は金目の物、時計とガス
ライータを取換えるのなどがこれ。「伯楽」、
「ばくろう」に、由来するか。

この商談は一種の賭けのようなもので、馬を
とり換えて損することも得することもある。
互いにそれぞれの臍算盤で交換が成立する。

だからよく「思い切ってバクったよ」などと
言う。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島・会津
会津高郷村史3 民俗編(高郷村史編さん委員会, 2002年)
ばくる
〔解説〕馬喰、伯楽からでた言葉。物々交換のこと

【補足】
この資料では、「ばくる」について、「馬喰
、伯楽からでた言葉」としています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島:中通り(南部)
岩瀬郡誌(岩瀬郡役所, 1923年)
バクル
〔意味〕馬喰の活用にて交換の意に用う。

【補足】
この資料では、「バクル」ついて、「馬喰」
を活用(動詞化)したものとしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島:浜通り(北部)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
バクル(動)
〔意味〕交換する。
〔例〕俺の筆、お前の筆とバクッペ。
〔解説〕博労(馬喰)が馬を交換するより出たか。
【補足】
この資料では、「バクル」の由来について、
博労(馬喰)を挙げています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島:浜通り(南部)
いわき方言(高木稲水, 1975年)
ばぐる(動詞)
〔意味〕交換する。
〔解説〕
博労(ばくろう)という名詞が、四段活用の
動詞となったものである。羽織という名詞が
「はおる」という「ら行四段」の動詞となる
と同じである。

【補足】
この資料では、「ばぐる」について、「博労
」が動詞化(四段活用)したものとしてい
ます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

目次 ↑

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2/01/2026

【きかねァ】語源編

東北各地の言語資料を基に、「きかねァ」の
語源について整理しました。
※参照:【きかねァ】用法編

編集者:千葉光

目次:

語源
 ・ 聞(利)かぬ気
 ・ 聞かない(の形容詞化)

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語源

語源について、東北各地の言語資料を基に、
次の二系統に分類しました。
聞(利)かぬ気
【青森】津軽弁の世界〔完〕(小笠原功, 2001年)
【岩手】遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)
【宮城】細倉の言葉(世古正昭, 1956年)

聞かない(の形容詞化)
【秋田】語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
【岩手】気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
【福島】会津ことば散歩(江川義治, 1979年)

系統ごとに、次項にて整理しました。

目次 ↑

聞(利)かぬ気
津軽弁の世界〔完〕(2001年、小笠原功)
きかね
〔意味〕勝ち気な。
〔例〕 「暴える(あばれる)馬(ま)ど、
 きかね女(おなご)さだきゃ(には)手ば出しなて、
 昔がら喋らえでるだね(のだよ)。
 蹴とばさえで(されて)、踏まえで、
 殺さえで終(しま)るだて(だって)。」

きかない。
「き(聞・聴)かない」の「きく」は、
 この場合は、
 相手の言葉や意見を受け入れる、
 承知するという意で用いられている。
 「ない」は、古くは「ず」という
 打消しの助動詞であったが、
 中世、関東方言として
 形容詞的な「ない」という表現が現われ、
 明治期、小学読本から
 共通語として定着した語である。

津軽弁の「きかね」は、
「聞かぬ気(だ)」
「聞(利)かん気」と同義の語で、
他人の話や意見を耳や心に入れず、
人に譲ったり負けたりすることを
激しく嫌うような、
勝ち気、意地っ張りな性格を表わす
形容動詞として用いられている。

また、「きかね」に、
サ変動詞の連用形の「し」
(津軽弁では「へ」と訛る)を挿入して
強調して「きがへね」とも表現されている。

「これを聞きて、ましてかぐや姫きくべくもあらず(竹取物語)」
「さあ、きかぬ気の凄傾城(眉斧目録)」。

遠野方言誌(1926年、伊能嘉矩)
キカナイ(キカナイ、ガギ)
キカナクナル

〔意味〕
アバレ(アバレ児)アバレル
キカヌキの轉

細倉の言葉(1956年、世古正昭)
きかない(形)(nɛː )

〔意味〕
 気ノ強イ、横着ナ、勝気ナ。
 言ウコトヲ キカナイから出たのではなく、
 寧ろ所謂「利カヌ気」であろう。

〔例〕
 「キカネェ子ダコト」
 (何と横着な子だろう)

目次 ↑

②聞かない(の形容詞化)
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
きかない〔形〕

〔意味〕勝ち気だ。負けん気だ。荒っぽい。乱暴だ。腕白だ。

キカネァ:
 鹿角郡、北秋田郡、山本郡、南秋田郡、秋田市
 河辺郡、仙北郡、平鹿郡、雄勝郡、由利郡

キガネァ:仙北郡、由利郡
キカネ:山本郡、南秋田郡
キカナイ:南秋田郡

〔例〕
「ホントニ キカネァ ワラシダ」
「キガネアンバガリデ ナンモ 分ガラネァナダ」
「アンマリ キカネァグ スルナ」

〔語源考察〕
聞かない〔連語〕(「聞かぬ」とも)
〈きく〔聞〕〔他カ五(四)〕の未然形に
打消しの助動詞「ない」
または「ぬ」の付いたもの〉
なかなか人の言葉に従わない。
がんこである。

*浮世草紙・浮世栄花一代男-四・三
「此ちぎりいつまても
かはるなかはらじと思ひしに、
家中に聞(きか)ぬ男ありて
其御いたはりあそばしける」

*改正増補和英語林集成
「ナカナカ キカナイ ジョジョウフダ〈『日国』〉」

この「聞かない」の形容詞化したもの。
必ずしも悪い意味で言うのでなく、
「アノ子ァ ナガナガ キカネァ ドゴ アル」などと、
「みだりに人の言いなりにはならず、
自主的で見どころがある」の意で
いうこともある。

〔注〕打消しの助動詞(2)
ない〔助動〕活用語の未然形に付き、
打消しの意を表す。
近世では稀に
「あらない」があるが、
現代語では「ある」には付かない。
サ変には「し」に付く。

基本形:ない
未然:なかろ
連用:なく、なかっ
終止:ない
連体:ない
仮定:なけれ
活用の型:形容詞型

「ない」は文献上、
室町末期から関東方言として現れる。
活用形の完成した近世後期でも、
打消しは「ない」より
「ぬ」が一般的であるが、
明治以後、国定の読本をはじめ
口語文の標準としては
「ない」に代わられるに至った。
(『日本国語大辞典』〈補注〉参照)

気仙ことば(1965年、佐藤文治)
キカネァ(形)

「聞かない」か。
けんかに強い者、
議論で相手に譲らない者、
荒っぽい遊びをする子供、
これらはすべてキカネァ人、
キカネァ子供。
人の助言や注意を聞こうともしない、
ということからこう言う。

会津ことば散歩(1979年、江川義治)
きかねい

「あいつは ふんとに きかねい」というコトバをよく聞く。

~中略~

「きかない」は、
心が強い、意地・根性があるというよりは、
むしろ強情張りの人間で、
あくまで自己の主義主張を無理にも通す、
そういう人をいう。
例えてみれば、
青森地方の方言で「じょっぱり」、
熊本地方の「もっこす」に
似たコトバではなかろうか。

正直にいえば、会津人は、
かたくなに意地を張るところがある。
正しい筋はあくまでも通すことは良いことだが、
片意地にわかり切ったことを
、 体面上からがむしゃらに
無理やり主張する面もないではない。

このような強情を張ることが、
会津地方で「きかねい」というのだが、
その語源は、
他人の言うことを意に介せず、
全く聞き入れない、
つまり聞かないことか、
あるいはまた、
他人がいう意見、
その教えなどを
いくら言っても効(利)かない、
という意味のいずれかであろう。

ここまで二系統に分類して語源について整理
しましたが、どちらかが正しいということで
はなく、「利かぬ気」と「聞かない」が複合
的に形容詞化したものと捉えた方がよいかも
しれません。

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語源 ↑

1/11/2026

凍ばれる(しばれる)

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、各地の言語資
料を基に、ここでとりあげる語の用法につい
て整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 活用
03. 語源
04. 各地の言語資料より
 【青森】全般 津軽 南部 下北
 【秋田】全般 県北
 【岩手:旧盛岡藩】北部 盛岡 中部
 【岩手:旧仙台藩】沿岸
 【山形】全般 庄内
 【宮城】県北 三陸圏 県南
 【福島:中通り】中部
05. 編集後記

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意味

標準東北語としての意味や漢字表記について
整理しました。
凍ばれる・凍ばえる

〔読み方〕しばれる・しばえる
〔意味〕厳しく冷え込む・酷く冷える
〔品詞〕動詞(ラ行下一段活用)
〔漢字表記〕「凍みる・凍み腫れる」に基づく

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活用

「凍ばれる」の活用について整理しました。

【活用】
【活用】凍ばれる
参考:【え・あ中間音】母音・子音の一覧

ただし、東北各地の資料の用例には、未然形
・仮定形・命令形が、当方の調べた限りでは
見当たりません。日常会話で使われる場合、
ほとんどは終止形・連用形に限られてくるた
めと思われます。

尚、活用に付いては、次の津軽の資料を参考
にしました。

津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
シンバレル
【意味】凍れる・寒さが厳しいこと
【品詞】動詞

【活用】
未然「シンバレね」
連用「シンバレしじゃ」
終止「シンバレル」
連体「シンバレル時」
仮定「シンバレレば」
命令「シンバレレ」「シンバレロ」
となる。下一段活用である。

【音韻】
「シ」は母音が「イ」と「ウ」の間の発音の
母音である。「シ」と「バ」の間に撥音「ン
」が入る。これは濁音「バ」の前に「ン」が
入るということである。「レ」は、日常の会
話の中では、子音が脱落して「エ」になるこ
とも多い。「シンバエル」

【その他】
原形は、何だろう。よく判らない。「縛る」
とでも関係あろうか。

【用例】
今日モ シンバレルキャネシ。
(今日もひえますねぇ)

活用 ↑

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語源

次の資料では、語源について詳細にとりあげ
ています。
※引用欄外の補足は当方によるものです。

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語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
しばれる〔自ラ下一〕

〔意味〕厳しく冷え込む。
〔シバレル〕鹿・北・山・南
〔例〕「今夜バ ホントニ シバレルナ」

《しばれる》
 北海道 青森 岩手 宮城栗原郡・石巻 山形
 新潟佐渡・岩船郡
 〈『日本方言大辞典』『北海道方言辞典』〉

〔語源考察〕
単に寒いというのではなく、寒さが厳しく、
およそ水分・湿気があるものはコチコチに凍
結するような場合の感じを表すことば。

この語は北国への旅情を誘う詩的な響きを持
つが、実は命にかかわるほどのものすごい寒
さを表すもので、このような状態の中で、毎
年雪道の中で凍死する人も出る。

語源については諸説がある。

(中略)

ⓔ凍傷をいうシミバレ(凍腫)は、シンバレ
、シバレと変化した。北海道語として有名な
「しばれる」という語は、語源的にはおそら
くこのシバレと関わりをもつだろう。
(『日本の方言地図』)

(中略)

——ⓔ凍ミ腫レルの連用形の名詞化のシミバ
レ、シンバレ、シバレが凍傷の意となる一方
、シミバレルがシンバレル、シバレルと転じ
て凍傷ができるほど厳しく冷え込む意となっ
たという考え方は、シミバレ、シンバレ、シ
バレ(凍傷)の語が実在するだけに説得力が
あろう。

けっきょくⓐかⓔであるが、ⓔに従っておき
たい。

【補足】
この資料の「語源考察」では、語源について
他の言語資料がとりあげている説をⓐ〜ⓔの
五項目に分け、考察していますが、著者自身
はⓔに従っておきたいとしています。

著者がⓔで解説した経路を漢字表記に置き換
えると、次のようになります。
凍み腫れる→凍みばれる→凍んばれる→凍ばれる

また、ここでは引用を割愛しましたが、ⓐ〜
ⓒの解説では「凍みる・凍む・凍み晴れる」
を挙げています。

語源と断定できるものはないようですが、い
ずれにしても、「凍みる」と関連する語と捉
えるのが妥当といえるかもしれません。

語源 ↑

目次 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、意味・用例などを
整理しました。尚、引用欄外の補足は当方に
よるものです。

*言語資料名の( )内は、著者・発行年

目次 ↑

青森(全般)
東奥日用語辞典及青森県方言集(東奥日報社, 1932年)
シバレ(又はシンバレ)
〔意味〕凍傷、しもやけ

シバレル
〔意味〕寒気身に泌む

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(津軽地方)
津輕方言集(齋藤大衛・神正民, 1902年)
しばれる
〔意味〕カンズル(寒)、烈シキ寒サノコト
〔解説〕寒サ烈シク、身ヲ縛ラルヽガ如キヨリ云フカ

しばれ
〔意味〕シミバレ、シモヤケ、ユキヤケ(凍瘡)
    腫物(ハレモノ)ノ名
〔解説〕
 ◯シモヤケ、ユキヤケノコト
 ◯手足ノ端ナド、烈シキ、寒サニ傷メラ
  レテ、痒ク、痛ク、腫レテ、瘡(カサ)
  トナルモノ
 ◯シミ腫(バレ)ノ義ニテ云フカ
【補足】
名詞形の「しばれ」については、原形として
「しみ腫れ」を挙げています。

目次 ↑

津軽のことば 第五巻(鳴海助一, 1958年)
しばえる・しばれる 動詞

〔解説〕
これは、単に「寒い」というのとは大いに異
なる。寒さが厳しくて、およそ水分・湿気の
あるものは、みなコチコチに凍結する、とい
うような場合に用いる。もちろん多少寒暖の
差があるにしても......。

だから、春充き、どんなに風が寒くても、秋
おそく、みぞれが降る頃でも、ほとんど「
ばえる
」とはいわない。

寒中月のある晩など、歩けば雪道がキリキリ
と鳴る。そんなとき、「今夜ずいぶんしばえ
でラデァ。」などという。また「寒あけても
しばれァ、なんもおちない(寒気が衰えな
い)」など。

この語源も不詳。「冷え栄え」か「冷え張る
」か。

ただし、「冬・ふゆ」は「冷ゆ」からきたも
の。何か手掛りが得られそうだが......。
後考にまつ。

〔例〕
※コンニャ、ジンブしばえデキタデァ。
「ホシモジ」オンニャサカケルベァ。
◯こんやは、ずいぶん冷えてきましたゼ。
ほしもち(干餅・凍り餅)を、庭に掛けましょうよ。
【補足】
「しばえる」の「え」はラ行の子音が抜け落
ちたものですが、この発音法則は東北六県共
通に見られます。

解説にあるとおり、この語は厳しい寒さを表
す動詞です。また、語源については不詳とし
ています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
青森県五戸語彙(1963年、能田多代子)
シバレル
〔意味〕寒気の烈しこと。

目次 ↑

青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)br />
すばれる(動ラ下)
〔意味〕寒さのきびしいこと。(語源不明)

すばれ(名)
〔意味〕寒気。語源に諸説ありて決めがたし。
【補足】
語源に諸説あり、決めがたいとしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(下北地方)
下北・薬研の風物誌(佐藤徳蔵, 1981年)
シバレル
〔意味〕寒さがきびしい

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
しばれる(形)
〔意味〕さむい(寒い)。
〔方言採集地〕鹿角郡・北秋田郡
〔例〕「今日はひどくしばれる。」

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各地の言語資料より ↑

秋田(県北)
秋田県北部方言考(藤盛直治, 1974年)
シバレ・ル
〔意味〕凍る しばれる。寒気の厳しきこと。

シバレ・ユキ
〔意味〕ばれ雪。凍て雪。凍りて降る雪。粉雪。湿り雪の対。
【補足】
この資料では、名詞形「しばれ」の派生形と
して「しばれ雪」をとりあげています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米町誌(軽米町誌編纂委員会, 1975年)
しばれる
〔意味〕寒気がきびしい

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
スバレル【しばれ・る】(動)
〔意味〕きびしく冷えこむ。

スバレ【しばれ】(名)(動詞「しばれる」の連用形の名詞化)
〔意味〕きびしい冷えこみ。酷寒。シバレ

スバレユギ【しばれ-ゆき】(名)
〔意味〕酷寒の日などに降る粉雪。
【補足】
動詞「スバレル」の連用形の名詞化したもの
として「スバレ」を、また、その派生形とし
て「スバレ雪」をとりあげています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(中部)
遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)
シ(ス)バレル
〔意味〕厳しき寒さ
【補足】
見出し語にあるとおり、「シ」が「ス」とも
発音される地域が東北の広範囲にあります。

目次 ↑

おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
シバレル 動
〔意味〕ひどく冷える
〔解説〕零下十度以下の気温をさす
【補足】
各地の資料では、「厳しい寒さ」という解説
が多く見られますが、この資料では、「零下
十度以下の気温」と具体的に数値を出してい
ます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
シバレル(動)

〔解説〕
名詞はシバレ。語系未考。
厳しく寒くなること、またその寒さ。これを
言うのは、雪の降っている時とか、吹雪の時
などでなく、よく晴れていて寒い時に限るよ
うだ。

「けさはシバレルなあ」と言う時は、きっと
空は晴れている。「シバレル晩だ」という時
は、雪もよいでなく星空。 すると「凍み晴
れる」の原形が想起される。
【補足】
名詞として「シバレ」を、原形として
「凍み晴れる」を挙げています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
シバ・レル(下一)
〔意味〕酷く冷える。
〔分布地点〕北村山郡・東田川郡

スバ・レル(下一)
〔意味〕ひどく冷える。
〔例〕
「今夜みでに、ぴりぴり——時」
「スバレで、段々氷(スゴ)コ張って来た」
〔分布地点〕最上郡
【補足】
見出し語にあるとおり、「シ」が「ス」とも
発音される地域が東北の広範囲にあります。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

山形(庄内地方)
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)
すばれる
〔意味〕ひどく寒い。

目次 ↑

庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)
シバレル 動詞
〔意味〕寒くて凍る。ひどく冷える。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

宮城(県北)
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)
しばれる(動,ラ行下一段)
〔意味〕寒イ,冷エ込ム。
〔解説〕
寒イと言つても底冷えするように寒いこと,
身にじんじんとしみるような寒さを表現する
。無論動詞であるから寒イと訳さず、寒サ身
ニ沁ムとでも訳すべきであろう。骨身にこた
えて体の固くちぢみあがるような感じのよく
出た傑作方言の一つであろう。

目次 ↑

宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県, 1960年)
 方言(藤原勉)
しばれる

〔解説〕
寒さの凍みとおること。
しみれる>しびれる>しばれるか。
栗原郡。山形・秋田・青森・岩手県 
【補足】
使用地域に宮城県北の「栗原郡」とあります
が、当方にて調べたところ、宮城県南の白石
市の言語資料にも「すばれる(しばれる)」
が見られました。

目次 ↑

古川市史 下巻(古川市史編纂委員会, 1972年)
すばれる
〔意味〕冷える

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

宮城(三陸圏)
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)
すばれる
〔意味〕厳しい寒さの意。
〔例〕「今朝はたまげですばれすてすね」

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)
 宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
すばれる(しばれる)
〔解説〕寒さのために手足がしびれる。すばる、ともいう。
〔例〕「今朝、起きて、すばれるので、寒暖計を見たら、零下六度だった」。
 

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島(中通り中部)
どごんわらしえ 故郷福島県「正直」の言葉(鈴木節子, 2017年)
しばれる
〔意味〕凍(い)て付く寒さのこと
〔例〕
 「いやー、今朝はしばれるない」
 「しばれる朝は凍豆腐(しみどうふ)がよくできんだとい」
 

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

目次 ↑

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7/21/2025

無慙え:用法編

奥州東北語の公用語化の一環として、東北各
地の言語資料を基に、「無慙え」の用法につ
いて整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 活用
03. 漢字表記
04. 語源「無慚(むぞう)」
 - 語源探求 秋田方言辞典
 - 津軽木造新田地方の方言
 - 気仙ことば
05. 江戸時代の文献
06. 各地の言語資料より
 【青森】全般 津軽 南部
 【秋田】全般
 【岩手:旧盛岡藩】全般 盛岡 中部
 【岩手:旧仙台藩】内陸 沿岸
 【山形】最上
 【宮城】仙台 県北 三陸圏 県南
 【福島】全般 会津
 【福島:中通り】中部 南部
 【福島:浜通り】南部
07. 編集後記

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意味

無慙え

〔意味〕かわいそうだ・不憫だ・気の毒だ・哀れだ
〔品詞〕形容詞
〔漢字表記〕「無慙(むぞう)」に基づく
〔読み方〕
 むぞえ・むじょえ・むぜえ
 もぞえ・もじょえ・もぜえ

標準東北語としての読み方は、ここに挙げた
6通りを併用する形ですが、主な読み方は「
むぞえ」を想定しています。

目次 ↑

活用

「無慙え」の形容詞型活用および動詞形に
ついて整理しました。

【活用】無慙え
【活用】無慙え
<参照>
【え・あ中間音】表記法
わらし(童子)

連用形「無慙ぐねァ」の「ねァ」を変体仮名
で表記しています。連体形の「わらし」は、
「子ども」という意味です。

目次 ↑

漢字表記

漢字表記は「無慙(むぞう)」に基づきます。

「語源探求 秋田方言辞典」では、ムゾイ類
の形容詞は、中世語の形容動詞「むぞう(無
慙)」の語幹に形容詞語尾が付いたものであ
るとしています。

また、青森・岩手の言語資料にも、「むぞう
(無慙)」をとりあげているものが見られま
す。

これら東北各地の言語資料に基づき、漢字表
記を「無慙え」としています。

<参照>
語源探求 秋田方言辞典
津軽木造新田地方の方言
気仙ことば

目次 ↑

語源「無慚(むぞう)」

東北各地の言語資料では、「むぞえ」の語源
を、仏教用語である「無慚(むざん)」の変
化した「無慙(むぞう)」に求めています。

ここでは、語源も交えて解説している秋田・
青森・岩手の言語資料をとりあげます。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
むぞい・むぞけない・むぞさい〔形〕

(1)むごたらしい。残酷だ。
〔ムゾサエ〕雄勝郡

「戦争デ 人殺スナ、ホントニ ムゾサエ
 ゴドダナァ」


(2)かわいそうだ。気の毒だ。ふびんだ。
〔ムゾイ〕仙北郡
〔ムゾエ〕仙北郡・平鹿郡
〔ムジョイ〕鹿角郡
〔ムジョエ〕鹿角郡

「アンタ 子供ニ 仕事サセルナンテ
 ムゾエナ」


(3)かわいい。かわいらしい。
〔ムジョイ〕鹿角郡

「孫ァ ムジョクテ ムジョクテ タマラネァ」
〔語源考察〕

むぞう〔無慙〕〔名〕〔形動〕
(「むざん(無慙)」の転)

①残酷であること。乱暴なこと。
 また、そのさま。
②残酷な状態にあっていたましいこと。
 また、そのさま。かわいそう。不憫。
 気の毒。
③かわいらしいこと。また、そのさま。

——①がこの形容動詞の原義で、①→②→③
と転義したもの。(1)(2)(3)は、こ
れら「むぞう」の①②③に対応している。

方言のムゾイ類の形容詞は、この中世語の形
容動詞「むぞう(無慙)」の語幹に形容詞語
尾が付いたものである。

ただし③は九州方言で、海路から伝播したも
のであろう。
《補足》
・資料上は、見出し語は8通り有。
 (ここでは主要な3つを抜粋)
・「」は、ザ行・ダ行の鼻濁音。

引用欄を、用法・語源考察に分けて整理しま
した(語源考察は簡易的に抜粋)。

語源考察に基づけば、東北のムゾエ類の形容
詞は、中世の「むぞう(無慙)」の語幹に、
形容詞語尾「え」が付き、形成されたものと
なります。

目次 ↑

語源「無慚(むぞう)」 ↑

津軽木造新田地方の方言
改訂 津軽木造新田地方の方言 8巻(田中茂, 2020年)
モンジョエ
〔意味〕哀れだ 不憫だ 可愛そうだ
〔原形〕むぞい
〔品詞〕形容詞

〔活用〕
未然形:モンジョエ べ
連用形:モンジョグ・モンジョエヘ なる・あた
終止形:モンジョエ
連体形:モンジョエ づぎ(時)
仮定形:モンジョエ ば

〔音韻〕
「むぞい」が原形。方言では語頭の「む」が
転化して「モ」となっている。
二音節目の「ン」は濁音の直前に挿入された
撥音。
三音節目は「ぞ」が拗音化して「ジョ」とな
る。これも転化の一つなのだろう。「ぞ」→
「ジョ」の転化は津軽地域ではよくみられる
転化の形。
語尾の「い」は方言では「エ」となる。この
「エ」はやや「い」の方に寄った狭い口形で
発音されているという感じを受ける。

〔用例〕
マンダ 小学校ノ ワラシコダモノ
モンジョエヘ 見ンデラエネヘ アタ。
(まだ小学校の子だもの、可愛そうで
見ていられなかったよ)

〔語誌〕
「むぞい」の元になっている語は「むざん 
無慚・無惨」のようである。「無慚」は仏教
用語で罪を犯しながら恥じないこと、残酷で
あること、乱暴なこと、そして、残酷な状態
にあって痛ましいこと、不憫、気の毒という
意味でも用いられる語である。

(中略)

「むぞい」という形容詞の形は前述のように
方言では全国に見られるが、古語辞典・国語
辞典では求めることができない。

「むざん 無慚」の変化した形の語としては
「むぞう」という語がある。名詞としても形
容動詞としても用いられる語。

この資料では、前半部で見出し語の用法(意
味・音韻・活用・用例など)をとりあげ、後
半部では語源について考察しています。

「モンジョエ」の原形を「むぞい」とし、そ
の語源として、仏教用語の「無慚(むざん)
」と、その変化形である「むぞう」をとりあ
げています。

目次 ↑

語源「無慚(むぞう)」 ↑

気仙ことば
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
モゾイ(形)

〔意味〕
むごい、気の毒だ、可愛想だ、などの意

〔解説〕
宇治拾遺物語に「無漸」が「むぞう」と音便
になっているのがある。これの口語形「むぞ
い」から訛ったのではあるまいか。間投詞に
して「むぞうやな」、モゾヤナとなる。

目次 ↑

語源「無慚(むぞう)」 ↑

江戸時代の文献
江戸時代の方言辞書である浜荻(はまおぎ)
」に、「むぞひ」が見られます。

仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
【浜荻】

むぢこひ
〔江戸〕むごらしひ
〔解説〕むずひ共、無告といふに同じ心也。

むぞひ
〔江戸〕むごい
〔解説〕これも無告の轉歟。
《補足》
 轉歟(てんよ):轉は転、歟(よ)は終助詞。

浜荻は仙台言葉(見出し語)と江戸言葉を対
照する構成になっています。「むぢこひ」に
「むごらしひ」が、「むぞひ」に「むごい」
が対応しています。

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各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、意味・用例などを
整理しました。

*言語資料名の( )内は、著者・発行年

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青森(全般)
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
モジョイ
〔意味〕不憫、いぢらしい
〔記号〕modʒoë
〔品詞〕形容詞
〔区域〕津軽
《補足》
見出し語の語尾は「イ」ですが、発音記号は
「エ」の中舌化である〔ë〕です。

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各地の言語資料より ↑

青森(津軽地方)
津軽語彙 第2編 一町田語彙(松木明, 1954年)
モジョエ(形)
〔意味〕可愛想な、不憫な
    モジョケネェと同じ意
〔例〕
 アノ ワラシァ モジョエ
 あの子供は不憫だな

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青森(南部地方)
南部のことば(佐藤政五郎, 1982年)
むじょい
〔意味〕可哀想な
〔解説〕あわれな。むこ゚い。むこ゚たらしいこと。

むぞい
〔解説〕むじょいと同じ

もじょい
〔意味〕不憫だ。
〔解説〕可憐な(是川)
《補足》
「むじょい」の解説に、鼻濁音表記「こ゚」
が使われています。

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青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
むじょえ(形)
〔意味〕かわいそう。
〔解説〕無情の形容詞化か。

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各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
むぞえ(形)
〔意味〕かはいさうだ。
〔方言採集地〕仙北郡
〔例〕
「あんな子に仕事させるなんて、むぞえな。」

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岩手・旧盛岡藩(全般)
岩手方言集(小松代融一, 1959年)
(旧南部の部)

ムサエ
〔意味〕むごたらしい

ムジェ
〔意味〕可愛そうだ

ムジェッケ
〔意味〕可愛そうな

ムジョイ・ムジョエ
〔意味〕可愛そうな

ムゼ(ー)・ムゾエ
〔意味〕可愛そうな、あわれな

モゼ(ー)
〔意味〕ふびんである

モゾイ
〔意味〕可愛そうだ

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
ムジェ(形)
〔意味〕
 かわいそうである。不憫である。
 気の毒である。→ムジョエ→ムゾエ
〔解説〕
「むぞう(無慙)」から変化したものか


ムジェカ゚ル
〔意味〕不憫がる。気の毒がる。
 →ムジョカ゚ル

ムジェグナル
〔意味〕可哀想になる。
 →ムジョグナル→ムゾグナル

ムジョエ
→ムジェ

ムジョカ゚ル
→ムジェカ゚ル

ムジョグナル
→ムジェグナル

ムゾエ
→ムジェに同じ。

ムゾグナル
→ムジョグナルに同じ。
《補足》
「カ゚」は鼻濁音

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(中部)
遠野民俗資料 遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
ムジェ(ムゼェ)
〔意味〕可哀そう、気の毒、無慙(ムゼ)
〔例〕
 この寒空にムジョヤナ。ホンにすー。
 本当にムジェごどなす。

ムゼェ(ムジョヤナ)
〔意味〕可哀想

ムジョヤナ
〔意味〕可哀想

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(内陸)
黄海村史(黄海村史編纂委員会, 1960年)
むぞい
〔意味〕かわいそうだ。ふびんだ。

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胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
むぜがった
〔意味〕かわいそうだった

もじぇ・もぜぇ
〔意味〕かわいそう

もぜぇ
〔意味〕あわれである

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平泉町史 自然編・民俗編1(平泉町史編纂委員会, 1997年)
 平泉の方言(小松代融一)
もぜ(-)
〔意味〕「むぜー」とも。可愛想だ。不愍だ。
〔例〕
「これぁ! もぜごどすんな=こら! 可愛想
 なこと(いじめたり むごいこと)するな」

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
むじょえ「形」
〔意味〕かあいそうな。あわれな。
 →むぞえ。→もぞえ。

むぞえ「形」
〔意味〕ふびん。かわいそう
 →むじょい。→もぞえ。

もじょえ「形」
〔意味〕かわいそうな。ふびんな。
 →もぞい。→むぞい。
(古語)むごい、の転?

もぞえ「形」
 →もじょえ。→むぞえ。

もぞーやな「感」
〔意味〕もぞいやな。もぞえやな。可哀相だよまァ‼
    やな、は感嘆の助詞。
《補足》 記号→は「同意」の意味(凡例より)

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山形(最上地方)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
ムゾエ(形容詞)
〔意味〕かわいそう
〔分布地点〕新庄。最上大蔵・東小国。

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宮城(仙台)
仙台方言考(伊勢斎助, 1916年)
むぞい
〔意味〕カワイサウト云フコト

もぞい
〔意味〕アハレナル人ヲ云フ
《補足》
方言資料上では、見出し語の「ぞ」は「曾」
の変体仮名に濁点を付して表記。

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仙台の方言(1938年, 土井八枝)
もぞい(モゾコエ)形
〔意味〕かあいさう、いぢらしい。
〔例〕
「なんつもぞい話だこた」
(なんとあはれな話ですこと)

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宮城(県北)
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)
もぞい(形)

〔意味〕カワイソウナ,アワレナ。
〔解説〕
 現代婦人とはことかわつて、古くは女は
 可憐であると同時に、いたいけな弱々し
 いものであつた。そこで メグイ は又
 そのまま憐憫の意にも用いられ,発音も
 訛つて モゾイ となつたと言う。

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宮城(三陸圏)
北上町史 自然生活編(北上町史編さん委員会, 2004年)
もじぇ もぞい

〔意味〕不憫(かわいそうなこと)
〔例〕
とくともじぇくて やしぇねぐなる
(ものすごくかわいそうで やり切れなくなる)

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宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)
 宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
もぞこえ(もぞこい)
〔意味〕
 かわいそうな・あわれな・気の毒な。
 もぞえ(もぞい)・もごえ(もごい)、
 ともいう。
〔例〕
 「なんつーもぞこえ話だごど」
 「あの女の話を聞いて、おれは、とっても
 (とても)もぞぐなった」。


もぞこがる
〔意味〕
 かわいそうに思う・あわれに思う・気の毒
 に思う。もぞがる、ともいう。
〔例〕
「あの家のおばんつァん(おばあさん)は、
 両親がいないので、孫たちを、うんと、も
 ぞこがって育てている」
「なんぼ、あの人ばもぞがっても、おれの今
 の経済状態では、どうするごどもでじねー
 んで、ほんとに残念だ」。
《補足》
見出し語に加えて、「もぞえ(もぞい)」
「もぞがる」を挙げています。

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各地の言語資料より ↑

福島(全般)
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
ムゼイ【形】
〔意味〕可愛さうだ
〔用例〕「むぜいごつた」(可愛さうな事だ)
〔使用地域〕会津

ムゾイ【形】
〔意味〕可愛さうだ
〔用例〕
「なんでむぜいかつこだんべい」
(なんと可愛さうな姿だらら)
〔使用地域〕会津・県南

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各地の言語資料より ↑

福島(会津地方)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
むじさい・むじさえ【形】
〔意味〕気の毒な
〔例〕あんなことして、——よ」
〔同義語的方言〕むぞい、むぞえ、むずせ

むぜえ【形】
〔意味〕気の毒
〔同義語的方言〕むぞおさえ、むぞおすぇえ
《補足》
この資料では、見出し語と同じ意味の語を
「同義語的方言」として載せており、「む
じさい・むじさえ」と同じ意味の語として、
「むぞい、むぞえ、むずせ」をあげていま
す。

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会津只見の方言(只見町史編さん委員会, 2002年)
むぜー・むぞーせー(形)(形動)
〔意味〕
 むぞうさい。かわいそうだ。
 不憫(ふびん)で同情に堪(た)えない。

〔例〕
「この寒いのに、あの子は傘もささねーで
 大雨に遭って——」

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各地の言語資料より ↑

福島・中通り中部(安積地方)
郡山の方言(福島県郡山市教育委員会, 1989年)
ムゾエ(形)
〔意味〕可愛そうな。〈富田〉

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各地の言語資料より ↑

福島・中通り南部(白河地方)
岩瀬郡誌(岩瀬郡役所, 1923年)
ムゾイ
〔意味〕むごいと同意又むずいとも云ふ
《補足》資料上は、下線ではなく●で強調。

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湯本山郷史 奥州白河領木地村とその周辺 上巻(星勝晴, 1973年)
む(も)ぞい
〔意味〕かわいそう。

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天栄村史 第四巻 民俗編(天栄村史編纂委員会, 1989年)
むぞい むごい
〔意味〕かわいそう

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各地の言語資料より ↑

福島・浜通り南部(いわき地方)
いわき方言(高木稲水, 1975年)
むぞい(形容詞)
〔意味〕かわいそうだ。ふびんだ。
〔解説〕
 青森で「むじょけ」(かわいそう)という
 ことばがある。無情の意か。

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いわき市小川町地方の方言(草野二郎, 1988年)
もごえ(ご=鼻音)
〔意味〕むごい、かわいそう。
〔解説〕「もぞえ」ともいう。
〔例〕
 もごえごどして、あんにゃとえもどど
 一人づづわげだんだっちわえ。
《補足》
解説に「もぞえ」ともいうとあります。

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各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

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