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4/20/2019

博る:用法編

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、東北六県の言
語資料を基に、「博る」の用法について整理
しました。

【参考】博る:語源編

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 活用
03. 漢字表記「博る」
04. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】全般 中部 県南 由利
 【岩手・旧盛岡藩】北部 盛岡 中部
 【岩手・旧仙台藩】沿岸
 【山形】全般 庄内 最上
 【宮城】県北 県南
 【福島】会津
 【福島・中通り】中部 南部
 【福島・浜通り】北部 南部
05. 編集後記

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意味

博る
〔読み方〕ばぐる・ばくる
〔意味〕(物々)交換する、取替える
〔漢字表記〕博労(ばくろう)に基づく

目次 ↑

活用

東北各地の言語資料を基に、活用について整理しました。

活用:
【活用】博る(ばぐる・ばくる)
参照:
【え・あ中間音】表記法
【合略仮名】事(ごど・こと)

尚、活用については、主に次の資料を参考に
しました。

津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
バグル
【意味】交換する
【品詞】動詞

【活用】
未然「バグね」
連用「バグリてェ」
終止「バグル」
連体「バグル時」
仮定「バグレば」
命令「バグレ」
となる。ラ行四段活用のようである。但し、
未然形の語尾「ラ」は脱落する。「ヘル」を
付けると「バグラヘル」となる。「ド」を付
けると「バグド」となって語尾の「ル」が脱
落する。

【その他】
他人の持っている物や動物、人などを交換す
るということである。原形については判らな
い。

【用例】
コノズグリ、吾ノズグリド バグッタダネ。
(この駒と俺の駒と交換したんだよ)
--- 引用ここまで ---

【補足】
未然形は「ラ」が脱落し、
バグね → バグね
となるとあります。

東北各地の言語資料では「バグネ」という
言い方もあるため、この「ン」が脱落したも
のと捉えることもできます。

使役は、津軽では「セ」が「ヘ」になる傾向
にあるため、
バグラル → バグラ
となります。

終止形に接続助詞「ド」が付くと、「ル」が
脱落し、「バグド」となるとありますが、東
北各地には「バグット」という形が見られる
ことから、これは
バグルド→バグット→ バグド
という経路で、促音「ッ」が脱落したものと
思われます。

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活用 ↑

漢字表記「博る」

「博る」という漢字表記を用いて解説をして
いる資料が二つありましたので、ここでとり
あげます。

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田代町史資料 第四輯 田代町の方言(秋田県田代町, 1983年)
バグル

〔解説〕
博るということである。バグル、は、博労か
ら転じたもの、博労、は、伯楽から転化した
ことばという。

方言でいう、バグル、は、物を交換する行為
をいうのである。

博労も又牛馬の売買交換を業とするところか
ら、交換することを、バグル、といったもの
と推測される。

【補足】
この資料では、「バグル」は「博る」である
とし、博労から転じたものとしています。

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秋田ことば語源考(三木藤佑, 1996年)
バグル

〔解説〕
「俺の鉛筆ど、おみゃの消しゴムどバグロデ
ァ」とか、「道具なんぼ、バグタッテ腕上が
るわげぇねぇ」とか使われている。「取り替
える」こと「交換する」ことが「バグル」こ
とだ。
(中略)

この語のもともとは、漢字の「博」だと考え
られる。「博」には「バク」という読みもあ
り、「取る。取得する」意味になっている。

また、「博」だけで「ばくちなどの金品を賭
けた勝負事」の意味もある。

「博労」(ばくろう)は、馬の取引に従事し
た者だが、後には「交換」の意味が忘れられ
て「馬喰」「馬労」と書かれるようになって
しまった。

筆者は、方言「ばぐる」は「博る」であった
と考えている。そして、もともとは「取引す
る」意味だけだったのが、いつの間にか「交
換」に変わっていったのだと思う。

馬の取引の博労から「バグル」の方言が始ま
ったとする説があるが、逆だと思う。「博る
」という動詞がまずあって、これから博労が
派生していったと考えたい。

【補足】
この資料で、筆者は「バグル」は「博る」で
あったと考えており、ここから「博労」へと
派生していった可能性について指摘していま
す。

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漢字表記「博る」 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、意味・用例などに
ついて整理しました。尚、引用欄外の補足は
当方によるものです。

※言語資料名の( )内は、発行年、著者名

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青森(津軽地方)
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
バグル
〔意味〕交換する
〔区域〕津軽

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津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)
バグル
〔意味〕とりかえる。交換する。

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津軽の標準語(久米田いさお, 2007年)
バグル
〔意味〕交換する、取り替える
〔例〕
カタバエノ、テレビァ、ウヅネ、モテエテ、バグル
買ったばかりの、テレビが、映らない、持って行って、取り替える

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各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
ばぐる(動ラ四)
①交換する。
掛軸と額物とばくった(掛軸と額物を交換した)。

②ひったくる。
ハンドバッグばくられだ。

③ばぐるは博労(後述)の動詞化か。

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南部のことば(佐藤政五郎, 1992年)
ばぐる
〔意味〕交換する

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各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
ばぐる
〔意味〕交換する
〔例〕「それとこれとをばぐれ。」
〔方言採集地〕仙北郡・平鹿郡

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各地の言語資料より ↑

秋田(中部)
男鹿寒風山麓方言民俗誌(吉田三郎, 1971年)
ばぐる
〔意味〕交換する
〔例〕「おめの米と、おいのさつまいもど、ばぐるでぁ。」

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男鹿の方言集(佐藤尚太郎, 1993年)
バクル
〔意味〕物を交換すること。

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各地の言語資料より ↑

秋田(県南)
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)
バグル 動詞
〔意味〕交換する。

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各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
ばぐる・はぐる〔動〕
〔意味〕物々交換する。取替える。
〔例〕
「そのとげど この万年筆ど ばくらねぁが。
(その時計とこの万年筆とを交換しないか)」

【語源】
「ばくろう(博労)」に基づき牛馬を交換し
たことから動詞となった語か。

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米町誌(軽米町誌編纂委員会, 1975年)
ばくる
〔意味〕交換する

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
バグル(動)
①交換する。とりかえる。
②いくらかの手数料を得て交換の仲立ちをす
 る。(「ばくる」は牛馬の売買周旋などを
 業とする「ばくろう(博労)」との関係が
 ある語ではなかろうか)
【補足】
この資料では、「ばくる」について、「ばく
ろう(博労)」と関係のある語である可能性
について指摘しています。

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(中部)
岩手西和賀の方言(高橋春時, 1982年)
ばぐ・る
〔意味〕
交換する事。幾分か歩をつけて交換する意味
が強い。

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
ばぐる「他」(ら四)
〔意味〕交換する。物と物とを取り替えっこする。

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
ばク・ル(四段活用)
〔意味〕交換する。
〔分布地点〕
 東置賜郡・西置賜郡・東村山郡・西村山郡・
 東田川郡・西田川郡・飽海郡
【補足】見出し語の「・」の前部が語幹

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各地の言語資料より ↑

山形(庄内)
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)
ばぐる
〔意味〕交換する。
〔解説〕
とりげっこするともいう。
また、ぺっつ(あんこ)などして、
全部もうけること。
今日はぺっつして野郎がら ばぐりあげだ
【補足】あんこ=めんこ

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庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)
バグル
〔意味〕交換する。取り返る。

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各地の言語資料より ↑

山形(最上)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)
バグル
〔意味〕交換する。

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及位の方言(高橋良雄, 1982年)
ばぐる
〔意味〕交換する。
〔例〕「ほれど これ ばぐらねぁが - それと、これを交換しませんか」
【補足】及位(のぞき)

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各地の言語資料より ↑

宮城(県北)
古川市史 下巻(古川市史編纂委員会, 1972年)
ばぐる
〔意味〕交換する

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狼河原方言集(芳賀かね子, 1993年)
ばぐって やったおんやぁ
〔意味〕交換しました
【補足】狼河原(おいのかわら)

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各地の言語資料より ↑

宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)
宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
ばぐる(ばくる)
〔意味〕物と物とを交換する。
〔例〕
「木版画ど、陶器ばばぐる」
「ほんなに欲すえんなら(欲しいなら)、
 なにが(なにか)、こえずど(これと)
 ばぐるものば、探してこえ」

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角田の方言(角田市郷土資料館, 1994年)
バグル
〔意味〕交換する
〔例〕
「このビー玉ど あんだのゴム鉄砲ばぐっぺんや。」
 このビー玉と あなたのゴム鉄砲を交換しましょうよ。

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各地の言語資料より ↑

福島(会津)
※福島県会津地方には、先頭が濁音化しない
「はぐる」も見られます。

会津方言集(菊地芳男, 1978年)
ばぐる
〔意味〕交換する
〔例〕おめえの品どばぐんねえがー

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会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
ばぐる【動】
〔意味〕交換
〔例〕馬をバグロうかと思う

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只見町史資料集 第5集 会津只見の方言
(只見町史編さん委員会, 2002年)
ばくる
〔意味〕物と物とを交易・交換すること。

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会津方部 方言の手引書(蜃気楼, 2008年)
ばくる(はぐる)
〔意味〕売る・交換する
〔例〕おらいの馬、年取ったがらばくってきたぞぉ。
【補足】
「交換する」のほかに、「売る」という意味
でも使われていますが、売却とは自分の物を
金銭と交換する行為であることから、馬を売
却する場面でも「ばくる」が使われるように
なったものと思われます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島(中通り中部)
※福島県中通りには、先頭が濁音化しない
「はぐる」も見られます。

都路村史(都路村史編纂委員会, 1985年)
バクル
〔意味〕交換する。

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田村市史4 田村市のことば(福島県田村市教育委員会, 2010年)
ハグル、バグル
〔意味〕交換する

目次 ↑

ふるさとの言葉(紺野雅子, 2015年)
ばぐっか
〔意味〕交換する、とりかえる
〔例〕何でもいいから「はぐっか」なあ。
【補足】福島県二本松市の言語資料です。

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各地の言語資料より ↑

福島(中通り南部)
湯本山郷史 奥州白河領木地村とその周辺 上巻(星勝晴, 1973年)
ばぐる
〔意味〕交換する
〔例〕としょり馬ばぐった
【補足】
資料名の「湯本」および「木地村」は、現在
の福島県岩瀬郡天栄村湯本に位置します。

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り北部)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
バクル(動)
〔意味〕交換する。
〔例〕俺の筆、お前の筆とバクッペ。
〔解説〕博労(馬喰)が馬を交換するより出たか。
【補足】
この資料では、「バクル」の由来について、
博労(馬喰)を挙げています。

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り南部)
富岡町史 第三巻 民俗 考古編
(富岡町史編纂委員会, 1987年)
バクル
〔意味〕交換する

いわき語の海へ いわき叢書2(夏井芳徳, 2013年)
ばぐる
〔意味〕交換する。取り替える。
〔例〕「これどそれ、ばぐんねぇが?」

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各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

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