て整理しました。
【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)
編集者:千葉光
複数の過去形こそ世界標準
次の資料では、宮城県登米市中田町で使われている二つの過去形について、言語学の観点
からとりあげています。
複数の日本語 方言からはじめる言語学
(工藤真由美・八亀裕美, 2008年)
東北方言の体験証言--- 引用ここまで ---
ところで、日本語の方言で、エヴィデンシャ
リティーを表す形を持っているのは、ウチナ
ーヤマトゥグチだけではない。
ここでは、宮城県登米(とめ)市中田町の言
語事実について簡単に紹介をしておきたい。
この方言では、過去形に二つの形があり、そ
のうちのひとつ(第二過去形)は、発話主体
の体験性を明示する過去テンス形式である。
たとえば、「太郎は昨日この席に座った」と
いう場合、次の二つの言い方がある。
(7) タロー キノナ コノ セギサ スワッタ
[第一過去形]
(8) タロー キノナ コノ セギサ スワッタッタ
[第二過去形]
第一過去形「スワッタ」は、標準語のシタと
同じように、単に出来事が発話時より前に起
こったことを示す形である。この形は、体験
の有無には無関心で、(7) の場合は、話し手
が体験(目撃)している可能性もあるし、し
ていない可能性もある。
これに対して、第二過去形の「スワッタッタ
」を使うと、話し手が体験した過去の出来事
であることを明示することができる。
この二つの過去形は、動詞述語文だけではな
く形容詞述語文や名詞述語文にもある。
「壁のペンキは赤かった」をどのように言う
かみてみよう。
(9) カベノ ペンキ アゲガッタ
[第一過去形]
(10) カベノ ペンキ アゲガッタッタ
[第二過去形]
「あの子は隣町の小学生だった」だとこのよ
うになる。
(11) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタ
[第一過去形]
(12) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタッタ
[第二過去形]
形容詞や名詞が述語になる場合も、基本は動
詞述語の場合と同じで、第一過去形は、体験
の有無には無関心で、体験していてもしてい
なくても用いることができるが、第二過去形
は、話し手が体験をしていないと使うことが
できない。
なお、参考までに、この「〜タッタ」という
形は「〜テアッタ」から発展したものと考え
られている。
先に見たウチナーヤマトゥグチの「シヨッタ
」の形は、目撃を表すので、自分自身のこと
については(自分で自分を目撃できないから
)使うことはできない。
しかし、中田方言の第二過去形は、体験性を
明示する形なので、自分自身の体験について
も語ることができる。
(13) [さっき何をしていたのと質問されて]
マド アゲデダッタ(窓を開けていた)
(14) [あのときあなたは何を切っていたのと聞かれて]
スイガ キッテダッタ(すいかを切っていた)
先にアイケンヴァルトによるエヴィデンシャ
リティーの概観を紹介したが、ウチナーヤマ
トゥグチのように目撃を明示するタイプも、
中田方言のように体験を明示するタイプも、
世界の諸言語では報告されていることがわか
る。
日本語だけを見ていると、標準語ではこのよ
うな目撃性や体験性を形態論的にマークする
ことがないので、とても不思議な形のように
思ってしまうのだが、世界的に見れば珍しく
はない。
(中略)
さまざまな言語で、【過去完了形】②:複数の過去形過去形に二つの形があり
、その一方が体験性や目撃性と関係している
という報告があることを知っていれば、中田
方言のような例を見ても驚くことはない。
標準語には二つの過去形がないので、奇妙に
思ってしまうのだが、実は世界的なレベルか
ら見れば、中田方言のほうが「標準的」であ
るとも言える。
広い視野から言語現象を観察することの必要
性を確認できるのではないだろうか。
引用にある用語や人物について補足します。
【エヴィデンシャリティー】
話し手が情報をどこから(どのように)得た
のかを明示する形
【ウチナーヤマトゥグチ】沖縄大和口
【テンス】
発話の時点から見て、時間軸上のどこに位置
するかを表す文法的なカテゴリーのこと
【アイケンヴァルト】ロシア出身の言語学者
この資料では、二つの過去形を使った例文を
、動詞・形容詞・名詞ごとにとりあげ、第二
過去形を使うと、話し手が体験した過去の出
来事であることを明示することができるとし
ています。
この情報源を言い表す文法である「エヴィデ
ンシャリティー」について、ウチナーヤマト
ゥグチには、通常の過去形のほかに、話し手
本人が目撃したことを明示する形があり、中
田方言の例と同様、二つの過去形を比較する
形でとりあげています。
このように、中田方言の体験を明示するタイ
プやウチナーヤマトゥグチの目撃を明示する
タイプは、世界の諸言語でも報告されており
、決して珍しくはないとのことです。
そして、さまざまな言語で過去形に二つの形
があり、むしろ世界的なレベルから見れば、
中田方言の方が「標準的」であるとしていま
す。
編集者:千葉光