語源について整理しました。
※参照:【きかねァ】用法編
編集者:千葉光
目次:
語源・ 聞(利)かぬ気
・ 聞かない(の形容詞化)
語源
語源について、東北各地の言語資料を基に、次の二系統に分類しました。
聞(利)かぬ気
【青森】津軽弁の世界〔完〕(小笠原功, 2001年)
【岩手】遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)
【宮城】細倉の言葉(世古正昭, 1956年)
聞かない(の形容詞化)
【秋田】語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
【岩手】気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
【福島】会津ことば散歩(江川義治, 1979年)
系統ごとに、次項にて整理しました。
聞(利)かぬ気
津軽弁の世界〔完〕(2001年、小笠原功)きかね
〔意味〕勝ち気な。
〔例〕 「暴える(あばれる)馬(ま)ど、
きかね女(おなご)さだきゃ(には)手ば出しなて、
昔がら喋らえでるだね(のだよ)。
蹴とばさえで(されて)、踏まえで、
殺さえで終(しま)るだて(だって)。」
きかない。
「き(聞・聴)かない」の「きく」は、
この場合は、
相手の言葉や意見を受け入れる、
承知するという意で用いられている。
「ない」は、古くは「ず」という
打消しの助動詞であったが、
中世、関東方言として
形容詞的な「ない」という表現が現われ、
明治期、小学読本から
共通語として定着した語である。
津軽弁の「きかね」は、
「聞かぬ気(だ)」
「聞(利)かん気」と同義の語で、
他人の話や意見を耳や心に入れず、
人に譲ったり負けたりすることを
激しく嫌うような、
勝ち気、意地っ張りな性格を表わす
形容動詞として用いられている。
また、「きかね」に、
サ変動詞の連用形の「し」
(津軽弁では「へ」と訛る)を挿入して
強調して「きがへね」とも表現されている。
「これを聞きて、ましてかぐや姫きくべくもあらず(竹取物語)」
「さあ、きかぬ気の凄傾城(眉斧目録)」。
遠野方言誌(1926年、伊能嘉矩)
キカナイ(キカナイ、ガギ)
キカナクナル
〔意味〕
アバレ(アバレ児)アバレル
キカヌキの轉
細倉の言葉(1956年、世古正昭)
きかない(形)(nɛː )
〔意味〕
気ノ強イ、横着ナ、勝気ナ。
言ウコトヲ キカナイから出たのではなく、
寧ろ所謂「利カヌ気」であろう。
〔例〕
「キカネェ子ダコト」
(何と横着な子だろう)
②聞かない(の形容詞化)
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)きかない〔形〕
〔意味〕勝ち気だ。負けん気だ。荒っぽい。乱暴だ。腕白だ。
キカネァ:
鹿角郡、北秋田郡、山本郡、南秋田郡、秋田市
河辺郡、仙北郡、平鹿郡、雄勝郡、由利郡
キガネァ:仙北郡、由利郡
キカネ:山本郡、南秋田郡
キカナイ:南秋田郡
〔例〕
「ホントニ キカネァ ワラシンダ」
「キガネアンバガリンデ ナンモ 分ガラネァナンダ」
「アンマリ キカネァグ スルナ」
〔語源考察〕
聞かない〔連語〕(「聞かぬ」とも)
〈きく〔聞〕〔他カ五(四)〕の未然形に
打消しの助動詞「ない」
または「ぬ」の付いたもの〉
なかなか人の言葉に従わない。
がんこである。
*浮世草紙・浮世栄花一代男-四・三
「此ちぎりいつまても
かはるなかはらじと思ひしに、
家中に聞(きか)ぬ男ありて
其御いたはりあそばしける」
*改正増補和英語林集成
「ナカナカ キカナイ ジョジョウフダ〈『日国』〉」
この「聞かない」の形容詞化したもの。
必ずしも悪い意味で言うのでなく、
「アノ子ァ ナガナガ キカネァ ドゴ アル」などと、
「みだりに人の言いなりにはならず、
自主的で見どころがある」の意で
いうこともある。
〔注〕打消しの助動詞(2)
ない〔助動〕活用語の未然形に付き、
打消しの意を表す。
近世では稀に
「あらない」があるが、
現代語では「ある」には付かない。
サ変には「し」に付く。
基本形:ない
未然:なかろ
連用:なく、なかっ
終止:ない
連体:ない
仮定:なけれ
活用の型:形容詞型
「ない」は文献上、
室町末期から関東方言として現れる。
活用形の完成した近世後期でも、
打消しは「ない」より
「ぬ」が一般的であるが、
明治以後、国定の読本をはじめ
口語文の標準としては
「ない」に代わられるに至った。
(『日本国語大辞典』〈補注〉参照)
気仙ことば(1965年、佐藤文治)
キカネァ(形)
「聞かない」か。
けんかに強い者、
議論で相手に譲らない者、
荒っぽい遊びをする子供、
これらはすべてキカネァ人、
キカネァ子供。
人の助言や注意を聞こうともしない、
ということからこう言う。
会津ことば散歩(1979年、江川義治)
きかねい
「あいつは ふんとに きかねい」というコトバをよく聞く。
~中略~
「きかない」は、
心が強い、意地・根性があるというよりは、
むしろ強情張りの人間で、
あくまで自己の主義主張を無理にも通す、
そういう人をいう。
例えてみれば、
青森地方の方言で「じょっぱり」、
熊本地方の「もっこす」に
似たコトバではなかろうか。
正直にいえば、会津人は、
かたくなに意地を張るところがある。
正しい筋はあくまでも通すことは良いことだが、
片意地にわかり切ったことを
、 体面上からがむしゃらに
無理やり主張する面もないではない。
このような強情を張ることが、
会津地方で「きかねい」というのだが、
その語源は、
他人の言うことを意に介せず、
全く聞き入れない、
つまり聞かないことか、
あるいはまた、
他人がいう意見、
その教えなどを
いくら言っても効(利)かない、
という意味のいずれかであろう。
ここまで二系統に分類して語源について整理
しましたが、どちらかが正しいということで
はなく、「利かぬ気」と「聞かない」が複合
的に形容詞化したものと捉えた方がよいかも
しれません。