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5/24/2026

【過去完了形】②:複数の過去形は世界標準

ここでとりあげる資料は、用法編とは別にし
て整理しました。

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

編集者:千葉光

複数の過去形こそ世界標準
次の資料では、宮城県登米市中田町で使われ
ている二つの過去形について、言語学の観点
からとりあげています。


複数の日本語 方言からはじめる言語学
(工藤真由美・八亀裕美, 2008年)
東北方言の体験証言

ところで、日本語の方言で、エヴィデンシャ
リティーを表す形を持っているのは、ウチナ
ーヤマトゥグチだけではない。

ここでは、宮城県登米(とめ)市中田町の言
語事実について簡単に紹介をしておきたい。

この方言では、過去形に二つの形があり、そ
のうちのひとつ(第二過去形)は、発話主体
の体験性を明示する過去テンス形式である。

たとえば、「太郎は昨日この席に座った」と
いう場合、次の二つの言い方がある。

(7) タロー キノナ コノ セギサ スワッタ
 [第一過去形]

(8) タロー キノナ コノ セギサ スワッタッタ
 [第二過去形]

第一過去形「スワッタ」は、標準語のシタと
同じように、単に出来事が発話時より前に起
こったことを示す形である。この形は、体験
の有無には無関心で、(7) の場合は、話し手
が体験(目撃)している可能性もあるし、し
ていない可能性もある。

これに対して、第二過去形の「スワッタッタ
」を使うと、話し手が体験した過去の出来事
であることを明示することができる。

この二つの過去形は、動詞述語文だけではな
く形容詞述語文や名詞述語文にもある。

「壁のペンキは赤かった」をどのように言う
かみてみよう。

(9) カベノ ペンキ アゲガッタ
 [第一過去形]

(10) カベノ ペンキ アゲガッタッタ
 [第二過去形]


「あの子は隣町の小学生だった」だとこのよ
うになる。

(11) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタ
 [第一過去形]

(12) アノ ワラス トナリマズノ ショーガクセーダッタッタ
 [第二過去形]

形容詞や名詞が述語になる場合も、基本は動
詞述語の場合と同じで、第一過去形は、体験
の有無には無関心で、体験していてもしてい
なくても用いることができるが、第二過去形
は、話し手が体験をしていないと使うことが
できない。

なお、参考までに、この「〜タッタ」という
形は「〜テアッタ」から発展したものと考え
られている。

先に見たウチナーヤマトゥグチの「シヨッタ
」の形は、目撃を表すので、自分自身のこと
については(自分で自分を目撃できないから
)使うことはできない。

しかし、中田方言の第二過去形は、体験性を
明示する形なので、自分自身の体験について
も語ることができる。

(13) [さっき何をしていたのと質問されて]
  マド アゲデダッタ(窓を開けていた)

(14) [あのときあなたは何を切っていたのと聞かれて]
  スイガ キッテダッタ(すいかを切っていた)


先にアイケンヴァルトによるエヴィデンシャ
リティーの概観を紹介したが、ウチナーヤマ
トゥグチのように目撃を明示するタイプも、
中田方言のように体験を明示するタイプも、
世界の諸言語では報告されていることがわか
る。

日本語だけを見ていると、標準語ではこのよ
うな目撃性や体験性を形態論的にマークする
ことがないので、とても不思議な形のように
思ってしまうのだが、世界的に見れば珍しく
はない。

(中略)

さまざまな言語で、【過去完了形】②:複数の過去形過去形に二つの形があり
、その一方が体験性や目撃性と関係している
という報告があることを知っていれば、中田
方言のような例を見ても驚くことはない。

標準語には二つの過去形がないので、奇妙に
思ってしまうのだが、実は世界的なレベルか
ら見れば、中田方言のほうが「標準的」であ
るとも言える。

広い視野から言語現象を観察することの必要
性を確認できるのではないだろうか。
--- 引用ここまで ---

引用にある用語や人物について補足します。
【エヴィデンシャリティー】
話し手が情報をどこから(どのように)得た
のかを明示する形

【ウチナーヤマトゥグチ】沖縄大和口

【テンス】
発話の時点から見て、時間軸上のどこに位置
するかを表す文法的なカテゴリーのこと

【アイケンヴァルト】ロシア出身の言語学者

この資料では、二つの過去形を使った例文を
、動詞・形容詞・名詞ごとにとりあげ、第二
過去形を使うと、話し手が体験した過去の出
来事であることを明示することができるとし
ています。

この情報源を言い表す文法である「エヴィデ
ンシャリティー」について、ウチナーヤマト
ゥグチには、通常の過去形のほかに、話し手
本人が目撃したことを明示する形があり、中
田方言の例と同様、二つの過去形を比較する
形でとりあげています。

このように、中田方言の体験を明示するタイ
プやウチナーヤマトゥグチの目撃を明示する
タイプは、世界の諸言語でも報告されており
、決して珍しくはないとのことです。

そして、さまざまな言語で過去形に二つの形
があり、むしろ世界的なレベルから見れば、
中田方言の方が「標準的」であるとしていま
す。


編集者:千葉光

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