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4/07/2019

【え・あ中間音】表記法

奥州東北語(標準東北語および東北各地の
言語)の公用語化の一環として、六つ目の
母音である「え・あ中間音」の表記法につ
いて整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01.【母音】表記
 補足①:「え・あ中間音」について
 補足②:「い・イ」について
02.【母音・子音】一覧
 補足①:連母音「aiae」に対応
 補足②:変体仮名について
03. 表記例
 【長音①】一覧
 【長音②】繰返し記号・母音の併用
 【長音③】名詞
 【長音④】動詞・連体詞
 【短音】
 【形容詞①】漢字表記
 【形容詞②】長短音の併用例
 【打消しの助動詞】
 【希望助動詞】
 【拗音】
04. 長短音に対応
05. 主な参考文献
06. 編集後記

〔参照〕
【え・あ中間音】東北六県 編

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【母音】表記

六つ目の母音「え・あ中間音」を、「江」の
変体仮名で表記します。

母音の表記:
母音の表記
ɛ = オープンE
æ = アシュ/ash

画像の変体仮名は、当方にて作成しました。
片仮名は「N」を裏返したような字形ですが
、古今和歌集にこの形が見られました。

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補足①:「え・あ中間音」について
東北六県の言語資料に基づき、「え・あ中間
音」を、「ɛ」~「æ」の間の母音と定義しま
す。

基本的に「ɛ音」での使用を想定しています
が、「æ音」との併用も視野に入れています。

国際音声記号上、「ɛæ」は、「え」と「あ
」の中間に位置します。
*左側は口の開き方

・・・ i(日本語の「い」)
半狭 ・・・ e
  中央 ・・・  (日本語の「え」)
半広 ・・・ ɛ
  狭めの広 ・・・ æ
・・・ a (日本語の「あ」)
《補足》
発音記号の創始者はフランス人とイギリス人
であることから、イギリス英語を基準にして
いるものと思われます。

青森県方言集(菅沼貴一、1936年)では、収
録語彙の発音記号に「ɛæ」を併用していま
すが、東北各地では、同じ地域の言語資料で
さえも「ɛæ」が混在する事例もあり、この
両音を区別して表記することは現実的ではあ
りません。

尚且つ、音質も似ているため、話し言葉で判
別するのは難しいかもしれません。

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母音の表記 ↑

補足②:「い・イ」について
東北の言語では、母音単独の「い・え」は、
その「中間音」もしくは「え」となります。

この発音規則に基づき、この両音を「え」に
代表させて表記します。

「い」の表記は、次に示す場面に限定した使
い方を想定しています。
・形容詞などの語尾の長音表記
 〔例〕わりい(悪い)

・外来語
 〔例〕イートイン

・現代的な語、若者言葉など
〔参照〕え・い中間音

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母音の表記 ↑

【母音・子音】一覧

母音・子音の一覧です。六音目に「え・あ」
中間音を表示しています。
(画像の変体仮名は当方にて作成)

母音・子音の一覧:
母音・子音の一覧
《え・あ中間音の補足》
・平仮名/片仮名 [発音記号] 基の漢字
・ら行の発音記号を「l(エル)」で表示
・「ɛ音」での使用を想定(「æ音」との併用可)

尚、え・あ中間音の表記法は東北六県の言語
資料に基づくため、標準東北語だけでなく、
東北全土の言語も対象となります。

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補足①:連母音「aiae」に対応

東北六県共通の「え・あ」中間音は、
連母音「aiae」に対応します。
ai】おっかないnai)、うまいmai
ae】おまえmae)、かえり(kae

東北六県の言語資料に最も多く見られる表記
法は、「え列音+ァ」です。
【え列音+ァ】えァ けァ せァ ~

他の表記法では、次のものが見られます。
 *()内は、言語資料名
【あ列音+ェ】
 あェ かェ さェ ~(津軽のことば)

【あ列音+ァェ】
 かァェ さァェ(真室川の方言・民俗・子供の遊び)

【あ・え列音+
 あ  え(藩境北上市周辺の話しことば)

【合成文字】
 小文字「エ」と「ア」を上下に組合せたもの(鹿角方言集)

ここに挙げたものは、いずれも発音面を意識
した表記法であることが窺えます。

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母音・子音の一覧 ↑

補足②:変体仮名について

変体仮名は、平安期から明治期の過渡期まで
使われていましたが、明治33年の文部省「
小学校令施行規則」にて、仮名は一字一音と
なり、それ以外の字体は「変体仮名」という
ことになって、教育現場から追放されました。

当方の提唱する変体仮名による表記法は、青
森から福島まで、東北全土の言語の表記法に
使えるため、各地の地域公用語化に貢献でき
れば幸いです。

尚且つ、廃止された変体仮名の継承にもつな
がります。

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母音・子音の一覧 ↑

表記例

「え・あ」中間音の表記例を、長音・短音・
形容詞・助動詞・拗音ごとに整理しました。

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長音①:一覧
長音①:一覧
*平仮名表記 / カタカナ表記 [発音記号]

〔母音〕
・平仮名表記:ゝ(繰返し記号)、「江」の変体仮名と併用可
・カタカナ表記:ー(長音符)

〔子音〕
・平仮名表記:「江」の変体仮名
・カタカナ表記:ー(長音符)

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表記例 ↑

長音②:繰返し記号・母音の併用(平仮名)
長音②:繰返し記号・母音の併用(平仮名)

一般的に、平仮名・カタカナの長音表記は、
次の通りです。
【平仮名】母音を付して表記
 ああ、ええ(感情・応答)
 いい(良い)
 おおい(多い)、おおきい(大きい)
 おおかみ(狼)、おおた(太田)

【平仮名】繰返し記号を付して表記
 あゝ上野駅

【カタカナ】長音符を付して表記
 アー、エー(感情・応答)
 イー(良い)
 オーイ(多い)、オーキイ(大きい)
 オーカミ(狼)、オータ(太田)

「え・あ中間音」の長音表記も、ここに挙
げた表記法に準じています。

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表記例 ↑

長音③:名詞
長音③:名詞

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表記例 ↑

長音④:動詞・連体詞
長音④:動詞・連体詞

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表記例 ↑

短音:名詞・形容詞・副詞・連用形・連語
短音:名詞・形容詞・副詞・連用形・連語
*連用形以外は長音表記との併用可

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表記例 ↑

形容詞①:漢字表記
形容詞①:漢字表記
*語尾の読み方は、長音・短音との併用可

名詞の「位(くらい)」という語の場合、漢
字表記としては一文字ですが、実際の話し言
葉では、「これぐれァ・これぐれァー」と、
長短音が併用されています。

ここで挙げた形容詞も同様に、語尾は長
短音が併用されています。

漢字表記との兼ね合いから、「江」の変
体仮名を付して表記しますが、発音上は
長短音の併用が可能です。

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表記例 ↑

形容詞②:長短音の併用例
形容詞②:長短音の併用例
右:短音
左:長音(「江」の変体仮名を付す)

形容詞①の項で挙げた「赤い・高い」などと
違い、漢字表記に影響されない形容詞につい
ては、長短音表記の併用が可能です。

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表記例 ↑

打消しの助動詞
打消しの助動詞
右:短音
左:長音(「江」の変体仮名を付す)

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表記例 ↑

希望助動詞
希望助動詞

右:短音
左:長音(「江」の変体仮名を付す)

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表記例 ↑

拗音
拗音
*「江」の変体仮名(小文字)を付す

拗音については、日常生活で使うことはほぼ
ないと思われますが、東北各地の言語資料を
基に作成しました。

目次 ↑

表記例 ↑

長短音に対応

「え・あ中間音」は、長音としても短音とし
ても表れます。次の言語資料の収録語彙から
、長短音の例をいくつか抜粋しました。

宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県史編纂委員会, 1960年)
方言(藤原勉)
〔長音〕æː
・アワェー ɑwæː
・オッカネェー okkɑnæː

〔短音〕æ
・アンベェワリー ɑm-wɑrɯː
・エークレェ eːkɯ

〔長短音〕
ケェーネェ kæːnæ
*下線は当方にて

「アワェー・オッカネェー」の語尾は、長音
の発音記号で示されていますが、短音として
も発音されます。

「アンベェワリー」のように、// の後に
語が続く場合、短音化します。
「エークレェ」も、実際には「エークレェに
しろ」のように語が続くため、短音化します。

「ケェーネェ(甲斐ない)」のように、先頭
の「え・あ中間音」は、長音になる傾向にあ
ります。「内緒」も「ネェーショ」となりま
す。

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主な参考文献

え・あ中間音の表記法を整理するにあたり、
参考にした主な言語資料は、次の通りです。

【全国】
全国方言資料 第1巻 (東北・北海道編)(日本放送協会 編, 1966年)

【青森】
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
七戸の方言(石田善三郎, 1997年)

【秋田】
秋田県方言 音韻及口語法(大山宏/等編, 1911年)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
鹿角方言集(内田武志, 1936年)
秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)

【岩手】
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
藩境北上市周辺の話しことば(及川慶郎, 1993年)
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
一関市史 第3巻 各説Ⅱ(一関市史編纂委員会, 1977年)

【山形】
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
荘内語及語釈(三矢重松, 1930年)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)

【宮城】
仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県, 1960年)

【福島】
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
福島県史 第24巻 民俗2 各論編10(福島県・菅野宏, 1967年)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
相馬方言考(新妻三男, 1973年)

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編集後記

かつての日高見国である奥州東北の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。

当然ながら、青森から福島まで、東北全土の
言語に対応しているため、東北各地の言語の
地域公用語化にも貢献できるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却が
、明治以降、自らの言語を否定され、劣等感
を植え付けられた東北の力を引き出す原動力
となるはずです。

編集者:千葉光

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