言語)の公用語化の一環として、六つ目の
母音である「え・あ中間音」の表記法につ
いて整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01.【母音】表記補足①:「え・あ中間音」について
補足②:「い・イ」について
02.【母音・子音】一覧
補足①:連母音「ai・ae」に対応
補足②:変体仮名について
03. 表記例
【長音①】一覧
【長音②】繰返し記号・母音の併用
【長音③】名詞
【長音④】動詞・連体詞
【短音】
【形容詞①】漢字表記
【形容詞②】長短音の併用例
【打消しの助動詞】
【希望助動詞】
【拗音】
04. 長短音に対応
05. 主な参考文献
06. 編集後記
〔参照〕
【え・あ中間音】東北六県 編
【母音】表記
六つ目の母音「え・あ中間音」を、「江」の変体仮名で表記します。
母音の表記:
・ɛ = オープンE
・æ = アシュ/ash
画像の変体仮名は、当方にて作成しました。
片仮名は「N」を裏返したような字形ですが
、古今和歌集にこの形が見られました。
補足①:「え・あ中間音」について
東北六県の言語資料に基づき、「え・あ中間音」を、「ɛ」~「æ」の間の母音と定義しま
す。
基本的に「ɛ音」での使用を想定しています
が、「æ音」との併用も視野に入れています。
国際音声記号上、「ɛ・æ」は、「え」と「あ
」の中間に位置します。
*左側は口の開き方
狭 ・・・ i(日本語の「い」)
半狭 ・・・ e
中央 ・・・ e̞(日本語の「え」)
半広 ・・・ ɛ
狭めの広 ・・・ æ
広 ・・・ a (日本語の「あ」)
《補足》発音記号の創始者はフランス人とイギリス人
であることから、イギリス英語を基準にして
いるものと思われます。
青森県方言集(菅沼貴一、1936年)では、収
録語彙の発音記号に「ɛ・æ」を併用していま
すが、東北各地では、同じ地域の言語資料で
さえも「ɛ・æ」が混在する事例もあり、この
両音を区別して表記することは現実的ではあ
りません。
尚且つ、音質も似ているため、話し言葉で判
別するのは難しいかもしれません。
補足②:「い・イ」について
東北の言語では、母音単独の「い・え」は、その「中間音」もしくは「え」となります。
この発音規則に基づき、この両音を「え」に
代表させて表記します。
「い」の表記は、次に示す場面に限定した使
い方を想定しています。
・形容詞などの語尾の長音表記
〔例〕わりい(悪い)
・外来語
〔例〕イートイン
・現代的な語、若者言葉など
〔参照〕え・い中間音【母音・子音】一覧
母音・子音の一覧です。六音目に「え・あ」中間音を表示しています。
(画像の変体仮名は当方にて作成)
母音・子音の一覧:
《え・あ中間音の補足》
・平仮名/片仮名 [発音記号] 基の漢字
・ら行の発音記号を「l(エル)」で表示
・「ɛ音」での使用を想定(「æ音」との併用可)
尚、え・あ中間音の表記法は東北六県の言語
資料に基づくため、標準東北語だけでなく、
東北全土の言語も対象となります。
補足①:連母音「ai・ae」に対応
東北六県共通の「え・あ」中間音は、連母音「ai・ae」に対応します。
【ai】おっかない(nai)、うまい(mai)
【ae】おまえ(mae)、かえり(kae)
東北六県の言語資料に最も多く見られる表記
法は、「え列音+ァ」です。
【え列音+ァ】えァ けァ せァ ~
他の表記法では、次のものが見られます。
*()内は、言語資料名
【あ列音+ェ】
あェ かェ さェ ~(津軽のことば)
【あ列音+ァェ】
かァェ さァェ(真室川の方言・民俗・子供の遊び)
【あ・え列音+ヱ】
あヱ
えヱ(藩境北上市周辺の話しことば)
【合成文字】
小文字「エ」と「ア」を上下に組合せたもの(鹿角方言集)
ここに挙げたものは、いずれも発音面を意識
した表記法であることが窺えます。
補足②:変体仮名について
変体仮名は、平安期から明治期の過渡期まで使われていましたが、明治33年の文部省「
小学校令施行規則」にて、仮名は一字一音と
なり、それ以外の字体は「変体仮名」という
ことになって、教育現場から追放されました。
当方の提唱する変体仮名による表記法は、青
森から福島まで、東北全土の言語の表記法に
使えるため、各地の地域公用語化に貢献でき
れば幸いです。
尚且つ、廃止された変体仮名の継承にもつな
がります。
表記例
「え・あ」中間音の表記例を、長音・短音・形容詞・助動詞・拗音ごとに整理しました。
長音①:一覧
*平仮名表記 / カタカナ表記 [発音記号]〔母音〕
・平仮名表記:ゝ(繰返し記号)、「江」の変体仮名と併用可
・カタカナ表記:ー(長音符)
〔子音〕
・平仮名表記:「江」の変体仮名
・カタカナ表記:ー(長音符)
長音②:繰返し記号・母音の併用(平仮名)
一般的に、平仮名・カタカナの長音表記は、
次の通りです。
【平仮名】母音を付して表記
ああ、ええ(感情・応答)
いい(良い)
おおい(多い)、おおきい(大きい)
おおかみ(狼)、おおた(太田)
【平仮名】繰返し記号を付して表記
あゝ上野駅
【カタカナ】長音符を付して表記
アー、エー(感情・応答)
イー(良い)
オーイ(多い)、オーキイ(大きい)
オーカミ(狼)、オータ(太田)
「え・あ中間音」の長音表記も、ここに挙
げた表記法に準じています。
長音③:名詞
長音④:動詞・連体詞
短音:名詞・形容詞・副詞・連用形・連語
*連用形以外は長音表記との併用可形容詞①:漢字表記
*語尾の読み方は、長音・短音との併用可名詞の「位(くらい)」という語の場合、漢
字表記としては一文字ですが、実際の話し言
葉では、「これぐれァ・これぐれァー」と、
長短音が併用されています。
ここで挙げた形容詞も同様に、語尾は長
短音が併用されています。
漢字表記との兼ね合いから、「江」の変
体仮名を付して表記しますが、発音上は
長短音の併用が可能です。
形容詞②:長短音の併用例
右:短音左:長音(「江」の変体仮名を付す)
形容詞①の項で挙げた「赤い・高い」などと
違い、漢字表記に影響されない形容詞につい
ては、長短音表記の併用が可能です。
打消しの助動詞
右:短音左:長音(「江」の変体仮名を付す)
希望助動詞
右:短音
左:長音(「江」の変体仮名を付す)
拗音
*「江」の変体仮名(小文字)を付す拗音については、日常生活で使うことはほぼ
ないと思われますが、東北各地の言語資料を
基に作成しました。
長短音に対応
「え・あ中間音」は、長音としても短音としても表れます。次の言語資料の収録語彙から
、長短音の例をいくつか抜粋しました。
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県史編纂委員会, 1960年)
方言(藤原勉)
〔長音〕æː*下線は当方にて
・アワェー ɑwæː
・オッカネェー okkɑnæː
〔短音〕æ
・アンベェワリー ɑmbæ-wɑrɯː
・エークレェ eːkɯræ
〔長短音〕
・ケェーネェ kæːnæ
「アワェー・オッカネェー」の語尾は、長音
の発音記号で示されていますが、短音として
も発音されます。
「アンベェワリー」のように、/bæ/ の後に
語が続く場合、短音化します。
「エークレェ」も、実際には「エークレェに
しろ」のように語が続くため、短音化します。
「ケェーネェ(甲斐ない)」のように、先頭
の「え・あ中間音」は、長音になる傾向にあ
ります。「内緒」も「ネェーショ」となりま
す。
主な参考文献
え・あ中間音の表記法を整理するにあたり、参考にした主な言語資料は、次の通りです。
【全国】
全国方言資料 第1巻 (東北・北海道編)(日本放送協会 編, 1966年)
【青森】
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
七戸の方言(石田善三郎, 1997年)
【秋田】
秋田県方言 音韻及口語法(大山宏/等編, 1911年)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
鹿角方言集(内田武志, 1936年)
秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
【岩手】
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
藩境北上市周辺の話しことば(及川慶郎, 1993年)
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
一関市史 第3巻 各説Ⅱ(一関市史編纂委員会, 1977年)
【山形】
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
荘内語及語釈(三矢重松, 1930年)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)
【宮城】
仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県, 1960年)
【福島】
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
福島県史 第24巻 民俗2 各論編10(福島県・菅野宏, 1967年)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
相馬方言考(新妻三男, 1973年)
編集後記
かつての日高見国である奥州東北の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。
当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。
当然ながら、青森から福島まで、東北全土の
言語に対応しているため、東北各地の言語の
地域公用語化にも貢献できるはずです。
当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却が
、明治以降、自らの言語を否定され、劣等感
を植え付けられた東北の力を引き出す原動力
となるはずです。
編集者:千葉光