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2/11/2020

【え・あ中間音】東北六県編

当方の提唱する「え・あ中間音」の表記法は
東北六県の言語資料に基づきますが、ここで
は「え・あ中間音」について解説のある東北
各地の言語資料をとりあげます。

編集者:千葉光

目次:
・連母音 /ai/ /ae/ に対応
・各地の言語資料より
  【青森】全般 南部
  【秋田】全般① 全般②
  【岩手:旧南部領】中部 
  【岩手:旧伊達領】内陸
  
【山形】最上
  【宮城】全般① 全般②
  【福島】全般① 全般② 会津
・編集後記

〔参照〕
【え・あ中間音】表記法

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連母音 /ai/ /ae/ に対応

東北六県共通の「え・あ中間音」は、
連母音 /ai/ /ae/ に対応します。
ai】おっかないnai)、うまいmai
ae】おまえmae)、かえり(kae

この連母音に対応する「え・あ中間音」の発
音記号について、東北各地の言語資料では、
ɛ(オープンE)
æ(アシュ/ash)
を用いています。

この両音は東北全体で混在しており、併用す
る言語資料がある一方、同じ地域内の言語資
料でも、/ɛ/ /æ/ の違いが見られます。

東北各地の言語資料では「え・あ中間音」に
ついて、どのようにとりあげているのか、次
項にて整理しました。

目次 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、「え・あ中間音」
についてとりあげている箇所を引用します。
尚、引用欄に続いて、当方により補足もあり
ます。

注)資料名の( )内は、著者名・発行年

目次 ↑

青森(全般)
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
発音記号の説明

母音
(Ⅰ) ア行
ア(a) イ(ї) ウ(ɯ) エ(ë) オ(o) エェ(ɛ) エァ(æ)
ї と ë との區別は殆ど判らない位のものである。
略々其の中間的發音とみてよからう。

子音
(Ⅱ) カ行
清音 カ(ka) キ(kї) ク(kɯ) ケ(kë) コ(ko) カェ(kɛ) ケァ(kæ)
濁音 ガ(ga) ギ(gї) グ(gɯ) ゲ(gë) ゴ(go) ガェ(gɛ) ゲァ(gæ)
鼻音 カ゚(ŋa) キ゚(ŋї) ク゚(ŋɯ) ケ゚(ŋë) コ゚(ŋo) カ゚ェ(ŋɛ) ケ゚ァ(ŋæ)

kї と kë とは單に ї と ë との時ほど
接近してはゐないが、
然しよく兩者は混同せられる。

(Ⅷ) ヤ行
ヤ(ja) イ(jї) ユ(jɯ) ヱ(jë) ヨ(jo) ヤェ(jɛ)(jæ)

(Ⅸ) ラ行
ラ(ra) リ(rї) ル(rɯ) レ(rë) ロ(ro) ラェ(rɛ)(ræ)
rї と rɯ 及び rë とは混同し易い。

(Ⅹ) ワ行
ワ(wa) ヱ(wë) ワェ(wɛ)

(Ⅺ) 拗音 キャ行
キャ(kja) キュ(kjɯ) キョ(kjo) キャェ(kjɛ) (kjæ)
*子音の引用は、サ行~マ行は省略
*ɯ:資料上は記号の上部に中舌母音[ ¨ ](ウムラウト)付

音韻論

Ⅰ 音韻相通現象
重母音の短音化
ai―ɛ
カェ(粥) アガェ(紅い)
シカェ(すかい、酸) タガェ(タカイ)
オトガェ(顎) マチガェ(間違ひ)
アブナェ(危い) ミダグナェ(みたくない、醜い)
語彙

オドケ゚ェ(~ŋɛ)顎 おとがいの義
ゲェダ(gæ~)あんまりな。あんまり
ケェネェ(kɛnɛ)甲斐ない
ケャナェ(kænɛ)たやすい(容易)
コアェ(kojɛ)疲れる
シケ゚ナェ(~nɛ)
スケ゚ナェ(~næ)淋しい
セァキレル(cæ ~)精魂が盡きる
ヒナクサイ(~sɛ)キナ臭い
メァコ(mæ~)菓子
メク゚サイ(~sɛ)恥かしい、見苦しい
*語彙の記号・意味は一部引用

【補足】
引用欄を、発音記号の説明・音韻論・語彙の
三つに分けました。

「発音記号の説明」では、母音を、エェ /ɛ/
、エァ /æ/ を含めた七母音としています。

「音韻論」では、重母音 /ai/ が /ɛ/ へ短
音化することを挙げ、該当する主な語彙をあ
げています。

「語彙」から主なものを引用しましたが、発
音記号には、/ɛ/ /æ/ が併用されています。

この両音の混在は、東北の広範囲の言語資料
に見られます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
七戸の方言(石田善三郎, 1997年)
5 音韻の縮約・延長
(1)連母音の縮約
連母音とは異なる二つの母音が
連続したもので、
その短音化が縮約である。
これは、ある連母音については
音韻の脱落と捉えることもできるが、
あえてこの項を設けるのは
連母音が完全に融合して
五母音以外のものになるものが
あるからである。

① 後の母音が〔i〕の場合
〔ai〕→ ɛ=エェ・æ=エァ

例えば、
~したい tai はシテではなく、
口の広いシテェ=tɛで、
最後(さいご)→セェコ゚・
危ない→アブネェも同じである。

七戸地方では同じ南部の三八地方と比べて
融合による縮約が多いようで、
三八地方の幸先(さいさき)→サーサギ・
飼い桶→カーオゲ、
這(は)い回る→ハーマル
などはなく、
セェサギ・ケェオゲ・ヘェマルとなる。

相返答(あいへんどう)もエェヘンドであるが、
相手臭(アイデクサ)イ
(方言:相手にするに足らない意)は
エェデクセェよりアデクセェの方が
優勢するのは、
その語意から語感の強いものにして
言うからであろう。

ただ、慣用語でない
「お逮夜(たいや)コ」は
融合しないでオダヤコである。

ai が語頭にある場合、
ɛ のほかに
æ になるものもある。

愛(あい)らしくない→
エェラシグネェ・エァラシグネェ、
同じく愛想ライ(方言)→エァソレェ・
餅搗きの捏(こ)ね取(ど)の相取(あいど)り→
エァ(ン)ドリ、
幼児語のアイコ(冷水の意)→エァコなどである。

② 後ろの母音が e の場合
〔ae〕→ ɛ

方言では、
e と i の発音上の区別は明瞭でないので
ai と同じ ɛ としたが、
ɛ より口の開きを大きく開いて
発音されているようである。

前(まえ)→メェ・蝿(ハエ)→ヘェ・
絶える→テェル・返さ→ケェチャ・
喘(アエ)投げ出す
(方言:口に入れたものを吐き出す)→
エェナキ゚ダスなど。

【補足】
この資料では、連母音が完全に融合して五
母音以外のものになるものがあるとしてい
ます。

その例として、
〔ai〕に対する ɛ(エェ)・æ(エァ)
〔ae〕に対する ɛ をあげています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(全般①)
秋田県方言 音韻及口語法(大山宏 等編, 1911年)
第一 母韻の部
(乙)長母韻重母韻の轉換

第八條 (3)重母韻を短音に変ずるもの

アイ ai
 貝(かい)― ケァ 
 鯛(たい)― テァ
 灰(はい)― フェァ

アエ ae
 返(かえ)り子(こ)― ケァリコ(釣銭の意)
 前髪(まえがみ)― メァガミ
 前掛(まえかけ)― メァガケ
 前垂(まえだれ)― メァダレ
 苗(なえ)― ネァ
 蝿(はえ)― フェァ
※資料上は、()ではなく振り仮名で表示

【補足】
返(かえ)、蝿(はえ)の「え」は「江」
の変体仮名で振り仮名を振ってあります。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(全般②)
秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
(秋田方言モーラ表)

あ [a]
(い→え)
う [ɯ]
え [e]
お [o]
えぁ [ɛ]


特殊な発音
◇ [ɛ]:
標準語の /ai/ /ae/ に相当するものが
同化・融合したもので、「え」と「あ」
の中間的な音。仮名表記では、エ列音に
小字体の「ぁ」を付して示す。
*資料上は、
 〔ɯ〕:記号の上部に中舌母音 [ ¨ ](ウムラウト)付
 〔e〕:下部に上寄りの補助記号 [ ˔ ] 付き

【補足】
秋田方言モーラ表から、母音のみ抜粋しま
した。母音を「えぁ(ɛ音)」を含めた五母
音としています。

「い」と「え」については、「え」のやや
「い」がかった中間的な音としています。

「え列音」に小字体「ぁ」を付す表記法は
、東北の広範囲の言語資料に見られます。

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各地の言語資料より ↑

岩手:旧南部領(中部)
藩境北上市周辺の話しことば
(及川慶郎, 1993年)
2、北上市周辺の話しことばの様態

イ、母音及び子音の発生について
・母音について
 母音は、アイウエオの五音であるが、
 吾々の地方には、
 イ音とエ音の中間音とも思える、
 æ と発声させる母音と考えられる音がある。

 何か多くの人が
 一斉に行動を起そうとする時、
 この合図として「セーノ」と言って居るが、
 これは「セーノ」でなく、
 「セæノ」と訛って発声している。
 このように、
 エの長音がエーでなく「æ」の場合が多い。
 
 東北ことばは
 このæを長音として認めないと
 話しことばの収集が不可能である。

・子音について
 子音の場合も五母音の外に、
 æ音を長音とすることを認めて行きたい。

 例 カー(カæ)、サー(サæ)、
   ター(タæ)、ナー(ナæ)・・・など


3、ことば集めの表記について

ことば集めの表記については
多くの解明しなければならないことが
内包されているが、
自分なりに独自な方法を決めて、
そのことばのニュアンスを大事にする
ことに努力した。

ハ、このことば集めでは、
 五母音の外に長音の場合、
 い音とえ音の中間音と思われる、
 地方訛りに絶対欠くことの出来ない、
 英文の発音「æ」を忘れてはならない。

 例えば、
 わからないと言う意のことばを、
 土地ことばでは、「わがねー」と言うが
 この場合の「ねー」は、
 ねの長音でなく「ねæ」である。
 この「æ」の長音が土地ことばに非常に多い。

 このことば集めでは、
 この長音を「æ」と記さないで、
 片仮名の「」を代用することとした。
 (勿論わたしの場合だけ)

 したがって
 例、「わがんねæ」を「わがんね
 「おめæ」を「おめ
 のように表記した。



」音について
 音に音及び音が続けて
 発声される場合、
 音が音に近く発声されるので、
 音硬化し、の中間音と思われる発声
 がなされる場合が多い。

 あず(彼奴)
 あそ(愛想・人付き合い)
 あらしぐね(可愛らしくない)


」音について
 音と音の発声が混合して、
 その区別がつかない程である。
  例、今(ま)―
 音と音が音便化して、
 音となることが多い。
  例、愛らしくない(あいらしくない)―えらしぐねえ
 音と音が音便化して、音となる場合も多い。

 えさつ(挨拶)
 えず(人や、物を指して、あれ、に意―卑語)
 えらすぐね(愛らしくないで、憎らしいの意もある)

ど(街道)
ど(道路)
り(・・・回)
り(・・・回)
(甲斐がない)
(無い)
ぐした(無くした)
はがえがねヱ(仕事が計画通りに進まないこと)
みぐせ(見っともない)
(前、舞)
めぐさ(見苦しいこと)
めぐせ(見苦しい)
*集録語彙は代表的なものを一部引用

【補足】
母音を「æ音」を含めた6音とし、
「æ音」の表記法に小文字「ヱ」を
用いています。

著者は解説にて、東北ことばは、
この〔æ〕を長音として認めないと
話しことばの収集が不可能であると
しています。

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各地の言語資料より ↑

岩手:旧伊達領(内陸)
一関市史 第3巻 各説Ⅱ
(一関市史編纂委員会, 1977年)
第十三章 方言(佐藤 亨)

4 一関方言の音韻体系
(1)
~中略~
なお、
表に続いて音韻的特徴について解説をする。
その際、
近隣方言の相去、沢内、雫石(御所)の
それと対比しながら述べる。

(5)
/ɛ/ 列の母音「つき合い」「見合い」など
共通語の /ai/ に当たるものが
〔ɛ〕から〔æ〕の間の単独母音に
発音されることが多い。

これは、
根〔ne〕/ne/
苗〔næ〕/nɛ/
前〔mæ〕/mɛ/
のように、たしかに
/e/ とは異なるものである。
/ɛ/ と /ai/ との間のゆれも少ない。
/ɛ/ と解釈される語例はこの外
早い、高い、太鼓、大根、商売、しょっぱい
などがある。
相去、沢内もほぼ同じ。
ただし、御所は盛岡などにみられる
口の開きの大きい〔æ〕(ぇあ) の傾向がある。


5 まとめ
~中略~
この外、 /ɛ/ と解釈される連母音 /ai/ は
〔え〕から〔えぁ〕との中間の音に 発音される。
これらの諸点は 相去方言、沢内方言と一致するものであって、
御所方言と対立する。
この対立は、
南奥方言の音韻と北奥方言の音韻との
対立でもあるのである。

【補足】
一関方言を近隣の、
 相去:仙台藩領
 沢内:盛岡藩領
 雫石(御所):盛岡藩領
と、対比しながら解説しています。

一関では
共通語の連母音 /ai/ が
〔え〕から〔えぁ〕との中間の〔ɛ〕に発音され、
相去、沢内と一致するのに対し、
雫石(御所)では、
〔æ〕(ぇあ) の傾向があるとしています。

そして、この〔ɛ〕と〔æ〕 の対立は、
南奥方言と北奥方言の音韻との
対立でもあるとしています。

ただし、同じ旧盛岡藩領内でも、
 -沢内:〔ɛ〕
 -雫石(御所):〔æ〕 の傾向あり
となり、両音が混在しているようです。

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各地の言語資料より ↑

山形(最上地方)
真室川の方言・民俗・子供の遊び
(矢口中三, 1978年)
凡例

(四) 表記法その他
三、東北方言特有の「あいまい音」を「アェ
 (発音記号の「æ」音)」で表記した。

(例) アェヅ(あいつ)、ハァェヅ(そいつ)
  ホンガァェ(そんなに)
若干の問題点について

(六) 「アェ」について

私は最初、音声を片仮名と音声記号で併用表
記しようとした。しかし問題の“あいまい音
”は「æ(アェ)」で表記出来るので、片仮
名だけにした。

アェを含む拍を
アェ、
カァェ(ケァェ)、ガァェ(ゲァェ)、
サァェ(セァェ)、ザァェ(ゼァェ)、
シァェ、
タァェ(テァェ)、ダァェ(デァェ)、
ナァェ(ネァェ)、
ハァェ(へァェ)、バァェ(ベァェ)、
パァェ(ペァェ)、ファェ、
マァェ(メァェ)、ヤァェ、
ラァェ(レァェ)、ワァェ、
等々で表記すれば、ほとんど完全に近いもの
と思われる。

元来「æ」は口を大きく開き、アの口構えで
エと発音する。大声ではっきりと発音してい
る時は別に問題はない。

しかし、すべての場合にæ本来の発音をして
いる訳ではない。かなり口の開き方が小さい
場合がある。発音の仕方と音質は大体同じだ
が、かなりエに近い音声となる。前期()内
がそれである。

しかし本書では原則としてこれらを区別せず
()外に統一してある。

一部の語を除いて大声で、はっきりと発音し
た場合は()外、小声で、早口に発音すれば
()内になると思って頂きたい。

例えば「くさい」は普通「クサァェ」だが口
のあき方が小さい時は「クセァェ」である。
「クセ」と聞えるかも知れないが、厳密には
「セ」を「セァェ」と発音しているのである。

~中略~

当地方言だけでなく東北方言にはæ音が相当
ある筈なのに「アェ」で表記した本がないの
は不思議である。
集録語彙

アェーソ(愛想)
アェダ(①間 ②すきま)
アガァェ(赤い)
アワァェニ(ときたま。たまに。)
アンバァェ(あんばい)
エグナァェ(よくない)
オッカナァェ(おそろしい。こわい。)
オマァェ(お前。あんた)
カァェス(返す)
カァェナァェ(甲斐がない)
ガァェリ(回。度。遍)
コワァェ(苦しい。せつない。疲れた。)
コワァェグナル(疲れる。くたびれる。)
サァェーフ(財布)
スゲナァェ(ものたりない。さびしい。)
ハァェル(入る)
マァェーカゲ(前掛け)
マニアナァェ(間に合わない)
ヨワァェ(弱い)
ログデナァェ(良くない。悪い。)
ンデナァェ(そうでない。違う。)
ンマァェグナァェ(うまくない)
※引用欄を、凡例・解説・集録語彙の三つに
 分けました。(集録語彙は主なものを引用)

【補足】
東北方言特有の「あいまい音〔æ〕」を、
「ア」列音に「ェ」を付して、
「アェ」と表記しています。

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各地の言語資料より ↑

宮城(全般①)
仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
第一章 母音

28 ɛː
ɛeに比し開口の度の大きい「エ」音である
が、短音としてはあらはれず、多くは二母音
の融合によつて生じ、 長音として存する。

(イ)aiɛː
 藍 ai——ɛː
 挨拶 ai-satsɯ——ɛː-sadzɯ
 向ひ mɯkai——mɯgɛː
 境 sakai——sagɛː
 在郷(田舎)zaiŋoː——ːŋo
 謠ひ ɯtai——ɯdɛː
 甲斐無い(弱い)kai-nai——ː-nɛː

(ロ)aeɛː
 蛙葉(かへるば)kaerɯba——ːropa
 栄える sakaerɯ——sagɛː
 前 mae——ː

本條に於けるɛ及びɛːは更に開口の度の大き
æを以て発音されることも敢て珍らしくな
いやうであるが、私の感じではɛの方が多い
やうに思はれるから、凡てɛを以て書き表は
すことにした。


29
eɛとは一語中にありても、明かに別箇
の音として区別して発音せられることが
ある。

例へば「兵隊」heː-ːに於ける前者の母
音はeː、後者の母音はɛːであり、「大抵
ː-deːに於ける前者の母音はɛː、後者
の母音はeːであるが如きはこれである。

尚ほ類音の語(母音の長短及びアクセン
ト等は別とし)にしてeɛとを異にする
ものの若干を對照例示すれば次の如くで
ある。

消える keː——歸る ː

目 me——前 mɛː

【補足】
「第一章 母音」から、「28・29」の項
を引用しました。

「28」では、aiaeに対応するɛについて
、(イ)(ロ)ごとに語彙を挙げています。
ɛは、更に開口の度の大きいæで発音される
こともありますが、ɛの方が多く使われてい
ることから、ɛを用いて書き表しているとの
ことです。

「29」では、eɛが区別して発音されるこ
とについて、両音が含まれる「兵隊」「大抵
」を例に挙げて解説しています。

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各地の言語資料より ↑

宮城(全般②)
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県, 1960年)
 方言(藤原勉)
宮城県方言の性格
音声
15・
二重母音 [ai] は [ɛ] または [æ] となり、例外なし。

〔例〕
 見タイ [mitai]
 > 見テェー [mitɛː]・見テャー[mitæː]
集録語彙

アワェー ɑwæː
エークレェ eːkɯræ
オッカネェー okkanæː
おまえ omæː
ケェーネェ kæːnæ
こわい kowæː koæː
スケ゚ネェー sɯŋenæː
メェーケェーリ mæːgæːri
めぐさい meŋɯsæː
※引用欄を、音声・集録語彙の二つに分けま
 した(集録語彙は主なものを引用)。

【補足】
二重母音 [ai]は、[ɛ] または [æ] となり、
例外なしとしています。

尚、集録語彙の発音記号は、ほとんど「æ」
音に統一されています。

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各地の言語資料より ↑

福島(全般①)
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
第三章 福島県方言の音韻的特徴
三、音韻の不同化
1、同音の重出忌避

エエ〔ee〕は エア〔ea〕となり、
アエ〔ae〕も エア〔ea〕となる傾向が
岩磐方言には著しい

この〔ea〕は〔ɛː〕
(普通の「イ」より口を開いた「イ」の長音
即ち岩磐方言などの
「イ」と「エ」との中間的固有音)
よりは、
やゝ調子が異つてゐる。

カルケェア―カルケエ(輕い)
エァアゾメ―アエゾメ(藍染)
エァアヅ―アエヅ(會津)
イヂメェア―イチマエ(一枚)
ケェアリョウ―カエリョウ(改良)
セェアリョウ―サエリョウ(宰領)


第四章 福島県方言の語法的特徴
1、形容詞の活用
(3) 第二類活用

形容詞の語幹の終りに
エ〔e〕音を含むものは、
語尾のエ〔e〕と連つて
エエ〔ee〕となる譯である。

例へば酸いと言ふ形容詞は
岩磐方言ではスケエとなるのであるが、
この「ケエ」には〔ee〕があるため
同音忌避の原則に左右されて
「ケァ」なる傾向が著しいのである。

この傾向のある語は
次の語の外
無い・苦(にが)い・高い・赤い・近い・深い・若い・
等がある。

語形 :酸
未然形:スカグ
連用形:スッカグ
終止形:スケァ
連体形:スケァ
條件形:スッカゲレ
命令形:-


二、助動詞
6、希望
(1) ダエ
標準語タイに相当する助動詞であつて、
ダグ・ダエ・ダゲレと活用する。
ダエはテェァとなることもある。

~中略~

見ダクなえ。
逢いダエこつたら呼びにやらう。
「逢いダエこつたら」は「逢いたくば」
の意味である。


〔集録語彙〕
 アンベァ - 塩梅(会浜北中南)
 アンベァワルイ - 病気だ(会浜北中南)
 エァマヂ(怪我) - (会中南)
 カマネァ - かまはない(会浜北中南)
 ゲァェニ - 非常に、あまり(浜中南)
 セァエフ - 財布(会北南)
 テエァシタ - 頗る、非常に(会浜北)
 ヘァーリクチ - 入口(浜北南)
 メァーダレ - 前垂(会浜北中)
 ミヤメァイリ - 宮参り(南北)
 レァサマ - 雷(北中南)
*集録語彙の使用地域:会津・浜通・中通り北・中・南部
*譯(わけ)

「同音の重出忌避」では、
岩磐方言に著しい「エア〔ea〕」について、
「ɛː」よりは、やや調子が異なるとしていますが、
これは「æ音」を指しているものと思われます。

これは、「エァア」という表記が、
東北各地の言語資料に見られる
エ列音に小文字「ァ」を付す表記法と
共通するためです。

「形容詞」では、
酸い(すかい)を例にあげ
「スケエ」が「スケァ」となる傾向がある
としています。

希望助動詞も同様に
「タイ」に対応する「ダエ」が
「テェァ」となることもある
としています。

収録語彙には、
エ段に「ァ」、ア段に「ェ」を
付したものが併用されています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島(全般②)
福島県史 第24巻 民俗2 各論編10(福島県, 1967年)
第六章 言語生活(菅野宏)
(3) ざいご風発音

県内の諸方言の音韻体系、その音声的特徴の
あらわれについて記す余裕がないが、総じて
町風(まちふう)の発音とざいご風の発音と
があること、個人的差異のはなはなだしいこ
とは注意される。

ズーズー弁的特徴の多少は、町風とざいご風
とのちがいにも関係する。

たとえば県内のほとんどの方言は、
その母音音素として
|a| |i| |u| |e| |o| の五つのほかに
|ɛ| をもっていると見られるが、
これはおおくエエといった長音で
あらわれる。

ときにそれは〔æː〕という音声であらわれる
(愛(エエ)らしくね、蛙(ゲエル)など)
こともあるが、
これは特にざいご風にきこえる。

|ɛ| という音素をもつことじたい
すでにざいご風である。

|e| と |ɛ| との対立は、
すでに失ったひとが多いと思われる。

同様のことで、モーラで、
|sje| |zje| |cje| |ce| |nje| と
|sjɛ| |zjɛ| |cjɛ| |cɛ| |njɛ| の同一化が
おこりつつあり、
しかもこれらのモーラを
そのざいご風のゆえに
福島市方言などをはじめとして
全く使用しない傾向もつよい。

「呉れて」に該当する「クッチエ」、
「見られない」に該当する
「ミランニェ」の形式は、
福島市など町風のひとはこれをつかわない。
かわりに「クッチ」「ミランニ」をつかう。

つまり
|sje| |zje| |cje| |ce| |nje| などは、
母音音素 |ɛ| の消失に続いて消滅して、
|si| |zi| |ci| |ni| に合流する傾向にある。

それは多くの東北弁的色調の退化と並行して
音韻体系に変化を生じつつある一例である。

それらについて、いま精密に記すことができない。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

福島(会津)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
二、会津方言の特色
1 ズーズー弁

(1) 連母音[ai](アイ)は[ɛː]
 (エー、開いたエで、[e]よりも低く、
  [æ]よりも高い両者の中間の母音)に変化する。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である奥州東北の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。

当然ながら、青森から福島まで、東北全土の
言語に対応しているため、東北各地の言語の
地域公用語化にも貢献できるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却が
、明治以降、自らの言語を否定され、劣等感
を植え付けられた東北の力を引き出す原動力
となるはずです。

編集:千葉光

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