料を基に整理しました。
【参照】博る:用法編
編集者:千葉光
目次:
01. 語源02. 語源探求 秋田方言辞典
03. 各地の言語資料より
【青森】津軽 南部
【秋田】全般 由利
【岩手:旧盛岡藩】北部
【岩手:旧仙台藩】沿岸
【福島】会津 中通り南部 浜通り南部
04. 編集後記
語源
東北各地の言語資料では「博る」の成り立ちについて、牛馬の売買を生業とする「ばくろ
う(博労・馬喰)」という名詞が動詞化した
ものとする説が一般的ですが、語源を遡ると
、古代中国語の「伯楽(はくらく)」に辿り
着きます。
経路を整理すると、次の通りです。
伯楽(はくらく)→博労・馬喰(ばくろう)
→ばくろうする(サ変動詞)→ばくろする・
ばぐろする→ばぐる・ばくる
江戸時代中期の雑俳に「ばくろうをして〜」
とあり、この時代には江戸において、サ変動
詞として使われていた形跡がありますが、四
段(五段)動詞化した「ばぐる」が、どの時
代から使われるようになったのか、文献から
探ることは難しいようです。
語源探求 秋田方言辞典
次の資料では、「ばくる」「ばくろう」の語源について、とりあげています。
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
ばくる〔他ラ五〕
〔意味〕交換する。物と物とをとりかえる。
〔バクル〕北秋田郡・平鹿郡
〔バグル〕北秋田郡・山本郡・南秋田郡・仙北郡・平鹿郡・雄勝郡・由利郡
〔例〕
「オ前ノ 米ド オレノ サヅマエモド バグラネァガ」
「林檎ド 柿ド バグルガ」
〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
馬や牛を交易売買する人、またその職業。こ
れから転じて、物と物を交易することの意に
用いられる。この物と物を交易する意の「ば
くろう」をバクル(ラ五)と動詞化した語。
ばくろう〔名〕〔他サ変〕※引用欄を見出し語ごとに分けました。
〔意味〕交換。交易。とりかえっこ。
〔バグロ〕平鹿郡
〔例〕「コノ 林檎ド ソノ 柿ド バグロシネァガ」
〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
(「はくらく(伯楽)」の転)
馬や牛の交易売買をする人、またその職業。
これから転じて、物と物とを交換すること、
交易の意に用いられる。
*雑俳-大福寿覚帳「人げんのばくろうをし
てくてとおる」〈『日本国語大辞典』〉
―これに基づくもの。
「バグル」「バクル」の秋田県内における分
布は、濁音化した「バグル」が圧倒的に多い
ですが、これは、二音目の「カ行」が濁音化
する東北共通の法則に基くものです。
語源考察では、「ばくる」について、「ばく
ろう(博労・馬喰)」を動詞化した語として
います。
その「ばくろう」については、「伯楽(はく
らく)」の転であること、馬や牛の交易売買
をする職業から、物と物とを交換する意に用
いられるようになったとしています。
尚、文献として、江戸時代中期の大福寿覚帳
(だいふくじゅ-おぼえちょう)をとりあげて
います。この時代には、江戸において、「ばく
ろうをして〜」と、サ変動詞として使われて
いたことが窺えます。
各地の言語資料より
青森・秋田・岩手・福島の言語資料より、語源に関する箇所をとりあげます。尚、引用欄
外の補足は当方によるものです。
*( )内は著者名・発行年
青森(津軽地方)
津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる(小笠原功, 1998年)ばぐる
〔意味〕とりかえる
〔例〕
「お前(め)の大きビダ(めんこ)一枚ど、
吾のタマコ(ビー玉) つど、ばぐらねが。
五つ出しても良(え)や。」←ばくろう(する)。
〔解説〕
「ばくろう(博労)」は、馬・牛などの家畜
の売買の仲に入る人。津軽弁の「ばぐる」は
、博労の仕事と同じく、物と物とを交換する
という動詞。
「博労、バクラウ。馬商人也(節用集)」→はくらく
「はくらく(伯楽)は、中国の春秋時代、馬
の良否を見分ける名人で、駿馬(しゅんめ)
を発見、育てた人として有名。
「日本にも亦馬を相する人を呼んで伯楽と云
ふなり(庭訓抄)」
【補足】
この資料では、「ばぐる」の語源について、
「博労」および「伯楽」を挙げています。
青森(南部地方)
教育適用 南部方言集(簗瀬栄, 1906年)ばくる
〔解説〕
品物を交換することにて馬を売買する馬喰
(ばくらふ)の義より轉(てん)じたるか
【補足】
この資料では、「ばくる」について、馬喰の
義より転じた語ではないかとしています。
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
ばぐる(動ラ四)
③ばぐるは博労(後述)の動詞化か。
ばぐろ(名)古語
①馬の仲買人。古くは伯楽という。伯楽は天
馬を守る星の名。後に馬を見る人となる(支
那の故事)。伯楽(ハクラク)→博労(ハク
ロウ)。馬食(バクロ)う(交換 (バクル)
人か)の意は俗説。
②
㋑伯楽と云ふ事、京都にて室町より始まれり
。又伯楽は戦国の時に馬を相する人なり。是
によって日本にも亦馬相をする人を呼んで伯
楽と言ふなり。<庭訓抄下>
㋺周の人、姓は孫、名は陽。
○及至伯楽日我善治馬<荘子 馬蹄>
○伯楽一過冀北之野、馬群遂空。<韓愈・送温処士序>
【補足】
この資料では、「ばぐる」について、「博労
」の動詞化した語か?としています。
秋田(全般)
秋田の方言(打矢義雄, 1970年)バグる
〔意味〕交換する。
〔解説〕
伯楽は馬の交換をも職業とし、日本ではこれ
を「ばくろう」といった。それを動詞にする
と「バグる」となる。
【補足】
この資料では、「バグる」について、「伯楽
」に由来する「ばくろう」を動詞にしたもの
としています。 秋田ことば語源考(三木藤佑, 1996年)
バグル
〔解説〕
「俺の鉛筆ど、おみゃの消しゴムどバグロデ
ァ」とか、「道具なんぼ、バグタッテ腕上が
るわげぇねぇ」とか使われている。「取り替
える」こと「交換する」ことが「バグル」こ
とだ。
(中略)
この語のもともとは、漢字の「博」だと考え
られる。「博」には「バク」という読みもあ
り、「取る。取得する」意味になっている。
また、「博」だけで「ばくちなどの金品を賭
けた勝負事」の意味もある。
「博労」(ばくろう)は、馬の取引に従事し
た者だが、後には「交換」の意味が忘れられ
て「馬喰」「馬労」と書かれるようになって
しまった。
筆者は、方言「ばぐる」は「博る」であった
と考えている。そして、もともとは「取引す
る」意味だけだったのが、いつの間にか「交
換」に変わっていったのだと思う。
馬の取引の博労から「バグル」の方言が始ま
ったとする説があるが、逆だと思う。「博る
」という動詞がまずあって、これから博労が
派生していったと考えたい。
【補足】
この資料では、「バグル」は「博る」であっ
たとし、「博る」という動詞から「博労」へ
派生していった可能性について指摘していま
す。
東北全体の資料では、「博労」から「博る」
へ派生していったとする見方が一般的ですが
、必ずしも確定的とは言えません。
したがって、定説とは真逆の、この見方につ
いても、貴重な指摘であり、充分に価値があ
るといえます。
秋田(由利)
村の方言集(村松長太, 1965年)バグル
〔解説〕
馬喰が牛馬交換の仲立を職業とするところか
ら出たことば、全県的に共通する。
岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)バグル
〔意味〕交換すること
〔解説〕「バグロー」の動詞化
〔例〕時計とラジオとバグル。
バグロー※引用欄を見出し語ごとに分けました。
〔解説〕
牛馬の売買を業とする人 馬喰(古語)
「ばくろう(馬を売買・周旋する人。物と物
とを交易すること)」。
【補足】
この資料では、「バグル」について、「バグ
ロー」の動詞化したものとしています。
岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)バクル(動)
〔解説〕
交換すること。多少は金目の物、時計とガス
ライータを取換えるのなどがこれ。「伯楽」、
「ばくろう」に、由来するか。
この商談は一種の賭けのようなもので、馬を
とり換えて損することも得することもある。
互いにそれぞれの臍算盤で交換が成立する。
だからよく「思い切ってバクったよ」などと
言う。
福島・会津
会津高郷村史3 民俗編(高郷村史編さん委員会, 2002年)ばくる
〔解説〕馬喰、伯楽からでた言葉。物々交換のこと
【補足】
この資料では、「ばくる」について、「馬喰
、伯楽からでた言葉」としています。
福島:中通り(南部)
岩瀬郡誌(岩瀬郡役所, 1923年)バクル
〔意味〕馬喰の活用にて交換の意に用う。
【補足】
この資料では、「バクル」ついて、「馬喰」
を活用(動詞化)したものとしています。
福島:浜通り(南部)
いわき方言(高木稲水, 1975年)ばぐる(動詞)
〔意味〕交換する。
〔解説〕
博労(ばくろう)という名詞が、四段活用の
動詞となったものである。羽織という名詞が
「はおる」という「ら行四段」の動詞となる
と同じである。
【補足】
この資料では、「ばぐる」について、「博労
」が動詞化(四段活用)したものとしてい
ます。
編集後記
かつての日高見国である東北地方の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。
当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。
尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。
当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。
編集者:千葉光