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4/13/2019

【合略仮名】ごど(事)

奥州東北語の公用語化の一環として、「ごど
・こと(事)」の合略仮名による表記法につ
いて整理しました。

編集:千葉光

目次:

01. 合略仮名による表記法
 【表記法】平仮名・片仮名
 【品詞に接続】こそあど
 【品詞に接続】名詞
 【助詞に続く例】の
 【動詞に続く例】四段・サ変
 【品詞が続く例】サ変・断定助動詞
 【終助詞(感動)】助動詞「だ」に続く
 【終助詞(感動)】希望助動詞に続く
 【終助詞(感動)】形容詞に続く①
 【終助詞(感動)】形容詞に続く②
 【終助詞(感動)】未然形に接続
02. 各地の例より
 【青森】津軽
 【秋田】由利
 【岩手:旧盛岡藩】中部
 【山形】村山
 【宮城】仙台 三陸
 【福島】会津 浜通り北部
03. 編集後記

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合略仮名による表記法

合略仮名による表記法について整理しました。

東北の言語では、 事(こと)の濁音化した
「ごど」がよく使われますが、合略仮名であ
れば、一文字で表記できます。

尚且つ、明治期に廃止され、使われなくなっ
た合略仮名の継承にもつながります。

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【表記法】平仮名・片仮名
【合略仮名】表記法

清音・濁音・鼻濁音と三通りの表記法があり
ます。

尚、「こど、ごと、こ゚と」のように片側のみ
濁音化する場合は、既存の表記で対応します。

東北の言語では「ごど」がよく使われますが
、かな二文字に加えて、濁点も二つ書く必要
があります。

合略仮名による表記法であれば、かな一文字
で済むため、利便性が良くなり、書き言葉と
しての負担感を減らすことができます。

また、鼻濁音表記に半濁点「 ゜」を用いる
ことで、表記上、濁音と区別することができ
ます。

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合略仮名による表記法 ↑

【品詞に接続】こそあど
【品詞に接続】こそあど

「こったら・そったら・あったら・どったら
」は、「こんな・そんな・あんな・どんな」
という意味です。

または「このような・そのような・あのよう
な・どのような」とも訳せます。

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合略仮名による表記法 ↑

【品詞に接続】名詞
【品詞に接続】名詞
<参照>
【え・あ中間音】表記法

人称代名詞「おら」「我(わ)」に「ごど」
が付き、一つの名詞として機能します。

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合略仮名による表記法 ↑

【助詞に続く例】の
【助詞に続く例】の
<参照>
【え・あ中間音】表記法

「お前のごど好ぎだ」「後のごど頼む」「
母国のごど守る」などの「のごど」には、
格助詞「を」と同じく目的格を形成する機
能があります。

助詞「を」に置き換えると、「お前を好き
だ」「後を頼む」「母国を守る」となりま
す。

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合略仮名による表記法 ↑

【動詞に続く例】四段・サ変
【動詞に続く例】四段・サ変
<参照>
【え・あ中間音】表記法

動詞「行く・なる・築く・決まる・避ける」
の活用形と、サ変動詞「する・した」に「ご
ど」が続く例です。

「ごど」に小文字「ァ」が付くことも、東北
の話し言葉ではよくあります。

目次 ↑

合略仮名による表記法 ↑

【品詞が続く例】サ変・断定助動詞
【品詞が続く例】サ変・断定助動詞

サ変動詞「する・した」、断定助動詞「だ」
に「ごど」が続く例です。

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合略仮名による表記法 ↑

【終助詞(感動)】助動詞「だ」に続く
【終助詞(感動)】助動詞「だ」に続く
<参照>
【え・あ中間音】表記法

終助詞(感動)として、助動詞「だ」に続く
例です。

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合略仮名による表記法 ↑

【終助詞(感動)】希望助動詞に続く
【終助詞(感動)】希望助動詞に続く
【え・あ中間音】表記法

終助詞(感動)として、希望助動詞「てァ・
でァ」に続く例です。

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合略仮名による表記法 ↑

【終助詞(感動)】形容詞に続く①
【終助詞(感動)】形容詞に続く①
【え・あ中間音】表記法
【ガ行鼻濁音】表記法

終助詞(感動)として、「えづえ・ええ・
やっこえ」など、形容詞に続く例です。

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合略仮名による表記法 ↑

【終助詞(感動)】形容詞に続く②
【終助詞(感動)】形容詞に続く②
<参照>
【え・あ中間音】表記法

「かたい katai」「たかい takai」など、
連母音 /ai/ の形容詞に「ごど」が続く
例です。

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合略仮名による表記法 ↑

【終助詞(感動)】未然形に接続
【終助詞(感動)】未然形に接続
<参照>
【え・あ中間音】表記法

動詞「終わる・決まる・直る」と、形容詞「
めこ゚え・んめァ・面白い」の未然形に接続す
る例です。

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合略仮名による表記法 ↑

各地の例より

東北各地の言語資料より、「事(ごど・こと
・ごと)」が使われている収録会話や用例を
抜粋します。

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青森(津軽)
用法ごとに①~④に区分けして収録会話を抜
粋し、「事」の箇所に下線を施しました。

全国方言資料 第1巻 東北・北海道編(日本放送協会, 1981年)
青森県南津軽郡黒石町
 収録日 1953年9月2日


エグ ジャコダノ ソシタゴトダバ オボエデル
よく ざこだの そうしたことなら 覚えている。



トワダサモ エタゴド ゴスベー
十和田へも 行ったこと ありますでしょう。

ハー トワダサモ エタゴド アリシテセァ
はあ,十和田へも 行ったことが ありますよ。



ハー ホントネ イダワシコト シシタネァ
はあ,ほんとうに 惜しいことを しましたよ。

ナンボ イーゴト シタネシァ
コレ ワーズガダドモ コレ オイワイノ オシルシデシハデ
なんと いいことを しましたね。
これは わずかですが これ お祝いの おしるしですから。

ナンモ ナンモ ナンモ マー マー
イーゴト シシタネシァ
いえ いえ いえ まあ まあ
よかった ですね。

イガナ イガナ ホー ヨメコ モラタ ソロホド メデテゴト
アリシガシテァ タイシタ ハー モシロフテ ヨバエデキシタジャ
いや いや 嫁を もらって これほど めでたいこと
ありますかね。非常に 愉快で 招かれて来ましたよ。


③④
ホントネ イダワシコト シタッコド
ほんとに 惜しいことを しましたよ。


ナンボガダバ シタハデ オドンネモー
アリタッゴド ミナ アルグモンダハデ ソレ
いくらかは したから 踊りにも
歩きましたよ,みなが 歩くものだから そら。

《用法》
①「こそあど」に続く
②動詞に続く
③形容詞に続く
④終助詞(感動)

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各地の例より ↑

秋田(由利地方)
用法ごとに①~⑩に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)

あちきたごど あるもんだが ばがくしぇくて。
(あんなことあるもんですか、あほらしくて)


あの娘のごど しばらく おもえば わすえる。
(あの娘のことは、しばらく経つと忘れてしまう)

むがしのごど かだでかだで しゃべでしまえ。
(昔のことを何もかも話してしまえ)

このめぁのごど くがしねぁくても え。
(この間のことは気に掛けなくてもよい)

あこなえのごどなば、くっしぇだげ わがるおの。
(あそこの家のは何もかもよく分るよ)

隣のえのごどさ へちゃするもんでねぁ。
(隣の家のことにお節介を焼くものでない)


人めぁさ 出るごと しょし。
(人前に出ることは恥しい)


あんたの ゆってるごど あちゃこちゃだ。
(あなたの言っていること、あべこべだ)

この子 まんず ましぇでるごど
(この子は本当に大人びているね)


えっつも 同じごど としょりこんつけで
ゆうがら めんけぐねぁな。
(いつも同じことを、ひねこびて
言うからかわいくないね)


変たごど 人めぁで ゆうな。
(変なことを人前で言ってはいけない)


きずごど いわえだ。
(厳しいことを言われた)

わりごどしたはで よみずげでやた。
(悪いをしたので叱りつけてやった)


はけ 水だごど。(冷たい水ですこと)

わえー きのどぐだごど こんたげ もらて。
(おやまあ気の毒ですこと、こんなに頂いて)


見ねぁうじ へろへろど おがたごど
(見ないうちにひょろひょろと伸びたこと


今日の空 あうぇーごど
(今日の空は青いこと

この子 めくてあるて せずらねぁごど
(この子は動き回ってうるさいこと

親ご はやぐ なぐして めじょけねごと
(親を早く亡くしてかわいそうだこと

《用法》
①「こそあど」に続く
②助詞「の」に続く
③動詞に続く
④補助動詞(~ている)に続く
⑤連体詞「同じ」に続く
⑥形容動詞に続く
⑦形容詞に続く
⑧終助詞(感動):助動詞「だ」に続く
⑨終助詞(感動):動詞に続く
⑩終助詞(感動):形容詞に続く

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各地の例より ↑

岩手・旧盛岡藩(中部)
用法ごとに①~⑤に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

遠野民俗資料 遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)

なにが気に入らねぇごどでもあっか、朝っぱらがらムグレでんすちゃ。


本当にムジェ(可哀そう)ごどなす。

④③
カダゴド(義理固い)だごど、・・・反ってモッケ(気の毒)なごどすたやァー。


なんたら、まんつ コッポデネェー(うるさい)ごど
このガギ(餓鬼)共は・・・。

アスタ(明日)の式さ着る紋付ァ、まだ出来ねェーふだ(様だ)。
モドガス(あせる)ごどやー。
《補足》
※例文中の()は、見出し語(カタカナ表記)の意味

《用法》
①打消しの助動詞に続く
②形容詞に続く
③形容動詞に続く
④終助詞(感動):助動詞「だ」に続く
⑤終助詞(感動):形容詞に続く

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各地の例より ↑

山形(村山地方)
用法ごとに①~⑤に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

羽前村山方言(斎藤義七郎, 1934年)

アダナゴト ユテ オーゴド シタ。
(あんなごと 言って 困ったことをした。)

カー。ホダナゴド。(なんだい。そんなこと)

ヘヅゲナゴド クエナネ(そんなこと 差支へない。)

オラ ホダナゴド サンナエ(私はそんな事出來ない。)

ホノゴド(その事)



ログダナゴドスネ ヘナダ
(良いことをしない―悪いことばかりしてゐる女だ)



オレ ユタゴドサ キッタリ アッタベ
(俺のいったことにまさしく的中したらう。)

コンドカラ スネゴドニ スンベ ナヤ
(今度から爲ないことにしようよ、ね)

アンドギクラエ ミジェメタエ オモエ シタゴド ナエ
(あの時位 悲惨な思ひをしたことはない。)



キタエナゴド ユー モンダケ
(奇妙なことを云ふものだった。)



オレバ ダスェ ツカテ ワレダ バリ
えーごど スルキダガ
(俺を方便につかって お前たちだけ
よいことをする(甘い汁を吸ふ)氣であるか。)

《用法》
①「こそあど」に続く
②連体詞に続く
③動詞に続く
④形容動詞に続く
⑤形容詞に続く

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各地の例より ↑

宮城(仙台)
用法ごとに①~③に区分けして収録会話を抜
粋し、「事」の箇所に下線を施しました。

全国方言資料 第1巻 東北・北海道編(日本放送協会, 1981年)
宮城県宮城郡根白石村
(1971年8月1日 泉市白石となる)
 収録日 1953年7月19日


ソンナコトァ デキター シャネーカラワ
ハヤク オママ ケーワ
そんなことが おきると しようがないから
早く 御飯を 食べろ

ホダコト ステランネォ
そんなこと していられないよ。


エヘー ナンダェー オンツァン ハエーゴター
ええ 何だね おじさん お早いこと


ヤー ソイツァ コマッタコト スタナ
やあ そいつは 困ったことを したな。

《用法》
①「こそあど」に続く
②「形容詞」に続く
③「動詞」に続く

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各地の例より ↑

宮城(三陸)
用法ごとに①~⑤に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

北上町史 自然生活編(北上町史編さん委員会, 2004年)

こんたらごど けっこなぎだべぇ
(こんなことは 非常に簡単なことだろう)


なによめぇっこどかだってんだ
(何を愚痴を言っているんだ)


しとのごどでも みにかげでけんだど
(他人の事でも 自分のことのように考えているんだよ)


にっしゃら(お前等)すごど けなだりくて見でらぇね
(あなたたちの仕事は 面倒臭くて見ていられない)

あえづぁ しがだたぐりだ ほんにすっこどねぇ
(あいつは 嘘つきだから 信ずるな)

だえづ にっしゃら ゆうごど きぐってや
(誰が お前らの 言うことを 聞くものか)

にっしゃら かだっこど ほんにでねぇ
(お前らの 話す事は 信用できない)

しとのかだっこど むづっきりきかねさ
(人の話すこと 全然聞かないのさ)


もがらのええごど すもどりになれはぁ
(体の大きい事 相撲取りになれよ)

わっしゃすんな こしぇづねごだ
(いたづらするな うるさいこと)
《補足》
宮城県の言語資料では、「ごど・ごと」と共
に「ごだ」も多く見られます。

《用法》
①「こそあど」に続く
②名詞:よめぇっこど(世迷言)
③助詞「の」に続く
④動詞に続く
 すごど・すっこど(すること)
 かだっこど(語ること)
⑤終助詞(感動):形容詞に続く

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各地の例より ↑

福島(会津)
用法ごとに①~②に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

会津方言集(菊地芳男, 1978年)

あんな好い人があったらごどになあ

あのごどはあてすっぽ(当て推量)で言ったんだ

そんなごどうっちゃっておけ
 ※うっちゃる(捨てる・関わない)


稼がねであすぶごどばっか考えでる

《用法》
①「こそあど」に続く
②「四段動詞」に続く

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各地の例より ↑

福島・浜通り北部(相馬地方)
用法ごとに①~⑧に区分けして用例を抜粋し
、「事」の箇所に下線を施しました。

大熊町方言集(2019年、おおくまふるさと塾)

アッタラゴド(あんなこと)ばっかり言って
コッタラゴド(こんなこと)してダメだべ
ソッタラゴド(そんなこと)言っても納得できね
俺ほんなごどシネ(しない)ど


ワ(自分)のごどはワでやれ
ソレバッカシ(そればかり)のごどでみんなして騒ぐな


あの人の話はアギレゲール(あきれ返る)ゴドばっかりだ
アダニ(あんなに)やっこどねえのに
言うごどきかねどゴンケ(げんこつ)だど
ここ通るタンビ(たび)まんじゅう買うごとにしてんだ
そんなにジナル(怒鳴る)ごとねえべ


今度彼女にアーセル(会わせる)ごどにした


世の中はイー(よい)ごどばっかりねえもんだなあ
このことはネーゴド(なかったこと)にしておぐべ
隣の爺様(じさま)はチューギ(中風)で長いごど寝でる
悪いごどしたがら、あんなんなってオメンテー(いい気味だ)な
野良猫でも自動車さひかっちぇ、モゴイ(かわいそう)ごどしたなぁ


この鋏(はさみ)キンニェ(切れない)ごど


ナンチ(なんと)めんごい孫だごど


今日はアヅイ(暑い)ごど
新しい服買ってもらってイーゴド(いいなあ)
みんな置いできてイダマシ(もったいない)ごと
どこのわらしだ、ウッツァシ(うるさい)ごど
蚊にさされでカイー(かゆい)ごど
急いで来たらコエー(疲れる)ごど、年だなぁ
俺ぁショーシ(恥ずかしい)ごど
いづもツンパナ(手鼻)して汚ねごど
このわらしメンゴイ(かわいい)ごど
どっかで野焼ぎやってんのが、ユブクセー(煙臭い)ごど
隣のばっぱ、ヨッカコエ(欲深い)ごと、きゅうりみんなもぎって行った
《補足》
※例文中の()は、見出し語(カタカナ表記)の意味

《用法》
①「こそあど」に続く
②助詞「の」に続く
③動詞に続く
④使役助動詞に続く
⑤形容詞に続く
⑥終助詞(感動):打消しの助動詞に続く
⑦終助詞(感動):助動詞「だ」に続く
⑧終助詞(感動):形容詞に続く

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各地の例より ↑

編集後記

かつての日高見国である奥州東北の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集:千葉光

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