言語の公用語化の一環として、東北各地の言
語資料を基に、「博労する」の用法・語源に
ついて整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 活用
03. 語尾のウ音は脱落
04. 名詞としての現代的な使い方
05. 語源
06. 各地の言語資料より
【青森】津軽 南部
【秋田】由利
【岩手:旧盛岡藩】北部
【山形】全般
【宮城】全般
【福島】全般
07. 編集後記
意味
博労する
〔読み方〕ばぐろする・ばくろする
〔意味〕(物と物とを)交換する
〔品詞〕名詞+サ変動詞
活用
「博労(ばぐろ)する」のサ変動詞としての活用について整理しました。
参考:【え・あ中間音】
未然形および連用形に接続する希望助動詞は
「え・あ中間音」のため、変体仮名で表記し
ています。
語尾のウ音は脱落
東北の言語では、ウ音便形の「ウ」が脱落する傾向にあります。
したがって、「博労(バクロウ)」は「バグ
ロ」となりますが、「バグロー」と併用され
ることもあります。
他の語の事例を挙げます。
例①:
○どうも→ども
○ありがとう→ありか゜ど
○おはよう→おはよ
例②:音読み
【方】おら方(おらほう)→おらほ・おらほー
【道】街道(かいどう)→けァーど
全体的には「ウ音」が脱落する傾向が強いで
すが、長音と併用されることもあります。
名詞として現代社会に適応させた使い方
名詞「博労(ばぐろ)」の、現代社会に適応させた使い方について整理しました。
【経済】
・株式博労—株式交換
・金利博労—金利交換
・通貨博労協定—通貨スワップ協定
【日常・ビジネス】
・名詞博労—名詞交換
・意見博労—意見交換
・土地博労屋—不動産屋
・(商品の)返品博労—返品交換
「土地博労屋」については、青森の資料「南
部のことば」でとりあげていた「田地博労(
現在の不動産屋)」に着想を得ました。
語源
東北各地の言語資料では、「博る」の語源を、「博労」の動詞化とする説が一般的です。
次の資料では、名詞「博労」の語源について
とりあげています。
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
ばくろう〔名〕〔他サ変〕【補足】
〔意味〕交換。交易。とりかえっこ。
〔バグロ〕平鹿郡
〔例〕「コノ 林檎ド ソノ 柿ド バグロシネァガ」
〔語源考察〕
ばくろう〔馬喰・博労〕〔名〕
(「はくらく(伯楽)」の転)
馬や牛の交易売買をする人、またその職業。
これから転じて、物と物とを交換すること、
交易の意に用いられる。
*雑俳-大福寿覚帳「人げんのばくろうをし
てくてとおる」〈『日本国語大辞典』〉
―これに基づくもの。
この資料では、例文に「バグロシネァガ」と
、サ変動詞としての使い方を挙げています。
「ばくろう」の語源については、「伯楽(は
くらく)」の転であること、馬や牛の交易売
買をする職業から、物と物とを交換する意に
用いられるようになったとしています。
尚、文献として、江戸時代中期の大福寿覚帳
(だいふくじゅ-おぼえちょう)をとりあげて
います。この時代には、江戸において、「ばく
ろうをして〜」と、サ変動詞として使われて
いた形跡があることが窺えます。
各地の言語資料より
東北各地の言語資料より、意味・用例などについて整理しました。
*言語資料名の( )内は、著者・発行年
青森(津軽地方)
津輕方言集(齋藤大衛・神正民, 1902年)ばくろする【補足】
〔意味〕トリカヘル
〔解説〕
物品(シナモノ)を交換(トリカヘ)ルコト
馬ヲ交換スルモノヲ馬喰(バクロ)トイヘル
ヨリ起リタルカ
発行年の1902年は、明治35年です。
青森(南部地方)
第三版増補改訂 南部のことば(1992年、佐藤政五郎)ばぐろ
〔解説〕
ばくる—交換する—人—売買の仲買人
博労・馬喰。
○馬ばぐろ
○牛ばくろ
○田地ばくろ
○ばくろ宿
でんちばくろ※引用欄を見出し語ごとに分けました。
〔解説〕田地博労—現在の不動産屋
【補足】
「博労(ばぐろ)」とは、もともとは売買の
仲買人を指す語です。したがって、「馬」を
扱う者は「馬博労」、農地を含む土地を扱う
者は「田地博労」となるわけです。
秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)ばぐろ・ばくろー〔名〕
①博労。牛馬商。
②交換。
【語源】「はくらく(伯楽)」から転じた語。
岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)バグロー
〔解説〕
牛馬の売買を業とする人 馬喰(古語)
「ばくろう(馬を売買・周旋する人。物と物
とを交換すること)」。
山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)ばぐロ
〔意味〕交換
〔分布地点〕東置賜郡・西置賜郡・東村山郡・北村山郡
宮城(全般)
胸ば張って仙台弁(後藤彰三, 2001年)バグロ【補足】
<馬喰>
牛馬を売買する商人。以前は売買のバグロと
病気を治療するハグラグ<伯楽>と別れてい
た。上手な伯楽と人気のあった博覧会とを結
びつけて、うまくいった時など、「ジョウト
ウハクランカイ」などと称した。
物と物を交換することをバグルというがこの
バグロに由来する。また、教員の人事異動の
会議をバグロ会議といったりした。
東鑑
「長沼五郎正宗博労の奉行すべき旨仰せつけらる。」
解説で、動詞「バグル」が「バグロ」に由来
するとあり、それに続く形で、教員の人事異
動の会議を「バグロ会議」と言っていたとあ
ります。
この「バグロ」とは、ある学校の教員を、別
の学校の教員と置き換える(博労する)こと
を指していたものと考えられます。
福島・全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
バクロ【名詞】
〔意味〕交換(伯楽)
〔使用地域〕県北・県中
編集後記
かつての日高見国である東北地方の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。
当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。
尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。
当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。
編集者:千葉光
