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5/06/2026

【過去完了形】①:用法編(たった・てあった)

奥州東北語(標準東北語)および東北各地の
言語の公用語化の一環として、東北各地の言
語資料を基に、過去完了形(経験)「たった
・てあった」の用法について整理しました。

【過去完了形】②:複数の過去形こそ世界標準
【過去完了形】③:秋田のことば編
【過去完了形】④:秋田方言辞典編
【過去完了形】⑤:青森県の方言編
【過去完了形】⑥:仙台市方言の研究編

編集者:千葉光

目次:

01. 用法
02. 例文
 - 動詞(自身の経験)
 - 動詞(自身が目撃)
 - 動詞(連体形・仮定形)
 - 動詞(継続性過去)
 - 無声母音に続く例
 - 促音に続く例
 - 形容詞・名詞
03. 全国的な分布
04. 各地の言語資料より
 【青森】津軽① 津軽②
 【青森】南部① 南部② 南部③
 【秋田】由利地方
 【岩手:旧盛岡藩】北部 中部
 【山形】全般 最上
 【福島】全般 会津 浜通り北部
05 編集後記

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用法

たった・てあった
〔用法〕過去完了形(経験を表わす)
〔その他〕「たった形・てあった形」は併用可

尚、標準東北語としては、東北六県に分布す
る「タッタ形」を優先して使うことを想定し
ています。

ここでとりあげる過去完了形の用法について
、仙台・秋田の資料では、次のように記述し
ています。

宮城県仙台市方言の研究(小林隆, 2000年)
タッタ形を用いた場合には、記憶の検索によ
って確かめられた過去の出来事であるという
意味がより明確になる。

秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
具体的・個別的な過去を表す。従来、「回想
的過去」と説明されることが多かったが、こ
れは「シテアッタ/シタッタ」が「過去(発
話時以前)に当該の事態・出来事が存在した
」ことを、話者が自分自身の判断(体験)を
ふまえて述べるものであることによる。

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例文

例文を「たった形・てあった形」を並列する
形で、7つのカテゴリーにて作成しました。

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動詞(自身の経験)
動詞(自身の経験)

これは、話者が「行った・登った・書いた」
ことを、自身の体験として明示しています。

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例文 ↑

動詞(自身が目撃)
動詞(自身が目撃)

これは、壁にチラシが貼ってあったこと、こ
の席に大統領が座ったこと、あの人が現場に
居たことを、話者自身が目撃したことを明示
しています。

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例文 ↑

動詞(連体形・仮定形)
動詞(連体形・仮定形)

連体形「〜ごど」、仮定形「〜ら」の例です。

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例文 ↑

動詞(継続性過去)
動詞(継続性過去)

継続性過去「〜ていた」は、過去のある時点
で、物事が継続している状況を指します。

例文では、話者自身が過去のある時点で「開
けていた」「書いていた」体験を明示し、皆
が宴会で「盛り上がっていた」場面を話者自
身が回想したことを明示しています。

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例文 ↑

無声母音に続く例
無声母音に続く例

無声母音に続くときは、「った・あった
」の「た・て」は濁音化しません。例文では
、「来(き)」「し」が無声母音です。

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例文 ↑

促音に続く例
促音に続く例

促音「っ」に続くときは、「った・あっ
た」の「た・て」は濁音化しません。

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例文 ↑

形容詞・名詞
形容詞・名詞

例文は、形容詞「白かった」「寒かった」、
名詞「天気」「不良」に続く例です。

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例文 ↑

全国的な分布
次の資料では、「たった」の意味と全国的な
使用地域について載せています。

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日本方言大辞典(小学館, 1989年)
たった〔助動〕

①他の語に添えて過去を回想して言う。
したものだ。してしまった。

青森三戸郡「神様だってておら聞いたったい」
岩手県 宮城県宮城郡 秋田市 群馬県勢多郡
埼玉県秩父郡 千葉県安房郡・夷隅郡 東京都利島
神奈川県愛甲郡 新潟県岩船郡・西蒲原郡
山梨県南巨摩郡 岐阜県揖斐郡 静岡県富士郡
三重県度会郡・北牟婁郡 滋賀県高島郡 大阪市
兵庫県神崎郡・明石郡 奈良県吉野郡
和歌山県新宮市 島根県 長崎県 大分県南海部郡

《たた》
青森県南津軽郡 三重県志摩郡 鹿児島市

【補足】
東北以外では、関東(茨城・栃木以外)甲信
越、東海(愛知以外)、関西(京都以外)、
中国(島根のみ)、九州(福岡・佐賀・熊本
・宮崎以外)と、広範囲に分布しているよう
です。

派生形の「たた」が、青森県南津軽郡などに
見られます。

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全国的な分布 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、用法について整理
しました。
*資料名の( )内は、著者・発行年

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青森(津軽①)
日本列島方言叢書② 東北方言考① 東北一般・青森県
(井上史雄・篠崎晃一・小林隆・大西拓一郎編, 1994年)
(『国語学』20集所収 S30・12)

津軽方言の文法に関する一考察(日野資純)
 三 津軽方言の文法

四、語形変化
◎エマ、キテアッタンダケドナー
(今来ていたんだがな)

◎ショーソーエンテン、ハクブチカンデ、
 ヤッテアリマシタ。
(正倉院展を博物館でやっていました)
―学生の教師に対することば―

このように「ている」の意を「テアル」で表
わすことが多い。これは次のように連声形式
としても現われる。

◎(歯を)ニホン、ヌエタッタ
 (二本抜いておいた)

なお「タッタ」は津軽よりも南部地区に特に
多いようである。

(中略)

すでにいくつか「連声形式」としてふれてき
たものがその中の一つであるが、ここまでま
とめておくと、例えば先にあげた
◎ニホン、ヌエタッタ。
の「タッタ」は「テアッタ」と意味的に対応
しているので、その項でも述べたように「テ
アッタ」の連声形式とみとめられる。

「テアッタ→タッタ」という音声的変化の結
果こういう対応を示しているわけである。

【補足】
津軽では「てあった」が使われますが、とき
には、その連声形式である「たった」も併用
されるようです。

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青森(津軽②)
全国方言資料 第1巻 東北・北海道編(日本放送協会, 1981年)
青森県南津軽郡黒石町
 収録日 1953年9月2日

ハー アメ フッタタラ マダ アノ
トワダダバ ナニモ マイネネシァ
雨が 降ったら また あの
十和田は ちっとも よくないですね。

ナンボ アメ フテ キタタテ
アメ フリャ アメ フルホドシ
エーモンダシァ
いくら 雨が 降ってきても
雨が 降れば 雨が 降るほどね
いいものだよ。
※下線は当方にて

【補足】
日本方言大辞典に載っている「たった」に、
派生形「たた」の使用地域として青森県南
津軽郡とあり、原資料(全国方言資料)の収
録会話を確認したところ、「タッタ形」とし
て「アメ フッタラ」(雨が降ったら)、
「アメ フテ キタテセ」(雨が降ってきて
も)が見られました。

これらは「降った+た+ら」(降ったら)、
「降ってきた+た+て+せ」(降ってきても
)という仮定形の表現です。

会話全体では、「テアッタ形」の「エフテア
タ」(よかった)、「オモシロフテアタ」(
おもしろかった)、「サカシ ワラシコデア
ッタ」(りこうな こどもであった)が見ら
れました。

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各地の言語資料より ↑

青森(南部①)
青森県五戸語彙(能田多代子, 1963年)

〔解説〕
過去の行った、来た、読んだなどの下に附し
て一種経験を現わす助詞として用いることが
多い。
東京に行ったタ(行ったことがある)。
読んだタ(読んだことがある)。
過去完了という説に従ってよいであろう。


タイ
〔解説〕
目上に対していう場合などに過去形の動詞の
下に附する。過去完了の「タ」に感動のイ(
イとエとの中間音、敬語の場合のみ用う)を
添えたものか。
来たタイ(来たことがありましたよ)。
【補足】
この資料では、「タッタ形」の促音「ッ」の
抜け落ちた「〜たタ・〜だタ」および、敬語
として使う「〜たタイ」をとりあげています。

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青森(南部②)
南部のことば(佐藤政五郎, 1982年)
たった
(過去回想の語、過去完了?)

○びっくりしたったね(びっくりしたったよ)
○おどろがされましたったなし。
○行ったこどぁあったったなし。

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青森(南部③)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
十 助動詞
⑤ 時
(4)過去完了

<たった>
過去の経験を表す語で、動詞の連用形に接続する。

ずっと前、上方(カミガダ)さ行ったった
(ずっと以前、関西に行ったことがある)(終止形)

幼え時(チセ)、行ったったごどおべでる(連体形)

幼え時でも、行ったったら覚えでるべ
(行ったとしたら、覚えているでしょう)(仮定形)

聞いだった。読んだった。見だった。
投げだった。当てだった。来たった。

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各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
てあった・たった〔連語〕

〔解説〕
完了したことの過去を表す。詠嘆の想いを表す。

〔例〕
「おめぁ えねぁどき きたったど。
(あなたがいない時に来てあったそうよ)」

【補足】
秋田県由利地方では、「てあった形・たった
形」が併用されています。

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各地の言語資料より ↑

岩手:旧盛岡藩(北部)
種市のことば 沿岸北部編(堀米繁男, 1989年)
助辞
一、助動詞

【回想】
った〔過去完了「た」につけて、過去に、若
しくはすでに完了していることを回想して言
う〕

未然:ったべえ
連用:○
終止:った
連体:ったとき
仮定:たらば たれ
命令:○

「大阪の博覧会さ お前も 行ったったべえ」
(・・・お前も行ったでしょう)

「昨年の盆には あれも踊ったった」
(昨年の盆には、あれも踊った)

「食って来たったども 又食うがなぁ」
(食って来たけれども 又食おうかなぁ)

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各地の言語資料より ↑

岩手:旧盛岡藩(中部)
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
第二部 花巻方言の特色
Ⅲ 挨拶、呼びかけ(相手による使いわけ)

「サキタ、コゴサ、オイタ、ハサミ、ドゴサ
イッタ」と、母が遊んでいる子どもに聞く。
「オラ、スラネェア」と、子どもが答えるよ
くある家庭のひとこま。

「さっきここにおいた鋏を、どこへやったの」
「しりません」という会話だが、鋏をどこへ
やったのかというのを、鋏、どこへいったと、
あたかも鋏がひとりであるいてどこかへ行っ
たのだというような言い方をする。

これは、鋏に限らず、眼鏡、ナイフ、扇子、
灰皿など身近にある小道具いっさいに対して
、そのような言い方をする。

それに対して、「ア、コゴニイダ」とか「コ
タツノ上ニイダッタ」とか、さがしものが「
ここにあった」「こたつの上にあったった
という意味を生きもののようなあつかい方で
言うのである。
※下線は当方にて

【補足】
この資料では、鋏(はさみ)などの小道具に
対しても、「どごさ行った?」「こごに居だ
」と、生きものと同じように扱う表現につい
てとりあげていますが、その会話例の中で、
話者自らが目撃したことを明示する用法とし
て、「イダッタ」「あったった」が使われて
います。

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
(11) 過去。

(中略)

次に「〜タッタ」の用法が西村山郡西部から東置賜
・西置賜の一部及び最上地方にあり、山田二男氏の
宮内町方言研究書にも「行ったった」「見たった」
「在ったった」の例をあげ、上の「た」は完了、下
の「た」は過去を示すと解している。

北村山地方では、「〜じゃないか」の意のンナエが
が接する時、例えば「お前も行(エ)ッタッタンナ
エが(お前も行ったというじゃないか)」と相手を
なじるように問責することばの中に用いられるだけ
のようである。

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各地の言語資料より ↑

山形(最上地方)
新庄弁考 改訂版(森勇, 2021年)
たった
〔解説〕
 かったと同様、過去の習慣や出来事をいう。

〔例〕
「あの床屋さ、通ったった」
「いづもあの人さ、投票すたった」
「十字路さ、雷音堂てゆう店があったった」
「あの年、小磯さんが来たった」


かった
〔解説〕
 動詞終止形につき、過去の事実や習慣を表す。
「いづも、あの店で買うがった」
「九時(ず)には寝っかった」

 過去形につくと、過去の特別な出来事や状況をいう。
「新庄にも、空襲があったがった」
「昔は、もっと雪が降ったがった」

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各地の言語資料より ↑

福島・全般
福島県史 第24巻 民俗2 各論編10(福島県, 1967年)
第六章 言語生活(菅野宏)
(1) 用言の用法その一 用言と助動詞
(ハ)過去・完了・回想

過去・完了には助動詞「タ」を用いる。第1
・2・8形を欠き、○、○、タッ、タ、タ・
タッ・タン、タ、タラ、○のように活用する。

注目すべきは「イッタッタ」のような言い方
があることで、多くは過去の経験を示す。

「オラモ カエタッタナー」
(おれも書いたことがあったなあ)、
「ワリー コト シタッタナー」
(悪いことをしたもんだったなあ)
などのように用いられる。

【補足】
この資料では、「タッタ形」について、「多
くは過去の経験を示す」としており、用例
として「カエタッタナー」「シタッタナー」
を挙げています。

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各地の言語資料より ↑

福島・会津
田島町史 第4巻 民俗編(田島町史編纂委員会, 1977年)
方言の語法

助動詞
 過去・完了・回想

過去・完了の助動詞にはタがあり、タッ・タ・タ
・タラと活用し、共通語に等しい。

「ヤマサノボッタッタ」などのタッタは過去の経
験を示し、過去完了の働きをしている。さらに詠
嘆をともなって「ノボッタッタナー」となれば回
想の意にもなる。

通常回想を表すにはケを用い、「ヤマサノボッタ
ッケ」などのいい方をする。
 

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各地の言語資料より ↑

福島:浜通り(北部)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
第三篇 語法

3.時
 ロ、過去

「行ったった」「みったった(見てゐたった
)といふ普通口語と同じ形があり、「けり」
の名残の「ケ」がある。

行ったっケ。死んだっケカナー。(回想形)
悪えっケ。原釜さ揚った鯨、うんと大っきっケ。(詠嘆形)
行ったったサ。ほだったサ。

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各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である東北地方の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

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