(旧奥州)各地の言語資料を基に、ここ
でとりあげる語の用法について整理しま
した。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 用法
①推量
- 推量・形容詞・形容動詞
- 未来
- 過去想像
- 打消し
- 疑問形「が」に接続
- 接続助詞「し」に接続
②意志
- 意志
- 承諾・同意
③勧誘
03. 庄内・由利の「べ」
【山形】庄内地方
【秋田】由利地方
04. 各地の言語資料より
【青森】全般 南部
【秋田】全般① 全般②
【岩手:旧盛岡藩】中部
【岩手:旧仙台藩】内陸
【山形】全般
【宮城】全般 仙台
【福島】全般 浜通り北部(相馬地方)
05. 編集後記
意味
べ(助動詞)
〔推量〕だろう・う
〔意志〕だろう・う
〔勧誘〕う・よう
用法
①推量 ②意志 ③勧誘の3項目ごとに、用法について整理しました。
①推量
東北各地の言語資料では、「推量」の用法が最も多く載っていたため、6項目に分け
て整理しました。
- 推量・形容詞・形容動詞
【用法】推量・形容詞・形容動詞
*【え・あ中間音】母音表記
- 未来
【用法】未来
- 過去想像
【用法】過去想像
*【ha助詞の表記法】
*【ガ行鼻濁音の表記】
- 打消し
【用法】打消し
*【え・あ中間音】母音・子音表記
- 疑問形「が」に接続
【用法】疑問形「が」に接続
*【え・あ中間音】母音・子音表記
*【合略仮名による表記法】
- 接続助詞「し」に接続
【用法】接続助詞「し」に接続
*【え・あ中間音】母音・子音表記
②意志
「意志」の用法については、2項目に分けて整理しました。
- 意志
【用法】意志
- 承諾・同意
【用法】承諾・同意
*【え・あ中間音】母音表記
③勧誘
【用法】勧誘
*【え・あ中間音】母音表記
庄内・由利の「べ」
日本海沿岸部の山形県庄内地方、秋田県由利地方では、「べ」の用法はないとされていま
すが、これらの地域の言語資料にも「べ」の
用法が載っていました。
ここでは庄内・由利地方の言語資料をとりあ
げます。
【山形】庄内地方
庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)べェ 助動詞--- 引用ここまで ---
〔意味〕
意志や推量を表わす。
・・・だろう。・・・だよ。よ。
〔例〕
「んだべェ」(そうだろう)。
「行がねべェ」(行かないだろう)。
「いいべ」(いいだろう)。
「さあしごどやんべェ」(さあ仕事をやろう)。
〔解説〕
内陸に多い方言だが、庄内でも時々使われる
ことがある。
(鶴岡・湯野浜・加茂・温海)。
《補足》
解説では「庄内でも時々使われる」とありま
す。使用地域の鶴岡などは、いずれも川南(
かわみなみ)と云われる最上川より南の地域
です。川北(かわきた)の酒田などでは使わ
れていないかもしれません。
【秋田】由利地方
由利地方において「べ」の用法が一般的になってきたのは、明治以降に秋田県の一部
となってからのようです。ここでは由利地
方の二つの言語資料より引用します。
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
べ・べしゃ・べじゃ・べな・べが〔助動〕--- 引用ここまで ---
〔意味〕・・・だろう。・・・でしょう。
〔解説〕 活用語の終止形に付き、推量の意を表す。
本荘・由利地方では「べ」等は過去にあ
まり用いることはなく、むしろ「でろ」
(海岸部)や「がろ」(内陸部)が使わ
れたが、現在はかなり多く使われている。
〔例〕「もー えったべが。」(もう行っただろうか)
《補足》
もともと本荘・由利地方では「べ」の用法は
あまり用いられていなかったようです。
おそらく明治時代の廃藩置県で秋田県の一部
となってから、用いられるようになったのか
もしれません。
隣接する山形県庄内地方には、語尾に「の」
を付ける用法がありますが、これは江戸時代
に庄内藩が北前船の寄港地であったことから
、関西商人との交流の影響によるものと思わ
れます。
本荘・由利地方の場合は、秋田県の一部とな
ったことで、旧久保田藩の人々との交流が盛
んになり、「べ」の用法が一般的になったの
かもしれません。
本荘の話しことば(佐藤勵子, 1988年)
「でろ」について--- 引用ここまで ---
『小島彼誰(かわたれ)さんの「由利小唄」に
サッサ急がんでもええでろね、っていうのが
ありますねが。
その「でろ」っていう言葉(こどば)、此頃余
り聞がれねぐなって「んだべェ」どが「んだ
すべェ」どがの言葉が多くなってしまって・
・・。「でろ」って「だろう」から来た言葉
でしょが』
『そえなば〝とびだね〟って言(ゆ)って他
所(よそ)から来た言葉ですおの。本荘(ほん
じょ)で生まれだ言葉無ぐして拾った言葉使
ってるなです。本荘弁て愛情こもった方言だ
ど思いますで。』
(中略)
『私も「でろ」の発音が汚ないように感じて
いつかしら「べ」に変っていだけど、此頃「
べ」が本荘弁になってしまいそうだと気がつ
いて、つとめて「でろ」って言ってるんです
。』
《補足》
ここでとりあげたのは、由利地方在住の著
者が、同じく地元の八十歳代の女性に聞い
た昔の話をまとめ集録したものですが、「
でろ」が「べ」に置き換わる現状について
の、複雑な心情が綴られています。
各地の言語資料より
東北各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。
*言語資料名の( )内は、著者・発行年
【青森】全般
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)語法論
時間を表す助動詞
『未来の時』
べ・べし
(「べし」が「べ」「べい」ともなつたもの
である。)
べし(べ)は「う」「よう」両者を兼ねたも
のであつて凡ての動詞の連用形・終止形に何
等の区別なしにつき得る。
・本コ読むべ。(本ヲ読マウ)
・どぢァよげだがさ、くらべでみべし。
(ドチラガ多イカ クラベテミヨウ)
推量の助動詞
べ
(「う」「よう」両者を兼ねることは未来の
「べ」と同じ)
動詞の終止形に接続する。一段活用動詞には
連用形からも続く。受身助動詞「れる」「ら
れる」には連用形からのみ続く。
・そうだべ。(ソウシタデアラウ)
・見たべもの。(見タラウモノ)
・そうでなかべ。(なか―なくある、の約音)
・きっと來るべ。
・おれもこだだば合格すべね。
(私モ今度ハ合格スルダラウ)
語彙--- 引用ここまで ---
ダベ
〔区域〕津軽・南部
〔意味〕だらう。
〔例〕明日は天気になるダベ
あの人家に居ダベなあ
べ
〔品詞〕助動
〔区域〕津軽・南部
〔意味〕・・・だらう。
〔例〕お前昨日遊びに行ったべ
《補足》
引用欄を、語法論の助動詞(上中段)と、
収録語彙(下段)に分けて整理しました。
用法は東北共通です。
【青森】南部地方
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)(五) 品詞について
九 助詞
④ 終助詞
べ 意志 行(エ)ぐべ(行きます)。
ベァ 誘引 行ぐベァ(行きましょう)。
ベェ 意志 誘引 行くべェ(行きましょう)。
ベォん 推量 そうだべォん(そうでしょう)。
行ぐべォん(行くでしょう)
べが 疑問 行ぐベが(行くでしょうか)。
べす 意志 行ぐベす(行こう。行きましょう)。
十 助動詞
⑤ 時
(1) 未来(べ、べァ、べす)
共通語では動詞の未然形に、推量、意志の
助動詞、う、ようを接続して表現するが、
方言では動詞の終止形に、意志の終助詞べ、
誘引の終助詞べァ、意志誘引の終助詞べすを
接続して表現する。
<動詞四段活用への接続>
行(エ)ぐべ(行こう)
行ぐべァ( 〃 )
行ぐべす( 〃 )
書ぐべ(書こう)
書ぐべァ( 〃 )
書ぐべす( 〃 )
<カ変>
食(ク)うべ ― 食(ク)べ(食(ク)おう)(たべよう)
食うべァ ― 食べァ( 〃 )( 〃 )
食うべす ― 食べす( 〃 )( 〃 )
<サ変>
すべ ― しよう(為(シ)よう)
すべァ ― 〃
すべす ― 〃
するべ、するべァ、するべすとも使用され、
さらに、やるべ、やべ、やるべァ、やべァ、
やるべす、やべすとも訛語化される。
べ(終助詞)--- 引用ここまで ---
①未来。
来年の春にァ花こァ咲ぐべ
(来年の春には花が咲くだろう)。
②推量。
明日ァ雨ァ降るべえ(明日は雨が降るでしょう)。
③誘引。
さァ、まま食(ク)うべ(さあ御飯を食べよう)。
④意志。
明日行ぐべ(明日行きます)。
⑤承諾。
えがべ(よいです・よいでしょう)。
⑥催促。
赤がべ(赤いでしょう)。
そだべ(そうでしょう!)。
⑦疑問。
そうだべ?(そうでないか)。
べァ(終助詞)
誘引。
(一緒に)行ぐべァ(行こう)。
べが(終助詞)
疑問。
ほんとに行くべが(行くでしょうか)。
べす(終助詞)
誘引。
さあ、行ぐべす(行きましょう)。
んだべ(句)
〔意味〕そうだろう。そうでしょう。
《補足》
引用欄を、品詞の解説(上段)と収録語彙
(下段)に分けて整理しました。用法は東
北共通です。
【秋田】全般①
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)第二編 方言の語法的考察
(五)推量の助動詞
「だらう」の代りに次の様な言葉を用ひる。
きっと來るべ(きつと來るだらう)
おれぁえがれねぁべもの(私は行かれないだらう)
(もののつく時は「だらうさ」位の感情がくはゝる)
この「べもの」の種類に「べおの」「べおん」
「べおな」「べねぁ」「ごでぁ」などがある。
第三編 語彙--- 引用ここまで ---
だべが(連)
〔意味〕だらうか。
〔方言採集地〕平鹿郡
〔例〕「そだべか。」
べ(助動)
〔意味〕・・・だらう
〔方言採集地〕全県
〔例〕「きっと來るべ。」
べぁ(連)
〔意味〕でせう。
〔方言採集地〕北秋田郡
〔例〕「勉強したらよかべぁ。」
べおの(連)
〔意味〕だらうさ。だらうもの。
〔方言採集地〕雄勝郡
〔例〕「まさか行かねぁべおの。」
べおん(連)
〔意味〕だらうさ、だらうもの。
〔方言採集地〕山本郡・平鹿郡・雄勝郡
〔例〕「まさか行かねぁべおん。」
べし(助動)
〔意味〕・・・しませう。
〔方言採集地〕鹿角郡・山本郡・平鹿郡
〔例〕「学校へ行くべし。」
んだんべ(連)
〔意味〕さうだらう。
〔方言採集地〕北秋田郡
〔例〕甲「これは梅の實か」、
乙「んだんべ。」
んだんべが(連)
〔意味〕さうでせうか。
〔方言採集地〕雄勝郡
〔例〕「んだんべが、僕はどうしても信ずる
ことが出來ない。」
んだんしべ(連)
〔意味〕さうでせうよ。
〔方言採集地〕雄勝郡
〔例〕「んだんしべ、私もさう思ってあった。」
《補足》
引用欄を、方言の語法的考察(上段)と語彙
(下段)に分けて整理しました。用法は東北
共通です。
【秋田】全般②
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)べ〔助動〕〔無活用型〕--- 引用ここまで ---
活用語の終止形に付く。
(1) 推量の意を表す。だろう。
〔ンベ〕鹿・北・山・南・市・河・仙・平・雄・由
〔ッペ〕山
〔ンベハ〕南・市
〔ンベヤ〕山・河
〔ンベナ〕南・市・平・由
〔ンべァ〕鹿・北・河
〔ンベァネ〕北
〔ンベァナ〕雄
疑問〔ンベガ〕鹿・北・山・南・市・河・仙・平・雄・由
「一(フト)湿リ アッタ 後ンダンテ、キノゴ エッペァ生(オ)エデエルンベ」
「母(アヤ)ドゴサ 行ッタンベ」
「ンダンベ」
「モー行ッタンベハ」
「明日(アシタ) 来ルンベナ」
「ソダシンベァネ」
「ンダンベァナ」
「オレドゴ オンベデダンベガ(私を知っているだろうか)
「デワ(山や谷の出入口)マンデ ドレクレァ アッペガ」
(2)
㋑意志または㋺勧誘の意を表す。う。よう。
〔ンベ〕鹿・北・山・南・市・河・仙・平・雄
〔ンベー〕南
〔ンベヤ〕山
㋑
「今年ァ カラポヤマネァンデ(怠けないで) グヮリット(しっかりと)働グンベ」
「猿 コノ 餅 一人ンデ 食テヤルンベドテ、臼ドゴ ボーンテ ヒックリ返シタド」
㋺
「ワッパガ仕事ンダガラ、早グ デガシテ 遊ンブニ 行グンベー」
「明日(アシタ) 山菜 採ンネ 行グンベヤ」
―本来、由利は、庄内・北越と共に「べ」の
ない地域であったが、今では用いられつつあ
る。
秋田方言では、上一・下一段、カ変・サ変も
すべて五段(四段)化の傾向にあり、「べ」
(「べい〔べー〕」の短呼)はすべて終止形
に付く。
ただし、上接語の語尾がルの場合は撥音化ま
たは脱落することがある。
(1) の〔ンべァ〕は、〔ンベハ〕または
〔ンベヤ〕の転化であろう。
(中略)
郷土では「べ」による (2) の㋑意志㋺勧誘
の用法は稀で、一般に㋑意志は終止形または
それに間投助詞ハの付いた形、「行グ」「行
グハ(融合して行ガァとも)によって表すが
、由利では㋑㋺を「未然形+う(よう)」に
相当する「行ゴ」「見ロ」「寝ロ」「為(ソ)」
でも表す。(平鹿・雄勝にもその傾向がある)
(2) 勧誘はベシ(別項)と言うことが多い。
*〔ンベ〕の「ン」は鼻濁音
*使用郡市名
鹿:鹿角郡 北:北秋田郡 山:山本郡
南:南秋田郡 市:秋田市 河:河辺郡
仙:仙北郡 平:平鹿郡 雄:雄勝郡
由:由利郡
《補足》
解説の最後に、「勧誘はベシ(別項)と言う
ことが多い」とあります。別項の見出し語「
べし」の解説では、≪推量の助動詞「べ」に
丁寧の終助詞「シ」の付いたもの≫としてい
ます。
【岩手:旧盛岡藩】中部
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)第二部 花巻方言の特色--- 引用ここまで ---
Ⅱ 品詞の変化
6 助動詞
(3) 未来
べ―でしょう、だろう
〔例〕エガベ(いいでしょう)
ミルベ(見るだろう)
ベトステラ―しようとしている
〔例〕ミルベトステラ(見ようとしている)
(7) 打消、推量
ナガベ―まい
〔例〕アルゲナガベ(歩けまい)
(8) 推量
べ―だろう
〔例〕五センエン以上ハスルベ
(五千円以上はするだろう)
べ―よう
〔例〕ダレェアソンタナゴドスルベ
(誰がそんなことをしよう)
べ―でしょう
〔例〕エグナルベ(よくなるでしょう)
(14) 意志
べ―う
〔例〕オレモエグベ(ぼくも行こう)
べ―よう
〔例〕アスナサハ五ズニオギルベ
(明日の朝は五時に起きよう)
《補足》
「べ」の用法は東北共通です。
【岩手:旧仙台藩】内陸
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)八、助動詞(共通語との比較)--- 引用ここまで ---
共・・・共通語
気・・・気仙語
(二) 形容詞型の助動詞
ない(ねァ)
〔未然形〕
共:なかろ
気:ながん
おもな用法:べーに連なる
〇雨ァ降らながんべー。
たい(でァ)
〔未然形〕
共:たかろ
気:だがん
おもな用法:べーに連なる
〇大学を受げだがんべー。
(三) 形容動詞型の助動詞
だ(だ)
〔未然形〕
共:だろ
気:だ
おもな用法:べーに連なる
〇それァ本当だべー。
ようだ(ようだ)
〔未然形〕
共:ようだろ
気:ようだ
おもな用法:べーに連なる
〇寒くてちぢまるようだべー。
そうだ(そうだ)・・・様態
〔未然形〕
共:そうだろ
気:そうだ
おもな用法:べーに連なる
〇息ァ切れそうだべァ。
(四) 特殊型の助動詞
です(でァす)
〔未然形〕
共:でしょ
気:でごァす、でがす
おもな用法:ぺー、ぺァに連なる
〇今夜ァ十五夜でごァすぺァ。
〇これァあんだのでがすぺ。
た(た)
〔未然形〕
共:たろ
気:た
おもな用法:べーに連なる
〇昨日ぁ暑がったべー。
(五) 無変化型の助動詞
う(べ、べー、べァ、ぺ)
〔終止形〕
共:う
気:べ・べー・べァ・ぺ
おもな用法:推量意志、言い切る
〔連体形〕
共:う
気:べー
おもな用法:体言に連なる
〇苦しがんべー。・・・苦しかろう。
〇ちょっとえがんべァ・・・ちょっといいでしょう。
〇山さ登んべー。・・・山に登ろう。
〇早ぐ行ぐますぺ・・・早く行きましょう。
〇後継ぎになるべー人。・・・後継ぎになろう人。
〇我慢すれば出来べーものを。・・・
我慢すれば出来るであろうものを。
よう(べー、べァ、べ、ぺ)
〔終止形〕
共:よう
気:べ・べー・べァ・ぺ
おもな用法:推量意志、言い切る
〔連体形〕
共:よう
気:べー
おもな用法:体言に連なる
〇自然と消ェべー。・・・自然に消えよう。
〇勉強しべァ。・・・勉強しよう。
〇勉強しァすぺァ。(丁寧語)
〇受げさせべーものを・・・
受けさせようものを
◎べ、べー、べァ、ぺ、等は「べい」の転訛
であろう。これが「う」「よう」の意味に
転移して、推量及意志を表わす助動詞にな
ったもので、自然に「う」「よう」を疎ん
じた傾向が見える。勿論文章語としては昔
から使われていたようであるが。
《補足》
「べ」の用法は東北共通です。
【山形】全般
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)山形県方言概説
語法
B 形容詞の活用
(1) 推量をあらわす助動詞「べ」が接続する
形容詞の形は、
高いだろう= 高エベ。高がンベ。
新しいだろう= 新ラスエベ。新ラスがンベ。
の二つがある。
C 形容動詞
(1)
推量を表わす共通語の「~だろう」に対応
するのは「~ダベ」で、「静カダベ」「賑
(ニンギヤ)カダベ」といい、「~ダンベ」
はあまり用いない。
D 助動詞の意味と活用
(2) 推量。
共通語のう・よう・に対応する「べ」が内陸
地方で広く行われる。
有ンベ(あるだろう)・見ンベ(見よう)・
来(ク)ンベ(来るだろう)の様に用いる。
終止形だけが用いられて、放送などできく
「~べい時」にような連体形の用法はない。
宮城県などで用いているところの「見ッペ」
「来ッペ」も用いない。
(東置賜郡二井宿などに、使用されているが)。
動詞や助動詞に接続する時「る」を撥音化し
て、着ンベ・流サレンベのようになる。
形容詞に接する時、オモシャエベ・オモシャ
カンベの両形が用いられる。
形容動詞に接して「静カダベ」となる。
意志・推量を表わす用法もある。
「俺とエッショエ(いっしょに)
アエベチャ(行こうよ)」など。
「ベ」に、ヨ・チャ・カ(ガ)・ナなどの
助詞がつく。
ウソダベ・カ(うそだろうか)
ホタナゴトナエベ・ナ(そんなことないだろうよ)
「~ベーチャ」とか「~ベーカ」のような
長音化はしない。
「来ようが来まいがどうでもよい」は
「クンベ コネベ・・・」云々という。
共通語の「らしい」「まい」に対応する方言
は「ラスエ」「マエ」であるが、これはあま
り用いずにらしいはミダエ、推量打消のまい
は「~ないだろう」の形の~ネベの表現形式
をとる。
明日も雨が降るらしい——降るミだエだ
この様子では雨は降るまい——降らネベ
ダベ(連語)--- 引用ここまで ---
〔意味〕・・・だろう。
〔例〕
「コエづ、好き——」(これ好きだろう)。
「ダベカ」(だろうか)。
「ダベチャ」(だろうよ)
〔分布地点〕置賜・村山・最上
ベ・ベー(助動詞)
〔解説〕推量・意志。相手の同意を求める場合。
〔例〕
「フダベ(そうだろう)」
「お前も見たべ」
「俺も行くべ」
〔分布地点〕置賜・村山・最上
ンダベ(連)
〔意味〕そうだろう。
〔分布地点〕置賜・村山・最上
《補足》
引用欄を、語法(上段)と収録語彙(下段)
に分けて整理しました。用法は東北共通です。
【宮城】全般
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県史編纂委員会, 1960年)方言(藤原勉)
語法--- 引用ここまで ---
2・中止法
「べし」。推量の助動詞「べ」に接続助詞
「し」のついたもので、文を中止する。中
止してあとを省略することもある。
古語・文語の「べし」ではない。単なる推
量の場合と意志を示す場合とある。
例―「雨も降んべし・・・」。「さあ、早く行くべし・・・」
《補足》
「中止法」とは、「べ」に接続助詞「し」の
付いたもので、文字通り、その後の文を中止
するものです。
宮城県の方言資料にのみ見られるようですが
、宮城県以外ではこの用法はないのか不明で
す。
【宮城】仙台
仙台方言集(土井八枝, 1919年)べ べー ぺ(助動詞)--- 引用ここまで ---
〔意味〕べし(推量の意を表する語)
〔例〕
「そうだべー」(そうでせう)
「よかんべ」(よかろう)
「よがすべ」(よございませう)
「行きいんべ」(行きませんでせう)
べっちゃー(助動詞)
〔意味〕べし
〔例〕
「そうだべつちやー」(そうだらう)
「行つたべつちやー」(行つたでせう)
《補足》
「べ」の用法は東北共通です。
【宮城】県北
方言 みなみかた(南方町文化財保護委員会, 1997年)第二章 南方町方言の特質--- 引用ここまで ---
二 語法
(2) 中止法「べし」
推量・意志・勧誘の助動詞べに、接続助詞し
がついたもの。次に続く言葉を止(や)めてしまう。
例
さぁ早くやっぺし
雨は降るべし
腹はへっぺし
(7) 推量法「べ」「ぺ」「え」
例
花も咲くべ
そろそろ来っぺ
べの子音bが略されて、えとなることがある。
例
そんなこと あんだえか
ほだえか
(9) 推量の強意「べちゃ」
推量のべに助詞のちゃがついたもの。
べだけ使った時よりも、強い云い方となる。
例
そういったのは、お前だべちゃ。
*下線は当方にて
《補足》
「中止法」とは、「べ」に接続助詞「し」の
付いたもので、文字通り、その後の文を中止
するものです。
【福島】全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)第四章 福島県方言の語法的特徴
第四節 助辞の語法
二、助動詞
5、推量
(1) ベエ
文語ベシの音便である。
ベエ・パイ・バイ・ベシ・ベァ・ペ・ベ等
種々の形態が残存して居る。
この一類は岩磐方言の助動詞中でも、勢力の
最もあるものであって、他の助詞助動詞とも
結合してベカ・ベナ・ベナイ・ベシタ等とな
りそれぞれ複雑な語感を表現して居る。
東北方言をベエベエ言葉と言ふのは、このベ
エが関西人に特に耳立つからであらう。現今
のベエは終止形のみ旺盛に使用せられる傾向
がある。
・この本読めんベエ(読めッペエともいふ。)
・雨降つペ。
・君も行ぐベ。
・そうだつパイ。
・ほだベシタ(さうでせウヨ)
・さうだベカ(さうでせウカ)
・さうだベナイ(さうでせウネ)
7、時
(4) ベエ
推量の助動詞ベエの一類は未來の時をも表す。
・來年わ豊作だべエ。
・そのうちに來(く)つペエ。
9.打消
(2) マエ
標準語のマイに相当する。打消の推量である
。随つて打消のナエと推量のベエを結合した
ネベエ・ナエベが却つて多く使用せられて居
る。
行(い)ぐマエ=行がネベエ=行がナエベ
イグッペエ【句】--- 引用ここまで ---
〔意味〕行かう
〔使用地域〕中部・浜通
ダベイ【句】
〔意味〕でせう
〔例〕「そうだべい」(さうでせう)
〔使用地域〕県北・中部・県南・会津・浜通
ダベガ【句】
〔意味〕でせうか
〔例〕行くだべか
〔使用地域〕県北・中部・県南・会津・浜通
ダベシ【句】
〔意味〕でせう
〔例〕「そおだべし」(さうでせう)
〔使用地域〕会津・県北
ダベス【句】
〔意味〕でせう
〔例〕そおだべす(さうでせう)
〔使用地域〕会津
ベ【助動】
〔意味〕でせう
〔例〕こーしたんだべ
〔使用地域〕県北・中部・会津・浜通
ベー【助動】
〔意味〕よう、う
〔例〕「おらいぐべー」(私は行かう)
〔使用地域〕県北・県南・浜通
ベア【助動】
〔意味〕でせうね
〔使用地域〕県北・中部・会津
ベガ【句】
〔意味〕でせうか
〔例〕「あんな仕事振でえーだべか」
(あんな仕事振でよいでせうか)
〔使用地域〕県北・中部・県南・会津・浜通
ベナ【句】
〔意味〕でせうね
〔例〕これで仕事わ終りだべな
〔使用地域〕会津
ペナイ【句】
〔意味〕ませうね
〔例〕「そうしつぺない」(さうしませうね)
〔使用地域〕県北・中部・県南
ンダベカ【句】
〔意味〕さうでせうか
〔使用地域〕県北・中部
※県北・中部・県南(中通り北部・中部・南部)
《補足》
引用欄を、語法(上段)と収録語彙(下段)
に分けて整理しました。用法は東北共通です。
【福島:浜通り】北部(相馬地方)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)第三篇 語法--- 引用ここまで ---
(二) 各種の助動詞
3. 時
ハ、未来
「べき」の音便「べい」の訛、「べ
(べー)」「ぺ(ぺー)」で行はれる。
降っぺ(降らう) 咲ぐべ(咲かう)
起ぎっぺ(起きよう)
ニ、過去想像 前に同じ。
降ったべ。美しかったべ。
4. 推量
△普通の形式「だらう」が「ダベ」となるや
うに、未来より転じた「べ(べー)」「ぺ
(ぺー)」が例外なしに行はれる。これは推
量の意の外、勧誘又は自己の決意を表す意
をも有する。
ほだべ。来る人なかんべ。及第しっぺ。
火事どこだったべ。あえつ何だべ。読んだべ。
んぐべ(行かう。)勉強しっぺ。
早く帰りぁすべ。勉強しぁーしたべ。
死ぬベカ生きッペカ。おれも行くベカナ。
行ってんべ(行って見よう。)
△動詞「す(為)」の変形「し」が「べ」に
添はって、同じ状なるものを並列する接続
詞の如く用ひられる。但しこの「し」は標
準語の「し」と同一のものである。
夏は暑かんベシ、蚊は居っペシ、
ほこさ行ぐと冬は火せぇーあたれば凌ぎえー。
疲れたベシ腹はへったベシとーとー歩けな
くなってしまった。
△これらの外問ひかけて念を押す場合、句尾
に助詞「シタ」が添はる形がある。
去年行ったベシタ。
ほんなことねぇーベシタ。
《補足》
「べ」の用法は東北共通です。
編集後記
かつての日高見国である奥州東北の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が
不可欠です。
当方の提唱する「奥州語の文法・表記法」
は国語の東北版として、東北各地の言語
資料を基に、東北の広範囲に共通の用法
で構成されており、文章語として公文書
や記事などに使うことを想定しています。
尚且つ、東北全土の言語の表記法にも対応し
ているため、東北各地の言語の地域公用語化
も視野に入れています。
東北各地の言語を未来へ継承するための原
動力となれば幸いです。
編集者:千葉光