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9/22/2024

こ:接尾助詞 - 主格に対応

東北言葉の公用語化の一環として、
東北(旧奥州)各地の言語資料を基に、
接尾語「こ」の、主格助詞「が」に対応
する用法について整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 助詞の機能
02. 主格助詞としての機能
 ・自動詞が続く例
 ・他動詞との比較
 ・受身の表現が続く例
 ・形容詞が続く例
03. 各地の言語資料の用例より
 【青森】津軽
 【秋田】全般
 【岩手:旧南部領】全般
 【宮城】県北
04. 編集後記

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助詞の機能

東北の話し言葉には、助詞「は」「が」
「を」の用法が、もともとありません。

一方、名詞に付く「こ」には、文脈により、
これらの助詞に相当する機能があります。

東北言葉の公用語化において、接尾語「こ」
を、これらの助詞に相当する用法として整理
していきます

その上で、接尾語でありながら、助詞に相当
する機能を有することを踏まえ、「接尾助詞
」という概念を用いることとします。

目次 ↑

主格助詞としての機能

対象の名詞が話者によって具体的に把握さ
れている状況で、接尾語「こ」が主格助詞
「が」に相当する機能として、使われる傾
向にあります。

参照:【こ:もう一つの重要な機能】

この機能を踏まえた上で、接尾語「こ」の、 主格助詞「が」に対応する用法について、 用例を交えながら整理していきます。

ただし、対格助詞「を」に対応する用法
に比べ、使い方は限定されます。

参照:【こ:接尾助詞 - 対格に対応

尚、用例については、公用語として文章語な
どで使われることを想定しているため、現代
的なことを意識して作成しましたが、東北各
地の言語資料に見られる話し言葉としての、
生活感に基づいた用例と比べると、違和感が
あるかもしれません。

目次 ↑

自動詞が続く例
「こ」の後に自動詞が続く用例を、項目ごと
に作成しました。

後に自動詞が続く場合、対象の名詞に「こ」
が付きやすいようです。

これは、話者が自動詞を使う場合、たいてい
目の前の物事や事象など、対象の名詞を具体
的に把握した状況で使う傾向にあるためと思
われます。


自然:
・気温こ 上か゚る
(気温が上がる)

・雨こ 近づえでだ
(雨が近づいている)

・水面さ 葉っこ 浮ぎだ
(水面に葉が浮いた)

生活:
・まなぐこ 回った
(目が回った)

・我さ 自身こ 付ぐ
(自分に自身が付く)

・伝言こ とづえだ
(伝言が届いた)

・つける薬っこ ねァ
(つける薬がない)

・鉛筆の先こ もけ゚だ
(鉛筆の先がもげた)

文化:
・寺の鐘の音っこ 鳴った
(寺の鐘の音が鳴った)

・会場さ 楽器の音色こ 響ぐ
(会場に楽器の音色が響く)

経済:
・商品の受注っこ 増える
(商品の受注が増える)

・工事の時期こ 近づぐ
(工事の時期が近づく)

災害:
・エンジンがら 火っこ 出た
(エンジンから火が出た)

・施設の変圧器がら しこたま 油っこ むった
(施設の変圧器から、大量の油が漏れた)

IT:
・数件の情報っこ ある
(数件の情報がある)

・メッセージこ 削除さえだ
(メッセージが削除された)

・メールさ 個人情報っこ 含まえでだ
(メールに個人情報が含まれている)

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自動詞が続く例 ↑

他動詞との比較
同じ名詞で、「こ」の後に自動詞・他動詞が
続く用例を作成しました。

【上段】こ(主格助詞として)+自動詞
【下段】こ(対格助詞 〃 )+他動詞
・気温こ 上か゚る(気温が上がる)
・気温こ 上け゚る(気温を上げる)

・扉こ 閉まる(扉が閉まる)
・扉こ 閉める(扉を閉める)

・通信こ 繋か゚る(通信が繋がる)
・通信こ 繋け゚る(通信を繋げる)

・書類っこ とづぐ(書類が届く)
・書類っこ とづげる(書類を届ける)

・可能性っこ 拡か゚る(可能性が拡がる)
・可能性っこ 拡け゚る(可能性を拡げる)

・まなぐの色こ 変わる(目の色が変わる)
・まなぐの色こ 変える(目の色を変える)

・パスワードっこ 変更さえだ(パスワードが変更された)
・パスワードっこ 変更する(パスワードを変更する)

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他動詞との比較 ↑

受身の表現が続く例
「こ」の後に、受身の表現が続く用例を作成
しました。

自動詞と同じく、話者は対象の名詞が頭に思
い浮かんだ(具体的に把握した)状況で使う
ことが多いはずです。

後に受身の表現が続く例:
・共通点こ 判明する
(共通点が判明する)

・台風っこ 発生した
(台風が発生した)

・消化訓練こ 実施さえる
(消化訓練が実施される)

・おもせ動画こ 投稿さえでだ
(面白い動画が投稿されている)

・線状降水帯っこ 形成される可能性
(線状降水帯が形成される可能性)

・紙の保険証っこ 廃止さえる
(紙の保険証が廃止される)

・指紋こ登録さえでだ
(指紋が登録されている)

・流水ボタンこ 若干きつぐ 設定さえでる
(流水ボタンが若干強めに設定されています)

・マイナンバーカードど 健康保険証っこ 一体化さえる
(マイナンバーカードと健康保険証が一体化される)

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受身の表現が続く例 ↑

形容詞が続く例
「こ」の後に、形容詞が続く例を作成しまし
た。後に形容詞が続く場合も、対象の名詞に
「こ」が付きやすいようです。

全ての状況に当てはまるか検証が必要です
が、自動詞と同様、対象の名詞が具体的に
把握された状況で使われる傾向にあるため
と思われます。


後に形容詞が続く:
・ 関連性っこ 高え
(関連性が高い)

・範囲こ 広え
(範囲が広い)

・天候不順で 野菜っこ 高え
(天候不順で野菜が高い)

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後に形容詞ク活用が続く:
・勉強っこ 楽しぐなる
(勉強が楽しくなる)

・芝居っこ 面せぐなる
(芝居が面白くなる)

目次 ↑

形容詞が続く例 ↑

言語資料の用例より
東北各地の言語資料より、「こ」が主格に
対応している用例をとりあげます。
※対応箇所に下線を施しています。

【青森】津軽地方
青森方言管見(日野資純, 1958年:国語学34号所収)
◯コゴノオ宮ニ、カブト カブッテイル
 ヘ 居タジバテ
(ここのお宮に、かぶとをかぶっている
〔頭部の両側に突起を持った〕蛇居たというが。)
<補足>
「ヘ」が「蛇が」に対応し、
自動詞「居タ」が続いています。

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言語資料の用例 ↑

【秋田】全般
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
第二編 方言の語法的考察
(二)名詞の下に接尾語をつけること。

よーよ(漸く)卒業こぁでぎだんしてぁ。
(卒業出来ましたよ)
<補足>
接尾語「こ」に付く小文字「ぁ」が、
「が」に対応しているかもしれません。

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言語資料の用例 ↑

【岩手:旧南部領】全般
岩手方言の語源(本堂寛, 2004年)
「ベゴッコ エサッコ ハダッテラジェ」
(牛餌を催促しているよ)
<補足>
「ベゴッコ」が「牛が」(主格助詞)に対応
し、「エサッコ」が「餌を」(対格助詞)に
対応しています。

これは話者が、目の前の牛(対象の名詞)
が餌を催促していることを具体的に把握し
ている状況のため、無意識に「こ」を付け
たと思われます。

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言語資料の用例 ↑

【宮城】県北
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)
さきぺ、ちきぺこ
〔意味〕物の突端。
〔用例〕「鉛筆の さきぺ もげてしまった」
<補足>
用例で、「さきぺ」に「こ」が付き、
自動詞「もげて」が接続しています。

これは話者が、目の前の鉛筆(対象の名詞)
の先がもげていることを、具体的に把握して
いるため、無意識に「こ」を付けたと思われ
ます。

目次 ↑

言語資料の用例 ↑

編集後記

東北(旧奥州)の言語を未来へ継承していく
ためには、公用語化が不可欠です。

「奥州語の文法」は、国語の東北版です。
東北各地の言語資料を基に、東北の広範囲
に共通の用法で構成されており、書き言葉
として、文書や記事などに使うことを想定
しています。

公用語化により、次世代に言語を継承できる
環境を整えていければ幸いです。

編集者:千葉光