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5/31/2020

こ:接尾助詞 - 対格に対応

東北方言の公用語化の一環として、
東北(旧奥州)各地の言語資料を基に、
「こ」の助詞としての機能について整理
します。

こ:重要な機能 はリンク参照

編集:千葉光

目次:
01. 助詞の機能を持つ接尾語
02. 対格助詞としての機能
 ・仙台方言集(1919年)
 ・細倉の言葉(1956年)
03. 例文
04. 各地の言語資料より
 【青森】全般
 【秋田】由利
 【岩手:旧南部領】全般
 【宮城】仙台 県北
05. 編集後記

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助詞の機能を持つ接尾語

東北の話し言葉には、もともと日本語の
助詞「は・が・を」の用法がありません。

一方、名詞に付く接尾語「こ」には、
文脈により、助詞「は・が・を」に相当する
機能があります。

東北方言の公用語化において、
接尾語「こ」を、これらの助詞に相当する
用法のひとつとして整理していきます

その上で、接尾語でありながら、
助詞の働きをする「こ」の性格を踏まえ、
暫定的にですが、「接尾助詞」という
日本語の文法にはない概念を用いることに
します。

目次 ↑

対格助詞としての機能

ここでは、接尾語「こ」の、
対格助詞「を」に相当する機能に
ついて整理します。

対格助詞とは、格助詞「を」のように
名詞に接続し、目的格を形成する機能を
もつ助詞です。

次にとりあげる宮城県の言語資料では、
「こ」が助詞「を」の機能として使われる
ことを示しています。

目次 ↑

仙台方言集
仙台方言集(1919年、土井八枝)
(接尾)

目的格の「を」を省く時
句調をよくする為
接尾音として用ふる如し

「おどりこ おどる」(踊りを おどる)
「歌こ うたふ」(歌を うたふ)

この資料では、
目的格「を」を省くときに、
句調をよくするため、
「こ」を用いるとあります。

例文として、
・踊りおどる=踊りおどる
・歌うたう=歌うたう
を挙げており、「こ」が「を」に対応する
例を示しています。

目次 ↑

対格助詞としての機能 ↑

細倉の言葉
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)
(接尾)

添語。
有形の物体のみならず、
無形の名詞にもコをつけるのは
東北方言の大きな特徴である。

愛称とも限らない。
蛇コ、鬼コ、ともいうからである。
表現をなんとなく柔かくする添語で
全く意味がない。

又このコをつけた時は
次の助詞ヲは省かれる

「本コ トツテケロ」
(本をとつてくれ)等

この資料では、
「コ」をつけた時は、次の助詞「ヲ」は
省かれるとあります。

例文として、
トツテケロ=本とつてくれ
を挙げており、「コ」が「を」に対応する
例を示しています。

目次 ↑

対格助詞としての機能 ↑

例文

「こ」を使った例文を作成しました。

*日常・IT・社会・教育・ビジネス・
 手続き・形式的な文・経済
 に分けてあります。

日常:
本こ とってけろ
(本をとってくれ)

テレビの 電源こ 切る
(テレビの電源を切る)

食後の 茶碗こ 潤(うる)がす
(食後の茶碗を水に浸す)

溜まってきた 新聞こ 丸(まる)ぐ
(溜まってきた新聞を束ねる)

栗っこ しこたま 採ってきた
(栗をたくさん採ってきた)

大人こ 小ちゃこぐした感じの 賢え わらしだ
(大人を小さくした感じの賢い子供だ)

IT:
パスワードっこ 変更する
(パスワードを変更する)

PCの 電源こ 切る
(PCの電源を切る)

メールこ 送信する
(メールを送信する)

返信こ まっと 表示
(返信をさらに表示)

次の 投稿っこ 見る
(次の投稿を見る)

社会:
生ぎ物の 命こ まぶる
(生き物の命を守る)

真犯人こ めっけだ
(真犯人を見つけた)

多様性っこ 考える
(多様性を考える)

真相っこ ぼっかげる
(真相を追いかける)

不測の事態っこ 呼ばる
(不測の事態を呼ぶ)

教育:
歴史こ 勉強する
(歴史を勉強する)

関数っこ 組み合せる
(関数を組み合わせる)

ビジネス:
みんなして 情報っこ 共有する
(皆で情報を共有する)

問題っこ 解決して 事業っこ 継続する
(問題を解決して事業を継続する)

手続き:
窓口っこ 移管する
(窓口を移管する)

書類っこ 提出する
(書類を提出する)

内容っこ 編集する
(内容を編集する)

形式的な文:
具体的な 例っこ 以下さ 示す
(具体的な例を以下に示す)

経済:
店っこ 閉めだ
(店を閉めた)

金利こ 引ぎ上け゚る
(金利を引き上げる)

円こ 金貨ど 博(ばぐ)る
(円を金貨と交換する)

資産こ 運用して 将来さ 備える
(資産を運用して将来に備える)

街道(けァーど)こ 拡張する
(道路を拡張する)

世界情勢っこ 分析する
(世界情勢を分析する)

国債の 金利こ 下け゚る
(国債の金利を下げる)

国債っこ 購入して、資金こ 金融機関さ 供給する
(国債を購入し資金を金融機関に供給する)

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例文 ↑

各地の言語資料より

各地の言語資料より、「こ」が対格助詞と
して機能している用例をとりあげます。

【青森】全般
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
・本コ読むべ。(本ヲ読マウ)
・本コ習れ(え)す。(本ヲ習ヒマス)
・少し話コへす。(少シオ話ヲイタシマス)

この資料では、例文中、
「本コ、話コ」の「コ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

【秋田】由利地方
本荘の話しことば(佐藤勵子, 1988年)
こ(コ)
名詞のあとにつける

▲花っコつむ・風コひぐ・さげコ飲む

ヒバチコサ、スミコイレデ、
ヒコオゴシテ、ゴドグコカゲデ、
ヤガンコサ、ミンツコイレデ、
ユコワガシテケレ。

オギャクサンキタラ、キビチョコサ、
オヂャノハッパコイレデ、
ソゴノタナコカラ、チャワンコダシテ、
オヂャコダシテケレナ。

(火鉢に炭を入れて、
 火をおこして、五徳をかけて、
 やかんに水を入れて、
 お湯を沸かしてね。

 お客さんが来たら、急須に
 お茶の葉っぱを入れて、
 そこの棚からお茶碗を出して
 お茶を出して下さいね。)

この資料では、▲で始まる例文中、
「花っコつむ・風コひぐ・さげコ飲む」
の「っコ、コ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。
下部の長い例文も、同様です。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

【岩手:旧南部領】全般
岩手方言の語源(本堂寛, 2004年)
「ベゴッコ エサッコ ハダッテラジェ」
(牛が餌を催促しているよ)

「カリダ ホンコ ソンザシタガラ
 マヨッテキタジェ」
(借りた本を汚してしまったので、
 弁償してきたよ)

「クリッコ フッキ トッテキタガラ
 トナリサモ モッテゲ」
(栗をたくさん取ってきたから、
 お隣りにも持っていきなさい)

この資料では、例文中、
「エサッコ、ホンコ、クリッコ」
の「ッコ、コ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。

また、
「ベゴッコ(牛が)」の「ッコ」は、
主格助詞「が」に相当する
役割を果たしています。

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各地の言語資料より ↑

【宮城】仙台圏
仙台の方言(土井八枝, 1938年)
標準口語と仙台方言との対照

四二、
酒を飲んだり歌を歌つたりして
半日遊んで行きました。

酒のんだり うだ 歌ったりすて
半日遊んで行ぎすた。
注)太字は当方にて

この資料では、例文中、
「うだ(歌を)」の「こ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。


仙台弁句辞典[改訂版](黒田一之, 1993年)
大人 ひっつめだような
【句】大人小さくしたような、こまっしゃくれた子供の意

やんだごだ 大人コ ひっつめだような ガギ
*下線は当方にて

この資料では、「大人コ」の「コ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。

「大人」という名詞にも「 コ 」が
付きますが、これは決して小さいもの
だけに用途が限定されるわけではない
ことを示しています。

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各地の言語資料より ↑

【宮城】県北
石の巻弁 語彙編(1932年、弁天丸孝)


名詞の末尾に添へ、凡て形の小さきもの、
可愛らしきもの等に対して、
親しみの意を表して使用するもの。

次はその例です。

、えしょ(着物)
書物(ホン)、馬

外に接尾語として用へられる例。
のむ、おっしぇ(白粉)つける、
踊り踊る、釣りつる、歌歌ふ、等。

「ひと月ばり勉強したて役に立たぬ」
この場合は少しく卑下した言葉になる。
注)下線は当方にて

この資料では、例文中、
「酒こ・おっしぇこ・踊りこ・
釣りこ・歌こ・勉強こ」の「こ」が、
助詞「を」の役割を果たしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

東北(旧奥州)の言語を100年後の
その先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、言語を次世代に継承できる
環境を整えていければ幸いです。

編集:千葉光

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