東北(旧・奥州)6県の方言資料を基に、
意味・表記・活用・用例・語源などについて
整理しました。
編集:千葉光
目次:
01. 意味02. 表記・活用
- 表記①:えづえ
- 表記②:2音目を「づ」と表記
- 活用:
- いずい:
03. 江戸時代の文献
04. 語源
- 岩手方言の語源
- 語源探求 秋田方言辞典
- 津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる
05. 各地の言語資料より
青森:全般 津軽 南部
秋田:全般
岩手:全般 旧南部領 旧伊達領
山形:最上 村山 置賜
宮城:仙台 県北 県南
福島:会津 浜通北 浜通南 中通中部
06. 編集後記
意味
「えづえ」の意味を各地の言語資料を基に3系統に分類しました。
えづえ
○身体的な違和感
・目にゴミが入ったときの痛痒い感じ
・衣装のサイズが身体に合わない
・靴に石が入ったときの違和感
・入歯が合わない
○具合が悪い
・思うままにならず何となく具合が悪い、気持が悪い
・語りにくい
・し辛い
・書きにくい
○対人関係(※)
・目上の人、いやな人などに対しての
気まずさ、窮屈さ、邪魔、うざいなどの感情
※対人関係の用法は、青森・岩手・福島浜通りの言語資料に有
表記・活用
表記・活用について、各地の言語資料を基に整理しました。
表記・活用:
*え・あ中間音の表記法 はこちらから
表記①:えづえ
「えづえ」の表記は、以下に基づきます。【え】(1音目):※1 あぢこと、あちこと を参照
○江戸時代の東北の文献に基づく。
・ゑづい:盛岡の御國通辞(おくにつうじ)
・えづひ:仙台の浜荻(はまおぎ)
○古語「えずし」(室町時代の史記抄)に基づく。
【づ】(2音目):
○江戸時代の東北の文献に基づく。
・ゑづい:盛岡の御國通辞(おくにつうじ)
・えづひ:仙台の浜荻(はまおぎ)
○意味合いの異なる古語「えずし」と
区別する必要性を考慮。
○「さ行濁音」に対し、東北の言語では
「た行清音」が対応する語彙が見られる
ことから、整合性を考慮。
〔例〕
・えずい → えちこてァ、えんちこい、え(ン)つくらし(ねェ)
(北奥に分布)
・案じ事 → あち事、あつ事 ※1
【え】(3音目):
○「え・い」中間音に基づく。
・東北の言語では、母音単独「え・い」は、
その中間的な「え」となる。 ※2
※2 「え・い」中間音 を参照。
表記②:2音目を「づ」と表記
東北全体では、2音目をさ行濁音「ず(じ)」を用いて表記する
方言資料がほとんどですが、
これは古語「えずし」に 基づくものと思われます。
しかし、全体的には少ないですが、
2音目を、た行濁音「づ(ぢ)」を用いて
表記する方言資料も見られます。
青森:
エヅイ、エヅグする (東奧日用語辞典及青森県方言集、1932年)
青森(南部地方):
えづえ(青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典、1986年)
岩手(南部):
えぢー(九戸郡誌、1936年)
岩手(伊達):
えづい(平泉町史 自然編・民俗編1、1997年)
山形:
えづい(山形県方言集、1933年)
えづい(宮内方言集、1970年)
福島:
エヅエ(相馬方言考(1930年)
当方の調べた範囲では、
上記の方言資料に見られました。
活用:
形容詞の活用については、青森の方言資料「津軽木造新田地方の方言」に、
集録されています。
津軽木造新田地方の方言(2000年、田中茂)
エンズ
意味:目などさっぱりしない状態
品詞:形容詞
活用:
未然「エンズベ」「エンズエベ」
連用「エンズグなる」「エンズシてあった」
終止「エンズ」
連体「エンズ時」
仮定「エンズば」
音韻:
未然形のように
推量の助動詞「べ」に連続する時には
「エンズエ」と発音される様な感じを受ける。
「エンズ」と、「エ」と「ズ」の間に
撥音「ン」が入ることが多い。
但し、この撥音は、
一音節を占める程はっきりしたものでなく、
半音節という感じである。
「エ」は「イ」と「エ」の間の母音である。
その他:
「目にごみが入ってさっぱりしない」
(痛いまでいかない)状態、
背中に藁屑が入ってさっぱりしない様な状態、
靴を左右反対に履く人を
目の前に見ていてさっぱりしない心理状態
などを形容する言葉で、
方言の表現がピッタリ合っているななどと
感じさせられる言葉である。
用例:
マナゴエンズヘマネドゴデ
病院サ行ッテ来ル。
(目が痛くてどうにもならないから
病院に行って来る)
「エンズ」と表記していますが、
解説にあるとおり、「ン」は一音節でなく、
半音節という感じとあるので、
鼻音のような発音と捉えた方が
よいのかもしれません。
活用についてですが、
この方言資料以外で、
体系的に活用形を示しているものは、
当方の調べた範囲では見られませんでした。
前述の「表記、活用」の画像にて
形容詞の活用を示していますが、
こちらの方言資料も参考にしました。
いずい:
各地の方言資料では、先頭を「い」と表記する
「いずい」も見られます。
本来、東北の言語では
母音単独「え・い」は、
その中間的な発音「え」になりますが、
国語教育、マスメディアなどの影響により、
「い・え」を区別する意識が
浸透したことが要因と思われます。
宮城・津軽・岩手・福島(浜通り)の方言資料を
とりあげます。
細倉の言葉(1956年、世古正昭)
えずい、いずい
(発音の不明瞭からどちらともとれるのである。)
解説:
眼にごみが入ったような感触、
或は衣服と体の間に何か藁のようなものでも
入ったような感触をいう形容詞。
例:
「マナグサ、何カ入ッテ、イズイヤア 」
(目に何かものが入って気持悪く刺戟(しげき)する)
この方言資料では、
発音の不明瞭から「え・い」の
どちらともとれるとしています。
江戸時代の仙台の方言資料「浜荻」では
「えづひ」と表記されているように
本来は先頭を「え」と発音されていたものが
「い・え」を区別する意識の浸透により
「いずい」に置き換わっていったものと
思われます。
津軽弁死語辞典(2000年、泉谷栄)
いずい
意味:痛がゆい。気まずくて近づきたくない。
岩手方言集(1975年、小松代融一)
イズ
意味:きゆうくつ
原町市の方言 わたしたちの古里言葉(1999年、高野徳)
いずい※かからしい → うるさい
意味:目障り かからしい
いわきの方言いろいろ(1999年、ヤッチキ・ヤッペGROUP)
いずい
意味:違和感がある
前述の「細倉の言葉」と同じく、
「え」が「い」に置き換わる現象は
東北の広範囲に見られるようです。
江戸時代の文献
以下の江戸時代の文献に「ゑづい・えづひ」が見られます。
・御國通辭(おくにつうじ):盛岡(江戸寛政2年)
・浜荻(はまおぎ) :仙台(江戸末期)
南部叢書 第十冊(1929年、南部叢書刊行会)
御國通辞
ゑづい
しにくい
仙台方言音韻考(1932年、小倉進平)
浜荻
えづひ
気味のわろき事、又取計にくき事にも、
江戸にてきびがわるひ、しにくひなどいふたぐひ。
「御國通辞」は盛岡言葉と江戸言葉を、
「浜荻」は仙台言葉と江戸言葉を
対比する構成になっています。
両者とも
「ゑづい・えづひ」に対応する江戸言葉として
「しにくい」を挙げています。
「浜荻」では「えづひ」の意味を
「取計にくき事」とし、
これに対応する江戸言葉を
「しにくひ(い)」としています。
「取計にくき事」には、
物事を思うように運べない、
穏便に取りはからう事ができず
具合が悪いなどの意味合いがあり、
各地の方言資料に集録されているものと
同じ意味合いとなります。
語源
語源について解説のある岩手・秋田・津軽の方言資料をとりあげます。
・岩手方言の語源(2004年)
・語源探求 秋田方言辞典(2001年)
・津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる(1998年)
岩手方言の語源
岩手方言の語源(2004年、本堂寛)エズ(形容詞)―--- 引用ここまで ---
目や衣服の間に何かが入ったようで異物感があり、
痛かったりかゆかったりする
「クズサ イシッコ ヘァッタヨンデ エズゴド」
(靴に石が入ったようで、異物感があるなあ)
のような言い方をする。
原形は「えずい」である。
青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・
・東京八丈島・神奈川・新潟の
ほぼ東日本で広く使われているが、
恐ろしい、怖い、の意味では、
福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎
でも使っている。
文献に最初に現れるのは、
室町時代中期の『史記抄』の
「汚なさうに、えずい色が見へたぞ」であって、
この場合は、見るに耐えないほど不快だ、
という意味で使っている。
江戸時代中期の『雑俳・花笠』の
「太いぞや、売女が足のゑづひ(エズイ)程」
も同じ意味である。
これが岩手方言のような意味として使われた例では、
江戸時代中期の『書言字考節用集』の
「エズシ〔字彙〕物が目の中に入る也」や、
江戸時代後期の『滑稽本・大千世界楽屋探』の
「め(目)ん中へ入れさしっても、えづくは思はっしゃるまいさ」などがある。
いずれも東国語としての江戸言葉による記述である。
元の意味から変化して使われるようになったものと思われる。
ただし、語源については、平安時代の文献から現れる、
恐ろしい、などの意味の
「おぞい」「おぞましい」と関係付ける説があるがはっきりしない。
この方言資料では、
「不快」の意味で、
・「史記抄」(室町時代中期)
・「雑俳・花笠」(江戸時代中期)
東北で用いられるものと同じ意味で
・「書言字考節用集」(江戸時代中期)をあげています。
・「滑稽本・大千世界楽屋探」(江戸時代後期)
江戸時代中期には東国語として
江戸でも使われていたことが分かります。
元の「不快」などの意味から変化して
使われるようになったものと思われる
としています。
語源探求 秋田方言辞典
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)えずい・えずこい・えちこたい〔形〕--- 引用ここまで ---
意味:
目や衣服の間に異物が入ったときの違和感を表す語。
目にごみが入ってごろごろする。
着物が、背中に異物が入ったり、
肌になじまなかったりしてしっくりこない。
〔エンジ〕鹿角郡 山本郡 南秋田郡 平鹿郡 雄勝郡
〔エンズ〕鹿角郡
〔エンジー〕南秋田郡
〔エンジコエ〕平鹿郡
〔エンチコテァ〕鹿角郡
〔エンチコタイ・エンチョコタイ〕鹿角郡
用例:
「マナグサ ゴミ 入(ハ)ッテ エンジクテ アゲラエネァ」
「マナグサ 入レデモ エンジグネァ」
「着物ァ マグレデ エンチコテァ」
「塵ァ 背中サ 入(ハ)テ エンチコテァ」
〔エンジ・エンズ・エンジー・エンジコエ〕は、
主として目、
〔エンチコテァ〕類は主として着物や肌の違和感に用いる。
〔エンズイ→エンジー→エンズ・エンジ〕と転じたもの。
〔語源考察〕
えずい〔形〕
①胸がむかつくほど不快である。いとわしく気持ちが悪い。
*史記抄 - 十七・佞幸列伝
「きたなさうに、えすい色が見へたぞ」(室町中期)
*雑俳・花笠
「ふといぞや・売女があしのゑづひ程」
②自分に害を加えそうなもの、
強いものなどに対して恐ろしく感じる。こわい。
*日葡辞書
「エズイ〈訳〉おそろしい物事」
*物類称呼 - 五
「おそろし こはし〈略〉西国にて ゑずいと云」
③目にごみが入ったときのような感じである。
*書言字考節用集 - 九
「眯 エズシ」
*改正増補和英語林集成
「エヅシ〈訳〉
ちょうど砂がはいったときのような目の刺激または痛み」
〈『日本国語大辞典』〉
―①の不快感から③の違和感に転じたものであろう。
方言では、さらに衣服についての違和感にも転じた。
エズイの語幹エズに
形容詞をつくる接尾語コイが付いて
エズコイとなり、
この語幹エズコに
さらに形容詞をつくる接尾語タイが付いて
エズコタイとなった。
〔エンチコタイ〕は〔エンズコタイ〕の鼻清音化。
〔エンズコタイ→エンジコテァ→エンチコテァ〕。
語源については、
a. 吐き気を催す意の「ゑづく(嘔吐)」と同源とする説と
b.「おずし」の転で、恐ろしい、気味悪いの意が原義とする説がある。
『方言に生きる古語』は、
「上方では恐ろしい意として
エズイ、オッカナイの順に現れ、
それが東国に進出して、
エズイそして少し遅れてオッカナイが現れ、
特に東北地方では、伝播が停滞して、
エズイ・オッカナイが間をおかずに進出したため、
エズイを違和感を現す意、
オッカナイを恐ろしい意に
用い分けしたものとみられる」
としている。
この方言資料では、
「不快・気持ち悪い」の意味で
・「史記抄」(室町時代中期)
・「雑俳・花笠」(江戸時代中期)
「怖ろしい・こわい」の意味で
・「日葡辞書(にっぽじしょ)」(1603年)
・「物類称呼(ぶつるいしょうこ)」(1775年)
東北で用いられるものと同じ意味で
・「書言字考節用集」(江戸時代中期)をあげており、
・「改正増補和英語林集成」(明治時代中期)
〔語源考察〕の解説にあるように
「不快感」から「違和感」へ転じたものであろう
としています。
解説中の「ゑづく(嘔吐)」については、
東北の広範囲の方言資料に
同じ意味の 「えずぐ・えずぎ」が見られます。
発音の解説では、
「エンズ → エンジ → エンチ」と、
「ジ→チ」への転訛をあげていますが、
これは「心配」を意味する
「あぢこと・あちこと」にもみられる現象です。
アンジゴト(案じ事):あぢこと・あちこと を参照。
→ アヂコト → アチコト・アンチコト
津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる
津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる(1998年、小笠原功)①古語の残存--- 引用ここまで ---
◯えずえ
意味:
目にものが入って、少しゴロゴロとした痛み。
用例:
スキ場(じょ)、天気好(え)過ぎで、眼(まなぐ)えじぐなてきた。
ゴグル掛げで、良(え)男ネなるがな。」
解説:
「えずい」は、「えず(嘔)く」と同源で、
胸がむかつくような不快感を言うが、
更に発展して、むずがゆい変な気持ちだということをも
表わす言葉になった。
津軽弁では、目に小さいゴミが入ったときの感じなどをあらわす。
「眯、エズシ、物入目中也(書言字考節用集)」
「我が噂を言ふやら、目鼻さてさてえずい事かな(吉原こまざらい)」
この方言資料では、
東北で用いられるものと同じ意味で
・「書言字考節用集」(江戸時代中期)をあげています。
・「吉原こまざらい」(江戸寛文頃)
「えずい」は「えずく(吐き気を催す意)」と同源で、
更に発展して、むずがゆい変な気持ちをも
表わすようになったとしています。
ここまで、
語源について解説のある方言資料を
とりあげてきました。
多くの方言資料では、
東北の語彙の語源について遡る時、
文献の豊富な西日本に、
その由来を求める傾向にあります。
「えずえ」であれば、室町時代の文献ですが、
それでは、同じ時代に東北人は「えずえ」を
使っていなかったのでしょうか?
文献が残されていないだけで、
使われれていた可能性もあります。
そのような事情を鑑みれば、
文献の豊富な西日本に安易に由来を求めることは、
東北のアイデンティティや文化を
貶めることにつながりかねないと
考えることもできます。
ここでとりあげた「えづえ」のように
東北で使われている語彙で
西日本と意味合いが違うものであれば、
あくまで東北独自の語彙として
認めていく必要性があります。
各地の方言資料から
各地の方言資料から、意味・用例などを整理しました。
注)方言資料名の( )内は、発行年、著者名
青森・秋田・岩手・山形では、
・えず、えじ(2音節)も、みられます。
・えずー、えじー(2音目の語尾を伸ばす)
・えんず、えんずえ、えんじ(2音目に撥音「ん」または、鼻母音が入る)
青森(全般)
東奧日用語辞典及青森県方言集(1932年、東奥日報社)エヅイ
意味:気持悪い
エヅグする
意味:居辛くする、邪魔にする
青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
エンジイ
意味:
思ふまゝにならず気持の悪いこと。
主人が来たからエジイナァ。
目にゴミが入つてエジイ。
なんぼエジイ人だば
品詞:形容詞
言語使用区域:津軽、南部
青森(津軽地方)
津軽のことば 第一巻(1957年、鳴海助一)えじ 形容詞。
意味は、
①眼にゴミが入るか、赤すじがかかる(充血)かした時
「マナグァえじしテ」という。
②目上の人か、いやな人か、仇同志の人かが、側に居ると、
「気がおける・邪魔になる・じれったい」
そんなとき、
「あの人いればえじしテ」とか、
「あの人バ、みんなえじがる」などという。
ふるさと歳時記 パート2 赤石奥地の方言記録(1999年、鶴田要一郎)
えんじ・えんちこい・えんちこらし
意味:目に異物が入ってごろごろすること。
えんじ人
意味:とっつきにくい人。
苦虫をかみつぶしたような人。
青森(南部地方)
青森県五戸語彙(1963年、能田多代子)エズイ
意味:
邪魔になるさま。
目に塵などの入りたる時に云う。
また人を敬遠するにも。
「後見人の叔父がエズイから何も出来ない」。
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(1986年、寺井義弘)
えずえ(形)古語※井原西鶴、諸艶大鑑(しょえん おおかがみ)、1684年刊。
意味:窮屈だ。いやだ。何となく窮屈で具合がわるいこと。
①
あの家(エ)アえづえ家(エ)だ。
(あの家(ウチ)は堅苦しくて窮屈な家だ)。
あの人ァえづえ人だ
(あの人は窮屈な人だ)。
この着物アえづえ
(この着物は着にくい)。
目にゴミが入ってえづい
(目にゴミが入ってむずかゆい)。
一般にあらゆる厭わしいことに用いる。
②
わが噂を言ふやら、目鼻さてさてえずい事かな
<評判記 吉原こまざらい>(相手の言動に当惑する気分)
扇子屋の遊女の口説の「ああ、えづい」
<西鶴諸艶大鑑二>
えず(名) 意味:えずい(形)の語幹。窮屈。
南部のことば(1992年、佐藤政五郎)
えず・えずい 古語
意味:窮屈だ、しっくりこない、ぴったりしない。
①
背中えずい。手、入れで見て呉ろ、何がはいってらごった。
目(まなく) さ ゴミぁはいって えずい、洗って呉ろ。
②精神的面でも 俺居れば、えずがべすかい、隣の室さ行って居るぁ。
※書言字節用集「眯エズシ、物目中也」
諺:
寒い時(じぎ)ぁ着えずものはない、
飢渇(けがじ)の時(じぎ)ぁ食えずものはない。
(寒い時は着て えずい というものはない、
飢渇(けがじ)の時は食えないというものはない)
(階上)
「えずー・えじー・いずい」など。
えずか°る
意味:窮屈がる、人を煙たがる。
えずくする
意味:邪魔にする
七戸方言集(2008年、石田善三郎)
エ(ン)ズ
意味:
1.
目にごみが入ったりして目が開きにくい感じ、
また着ている着物などがきつかったりなどして、
しっくりしない感じのさま
2.気兼ねしなければならないような、窮屈さを感じるさま、
『先生の隣りだと-
-カ°ル
意味:えずいという気持ちを態度に現わす
-クラシ(ネェ)=エ(ン)ツクラシ(ネェ)
意味:えずいの強め
秋田(全般)
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)えんじ(形)※「ん」は鼻母音
意味:眼がいたい。
用例:「ごみがはいつて眼がえじ。」
方言採集地:平鹿郡
読む方言辞典 秋田県 能代・山本編(1995年、工藤泰二)
えず(じ)い 〈形〉
意味:
眼に埃などのはいった感じ。
新しい下着が着慣れなくてムズムズする感じなど。
〔東北・他〕。
用例:
「まなぐさ ごみ はって、エジして ならね」
(目にゴミがはいってモソモソしてならない)。
おらほの言葉 西木村(1997年、佐藤ミキ子)
エズイ 形容詞。
意味:目に物が入って痛い。
岩手(全般)
岩手方言集(1975年、小松代融一)エジー
意味:目に埃などが入ってじゃまになるさま
エズ
意味:工合わるい、目に塵などの入つた時のさま
エズイ
意味:しにくい
エズー
意味:えごい、きゆうくつなさま
岩手(旧南部領)
九戸郡誌(1936年、岩手県教育会九戸郡部会)えぢー
(一)邪魔になる
(二)眼に埃など入つた時ざらざら不快に痛むこと
川井村郷土誌 下巻(1962、川井村郷土誌編纂委員会)
えんずい
意味:窮屈
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
エズー(形)
意味:
①目にごみがはいったときのような感じ。
身体に合わない洋服を着たりしたときの感じ。
②その他、何となくぐあいが悪いときにいう。
軽米・ふるさと言葉(1987年、軽米町教育委員会)
エズー
意味:きゅうくつだ。じゃまだ
古語:「えずい(しっくりしない。違和感がある)」
用例:
目にごみが入ってエズー。
あの人が居ればエズー。
岩手(旧伊達領)
黄海村史(1960年、黄海村史編纂委員会)えずい
意味:窮屈な感じ。
気仙ことば(1965年、佐藤文治)
エズィ、エンジィ(形)
解説:
着る物、冠るもの、履く物、
なんでも肌付きがしっくりしない感じを
表わす語。
ただの「窮屈」でもないがこれに近い。
人にもエンジイがられる人
というのがある。
何となく遠慮な感じ、
親しみにくい相手がそんな人。
さしあたり本家のおじさんなどが
それになるか。
平泉町史 自然編・民俗編1(1997年、平泉町史編纂委員会)
平泉の方言 小松代融一注)す°:語中・語尾にあるとき、息を鼻から抜きながら発音する。
えす°え
解説:
えづい。
体でも心でもどことなく
しっくりしないこと、
着物など、襟元や腋のあたり、
ぴったりとしない感じ。
また、遠慮や気遣いなど
しなければならない人の前にいて、
坐作発声などに気がおける場合
などに言う。
「このそでんどごぁえす°ぇな
=この袖のところが へん きゅうくつ だな」。
適切な共通語見当らない。
山形(最上)
続及位(のぞき)の方言(1987年、高橋良雄)えず(形)
意味:目にごみが入ってごろごろすること。
用例:
「まなぐさ ごみあへぁて えずはげぁ、とてくんねぁが=
目にごみが入ってごろごろするから、取ってくれないか」
山形(村山)
山形県方言集(1933年、山形県師範学校)えづい
意味:むず痒い
品詞:形容詞
用例:足の裏がえづい。(足の裏がむずかゆい。)
使用地方:村山
大石田のとんとむがす(2019年、大石田とんとむがすの会)
えんずえ
意味:痛い。目にごみなどが入ってごろごろする痛さ。
山形(置賜)
米澤言音考(1902年、内田慶三)えす°え(活用 えずく)注)方言資料では「す°」の「°」を黒点で表示
意味:眼ノ、痛痒(イタガユ)キ感。
用例:「なんだか、目ぁ、-」
凡例
語頭ニ、ん音ヲ帯ブルモノ、
ンが ンぎ ンぐ ンげ ンご
ノ如ク、
うンぐひす(鶯)
はンがき(端書)ノ類ハ、
通常濁音ト区別スル為ニ、
仮名ノ右方ニ、一個ノ黒点ヲ施ス。
(凡例から鼻音の説明を抜粋)
宮内方言集(1970年、安達正巳)
えづい
意味:むずがゆい
置賜のことば百科(2007年、菊地直)
えずえ[形]
意味:痛痒い。「えずい」の転。
用例:「まなくたま えずえ」
解説:
目にごみが入ったような感じ。
何となく具合が悪い。
特に、眼の痛痒い感じの強いさま。
宮城(仙台)
仙台方言考(1936年、真山彬)ゑずい
解説: ゑずいは異物の挿入して違和を覚ゆることなり。 ~中略~ 今のくすぐったいと云ふほどのことにて、 悪洒落わるぼめに傾城等の当惑せる時に云ふ言葉なり。
仙台の方言(1938年、土井八枝)
えずい
意味:着物が身体に合はず、窮屈で着工合のわるいこと。
用例:
「なんだかえずいや、寸法違ったんであんめか」
(何だか変だこと、寸法が違ったのではあるまいか)
自伝的仙台弁(1966年、石川鈴子)
えずい
意味:眼にごみなどのはいった違和感。
着物など窮屈な感じ。
宮城(県北)
石之巻弁 語彙編(1932年、弁天丸孝)えずえ
意味:着物又身につけるものの窮屈な意味。
用例:「はきなれぬ靴わえずえ」
方言 みなみかた(1997年、南方町文化財保護委員会)
えずい(エズエ)
解説:
しっくりいかないこと
具合がわるいこと
着物が身体になじまない感じ
歯にものが挟まった感じ
語りにくい
し辛い
書きにくい
など
いずれも
えずいで表現される
宮城(県南)
丸森町史(1984年、丸森町史編さん委員会)えずい
意味:違和感がある
用例:眼さごみへえってえずい。
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(1987年、白石市史編さん委員会)
えずえ(えずい)
意味:
からだの全部、または、
一部(主に歯、眼、背中など)が、
なにかの理由で気持にさわる、違和感を持つ。
用例:
「きのう、仙台で買ってきた既製品の洋服は、
値段は安いが、からだに合わないので、
なんとなく、えずえ」
「眼さ入れでも、えずぐねーぐれー、
めんこがってる(かわいがっている)末娘」
白石地方の言葉(2007年、片倉信光)
エズイ
意味:窮屈な。
用例:
「エズクテワガンネ コノ衣装」
(窮屈でとても駄目だ、この衣装は。)
福島(会津)
会津方言集(1978年、菊地芳男)えずい
意味:はっきりしない
用例:近頃まなぐ(目)えずくて困った
福島(浜通り北部)
相馬方言考(1973年、新妻三男)エヅエ
意味:眼がかすむにいふ
(眠かったり、ごみがはいったりした場合)
用例:エヅエ目してる、眠てぇーんだらほれぇ、寝せろは。
原町市の方言 わたしたちの古里言葉(1999年、高野徳)
いずい※かからしい = うるさい
意味:目障り かからしい
福島(浜通り南部)
いわき市小川町地方の方言(1988年、草野二郎)えずえ
意味:窮屈な感じ、違和感。
解説:総入歯にしたらなんだが口ん中がえずえなあ。
いわきの方言いろいろ(1999年、ヤッチキ・ヤッペGROUP)
いずい
意味:違和感がある
福島(中通り中部)
福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)エズイ
意味:具合悪い
用例:あいづ えずい かお してた
(あの人は具合悪い顔をしていた)
使用地域:中通中部
郡山の方言(1989年、福島県郡山市教育委員会)
エズイ
意味:かゆい
編集後記
東北(旧・奥州)6県の言語を後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。
奥州語の文法は、
東北6県の方言資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。
公用語化により、東北の言語を
次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。
編集者:千葉光