東北(旧・奥州)6県の言語資料を基に、
意味、表記、語源などについて
整理しました。
奥州語の文法は、
奥州/東北が独立国家へ移行した際、
その「公用語」として機能することを
目的としています。
目次:
・意味・表記
・語源
・江戸時代の言語資料
・用法
・各地の言語資料から
青森:全般 津軽 南部
秋田:全般 由利 鹿角
岩手:全般 旧南部領 旧伊達領
山形:全般 庄内 最上 村山 置賜
宮城:仙台 県北 県南
福島:全般 会津 中通南 浜通北 浜通南
・編集後記
意味
案ぢこと、案ちこと
〔読み方〕あぢこと・あちこと
〔意味〕心配、心配ごと、不安
〔原形〕案じごと
表記
表記について、各地の言語資料を基に整理しました。
表記:
<表記法について>
・「~こと」を合略仮名で表記
・「~ね」は「え・あ」中間音のため、変体仮名で表記
上記画像の品詞ごとの意味を整理しました。
(左から)かな表記・漢字表記・意味
〈名詞〉
あぢこと / 案ぢこと = 心配
あちこと / 案ちこと = 心配
〈形容動詞〉
あぢ (ち) ことだ / 案ぢ (ち) ことだ = 心配だ
〈サ変動詞〉
あぢ (ち) ことする / 案ぢ (ち) ことする = 心配する
〈動詞〉
あぢ (ち) ことか°る / 案ぢ (ち) ことか°る = 不安がる
〈形容詞〉
あぢ (ち) ことね / 案ぢ (ち) ことね = 心配ない
各地の言語資料では
数通りの言い方が収録されていますが、
以下6系統に分類しました。
①あぢ事(鼻音「あンぢ事」を含む)
- 言語資料:奥州/東北6県
②あち事(鼻音「あンち事」を含む)
- 言語資料:秋田、岩手、山形、福島
③あづ事(鼻音「あンづ事」を含む)
- 言語資料:福島を除く東北5県
④あつ事(鼻音「あンつ事」を含む)
- 言語資料:秋田、山形、宮城
⑤あんち事(濁音「あんぢ事」を含む)
- 言語資料:秋田、岩手、山形
⑥あんつ事(濁音「あんづ事」を含む)
- 言語資料:福島を除く東北5県
※「事」の読み方は「こと、ごと、こど、ごど」の4通りあり。
<補足>
③④:2音目「づ、つ」は、福島に見られず。
⑤⑥:2音目「ん」は、福島に見られず。
表記については、
奥州/東北6県共通の①、
広範囲に見られる②を基に、
以下の法則で整理しました。
①あぢこと
ぢ:清音「ち」との整合性を踏まえ、
「ぢ」に統一
こと:奥州/東北全体の言語資料を基に
整合性を踏まえ、清音に統一
②あちこと
ち:「ち、つ」を「ち」に統一
こと:奥州/東北全体の言語資料を基に
整合性を踏まえ、清音に統一
①について、
各地のほとんどの言語資料では、
「案じごと」に基づき
「じ」を用いて表記していますが、
以下の言語資料では
「ぢ」を用いて表記しています。
「ぢ」を用いて表記:
・山形県方言集
・山形県方言辞典
・真室川の方言・民俗・子供の遊び
・会津方言辞典
「語源探求 秋田方言辞典」には
14通りの言い方が収録されていますが、
前述の6系統の言い方が全て含まれて
います。
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
あんちこと〔名〕〔他サ変〕〔形動〕※小文字「ン」は鼻音
意味:心配。心配事。気苦労。
〔アンチコト〕仙北郡 平鹿郡
〔アンチコド〕鹿角郡 北秋田郡 山本郡 南秋田郡 秋田市
河辺郡 仙北郡 雄勝郡 由利郡
〔アンチゴド〕河辺郡 由利郡
〔アンチコト〕鹿角郡 山本郡 秋田市 平鹿郡 雄勝郡 由利郡
〔アンチゴト〕河辺郡
〔アンチコド〕鹿角郡 山本郡 河辺郡
〔アンジコト〕山本郡 平鹿郡
〔アンジゴト〕仙北郡
〔アンジコド〕北秋田郡 山本郡 仙北郡(田沢湖) 雄勝郡
〔アンツコト〕北秋田郡 山本郡 南秋田郡
〔アンツコド〕南秋田郡 由利郡
〔アンツコド〕南秋田郡
〔アンズコト〕北秋田郡
〔アンズコド〕仙北郡
―郷土の方言では、
「あんじごと」と連濁を起こさず、
アンジコトであること、
サ変に活用させること、
また、形容動詞として
用いることがあることに注意を要する。
このように同じ秋田県内でも、
これだけの言い方があります。
「事」の言い方は
「こと、ごと、こど、ごど」と
4通りありますが、
「ごど」と濁音が続く言い方は
少ないようです。
奥州/東北の語彙では
2音目以降の「か行・た行」が
濁音化する傾向にありますが、
各地の言語資料では、清音「こと」が
多く見られます。
濁音化する場合、
福島では「ごと」が多く、
北奥では「こど」が多く見られます。
語源
語源について解説のある以下の言語資料をとりあげます。
・岩手方言の語源(2004年)
・語源探求 秋田方言辞典(2001年)
岩手方言の語源(2004年、本堂寛)
アンズコ°ド(名詞)
意味:心配事。心配。気苦労
用例:
「オメハン ナニガ アンズコ°ドデモ アルノスカ」
(あなたは何か心配な事があるのですか)
のような言い方をする。
解説:
原形は動詞「あんじる」(文語「あんず」)の連用形と
名詞「こと」の複合された「あんじごと(案じ事)」である。
江戸時代中期の『浄瑠璃・大職冠』に
「もしかね松では有るまいかとそれはいくせの(=大変な)あんじごと」とあって、
心配で心配でたまらない気持ちを述べている。
この語は、これ以前の文献に見ることはできないが、
心の中であれこれ考えるという意味の、
動詞「あんず(案ず)」は、古い文献では、
平安時代中期に書かれた『竹取物語』に、
かぐや姫が、言い寄ってくる男の計略を見抜いて
悩んでいる気持ちを「あんずる」と言っている。
それ以後の文献にも多く現れるので、
「あんじごと」という言い方の成立も、
おそらく、江戸時代以前にさかのぼることが
できるだろう。
方言としても、
青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島・新潟・
富山・岐阜・三重・京都・兵庫・和歌山・鳥取・島根の
広い地域に分布している。
ただ、語としての「しんぱいごと」も
広く使われているので、
「あんじごと」と「しんぱいごと」の使い分けは
どのようになっているか興味ある課題である。
この言語資料によると、
「あんじごと」がみられる最古の文献は、
江戸時代中期の浄瑠璃・大職冠(たいしょかん)です。
ただし原形の「あんず」が
平安時代中期の「竹取物語」に見られ、
それ以後の文献にも多く現れることから、
おそらく「あんじごと」の成立も、
江戸時代以前にさかのぼることが
できるだろうとしています。
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
あんちこと〔名〕〔他サ変〕〔形動〕
意味:心配。心配事。気苦労。
〔語源考察〕
あんじごと〔案じ事〕〔名〕
気にかかっていること。心配事。
*浄瑠璃・大職冠 - 一
「もしかね松では有まいかと それはいくせの あんじごと」
*置き土産〈国木田独歩〉
「吉さんだって少しは案事も有らうよ」
〈『日本国語大辞典』〉
あんじる〔案〕〔他サ上一〕
(「案ずる(サ変)」が上一段化したもの。近世以降に見られる)心配する。江戸語。
*天明二年・世界の幕なし
「そヲしねへと内であんじるから」
〈『江戸語の辞典』〉
―郷土の方言では、
「あんじごと」と連濁を起こさず、
アンジコトであること、
サ変に活用させること、
また、形容動詞として
用いることがあることに注意を要する。
〔アンチコト〕は〔アンジコト〕の
ジの鼻清音化したもの。
すなわち、
〔アンジコト→アンジコト→アンチコト→アンチコト〕
と転じたもの。
この言語資料でも、最古の文献として
浄瑠璃・大職冠をあげていますが、
このほかに「江戸語の辞典」からの引用で
近世以降に見られる「あんじる」も
あげています。
江戸時代の言語資料
以下の江戸時代の言語資料から抜粋します。
・御國通辭(おくにつうじ):盛岡(江戸寛政2年)
・浜荻(はまおぎ) :仙台(江戸末期)
南部叢書 第十冊(1929年、南部叢書刊行会)
御國通辭
御國辭:案じ事
江戸詞:氣苦勞
御國通辞は
盛岡言葉(御國辭)と江戸言葉(江戸詞)を、
対比する構成になっており、
「案じ事」に対応する江戸言葉を
「氣苦勞」としています。
この「案じ事」の読み方ですが、
後述の浜荻と同じく「あじこと」と思われます。
仙台方言音韻考(1932年、小倉進平)
浜荻
あじこと 仙臺
意味:案じこと也。
ものあんじ 江戸
「浜荻」は
仙台言葉と江戸言葉を対比する構成になっており、
「あじこと」に対応する江戸言葉を
「ものあんじ」としています。
用法
「あぢ(ち)こと」は名詞ですが、動詞、形容詞の用法にて
収録されている言語資料をとりあげます。
津軽のことば 第一巻(1957年、鳴海助一)
あんつことだ
解説:
形容動詞。
あんつことだ。不安だ。恐ろしい。気にかかる等の意味。
※ノハラサ シ タェデ、あんつこどがテ、ケサナェデ ソノママ ネゲデエタ。
○子供等が、野原に火を焚いて、(だんだん燃えてくるので)おっかなくなって、消さないでそのまま逃げていった。
※カミナリァ ナテ、オジルガド オモテ、あんつこどでエタデァ。(雷鳴・落雷のこと)
○神鳴サマが鳴って、落ちるかと思って、大へん心配したよ(こわくてあった)
※ヤマサ エテ、マゴマゴ ヘルウジネ日ガ暮レルドユ、ズンブあんつこどでアッタェ。
○山へ行って道をまちがえて、うろうろしているうちに、日が暮れるという(腹が空きるのに)ずいぶん不安であったよ。
(津軽の人は、不安・心配・危い等を一緒にして、「オッカナイ」ともいう)
▲語源は「案じ事」であろう。
「心配ごと」も同じ。案じ事=名詞と助動詞。
それが更に形容動詞ともなる。
案じこどがる=動詞。
例文に、
動詞「がる」が付いた
あんつこどがテ(おっかなくなって)
が見られます。
自伝的仙台弁(1966年、石川鈴子)
あつこと - ねえ
意味:案ずることない。心配いらない。
用例:「用意はできているから―」
助動詞「ねえ」がついた
「あつことねえ」が見られます。
直訳すれば「心配ない」となります。
各地の言語資料から
各地の言語資料から、意味、用例などを整理しました。
注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名
青森(全般)
東奥日用語辞典及青森県方言集(1932年、東奥日報社)アヅコド
意味:心配
アンツコド
意味:心配事
青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
アンヅコド補足:〔ã〕は母音の「鼻音化」をあらわす。
意味:心配
品詞:名詞
記号:ãntsikodo
使用区域:津軽、南部
〔i〕は上部に中舌寄りの〔¨〕(ウムラウト)付き
青森(津軽地方)
津軽語彙 第5編 砂子瀬語彙(1958年、松木明)ウシアジコド(名)※太字は当方にて
解説:
いささか心配になること
アジコドは案じ事、
ウシはイササカの意を示す接頭語
用例:
コレァ サダダ ナンボ ウシアジコドダベ
これは困ったことだ
なんとまァ心配になることだろうな
ふるさと歳時記 パート2 赤石奥地の方言記録(1999年、鶴田要一郎)
あんつこどだ・あんつこだ
意味:心配だ。
津軽弁死語辞典(2000年、泉谷栄)
【あんつこど】
意味:心配ごと。悩みごと。
青森(南部地方)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(1986年、寺井義弘)あずこど(名)
意味:心配な事
あずこ°ど(名)
意味:案ぜられること。
あんずこど(名)
意味:心配ごと。あずこど(前述)。
用例:あんずことであんす
(心配なこと)です。
秋田(全般)
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)あんずこど(名)※言語資料上では、鼻母音を文字の下方右側に
意味:心配事。
方言採集地:仙北郡
あんちこと(名)
意味:しんぱい(心配)
方言採集地:鹿角郡、山本郡、平鹿郡、雄勝郡
あんちこど(名)
意味:心配。
方言採集地:南秋田郡、秋田市、河邊郡、由利郡
あんちこと(名)
意味:心配事。
方言採集地:仙北郡
小文字の「ん」と細書して表示。
田代町史資料 第四輯 田代町の方言(1983年、秋田県田代町)
アジコド・アジコタ
解説:
心配ごと・心配だ・案じられるということである。
アジコド・アジコタは、案じる事・案じる事だ、
が短縮された、ことばである。
二ツ井町史(1977年、二ツ井町町史編さん委員会)
アンツコト
意味:心配すること。
男鹿の方言集(1993年、佐藤尚太郎)
アツコド
意味:心配事。気に掛ること。
読む方言辞典 秋田県 能代・山本編(1995年、工藤泰二)
あじこど
意味:あんじごと(案じ事)。心配。考え事。
用例:「おひてアジコトしてだどごだ」
(遅いというので心配していたところだ)。
おらほの言葉 西木村(1997年、佐藤ミキ子)
アジゴト 名詞。
意味:案じごと。気にかかること。心配事。不安。
アジゴトバリ
意味:心配ばかりして居なければならない。
アンヂコド 名詞。
意味:案じごと。心配ごと。
秋田(由利地方)
由利町史(1970年、由利町史編さん委員会)あんちこど
意味:案じ事、心配
秋田の方言(1970年、打矢義雄)
アンツコド
意味:心配事
該当する漢字・漢語:案じること
用例:学校の帰りがおそい。
アンツコドだなー。
本荘・由利のことばっこ(2004年、本荘市教育委員会)
あちこと・あじごと・あんちごど・あんちこと〔名〕
意味:心配。心配事。気苦労。
語源:「あんじこと(案じ事)」の音変化した語。
秋田(鹿角地方)
鹿角方言集(1936年、内田武志)アンチコド アンチコド
意味:心配。心配事。
用例:「―ダ」「―ァオギダ(心配事が起つた)」
岩手(全般)
岩手方言集(1959年、小松代融一)アジコド アズコト アズコド
意味:心配
アンジコド アンジゴド
意味:気苦労、心配、心配ごと
アンチコト アンツコド
意味:
岩手(旧南部領)
九戸郡誌(1936年、岩手県教育会九戸郡部会)あちこど
意味:心配(案じごとの轉か)
花巻の歴史(1958年、熊谷章一)
アズコド
意味:心配
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
アンツコト°【あんじ‐ごと】[案事](名)※「ト°」の「°」は黒丸で、異濁音として表記
意味:気にかかっていること。心配事。アズコト°
岩手県央部 紫波の言葉(2007年、山田長耕)
あんつこど【安じ事・心配事】
用例:
おらえの息子盛岡の高校さ入(エ)れで下宿さしぇでらども、
何かにどあんつこどだます。
岩手(旧伊達領)
黄海村史(1960年、黄海村史編纂委員会)あづこと
意味:心配ごと。
気仙ことば(1965年、佐藤文治)
アチコト(名)
解説:
案じ事の訛(なま)りで心配ごと。
のん気者を、「アチコトなしの十三月」と言う。
気仙方言辞典(1978年、金野菊三郎)
あちこど 「名」
意味:案じ事。心配事。気にかかること。
用例:あちごどすんな。
胆沢町史9 民俗編2(1987年、胆沢町)
あづこと
意味:心配なこと。案ずること
平泉町史 自然編・民俗編1 平泉の方言(1997年、平泉町史編纂委員会、小松代融一)
あずこど
意味:案じ事。心配ごと。
山形(全般)
山形県方言集(1933年、山形県師範学校)あじこと
言:ajikoto
品詞:名詞
標準語:心配
使用地方:庄内、最上、村山、置賜
あちこど
言:achikodo
品詞:名詞
標準語:心配
使用地方:庄内、村山、置賜
あぢこと
言:ajikoto
品詞:名詞
標準語:心配(心配事)
使用地方:庄内、置賜
あづこと
言:azukoto
品詞:名詞
標準語:心配事
使用地方:庄内、村山、置賜
あんちこど
言:anchikodo
品詞:名詞
標準語:心配
使用地方:庄内、置賜
あんつこど
言:antsukodo
品詞:名詞
標準語:心配事
使用地方:庄内、最上、村山、置賜
山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)
アヂコト(ど)
アチコト(ど)(チは通鼻音)
意味:心配(案じ事の意)。
分布地点:米沢。東置賜郡。西置賜郡。南置賜郡。西村山郡。東田川郡。飽海郡。
アヅコト(ど)
意味:心配事。
分布地点:ほゞ全県的。
山形(庄内)
荒澤の民俗(1956年、佐藤円)アジコト
意味:配心
加茂港史(1966年、加茂郷土史編纂委員会)
あじこと
意味:心配
庄内方言辞典(1992年、佐藤雪雄)
アチコド 名詞
意味:案じごと。心配ごと。不安。懸念。心配。
アジコド・アツコド。アンチコド。
用例:「あのこだどご アチコドで ねぶらんね」
(あの子達のことが心配で眠られない)。
(遊佐・酒田・立川・羽黒・三川・鶴岡)。
アツコド 名詞
意味:案じごと。心配ごと。気がかり。不安。懸念。心配。
アチコド・アンチコド。
アンツコド 名詞
意味:案じごと。心配ごと。心配。不安。気がかり。
アチコド参照。
山形(最上)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(1978年、矢口中三)アチ°コド※方言資料上では、鼻音を文字の右肩に小黒丸にて表記。
アヂ°コド
意味:心配(事)。「案じ事」の約。
使用年齢区分:老年層
ここでは「°」にて代用表記。
続 かつろく風土記(1984年、笹喜四郎)
あづごと
意味:心配(案じごと)
用例:昨日も来ないので あづごどしていた
山形(村山)
羽前村山方言(1934年、斎藤義七郎)アンツコド
意味:心配
用例:アンツコド スル(心配する)
アンツコドダ(心配だ)
山形(置賜)
白鷹方言 ぼんがら(1961年、奥村幸雄)あじこと
意味:心配ごと
米沢方言辞典(1969年、米沢女子短期大学国語研究部)
あじこど〔~do〕名詞
意味:心配。「案じ事」の約。
用例:「アジコドしんな(心配するな)」
長井周辺の方言集 たんころあつめ(1987年、椎名勝彦)
あじこと
意味:「案じ事」。心配。
宮城(仙台)
仙台方言集(1919年、土井八枝)あじこと(名)
意味:心配事(案じ事の轉)
仙台の方言(1938年、土井八枝)
あつこと 名
意味:心配、案じごと。
用例:
「あつことであつことでたっても居てもいられえん」
(心配で心配でゐても立つてもゐられない)
「なーに、そったにあつことすっことあっけな」
(そんなに心配することがあるものか)
宮城(県北)
石の巻弁 語彙編(1932年、弁天丸孝)あつこと
意味:心配事、按じ事の轉の由。
用例:「さっぱり便りねぁので あつことしてゐす」
古川市史 下巻(1972年、古川市史編纂委員会)
あんつこど
意味:心配事
金成町史(1973年、金成町史編纂委員会)
あつこと
意味:心配ごと
高清水町史(1976年、高清水町史編纂委員会)
アンズゴト
意味:心配ごと・案じごと
用例:アンダさっぱりウッツアこねねい、
なにがアンズゴドでもあったの
(あなたはながいことうちに来ませんでしたね、
何か心配事でもあったのですか。)
宮城(県南)
丸森町史(1984年、丸森町史編さん委員会)あずごと 名
意味:心配ごと 案じごと
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(1987年、白石市史編さん委員会)
あずこど
意味:心配・心配なこと。あつこど、ともいう。
あんじごと(案じこと)、からくる。
用例:「あんまり、あずごどすっと(すると)、病気になるぞ」
「あんだ(あなた)、顔色が、とっても、
わりようだげんちょも(悪いようだけれども)、
なにが(なにか)あつこど(心配なこと)でも
あんのげー(あるのですか・あるのか)」。
福島(全般)
福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)アジコト【名】
意味:心配(案じ事)
使用地域:浜通、会津、中部、県南
アチゴト【名】
意味:心配(案じ事)
使用地域:浜通、会津、県北、中部、県南
アチゴトシル【句】
意味:待遠がる
使用地域:浜通、会津、県北、中部、県南
福島(会津)
会津方言集(1978年、菊地芳男)あじこと
意味:心配
用例:そんなあじことばっかりしてんな
会津方言辞典(1983年、龍川清・佐藤忠彦)
あじ-ごど※方言資料上では「あじ-こと」の
あじ-こと
意味:案じごと、心配ごと
用例:「―ばかりするから、早くふける」
同義語的方言:あじっこと
あぢこと
意味:心配(案じ事)
用例:「大丈夫だ、―するな」
「こ、と」の右肩に小さい「×」を付し、
濁音・清音の併用を表示。
山都町史 第三巻 民俗編(1986年、山都町史編さん委員会)
あじこと
意味:心配ごと
只見町史資料集 第5集 会津只見の方言(2002年、只見町史編さん委員会)
あじこと・あじっこと 名詞
意味:案じ事。心配ごと。考えごと。
用例:「―があんなら相談してみてくれ」
会津高郷村史3 民俗編(2002年、高郷村史編さん委員会)
あじこと
意味:案じ事。心配ごと。
福島(中通り南部)
湯本山郷史 奥州白河領木地村とその周辺 上巻(1973、星勝晴)あじごと
意味:心配事。
天栄村史 第四巻 民俗編(1989年、天栄村史編纂委員会)
あじごと
意味:心配ごと
福島(浜通り北部)
相馬方言考(1930年、新妻三男)アジコト(名)
意味:心配ごと。按じ事の意。
福島(浜通り南部)
いわき市小川町地方の方言(1988年、草野二郎)あじごと
意味:案じごと、心配ごと。
用例:あんにゃさん あんべえ わりんだっち、
なんぼが あじごったっぺし。
いわきの方言いろいろ(1999年、ヤッチキ・ヤッペGROUP)
あじゴと
意味:心配ごと
編集後記
東北(旧・奥州)6県の言語を後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。
奥州語の文法は、
奥州/東北6県の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。
公用語化により、
奥州/東北の言語を次世代に
継承できる環境を整えていければ
幸いです。
編集者:千葉光