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9/10/2022

【え・あ中間音】全国方言資料 編

「全国方言資料 第1巻 東北・北海道編」の
収録会話より、東北共通の「え・あ中間音」
に焦点を当て、整理しました。

え・あ中間音 - 表記編 は、こちらを参照
え・あ中間音 - 言語資料編 は、こちらを参照

編集:千葉光

目次:
・録音会話を聴いて
・東北地方方言の特徴
・言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき
・各地の「え・あ」中間音
 【青森・津軽】青森県南津軽郡黒石町
 【青森・南部】青森県三戸郡五戸町
 【岩手・旧南部領】岩手県宮古市高浜
 【岩手・旧伊達領】岩手県胆沢郡佐倉河村
 【宮城】宮城県宮城郡根白石村
 【秋田】秋田県南秋田郡富津内村
 【山形・置賜】山形県南置賜郡三沢村
 【山形・庄内】山形県東田川郡黒川村
 【福島・会津】福島県河沼郡勝常村
・編集後記

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録音会話を聴いて

「全国方言資料 第1巻 東北・北海道編」
(日本放送協会, 1981年)は、各地域の
1950年代の庶民の会話内容を収録した本と
、録音したカセットテープから構成されて
いますが、国会図書館のパソコン上からデ
ジタル音源で、録音内容の一部を聴くこと
ができます。

筆者は、国会図書館にて、本に収録されて
いる会話内容の「え・あ中間音」の箇所を
意識しながら、ヘッドフォン越しにデジタ
ル音源から流れてくる会話を聴きました。

以下に、筆者自身が聴いた録音会話の【地
域】を、凡例の「え・あ」中間音の抜粋と
共に示します。

*発音記号の読み方は、
・〔ɛ〕:オープンE
・〔æ〕:アシュ/ash
となります。

【青森県南津軽郡黒石町】
ケァー・セァー・・・のように表記したものは
〔æ〕ないしは〔ɛː〕。
ただし、ときにはケー・セーやケ・セと表記
したものもある。

【岩手県宮古市高浜】
連母音 ai は〔ɛː〕,これらはケー, セー
・・・と表記してある。

【岩手県胆沢郡佐倉河村】
連母音 ai は〔ɛː〕であるが, ケー, セー
などと表記してある。

【秋田県南秋田郡富津内村】
連母音 ai は〔æː〕であり、ケー, テー
と表記する。

【山形県南置賜郡三沢村】
連母音 ai の類は〔ɛː〕になっている。

【山形県東田川郡黒川村】
連母音 ai は〔ɛː〕。

【宮城県宮城郡根白石村】
連母音 ai, ae は〔ɛː〕。
*福島については、2023年の早い時期に予定。

目的:

〔ɛ〕〔æ〕の音質の違い、
長短音の使い分けを聴き取る。


〔ɛ〕が、イギリス式・アメリカ式の
どちらの発音であるかを聴き取る。

結果:

〔ɛ〕〔æ〕は録音会話上では、
両者とも「え」の一種のような音に響き、
ほとんど区別がつかなかった。

長短音は、ある程度、区別して発音されて
いたが、判別が難しい箇所もあった。


〔ɛ〕音は「え」のように、
頬を力ませながら鋭く発音されており、
イギリス式の発音とほぼ同じと思われます。

このような結果となりましたが、
実際に、人間同士の生きた会話というのは、
人それぞれに個性があるように、
特定の型にはまった話し方をするわけでは
ないため、聴き取りの作業に難しさを
感じました。

〔ɛ〕ですが、イギリス・アメリカ英語で
発音の仕方に違いがあります。
【イギリス英語】
「エ」のように頬を緊張させ、
口角を横に開き(舌が平たくなる)、
「え」よりもやや強めに短く発音。

【アメリカ英語】
頬をリラックスさせ、無気力な感じで
「え」よりも舌の位置を下げて短く発音。
疑問に感じた時の「えっ?」と発する
ような発音。

奥州/東北6県の言語資料に
用いられている〔ɛ〕は、
イギリス式の発音を前提にしていると
思われます。

目次 ↑

録音会話を聴いて ↑

東北地方方言の特徴

全国方言資料 第1巻 東北・北海道編の、
「東北地方方言の特徴」から
「え・あ」中間音の箇所を抜粋します。

東北地方方言の特徴
1 総記
(3) 連母音aiは,〔ɛː〕または〔æ〕に転化する。
  エは狭い〔e〕である。
  これらは中央の人たちの耳にいかにも
  いなかびた発音という感じを与える。

2 各説
(1) 南奥羽方言
〔音韻〕
 「アイ」の連母音は〔ɛː〕に変化し、
 北奥羽の〔æ〕に対立する。

(2) 北奥羽方言
〔音韻〕
 連母音aiは, 秋田・盛岡などでは
 特に口の開きが大きく〔æ〕となる。

1 総記にて、
「これらは中央の人たちの耳にいかにも
いなかびた発音という感じを与える」
とありますが、
この「田舎びた」という表現には、
明治時代から続く、奥州/東北に対する
「差別・蔑視」が根底にあるとみてよい
でしょう。

2 各説にて、
南奥羽は〔ɛː〕に変化し、
北奥羽の〔æ〕に対立する
とあります。

しかし、 奥州/東北6県の言語資料に目を通すと、
同じ県内や地域でも言語資料により、
〔ɛ〕〔æ〕の使用について、
ばらつきがみられます。

これについては、次項にてとりあげます。

目次 ↑

東北地方方言の特徴 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき

「え・あ」中間音の
〔ɛ〕〔æ〕の分布について、
北奥:〔æ〕
南奥:〔ɛ〕
という図式が一般的のようですが、
同じ県内や地域でも、言語資料により
ばらつきがみられます。

以下、各県ごとに整理します。

青森:
【青森県方言集(1936年、菅沼貴一)】
母音を、エェ〔ɛ〕 エァ〔æ〕を含めた
7母音としており、収録語彙の発音記号には、
〔ɛ〕〔æ〕が併用されている。

【青森市旧安田の方言語彙(2001年、三浦義雄)】
母音を、エァ〔ɛ〕を含めた6母音と
している。

母音について、
『青森県方言集』では、
〔ɛ〕〔æ〕を含めた7母音とし、
『青森市旧安田の方言語彙』では、
〔ɛ〕を含めた6母音としています。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

秋田:
【大館方言語源考(1984年、小林繁春)】
「大館方言(秋田方言)にも、この「え」音の
一種の æ があると考えられる」
との解説あり。

【秋田のことば(2000年、秋田県教育委員会)】
母音を、エァ〔ɛ〕を含めた6母音と
している。

母音について、
『大館方言語源考』では、
〔æ〕を前提とした解説がみられます。
『秋田のことば』では、
〔ɛ〕を含めた6母音としています。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

岩手(旧仙台藩領):
【気仙方言辞典(1978年、金野菊三郎)】
音声記号解説、音韻体系表に
〔æ〕を用いている。

「母音アの音と、「イ」又は「エ」と連続
して発音するときは、そのア母音の音を
同じ行のエ母音の音にすり換え、
「イ」又は「エ」は「ア」にすり換えて
発音する」
との解説あり。

【一関市史 第3巻 各説Ⅱ(1977年、一関市史編纂委員会)】
一関方言の音韻体系表にて、
母音を〔ɛ〕を含めた6母音としている。

「共通語の /ai/ に当たるものが
〔ɛ〕から〔æ〕の間の単独母音に
発音されることが多い。
~中略~
相去、沢内もほぼ同じ。
ただし、御所は盛岡などにみられる
口の開きの大きい〔æ〕(ぇあ) の
傾向がある」
との解説あり。

同じ旧・仙台藩の地域ですが、
母音について、
『気仙方言辞典』では〔æ〕を用い、
『一関市史 第3巻 各説Ⅱ』では、
〔ɛ〕を含めた6母音としています。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

山形(最上地方):
【真室川の方言・民俗・子供の遊び(1978年、矢口中三)】
「元来「æ」は口を大きく開き、
アの口構えでエと発音する。
大声ではっきりと発音している時は
別に問題はない。
しかし、すべての場合にæ本来の発音を
している訳ではない。
かなり口の開き方が小さい場合がある。
発音の仕方と音質は大体同じだが、
かなりエに近い音声となる。」
との解説あり。

【及位の方言(1982年、高橋良雄)】
母音を〔ɛ〕を含めた6母音とし、
収録語彙の発音記号も〔ɛ〕を用いて
いる。


『真室川の方言・民俗・子供の遊び』では
〔æ〕として解説しており、
口の開き方が小さい(小声で早口に発音)
場合は、かなり「エ」に近い音声となる
としています。

『及位の方言』では、
〔ɛ〕を含めた6母音としています。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

宮城:
【仙台方言音韻考(1932年、小倉進平)】
「本條に於ける ɛ 及び ɛː は
更に開口の度の大きい æ を以て
撥音されることも敢(あえ)て
珍しくないやうであるが、
私の感じでは ɛ の方が多いやうに
思はれるから、凡(すべ)て ɛ を以て
書き表はすことにした」
との解説あり。
それぞれの母音などの解説も、
〔ɛ〕〔ɛː〕を用いている。

【宮城県史20 民俗Ⅱ(1960年、宮城県)】
「二重母音 [ai] は [ɛ] または [æ] と
なり、例外なし」
との解説あり。
収録語彙の発音記号は一部を除き、
ほとんど〔æ〕を用いている。

『仙台方言音韻考』では、
〔æ〕で発音されることも珍しくない
ようだが、〔ɛ〕の方が多いように
思われるとしています。
〔æ〕〔ɛ〕が併用されていることを
認めていますが、仙台地域では
〔ɛ〕の傾向が強いようです。

『宮城県史20 民俗Ⅱ』では、
〔æ〕〔ɛ〕が併用されている旨の
解説がありますが、
収録語彙の発音記号には、
ほとんど〔æ〕が用いてられており、
宮城県全体で〔æ〕の傾向が強いような
印象を与えています。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

福島:
【相馬方言考(1930年、新妻三男)】
前置きに、
「福島県相馬郡中村町を中心とした調査で
あるが、浜通一帯はもちろん県下一円殆ど
変りがないのではないかと思ふ」
とあり、
母音について、
「疑問に思って聞きかへす時などの
エェ・デェーコン(大根)・
エェーサツ(挨拶)などの
複母音エェ(æ)―エ(e)をもっと開いて
ア(a)まで開かず出す音もあれば、
これを加へると母音は都合七つもある
こととなる」
との解説あり。

【福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)】
「エエ〔ee〕、アエ〔ae〕がエア〔ea〕
となる傾向が岩磐方言には著しい」、
「この〔ea〕は〔ɛː〕よりは、やゝ
調子が異つてゐる」
との解説あり。

【会津方言辞典(1983年、龍川清・佐藤忠彦)】
「連母音[ai](アイ)は[ɛː](エー、
開いたエで、[e]よりも低く、[æ]よりも
高い両者の中間の母音)に変化する」
との解説あり。

『相馬方言考』では、
複母音エェ(æ)としており、
県下一円ほとんど変わりがないのでは
ないかと前置きしています。

『福島県方言辞典』では、
この〔ea〕は〔ɛː〕よりは、
やや調子が異なっている
としており、
これは〔æ〕を指しているもの
と思われます。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

このように、
奥州/東北6県の言語資料に目を通すと、
同じ県内や地域でも、言語資料により
〔ɛ〕〔æ〕の扱いにばらつきがみられる
ことが、わかります。

北奥が〔æ〕、南奥が〔ɛ〕という図式が、
完全に当てはまるわけではないようです。

録音会話の地域でも、
「岩手県宮古市高浜」の凡例には
「連母音 ai は〔ɛː〕」とあり、
同じ旧・盛岡藩領域内でも〔ɛ〕〔æ〕の
混在がみられるようです。

このように、言語資料により
〔ɛ〕〔æ〕の扱いにばらつきが
みられるのは、
前述したとおり、両者の音質が近い
ことも要因ではないかと考えます。

実際に録音会話を聴いた限りでは、
両者とも「え」の一種のような音に響き、
判別の難しさを感じました。

尚、奥州語の文法では、
「え・あ」中間音〔ɛ〕〔æ〕について、
変体仮名での表記を提唱していますが、
将来的に、奥州/東北の公用語として
扱う場合、公教育においては、
〔ɛ〕〔æ〕を併用するのが望ましいと
考えます。

目次 ↑

言語資料による〔ɛ〕〔æ〕のばらつき ↑

各地の「え・あ」中間音

全国方言資料 第1巻 東北・北海道編の、
各地区ごとの収録地概説・自由会話から、
以下の構成にて抜粋し、整理しました。

収録地
 収録日

<音韻おぼえがき>
「え・あ」中間音の箇所を抜粋

<自由会話>
「え・あ」中間音の箇所に、当方にて下線

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【青森・津軽】青森県南津軽郡黒石町
青森県南津軽郡黒石町
 収録日 1953年9月2日

<音韻おぼえがき>
3)ケァー・セァー・・・のように表記したものは〔æ〕ないしは〔ɛː〕。
 ただし、ときにはケー・セーやケ・セと表記したものもある。

<自由会話>
〇ムゴガラシ アノ キタ アノ ミジ キタノト
 向うからね あの 来た あの 水が 来たのが

 ワガンンデ アタノシ
 わからなかった のです。


〇オラ ヤマサシー ワゲージギ ジンブ
 おれは 山へね 若いとき ずいぶん

 エタンデシ
 行ったんですよ。


〇イガナ イガナ ホー ヨメコ モラタ ソロホド メデゴト
 いや いや 嫁を もらって これほど めでたいことは

 アリシガシテァ タイシタ ハー モシロフテ ヨバエデキシタジャ
 ありますかね。 非常に 愉快で 招かれて来ましたよ。


〇アェ ナモ ネーケンドモサ マー アスコサ ゼンコ スエテ
 まあ 何も ないけれども まあ あそこに お膳を 据えて
 
 ミナ マジテラハデシ
 みな 待っていますから。

<音韻おぼえがき>には
「ケァー・セァー」のように表記したものは
〔æ〕ないしは〔ɛː〕とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ネー・ネ」など、「ァ」を付さない
表記が見られます。

また、前述の「東北地方方言の特徴」では、
連母音aiが南奥羽では〔ɛː〕に変化し、
北奥羽の〔æ〕に対立するとありますが、
ここの音韻おぼえがきでは、
〔æ〕ないしは〔ɛː〕とあり、
併用されていることが分かります。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【青森・南部】青森県三戸郡五戸町
青森県三戸郡五戸町
 収録日 1953年8月29日

<音韻おぼえがき>
3)エァーと表記したものは〔æ〕。
ただし、ここでエと表記しているものの中にも
エァが混入しているかも知れない。

<自由会話>
〇ハー ヘダラ マツ アシ アラッテ ワ
 それじゃ まあ 足を 洗いなさい, わたしが

 タレーサ コレ ユッコ クンデラ
 たらいに このとおり 湯を 汲んであります。


〇ハイ オバンデゴアス サー ドーカ オヘァレッテクダセ
 はい, こんばんは。 さあ どうぞ おはいりなさい。


〇ヤヤ オメーガタデ ムスコサンサ ヨメッコ トリマシタェダ
 まあまあ お宅では むすこさんに 嫁を 取ったそうですね。


〇ヤーヤー ドーモ ハー ゼニズケー サヘテ モーシワケアリマセンカタネシ
 やあやあ どうも お金を使わ せて 申訳ありませんでしたね。

<音韻おぼえがき>には、
エァーと表記したものは〔æ〕とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「レー・メー・ケー・ヘァ」などの表記が
見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【岩手・旧南部領】岩手県宮古市高浜
岩手県宮古市高浜
 収録日 1953年7月14日

<音韻おぼえがき>
2)連母音 ai は〔ɛː〕, これらはケー, セー・・・と表記してある。

<自由会話>
〇ハー オヘーリェンシェ 1)
 はい, おはいりください。

 1)〔ohaɛrɛɛⁿʃe〕


〇オネゲーニ アガリァンスタガ
 お願いに あがりましたが。


〇ハー ア イソガス ゴゼンストモ マー オテツデー イタセンス
 はあ, 忙しい のですが まあ お手伝い しましょう。


〇ヤー トッソリデモ アルス ヨミツデモ アルカラ ケーレンス
 いや 年よりでも あるし, 夜道でも あるから 帰りましょう。


〇ハー マー ワツカグレー ゴゼーンス
 はい, まあ 少しぐらいは あります。


〇オデー オガスサッテ クダサンセ
 お台を お貸し ください。


〇ワズカデ ゴゼーンス トモ オユウェーノ スルステ
 わずかで ございます が お祝いの しるしで

 ゴゼーンスカラ オサメデ クダセーンセ
 ございますから 納めて ください。
 補足:〔ohaɛrɛɛⁿʃe〕の左から4番目の〔ɛ〕は、
    資料上では、上部に声調記号の楔(くさび)付き
    (画面上では表示不可)

<音韻おぼえがき>には
連母音 ai は〔ɛː〕,
これらはケー, セー・・・と表記してある
とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ヘー・ゲー・ウェー」などの表記が
見られます。

前述の「東北地方方言の特徴」では、
連母音aiが南奥羽では〔ɛː〕に変化し、
北奥羽の〔æ〕に対立するとありますが、
ここの音韻おぼえがきでは
連母音 ai は〔ɛː〕とあり、
同じ旧・盛岡藩領域内でも
〔æ, ɛ〕の混在が見られるようです。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【岩手・旧伊達領】岩手県胆沢郡佐倉河村
岩手県胆沢郡佐倉河村
 収録日 1953年9月10日

<音韻おぼえがき>
1) 連母音 ai は〔ɛː〕であるが, ケー, セーなどと表記してある。

<自由会話>

〇ハー ソノグレアダラ
 はあ, それぐらいなら。

 オベー ニ ハー オラ ワカ
 重い 荷は おれは 困るよ。


〇トヌカク シバ デーズニ シンダデヤ
 とにかく 火は 大事に するんだよ。


〇コンデ ナンボアデス 3)
 これで いくらですか。

 3)「アテ」は,「あたい(価)」の転。

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai は〔ɛː〕であるが,
ケー, セーなどと表記してある
とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「デー・テ・ネ」などの長音・短音表記と共に、
「レア」という表記も見られます。
「レ」の後に「ア」が続いているだけなのか、
〔æ〕音なのか、資料上からは判別が出来ません。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【宮城】宮城県宮城郡根白石村
宮城県宮城郡根白石村
 収録日 1953年7月19日

<音韻おぼえがき>
1) 連母音 ai, ae は〔ɛː〕。

<自由会話>
〇マー コネーダ マズ スバラク ドッテ マズ
 まあ このごろは しばらくぶり で ほんとに

 アマリ ドーモ ゴブサタ ステテ マー
 あまり どうも ごぶさた していて まあ

 モースワケナカッタガ マズ サッソク
 申し訳ありませんでしたが, まあ さっそくですが

 ズンツァン ナクナッタ ドッテ ヤー ナンダ ドッテー
 おじいさんが なくなった そうで やあ 何だ といって

 マズ エノホーデモ ガッカリ スタベッチャナヤ
 まあ 家の人たちも がっかり したでしょうね。

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai, ae は〔ɛː〕とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ネー」などの表記が見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【秋田】秋田県南秋田郡富津内村
秋田県南秋田郡富津内村
 収録日 1953年8月19日

<音韻おぼえがき>
8) 連母音 ai は〔æː〕であり、ケー, テーと表記する。

<自由会話>
〇ホントニ ムカシ ホントニ オラモ ワケートキダバ ウー
 ほんとうに 昔 ほんとに おれも 若いときには,

 ムカシー ソノ アカクラニー オニ イテ オニノ アナ
 昔 その 赤倉に 鬼が いて, 鬼の 穴が

 アルッテ オラ アノ アカクラノ タ ヤママデ ホント
 あるといって おれも あの 赤倉の 高い 山まで ほんとに,

 ミニエッタコト アッタデ シェンシェー ツエテ
 見に行ったことが あった, 先生に ついて。

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai は〔æː〕であり、
ケー, テーと表記する
とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ケー・ケ」など、長音・短音の表記が
見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【山形・置賜】山形県南置賜郡三沢村
山形県南置賜郡三沢村
 収録日 1953年8月2日

<音韻おぼえがき>
1) 連母音 ai の類は〔ɛː〕になっている。

<自由会話>
〇ワゲーシア ムカシトナンド コロット チガッテ ホントダ ホラー
 若い衆は 昔などとは まるっきり 違って, ほんとだ そら

 ン タベモノデモ ナンデモ ムカシドワ コロット ベツナー
 食べ物でも なんでも 昔とは まるっきり 変ったなあ。


〇ンダ ケーテ ヨコス
 そうだ 書いて よこす。


〇オユ ワエッタカラ オユサ ヘーッテクエ 2)
 お湯が わいたから お湯に はいってください。

 2)〔kɯwɛ〕


〇コンニチワ オドスカサネノ ゴズウェ 3)
 こんにちわ, お年かさねの お祝い

 オメデテーコンデ ゴザエモス
 おめでたいことで ございます。

 3)〔gozuwɛ〕
 補足:2)〔kɯwɛ〕の〔ɯ〕は、資料上では、
    上部に〔¨〕(ウムラウト)付き
    (画面上では表示不可)

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai の類は〔ɛː〕になっている
とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ゲー・ケー・へー・ウェ」などの
表記が見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【山形・庄内】山形県東田川郡黒川村
山形県東田川郡黒川村
 収録日 1953年8月14日

<音韻おぼえがき>
2) 連母音 ai は〔ɛː〕。

<自由会話>
〇オーギサマ コレモ ヘーッテ アノー コレモ クルモンダダサケ
 王祗様が これも はいって あの これも 来るものだから,

 ソノ ジョンビ ヤッパリノー オドモ キテ ソノー サェーモリ 4)
 その 準備に やはりねえ お供も 来て その 「菜盛り」

 4)〔śɛ〕

 デモノ アッテ モジ ゼーッテノー ソノ ササギト
 というものが あって, 「六っ菜」 というのが, その ささげと

 シモモト ンー エート ミョーガト ナンジケト タデト ソノ
 すももと うん ええと みょうがと 菜づけと たでの実と その

 モー シトチ ミゾジケ ミソジケト ソーナリノ ソノ アノ
 もう ひとつは みそづけだ, みそづけと そういうのを その あの

 チョージンノ モント オンナジ コーナリ アノ
 ちょうちんの 紋と 同じように こういうふうに あの

 チケナェーバ 1) ヤッパリ アノー オトナジョー チケヨー
 つけなければ, やはり あの おとな衆が つけたが

 1)〔nɛ〕

 ワリデト ソレカラ アノー チケゴマエテ チケヨー ワリテ
 悪いというと それから 文句を言われ, つけかたが 悪いと

 オトナジョーカラ チケゴマエル コト アルモンダデバ
 おとな衆から 文句を言われる ことが あるものですよ。


〇ワリネーネーカノー ソコワ
 悪くなんか ないよ それは。

 エー アンコー 2) チチデ コッタラバ
 いい ぐあいに 包んで いったら。

 2)〔bɛ〕

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai は〔ɛː〕とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
〔ɛ〕の記号を付してある箇所があり、
「ヘー・サェー・ナェー・ネー・ベ」などの
表記が見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

【福島・会津】福島県河沼郡勝常村
福島県河沼郡勝常村
 収録日 1953年8月6日

<音韻おぼえがき>
1) 連母音 ai は〔ɛː〕に変化する。

<自由会話>
〇アー バンゲト ワガツマノアエーダ ソコー マー
 ああ, 坂下と 若松の間, そこを まあ

 アウェーニ ノッツド タカクマデ ノッツド サンシェンデャッタ
 たまに 乗るというと, 高久まで 乗るというと 3銭だった,
 
 ワカマツカラ
 若松から。


〇ソーダ オラ オフクロナンドワ サンリモァ サトサ
 そうだ, おれの 母親などは 3里も 実家まで

 アルカナンネーダガナ
 歩かなければならなかった。


〇ソレガ コンダ アー オラ ガッコーサ ショガッコーサ
 それが 今度は ええ おれが 学校へ 小学校へ

 デテルコロワ オレハ ミナ ワラゾーリ
 通っているころは, おれのほうは みな わらぞうりを

 ヘーデ アルッテタモンダ
 はいて 歩いていたものだ。


〇マイニチ ゴザ ショッテ ツッテ アルッテ
 毎日 ござを 背負って そして 歩いて,

 カサワ カブンナカッタゲンニョ ゴザ ショッテ アルッテ
 かさは かぶらなかったけれども ござを 背負って 歩いて,

 サンエンデ コンゼー ヤネーメーリ シテ オラ
 3円で これで 柳津まいりを して, わたしは

 ミヤゲモノマデ カッタモンダ ナンテ シャベッテルワシ
 土産物まで 買ったものだ なんて (いま)話しているよ。

<音韻おぼえがき>には、
連母音 ai は〔ɛː〕に変化する
とあります。

<自由会話>の「え・あ」中間音には、
「ウェー・ヘー・ネー・ネ」などの表記が見られます。

目次 ↑

各地の「え・あ」中間音 ↑

編集後記

奥州/東北の言語を後世に継承していくため
には、東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、奥州/東北の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、奥州/東北の言語を次世代に
継承できる環境を整えていければ幸いです。

編集者:千葉光

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