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10/16/2022

愛こ゚え:②語源編

東北各地の言語資料を基に、「愛こ゚え」の語
源について整理しました。

〔参照〕①用法編 ③江戸時代の文献

編集者:千葉光

目次:
01. 語源
 【秋田】語源探求 秋田方言辞典
 【岩手】岩手方言の語源
02. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部① 南部②
 【秋田】全般① 全般②
 【岩手:旧盛岡藩】盛岡
 【岩手:旧仙台藩】沿岸
 【山形】置賜
 【宮城】仙台① 仙台②
 【福島:浜通り】北部 南部
03. 総括

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語源

東北各地の言語資料では、語源を「めぐし」
に求めています。

ここでは、詳細な解説のある秋田・岩手の
言語資料をとりあげます。

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【秋田】
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
めごい・めんこい・めんちょこい・めんとい〔形〕

【意味】かわいい。小さくてかわいい。愛らしい。

【語源考察】
上古語「めぐし」に由来する語。
めぐし〔愛・愍〕〔形〕
(メは目、グシはココログシのグシで苦しい意)
<『岩波古語辞典』>)

①見るにたえない。いたわしい。かわいそうだ。
*万葉- 一一・二五六〇
「人も無き古(ふ)りにし里にある人を
 めぐくや君が恋に死なせむ<作者不詳>」

②見るも切ないほどかわいい。
*万葉- 五・八〇〇
「父母を見れば尊し 妻子(のこ)見れば
 めぐし愛(うつく)し〈山上憶良〉」

*観智院本名義抄「優 メグシ」(鎌倉中期)
 <『岩波古語辞典』『古語大辞典』>)

——①が原義で、②が転義。

めんこい〔形〕(「めんごい」とも)
かわいい。愛らしい。

*滑稽本・旧観帖-初・二
「今の親父どのの、わしをめんなごがって
つけまはひて、わかいときから正直なア心に
なづき申てから、外心もなく五十年近くそい
とげ申たアから、今もおやぢどのがめんごく
って」

*童謡・めんこい仔馬〈サトウ・ハチロー〉
「よべばこたへて めんこいぞ」
<『日本国語大辞典』>

——メコ゚イは上古語「めぐし」に
由来する語で、
〔メコ゚イ・メコ゚エ→メケ゚・メンケ゚→メキ゚〕
〔メコ゚イ→メンコイ・メンコエ→メンケ・メンケー・メケ〕
と転じたもの。

〔メコ゚コイ〕は〔メコ゚イ〕の語幹に
形容詞をつくる接尾語コイ(名詞、
形容詞の語幹などについて、性質・状態を
強調する)が付いたもの。

〔メンチョコイ〕はメンコイとチッチャコイ
(別項「ちっちゃこい」参照)との混交語
メンチャコイの転。

メントイは〔メンチョコイ→メントコイ→
メントイ〕と転じたものであろう。

*枕- 一五一・うつくしきもの
「葵のいとちひさき。なにもなにも、ちひさ
きものはみなうつくし」
——「うつくし」はかわいらしいの意、メン
コイとチッチャコイの混交を裏づけていると
いえよう。

【補足】
この資料では、「めごい」について、上古語
「めぐし」に由来する語としています。

この「めぐし」について、「メは目、グシは
ココログシのグシで苦しい意」(岩波古語辞
典)とあり、本来は「見るにたえない。いた
わしい。かわいそうだ。」という意味であっ
たものが、「見るも切ないほどかわいい」と
いう意味に転じたものとしています。

〔文献〕
万葉集から、原義として「めぐくや」を、転
義として「めぐし愛(うつく)し」を挙げて
います。

また、江戸末期の滑稽本「旧観帖-初・二」
から、「今もおやぢどのがめんごくって」を
とりあげていますが、「親父」に対して「か
わいい」という感情を持つことなどありえな
いことから、これは原義の「いたわしい」「
かわいそうだ」という意味合いで使われてい
たものと思われます。

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語源 ↑

【岩手】
岩手方言の語源(本堂寛, 2004年)
メケ゚ー(形容詞)——かわいい

「コノ オボッコ ナンタラ メケ゚ー ゴド」
(この赤ちゃんは、なんとかわいいこと)
のような言い方をする。

メンコイとも言う。原形は「めぐい」であっ
て、奈良時代後期の『万葉集』にすでにその
例を見る。

「父母を見れば尊し妻子(めこ)見れば米具
之(メグシ)
愛(うつく)し」とあって、い
とおしい、かわいらしい、の意味で使ってい
る。

「めぐい」の古い形「めぐし」の語源につい
て、『日本国語大辞典』では「語源には諸説
あるが、『め』(目)と『心ぐし』の『ぐし
』(苦しい)から成り、目に見て苦しい、気
掛かりであるが本義であり、ここから胸が痛
むほどかわいい、いとしいの意も派生したと
思われる」と解説している。

方言としては、北海道・青森・岩手・宮城・
秋田・山形・福島・群馬・新潟・山梨・長野
の、ほぼ東日本に広く分布している。

江戸時代中期の『浜荻(庄内)』に「庄内に
めごいと云ふは、いとしい、かはいい、と
云ふ事也」とあり、江戸時代後期の『滑稽本
・続東海道中膝栗毛』に「めごいこんだ(こ
とだ)と思ってくれさんせう(=くださいま
せ)」とあるので、かなり広く使われていた
ようである。

岩手方言では、よい子、かわいい子、をメン
と言い、特別にかわいがられている子、を
オメコ゚サンと言う。これも、メケ゚ーを元に名
詞化したものである。

【補足】
この資料では、「メケ゚ー」の原形について、
「めぐい」と、その古い形である「めぐし」
を挙げています。

その「めぐし」について、引用元の日本国語
大辞典では、語源には諸説あると前置きした
上で、この語は、「目」と、「心ぐし」の「
ぐし(苦しい)」から成り、「目に見て苦し
い」、「気掛かりである」が本来の意味であ
り、ここから「胸が痛むほどかわいい」「い
としい」の意も派生したと思われるとしてい
ます。

〔分布〕
分布は、東北とその周辺の北海道・群馬・新
潟・長野と、ほぼ東日本に限られるようです。

〔文献〕
文献として、江戸時代中期の「浜荻(庄内)
」から「めごい」をとりあげています。少な
くとも、江戸時代までは、この語が東北全体
で使われていた痕跡を辿ることができます。

また、江戸時代後期の「滑稽本・続東海道中
膝栗毛」から「めごいこんだと思ってくれさ
んせう」をとりあげていますが、これは、本
来の「いたわしい」「かわいそうだ」という
意味合いで使われていた可能性があります。

これに関連して、「語源探求 秋田方言辞典
」では、同じく江戸時代の滑稽本「旧観帖-
初・二」から「五十年近くそいとげ申たアか
ら、今もおやぢどのがめんごくって」をとり
あげていますが、「親父」に対して「かわい
い」という感情などありえないことであり、
本義である「いたわしい」「かわいそうだ」
という意味合いで使われていたことは明らか
です。

前出の「滑稽本・続東海道中膝栗毛」につい
ても、文脈から察するに、その意味合いとし
て使われていた可能性があります。

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語源 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、語源について解説
のあるものをとりあげます。
注)言語資料名の( )内は、著者名、発行年

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青森(津軽地方)
津軽方言集(齋藤大衛・神正民, 1902年)
めごい

〔意味〕カハイ
〔解説〕可愛(カアイ)コト
 ◯此ノ兒ハ「メゴイ」ナド
 ◯愛(メグシ)ノ訛ナラン
【補足】
この資料は1902年のものです。「めごい
」について、「愛(メグシ)」の訛りとして
います。

また、「可愛(カアイ)コト」の「コト」は
合略仮名(カタカナ)で表記されています。
この年代頃は、合略仮名が一般的に使われて
いたことがうかがえます。

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青森(南部地方①)
教育適用 南部方言集(簗瀬栄, 1906年)
めごい

〔意味〕
愛(めぐし)の訛にて
かはいことをいふ
【補足】
この資料は1906年のものです。「めごい
」について、「愛(めぐし)」の訛りとして
います。

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青森(南部地方②)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
めごえ(形容詞)古語。

①可愛い。古語めぐし
②父母見れば尊し。妻子見ればめぐし愛(ウツク)し。
<万葉集八〇〇 山上憶良>
【補足】
この資料では、「めごえ」について、万葉集
の「めぐし」との関連性を挙げています。

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秋田(全般①)
秋田の方言(打矢義雄, 1970年)
メゴエ(メンケ)

〔意味〕いとしい。かわいらしい。
〔解説〕
「メゴエ・メンコエ」は全県的に用いられて
いるが、県南・由利地方には、ややぞんざい
な言い方として、「メンケ・メゲ」がある。

(中略)

古文からの例をあげると、次のようなものがある。

父母を見れば尊し、妻子を見ればめぐしうつくし・・・
(万葉集)

人もなき古りにし里にある人を、めぐくや君が恋に死なせむ
(同)
【補足】
この資料では、「メゴエ」について、古文か
らの例として、万葉集の「めぐし」「めぐく
」を挙げています。

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秋田(全般②)
秋田のことば(秋田県教育委員会, 2000年)
めこ゚え めんこえ・めんけ・めけ゚・×めき゚
{鹿・北・山・南・河・由・仙・平・雄}

【意味】かわいらしい
【解説】
『万葉集』などで用いられた「めぐし」の後
身「めぐい」の母音交代形。

「め」は目すなわち見ること、「くし」は奇
しで、心に不思議な感情がわき上がってくる
状態をいう。見るだけで何とも言えずかわい
く感じられることに用いる。

一説に「ぐし」を「こころぐし」の「ぐし」
と共通だとして、苦しい意とする。

【用例】
あの わらし めこ゚え。
(あの子はかわいらしい。)
<増田町>
【補足】
この資料では、「めこ゚え」について、「めぐ
し」の後身「めぐい」の母音交代形として
います。

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岩手:旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
メコ゚エ【めご-い】[愛](形)

〔解説〕「めぐし(愛・愍」から変化したもの
〔意味〕かわいい。愛らしい。
【補足】
この資料では、「メコ゚エ」について、「め
ぐし(愛)」から変化したものとしていま
す。

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岩手:旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
メゴイ(形)

〔解説〕
メゴコイ、メンコイとも。古語「愛(めぐし
)」が原形。その口語。童謡「めんこい小馬
」以来、一般語の語彙の中に加えられた。
【補足】
この資料では、「メゴイ」について、古語「
愛(めぐし)」が原形であり、その口語とし
ています。

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山形(置賜)
米澤言音考(内田慶三, 1902年)
めごえ、又、めんごえ

〔意味〕愛らしい。
〔用例〕「おまえあ、-なあ」
〔解説〕
萬葉集、山上憶良(ヤマノヘノオクラ)ガ、
令反惑情歌ニ、「妻子(メコ)美禮婆(ミレ
バ)、米具斯(メグシ)宇都久志(ウツクシ
)」トアリ。コノめぐし轉ジテ、今ニ存セ
ルナリ。
【補足】
この資料は、1902年のものです。「めご
え」「めんごえ」について、万葉集の「メグ
シ」の転じたものとしています。

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宮城(仙台①)
仙台方言集(土井八枝, 1919年)
めごい(形容詞)
〔意味〕愛らし(古語めぐしの轉)
〔例〕
「なんとめごい赤ちやんでせう」
「この猫の子はめごくなつたこと」
【補足】
この資料は1919年のものです。「めごい
」について、「古語めぐしの轉(てん)」と
しています。

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宮城(仙台②)
仙台方言辞典(浅野建二, 1985年)
メコ゚い(形容詞)

〔間接的な語源〕めぐ(愛)し
〔意味〕可愛い
〔解説〕
古語「メグシ(愛し)」の転。メコ゚コい・
メンコいとも。江戸期、中央ではムゴイと
同じくふびんであるの意。東北その他は原
義。また、可愛いがることを「メコ゚カ゚
ル」とも。

真澄『かたゐ袋』寛政元年
「みちのく仙台ぶりよみし歌、みやぎのゝ
萩はめごげに咲つれど露しぼっくて折れさ
うない」。
【補足】
この資料では、「メコ゚い」について、古語
「メグシ(愛し)」の転としています。

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福島:浜通り(北部)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
メゴエ(形)
〔意味〕愛らしい。メンコエともなる。古語めぐしの転。
【補足】
この資料では、「メゴエ」について、「古語
めぐしの転」としています。

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福島:浜通り(南部)
いわき方言(高木稲水, 1975年)
めんごえ(形容詞)

〔意味〕愛らしい
〔解説〕
古語の「めぐし」が語源。
「父母(ちちはは)を見れば尊し、妻子
(めこ)見ればめぐしうつくし・・・」
万葉集。
【補足】
この資料では、「めんごえ」について、古語
の「めぐし」が語源としており、万葉集の例
を挙げています。

目次 ↑

総括

ここまで東北六県の言語資料より、「愛こ゚え
(めごえ)」の語源についてとりあげてきま
したが、全ての資料が語源について一致して
いるのが特徴的です。

東北各地の資料を基に整理すると、
《めぐし→めぐい→めごい→めこ゚え》
という経路が有力と考えられます。

さらに「めこ゚え」の派生形として、
《めんこえ・めんけえ・めけ゚え・めんけ゚え》
などがあります。


編集者:千葉光

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