東北(旧奥州)各地の言語資料を基に、
「目落どす」の意味・活用・用例などに
ついて整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 活用
03. 改まった場面にて
04. 名詞
【津軽】改定 津軽木造新田地方の方言 8巻
【秋田】田代町の方言
【仙台】仙台の方言
05. 各地の言語資料より
【青森】全般 南部
【秋田】県北 県南 由利
【岩手:旧南部領】全般 北部 中部
【岩手:旧伊達領】内陸
【山形】全般 庄内 最上 置賜
【宮城】全般 仙台 県北 県南
【福島】全般 会津
【福島:中通り】中部 南部
【福島:浜通り】北部 南部
06. 編集後記
意味
目落どす・目え落どす
〔読み方〕めおどす・めえおどす
〔意味〕「死」の婉曲(えんきょく)表現
亡くなる・瞑目する・息を引取る
落命する・臨終
活用
東北各地の言語資料を基に、標準東北語としての活用について整理しました。
〔活用〕目落どす
〔参照〕【え・あ中間音】表記法
テキスト表示(未然形)
目落どさねァ
*下線:え・あ中間音改まった場面にて
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)メーオトス(連語の動詞)--- 引用ここまで ---
〔解説〕
「死ぬ」こと。「今朝、メーオトシぁした」
は「今朝亡くなりました」。
「落命」という熟語から、「命を落す」と
なったもの。
冠婚葬祭には、ふだんとは改まった言葉遣い
をするが、これもその一つ。
「目を落す」ではあるまい。
解説で「冠婚葬祭には、ふだんとは改まった
言葉遣いをするが、これもその一つ」とある
とおり、この語が丁寧な表現として認識され
ていることが窺えます。
東北各地の言語資料でも、身内や知人が
亡くなった時の会話として、用例が多く
見られます。
語源については、「落命」から「命を落す」
、「命(メー)おとす」となったものとし
ています。
「目を落す」ではあるまいとしていますが、
東北各地の言語資料では「目を落とす」を
原形とする捉え方が主流です。
名詞
「目落どす」の名詞としての使い方については、津軽・秋田・仙台の言語資料にみられま
した。
【津軽】
改定 津軽木造新田地方の方言 8巻(田中茂, 2020年)メオドシ--- 引用ここまで ---
【意味】
亡くなること 死ぬこと
人生の最後に目を閉じること
【原形】めおとし
【品詞名】名詞
【音韻】
「めおとし」の形が原形だろう。方言では
「メオドシ」となる。語頭の「メ」は「い」
と「え」との間の発音になる母音の音節に
なり、共通語の「め」とは少し違う発音に
なる。三音節目の「ド」は「と」が濁音化
したもの。
語中・語尾におけるタ行音の濁音化。
方言語尾の「シ」は中舌母音の音節になる。
そのために、「し」と発音しているのか
「す」と発音しているのか定かでないよう
な発音の音節になっている。
【語誌】
亡くなること、死ぬこと、人生の最後に
目を閉じること。動詞形で「メオドシ」
(目を落とす、亡くなる)と言われるこ
とも多い。原形は「めおとし 目落とし」
だろう。永遠に目を閉じるということだ
ろう。
津軽地域の日常の生活では「め 目」と
いう語が単独で遣われることがない。
「マナグ・マナゴ」という言い方になる。
(中略)
「めを落とす・めおとす」の言い方で
死ぬ、落命するの意味で言われる地域
として
福島県・福井県・宮崎市・鹿児島県・
青森県・秋田県・山形県・新潟県・
岩手県・宮城県
などで言われるという記録も見える
(『日本國語大辞典』)。
【用例】
・オエノアバ 今朝 メオドシ シタ。
(うちのおばあさんは今朝亡くなった)
原形を「めおとし 目落とし」とし、
「永遠に目を閉じるということ」と
しています。
動詞形として、サ変動詞「シタ」が接続
した「メオドシ シタ」という形が用例
に見られますが、訳に「亡くなった」と
あるように、丁寧な表現として認識され
ていることが窺えます。
【秋田】
田代町史資料 第四輯 田代町の方言(秋田県田代町, 1983年)メオドシ--- 引用ここまで ---
〔解説〕
青森・岩手・宮城・福島・福井・鹿児島県で
同意に用いられている。臨終のことである。
メオドシ、は、目おどし、落命からの転化
である。
【仙台】
仙台の方言(土井八枝, 1938年)めーおとす(命落す)句--- 引用ここまで ---
〔意味〕息が絶える、死ぬ。
〔例〕
「たったのいま、めーおとしさったとすか、まづ、なんつまづ」
(つい今しがた、おなくなりなさいましたつて、まあまあ)
見出し語は句(複合動詞)としてとりあげて
いますが、用例では、名詞「めーおとし」に
受身の意を表す「さった(された)」が接続
する形となっています。
訳に「お亡くなりなさいました」とあるとお
り、丁寧な表現として認識されていることが
窺えます。
各地の言語資料より
各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。
注)資料名の( )内は、著者名・発行年
【青森】全般
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)メオドス*資料上では、記号〔e, i〕の上部に
〔解説〕目を落す(死ぬこと)
〔区域〕津軽・南部
〔品詞〕複動
〔記号〕me-odosi
中舌寄りの〔¨〕(ウムラウト)付き
(画面上では表示不可)
【青森】南部地方
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)めぇおどすた(句)
〔意味〕死んだ。目を落とす。臨終。
青森県五戸語彙(能田多代子, 1963年)
メヲオトス
〔意味〕死ぬの意。
【秋田】県北
二ツ井町史(二ツ井町町史編さん委員会, 1977年)メオトス
〔意味〕落命する。息をひきとる。
【秋田】県南
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)メーオドス
〔意味〕落命する。死ぬ。臨終。
〔品詞〕動詞
メオドス
〔意味〕死ぬこと。亡くなること。
〔品詞〕動詞
【秋田】由利
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)めおどす〔動〕
〔意味〕息を引取る。死ぬ。
〔例〕
「じさま けさ めおどした。
(おじいさんは今朝息を引取った)」
【岩手:旧南部領】全般
岩手方言 舊南部の部(小松代融一, 1959年)メー(オドス)*舊(きゅう):旧
〔意味〕絶命する
メオドス
〔意味〕死ぬ
【岩手:旧南部領】北部
岩泉地方史<下巻>(関口喜多路, 1980年)メーオドス
〔意味〕息を引きとる、瞑目する
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)
メェオドス
〔意味〕息を引きとる。死ぬ
〔解説〕目を落とす。
【岩手:旧南部領】中部
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)メオドス*資料上では、「ド」の右上に「・」を付し、
【め-おとす】[目落](連語)
〔意味〕目を落す。瞑目する。死ぬ。
タ行の異濁音として表記
(画面上では表示不可)
遠野民俗資料 遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
メ・オドス
〔意味〕死亡
〔例〕今朝、四時半メ・オドスた。
【岩手:旧伊達領】内陸
黄海村史(黄海村史編纂委員会, 1960年)め、おとす。
〔意味〕死ぬ。
胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
めおどす
〔意味〕
落命。死亡。
転じて数える際に少なく数え間違いをしたこと
平泉町史 自然編・民俗編1(平泉町史編纂委員会, 1997年)
平泉の方言(小松代融一)
めおどす
〔意味〕死ぬ。永久に瞑目してしまう。
【山形】全般
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)メーオど・ス(四段活用)<目落す>
〔意味〕死ぬ。
〔分布地点〕
西置賜郡長井周辺。山形市。西村山郡谷地。
北村山郡楯岡。最上郡小国。
メオど・ス(四段活用)<目落す>
〔意味〕落命する。死ぬ。
〔例〕「八時にメオどシた」
〔分布地点〕
東置賜郡上郷。西置賜郡白鷹・長井周辺・蚕桑。
南置賜郡三沢。西村山郡寒河江・川土居・大谷。
北村山郡楯岡。新庄市。最上郡鮭川・小国。
東田川郡渡前・広瀬・大泉。
西田川郡鼠関。飽海郡南平田・大沢・平西田。
【山形】庄内
庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)メーオドス 動詞。
〔意味〕目を落とす。落命する。死ぬ。臨終。
〔例〕
「あこねのじいさん きんな メーオドしたど」
(あそこの家のおじいさん昨日亡くなったと)。
メオドス 動詞。
〔意味〕目を落す。死ぬこと。亡くなること。
メーオドスに同じ。
〔例〕
「隣りのばさま病気で寝っだな、きんな
メオドしたど」
(隣りのおばあさん病気で寝ていたが、
昨日亡くなったと)。
〔使用地域〕
遊佐・酒田・宮野浦・立谷沢・千本杉・
藤島・羽黒・鶴岡・湯野浜・鼠が関・大島
【山形】最上
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)メーオドス
〔意味〕死ぬ。
続 かつろく風土記(笹喜四郎, 1984年)
めおとす
〔意味〕死ぬ
〔例〕今めおとした
【山形】置賜
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)めおとす
〔意味〕意味:命落とす 死ぬ
〔例〕「八時にめおとした」
読む方言辞典 置賜のことば百科(菊地直, 2007年)
めぇおとす[句]
〔語釈〕
息を引き取る。危篤。死亡すること。
「目を落とす」の転。
〔例〕「ゆんべな めぇおとしたど」
〔解説〕死ぬ。落命する。
【宮城】全般
宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県史編纂委員会, 1960年)方言(藤原勉)
めおとす me-odosɯ
〔意味〕死ぬ。
〔解説〕
落命の日本読みではないと思う。
目を落すは目を瞑ることであろう。
〔例〕「父は昨夕目をおとしました」。
【宮城】仙台
自伝的仙台弁(石川鈴子, 1966年)め-おとす
〔意味〕死ぬ。亡くなる。
【宮城】県北
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)めおどす
〔意味〕落命する意、臨終の事。
高清水町史(高清水町史編纂委員会, 1976年)
メオドスタ
〔意味〕命落す・亡くなった
田尻町史 上巻(田尻町史編さん委員会, 1982年)
め おどす
〔意味〕目おとす 死ぬ
【宮城】県南
丸森町史(丸森町史編さん委員会, 1984年)めおどす(句)
〔意味〕目をおとす 臨終
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)
宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
めーおどす
(めいおとす=命落とす)
〔意味〕落命する・息が絶える・死ぬ。
〔例〕
「今朝の五時十五分に、おばんちゃん
(おばあさん)が、めーおどすた」
「あの人が、めーおどさねーうずに、
よっく頼んでおげよ」。
【福島】全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)メオオトス【句】
〔意味〕落命する
〔例〕
「けらつちとーとーめをおとした」
(けられてたうとう落命した)
〔使用地域〕会津・県南・県北・中部・浜通
【福島】会津
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)めおどす・めおとす【動】*この言語資料では、
〔意味〕目を落す、死ぬ、亡くなる
〔例〕「たった今、メオドシたところだ」
「と」の右上に×印を付し、清音・濁音に
対応する表記をしています。
会津方部 方言の手引書(蜃気楼, 2008年)
めぇおどす
〔意味〕亡くなる
〔例〕「いやいや気の毒に、たんだ今めぇおどさったどし。
【福島:中通り】中部(安積地方)
旧塩澤村地域遺産のことばと地名(菅野八作, 2013年)メィオドス
〔意味〕命落とす、死ぬ
〔例〕メィーオドスばっかりだ
メィオドシタ
〔意味〕命おとした、死んだ
〔例〕たった今メイオドシタどごだ
【福島:中通り】南部(白河地方)
鏡石町史 第四巻 民俗編(鏡石町, 1984年)メーオドス
〔意味〕死
〔例〕「今朝方メーオドシた」
天栄村史 第四巻 民俗編(天栄村史編纂委員会, 1989年)
めいおどす
〔意味〕死すこと
【福島:浜通り】北部(相馬地方)
相馬方言考(新妻三男, 1930年)メーオトス(小句)
〔意味〕息をひきとる 、落命する。眼を落す意。
〔例〕母は一番どりの鳴く時メーオトシた。
原町市の方言 わたしたちの古里言葉(高野徳, 1999年)
めーおとした
〔意味〕死んだ 息をひきとる
〔例〕十時に「めーおとした」
大熊町方言集(おおくまふるさと塾, 2019年)
メーオドス
〔意味〕亡くなる
〔例〕長い間寝たきりだったおやじが
メーオドスときは穏やかだった
【福島:浜通り】南部(いわき地方)
いわき方言(高木稲水, 1975年)めえおどす(動詞)
〔意味〕死ぬ。視力がなくなる意。
編集後記
東北(旧奥州)の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可欠です。
「奥州語の文法」は国語の東北版として、
東北各地の言語資料を基に、東北の広範囲
に共通の用法で構成されており、書き言葉
として文書や記事などに使うことを想定し
ています。
この東北共通の書き言葉が、東北各地の言語
の地域公用語化を促進し、未来へ言語を継承
するための原動力となれば幸いです。
編集者:千葉光