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6/01/2025

わがらねァ:用法編

奥州東北語の公用語化の一環として、東北各
地の言語資料を基に、ここでとりあげる語の
意味・用法などについて整理しました。

編集者:千葉光

目次:

01. 意味
02. 用例
 【駄目】助詞・接続助詞・助動詞
 【駄目】副詞・名詞・っこ
 【駄目】終助詞「す」・促音「っ」
 【駄目】連体形・連用形
 【駄目】行動に対して
 【駄目】目的・目標に対して
 【役に立たない】人・食べ物・製品
 【役に立たない】日用品など
 【出来ない】自分・目標・仕事・疑問形
03. 津軽にも見られる「わがらねァ」
04. 「わがる」
05. 各地の言語資料より
 【青森】南部 下北
 【秋田】全般 県南
 【岩手:旧盛岡藩】全般 北部 盛岡 中部
 【岩手:旧仙台藩】内陸 沿岸
 【山形】全般 庄内 最上 置賜
 【宮城】仙台 三陸圏 県南
 【福島】全般 会津 中通り北部
 【福島:浜通り】北部 南部
06. 編集後記

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意味


わがらねァ・わがんねァ

〔意味〕
①だめだ・いけない・役に立たない
②出来ない・不可能

〔表記〕
「ねァ(え・あ中間音)」は変体仮名で表記
<参照>
【え・あ中間音】表記法

この語には、原義である「分からない」と
いう意味もあり、東北各地の言語資料でも
とりあげていますが、ここでは①②の意味
に焦点を絞り整理しました。

目次 ↑

用例

東北各地の言語資料を基に、「わがらねァ」
の用例について、「駄目・役に立たない・出
来ない」の意味ごとに整理しました。

目次 ↑

【駄目】助詞・接続助詞・助動詞
「わがらねァ」が助詞・接続助詞・助動詞の
後ろに続く例について整理しました。
【駄目】助詞・接続助詞・助動詞
<参照>
【え・あ中間音】表記法
【ha助詞】表記法
【ごど:合略仮名】表記法

目次 ↑

用例 ↑

【駄目】副詞・名詞・っこ
「わがらねァ」が副詞・名詞・「っこ」の後
ろに続く例について整理しました。
【駄目】副詞・名詞・っこ

目次 ↑

用例 ↑

【駄目】終助詞「す」・促音「っ」
「わがらねァ」に、終助詞「す」・促音「っ
」が接続する例について整理しました。
【駄目】終助詞「す」・促音「っ」

目次 ↑

用例 ↑

【駄目】連体形・連用形
【駄目】連体形・連用形

連体形は「わがらねァ・わがんねァ」に名詞
が続きます。

連用形は未然形「わがら・わがん」に、助動
詞「ねァぐ(なく)」が接続します。

目次 ↑

用例 ↑

【駄目】行動に対して
【駄目】行動に対して

これは、他者の行動に対して否定する用法です。

目次 ↑

用例 ↑

【駄目】目的・目標に対して
【駄目】目的・目標に対して

目次 ↑

用例 ↑

【役に立たない】人・食べ物・製品
【役に立たない】人・食べ物・製品

これは、「役に立たない」のほか、物に対し
ては「使えない」という意味にもなります。

目次 ↑

用例 ↑

【役に立たない】日用品など
【役に立たない】日用品など

「役に立たない」は「使えない」に置き換え
ができます。

目次 ↑

用例 ↑

【出来ない】自分・目標・仕事・疑問形
【出来ない】自分・目標・仕事・疑問形
これは「出来ない・不可能」を表わす用法
です。自分・目標・仕事・疑問形に分けて
整理しました。

例文の「おら」は一人称、「おら方」は所
属を表わす代名詞です。

疑問形は「わがらねァ・わがんねァ」に「
のが?(のか?)」が接続します。

目次 ↑

用例 ↑

津軽にも見られる「わがらねァ」

青森・津軽地方では、「まえねァ・まねァ」
が「だめだ・いけない」の意味で使われてい
ますが、当方にて調べたところ、次の言語資
料に、津軽における「わがらねァ」が見られ
ました。

・津軽 森田村方言集(1979年)
・津軽方言考(1901年)
・東北方言集(1920年)

津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)
ワガラネ
〔意味〕駄目。いけない。やっては駄目。
《補足》
森田村は、2005年の広域合併により、現在は
「つがる市」の一部となっており、藩政時代
の中心都市である弘前市から北に40kmほどに
位置します。

目次 ↑

津軽方言考(武井水哉, 1901年)
 ※『津軽方言考』考(大嶋孜, 1984年)所収
わからない(形)
〔意味〕つまらない だめだなどにも用う。
〔解説〕
 東京にて金銭など望みに応ぜざるをいうと
 同語の転なり。

目次 ↑

東北方言集(仙台税務監督局, 1920年)
わからない(わかんない)【連語】
〔意味〕いけない
〔例〕そんなことをしては、わからない、およしなさい
〔使用地名〕宮北、宮南、青津、山村
この資料は、東北6県の代表的な語彙を収録
したものですが、使用地域に青津(青森県津
軽地方)が見られます。
(宮北・宮南は宮城県仙北・仙南地方、山村
は山形県村山地方)

目次 ↑

以上、これら三つの言語資料に、津軽におけ
る「わがらねァ」が見られました。

これを旧森田村など、あくまで津軽の一部の
地域に分布しているものとして捉えるべきか
、その一方で、津軽方言考や東北方言集でも
とりあげていることから、かつては津軽の広
範囲で使われていた可能性があるとすべきな
のか、結論を出すのは難しいようです。

目次 ↑

津軽にも見られる「わがらねァ」 ↑

「わがる」

東北全体では「わがらねァ」という、一語化
した形容詞としての用法が一般的ですが、一
方で、終止形「わがる」として使われる用法
が、山形・宮城の言語資料に見られました。

米沢・仙台の資料から引用します。

米沢方言辞典(米沢女子短期大学国語研究部 編, 1969年)
わがる[~ga~]動詞(ラ・四)
①理解する
②間に合う。役立つ。
「この紐でもワガル」
③可能だ。できる。
「この位あれば、ワガル」

例文のように、「間に合う・できる」の意味
で、終止形「わがる」が使われています。

目次 ↑

仙台の方言(土井八枝, 1938年 )
「おしごと頼みさまいりした。單物(ひとえ
もの)一枚明日中にわかっかわかんねか、聞
いて來い、つわって參りした」(お仕立物を
頼みに參りました。單物を一枚明日中に出來
るか出來ないかを聞いて來いと言はれて參り
ました)

例文のように「わがっか わがんねァが(出
来るか出来ないか)」、相手に聞く場面で使
われています。

目次 ↑

以上、米沢・仙台の資料から引用しましたが、
この終止形の用法は、山形県・宮城県に限定
されるようです。

目次 ↑

「わがる」 ↑

各地の言語資料より

各地の言語資料より、意味・用例などを整理
しました。

注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名

青森(南部地方)
南部のことば(佐藤政五郎, 1982年)
わがない(わがね—わがんね)
〔意味〕
 知らない、駄目だ、いけない、できない
〔例〕
 〇それば、わがんね(それは知らない)
 〇そへば、わがねだ
 (それすれば、駄目なんだ)
 〇おら、そったごと、わがね
 (私はそんなこと、出来ない)
わからね(わがないと同じ)

わがんなー(わがないと同じ)(島守)

わがんにゃえ(わがないと同じ)(下北佐井)

わがんね(わがないと同じ)
※引用欄を二つに分けました。


青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
わがね(句)
〔解説〕
 解る、分る、判るの否定句。

 ①駄目だ(承知しない)。
 ②判らない(明白でない)。
 ③分らない(区別がつかない)。
 ④解らない(理解できない)。
 ⑤嫌だ(欲しない)。
 ⑥いけない(駄目だ)。
 ⑦できない(不可能だ)。
 ⑧見込みがない。
 ⑨あきたらない。
わがねったら(句)
〔意味〕駄目だといったら駄目だ。
    嫌だといったら嫌だ。

わがらね(句)
 ①理解できない。
 ②だめだ。

わがらねったら(句)
〔意味〕拒否の強辞。

わがんね(句)
〔意味〕わがね(前述)の撥音便。

わがんねでァ(句)
〔意味〕でァ(助)は強めの助詞。だめですよ。
※引用欄を二つに分けました。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

青森(下北地方)
下北半島 大利部落の方言(大嶋孜, 1986年)
わがねぇ
〔意味〕だめだ。
〔解説〕
 否定するときに使う。活用は形容詞と同じ
 である。
〔用例〕いぢでぇでおわば わがねぇしてぇ

この資料では、活用は形容詞と同じとしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)
わがねぁ(連)
〔意味〕いけない、分らない。
〔用例〕「そんなことするとわがねぁ。」
〔方言採集地〕鹿角郡

わがらねぁ(連)
〔意味〕駄目だ。
〔用例〕「もーわがらなぐなった。」
〔方言採集地〕山本郡、平鹿郡

例文の「わがらなぐなった」のように、打消
の助動詞「ない」の連用形「なく」に、動詞
「なる・なった」が接続する形も見られます。

目次 ↑

語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
わからない・わかない〔連語〕
〔意味〕だめだ。いけない。いやだ。役に立たない。

〔ワカラネァ〕 鹿
〔ワガラネァ〕 山 平 由
〔ワガネァ〕鹿 平
〔ワカネァ〕鹿

「ソンタ ゴド スルド、ワガラネァ」
「コノ 箱 小(チー)セァフ(ク)テ ワガネァ」
「ソレバ ワガネァ」

「わかる」の未然形+打消しの助動詞「ない
」の連語であるが、意味上は一語化した形容
詞として用いられる。

この資料では、品詞を「連語」と位置付けて
いますが、意味上は一語化した「形容詞」と
して用いられるとしています。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

秋田(県南)
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)
ワガラネ 連語
〔意味〕①わからない。
    ②だめだ。なんにもならない。

ワガンネァ 連語
〔意味〕わからない。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(全般)
岩手方言集(小松代融一, 1959年)
 旧南部の部
ワガナェ
〔意味〕だめだ、わからない

ワガネァ
〔意味〕知らない、嫌だ、だめだ、
    いけない、できない、よくない

ワガネァッタ
〔意味〕だめだよ

ワガネェ
〔意味〕だめだ、いけない

ワガラナイ
〔意味〕できない

ワガラネァ
〔意味〕承知できない、不可能だ、いけない

ワガンネァ
〔意味〕だめだ、いけない、わからない

ワガンネァガ
〔意味〕いやだ!

ワガンネァガンサァ
〔意味〕いけない!

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)
ワガネァ・ワガンネァ
〔意味〕わからない。いけない。だめだ
〔解説〕「分らない。判らない」の変。

ワガナグサ
〔意味〕だめにした
〔例〕車をぶっつけてすっかりワガナグサ。

「ワガナグ+サ(わからなく+した)」のよ
うに、打消の助動詞「ない」の連用形「なく
」に、「する」の連用形「した」が接続する
形も見られます。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
ワガラネァ【わか・らな・い】(連語)
〔意味〕
 駄目である。いやである。いけない。
 ワガンネァ→ワガネァ

ワガネァ
→ワガラネァに同じ。
《補足》
資料上は、「ガ」ではなく、「カ」の右上に
「・」を付して異濁音表記

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧盛岡藩(中部)
遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)
ワガラ子ア
〔意味〕出來ナイ

この資料では、「ネ」を「子」と表記し、
「子ア」は「ナイ」の転訛としています。

目次 ↑

おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
ワガネェア・ワガラネェア
〔意味〕わからない、知らない、だめだ、いやだ
〔品詞〕助動詞

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遠野民俗資料 遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
ワガネェー
〔意味〕だめだ、困る、いけない。

ワガンネェー
〔意味〕①判らない ②駄目だ ③いやだ
    ④困る

ワガンマヘン(ワガマヘン)
〔意味〕駄目だ、判らない。
〔例〕
(1) なんぼ頼まれでも、そんたな事ァハー
  、ワガマヘン。あゝワガンマヘン・チャ。
  (駄目だ)

(2) さっきがら探すてるが、さっぱりワガ
  ンマヘン・ナー(判らない)
アッタッタッテ
〔意味〕あったとしても
〔例〕
 そんな良いごとァ前にアッタッタッテ、
 今度ァワガンネェー(駄目だろう)

見出し語の「アッタッタッテ」の用例に、
「ワガンネェー」が使われていました。

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岩手県央部 紫波の言葉(山田長耕, 2007年)
わがなぇ
〔意味〕いけない・駄目
〔用例〕
 百姓ぁ何つくても わがなぇぐなった。
 何すろ手間の安す外国ど競争なんだも。

わがなぇんじぇ
〔意味〕だめですよ

わがばぇ
〔意味〕駄目だろう

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(内陸)
黄海村史(黄海村史編纂委員会, 1960年)
わからない
〔意味〕いけない。だめだ。

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胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
わがっか
〔意味〕わかるか。理解できるか(会話)

わがねぇ・わがんねぇ・わがらねぇ
〔意味〕わからない。知らない。駄目

わがねぇってがぁ・わがんねぇってがぁ
〔意味〕わからないのか。駄目だってか(会話)

わがねぇわがねぇ
〔意味〕駄目だ駄目だ。だめだめ(会話)

わがんべぇ
〔意味〕わかるだろう(会話)

わがんべぇだらやぁ
〔意味〕わかるでしょう(会話)

わがんめっちゃ
〔意味〕駄目でないか。わかるだろう

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平泉町史 自然編・民俗編1(平泉町史編纂委員会, 1997年)
 平泉の方言(小松代融一)
わがんねぁ
〔解説〕
 わからない。つぎのようにいろいろと
 打ち消しの意味に用いる。

〔例〕
「えもけらえ゜・・・わがんねぁ
 =芋を下さい・・・だめだ」

「あそぴさえってぁ、わがんねぁ
 =遊びに行くのは、許さない」

「これくれぁのかんじょぁ、わがんねぁのが
 =これ位の計算が、不可能(できない)なのか」
《補足》
 例文の「え゜」は、息を鼻から抜きながら
 発音(凡例より)

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)
ワガンネァ(形)
〔解説〕
「解らない」。
病気で助かる見込みのないのもワガンネァ、
頼まれて断わるのもワガンネァ、困ったこと
にもワガンネァ、試験問題の解らないのは勿
論ワガンネァ、恥ずかしい時にも「おらワガ
ンネァ」、言うことをきかない子供も「ワガ
ンネァわらし」

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気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
わがんねァ「句」「形」
①理解出来ない。
〔例〕この本がわがんねァ。

②いけない。
〔例〕それェそごさ置いでァわがんねァ。

③だめだ。
〔例〕病人はどうしてもわがんねァようだ。

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
ワがラネ(連語)
①わからない。不明。
〔例〕「すいぶん捜したが——け」

〔分布地点〕
 山形市。東村山郡干布。北村山郡宮沢・
 楯岡。最上郡。酒田市。東田川郡大泉。
 飽海郡平田。

②だめだ、役に立たぬの意。
〔例〕
 「そんなもの買っても——」
 「あいつでは——」

〔分布地点〕
 東置賜郡上郷。山形市。東村山郡干布・
 楯山。北村山郡宮沢・楯岡。最上郡小国
 。西田川郡鼠関。
ワがンネ(連語)
〔意味〕わからない。不可能。だめだの意。
「もー —— ハー(助からないよの意)」。

〔分布地点〕
 米沢市。東置賜郡上郷。西田川郡白鷹
 ・長井周辺。南置賜郡南原・中津川。
 山形市周辺。西村山郡寒河江。南村山郡。
 北村山郡楯岡。最上郡。
※引用欄を二つに分けました。


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各地の言語資料より ↑

山形(庄内地方)
庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)
ワガラネ

①わからない。
②だめだ。なんにもならない。
「あれではワガラネ」
(あれではだめだ・あの者では何の役にも
 たたない)。
〔調査地〕湯野浜・温海・鼠ヶ関

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各地の言語資料より ↑

山形(最上地方)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)
ワガラナァェ
①理解できない。
②見付けられない。
③だめな(=だ)。——野郎だ。

ワガンナァェ
〔意味〕「ワガラナァェ」と同
〔例〕ドサアッカ(どこにあるか)——。

この資料では、「ない」を「ナァェ」と表記
しています。当方が呼称として用いる「え・
あ中間音」です。

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各地の言語資料より ↑

山形(置賜地方)
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)
わがんね
〔意味〕分らない、駄目だ

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米沢方言辞典(米沢女子短期大学国語研究部 編, 1969年)
わがんなえ[~ga~e]連語
〔意味〕できない。「わがる」の否定語。

わがんね[~ga~]連語
〔意味〕わからない。できない。いけない。
    駄目だ。「わからない」の転。

わかんめっちゃあ 連語
 ①駄目なことだよ。
 ②間に合わないよ。
 ③出来ないよ。

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各地の言語資料より ↑

宮城(仙台)
仙台の方言(土井八枝, 1938年 )
わからない(ワガンネ) 句
〔意味〕
 1.いけない、駄目だ。
 2.出來ない。

〔例〕
1、
わかんねわかんね、あんたそった無茶
 すっからわかんねおね」
(いけないいけない、お前はそんな無茶を
 するから駄目だよ)

2、
「おしごと頼みさまいりした。單物(ひとえ
 もの)一枚明日中にわかっかわかんねか、
 聞いて來い、つわって參りした」
(お仕立物を頼みに參りました。單物を一枚
 明日中に出來るか出來ないかを聞いて來い
 と言はれて參りました)

〔註〕
「了解する」の意には多くわけわかる
 、わけわからないといふ。
《補足》
見出し語の横のカタカナ表記は、資料上は
フリガナとして表示

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各地の言語資料より ↑

宮城(三陸圏)
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)
わがんねぁ
〔意味〕出来ない、いけない、駄目
    等に使ふ。
〔例〕
「そえずわ他(ほか)貸てわがんねぁぞ」
「俺にはとってもわがんねぁ」


わがりえん、わがりえんと
〔意味〕いけない、いけませんよ。
〔例〕「あどがら行ったてわがりえんと」

文字通り「わからない」とも使ふのです。

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各地の言語資料より ↑

宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)  宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
わがんねー(わかんない)

(1) いけない・駄目だ。
「えってわがんねー(行ってはいけない・
 行っては駄目だ)」
「えずまでも、あすんででは(遊んでいて
 は)わがんねー」

(2) できない。
「この仕事ば今月の二十日までに仕上げで
 もらえでーが、わがっか(できるか)、
 わがんねーが(できないか)、なるべぐ
 早ぐ知らしェでけろ」

標準語の意味(分からない)にも使う。

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各地の言語資料より ↑

福島(全般)
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
ワカラナイ【句】
〔意味〕役に立たない、駄目だ
〔例〕
「わからないやつだ」(役に立たない人だ)
〔使用地域〕会津・県南・浜通


ワガンネェー【句】
〔意味〕わからない、出来ない
〔例〕
「算術などわがんね」(算術など出来ません)
〔使用地域〕県北・中部・県南
《補足》
*「句」:語の連なったもの(凡例より)
*県北・中部・県南=中通り北部・中部・南部

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各地の言語資料より ↑

福島(会津地方)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
わからない わからなえ【句】
〔意味〕役に立たない、駄目な
〔用例〕「——やつだ」

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各地の言語資料より ↑

福島・中通り北部(信夫地方)
福島方言集(香内佐一郎, 1953年)
ワカンネ
〔意味〕駄目

ワカンネェ
〔意味〕役に立たない

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各地の言語資料より ↑

福島・浜通り北部(相馬地方)
福島県中村町方言集(武藤要, 1931年)
わかんねぇ
〔意味〕いけない、駄目だ
〔用例〕「そおだごとして、わかんねェ」。

目次 ↑

相馬方言考(新妻三男, 1930年)
ワカンネェー(形) わかるの打消。

一、
はっきり了解出来ない、解し兼ねる、
合点が行かない、不明である。(本義)

〔例〕
・来っか来ねぇーかワカンネェー。
・算術一つ、一時間もかかってまだワカンネェー。
・この文章の中で何かワカンネェーことなえか。


二、
いけない、駄目だ、役に立たない。
(転義、多く使用)

〔例〕
・この蜜柑すっぱくてワカンネー。
・鮎釣んには竿まっと長くなくてぇーワカンネー。
・重たくてワカンネェー。
(重い荷を擔がうとして擔ぎかねた場合など。)
・あすなさ、五時に起きなくてぇワカンネェー。
《補足》
擔がう(かつごう)、擔ぎ(かつぎ)

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高平方言集(高平方言教室, 2005年)
ワガンネ
①【わからない】
 なんぼ言ってもワガンネ人だ

②【だめだ】
 この洗濯機はワガンネ

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各地の言語資料より ↑

福島・浜通り南部(いわき地方)
いわき方言(高木稲水, 1975年)
わがんねえ(句)
〔意味〕駄目だ。

富岡町史 第三巻 民俗 考古編(富岡町史編纂委員会, 1987年)
ワガンネエ
〔意味〕わからない・できない

いわき市小川町地方の方言(草野二郎, 1988年)
わがんねえ
〔意味〕分らない、駄目な、はっきりしない。
〔用例〕
 あえづはどうもわがんねえやづだなあ、
 どうがしてんだっぺ。

目次 ↑

各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である奥州東北の言語を未
来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。

当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。

当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。

編集者:千葉光

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