地の言語資料を基に、ここでとりあげる語の
意味・用法などについて整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 用例
【駄目】助詞・接続助詞・助動詞
【駄目】副詞・名詞・っこ
【駄目】終助詞「す」・促音「っ」
【駄目】連体形・連用形
【駄目】行動に対して
【駄目】目的・目標に対して
【役に立たない】人・食べ物・製品
【役に立たない】日用品など
【出来ない】自分・目標・仕事・疑問形
03. 津軽にも見られる「わがらねァ」
04. 「わがる」
05. 各地の言語資料より
【青森】南部 下北
【秋田】全般 県南
【岩手:旧盛岡藩】全般 北部 盛岡 中部
【岩手:旧仙台藩】内陸 沿岸
【山形】全般 庄内 最上 置賜
【宮城】仙台 三陸圏 県南
【福島】全般 会津 中通り北部
【福島:浜通り】北部 南部
06. 編集後記
意味
わがらねァ・わがんねァ
〔意味〕
①だめだ・いけない・役に立たない
②出来ない・不可能
〔表記〕
「ねァ(え・あ中間音)」は変体仮名で表記
<参照>【え・あ中間音】表記法
この語には、原義である「分からない」と
いう意味もあり、東北各地の言語資料でも
とりあげていますが、ここでは①②の意味
に焦点を絞り整理しました。
用例
東北各地の言語資料を基に、「わがらねァ」の用例について、「駄目・役に立たない・出
来ない」の意味ごとに整理しました。
【駄目】助詞・接続助詞・助動詞
「わがらねァ」が助詞・接続助詞・助動詞の後ろに続く例について整理しました。
<参照>
【え・あ中間音】表記法
【ha助詞】表記法
【ごど:合略仮名】表記法
【駄目】副詞・名詞・っこ
「わがらねァ」が副詞・名詞・「っこ」の後ろに続く例について整理しました。
【駄目】終助詞「す」・促音「っ」
「わがらねァ」に、終助詞「す」・促音「っ」が接続する例について整理しました。
【駄目】連体形・連用形
連体形は「わがらねァ・わがんねァ」に名詞
が続きます。
連用形は未然形「わがら・わがん」に、助動
詞「ねァぐ(なく)」が接続します。
【駄目】行動に対して
これは、他者の行動に対して否定する用法です。
【駄目】目的・目標に対して
【役に立たない】人・食べ物・製品
これは、「役に立たない」のほか、物に対し
ては「使えない」という意味にもなります。
【役に立たない】日用品など
「役に立たない」は「使えない」に置き換え
ができます。
【出来ない】自分・目標・仕事・疑問形
これは「出来ない・不可能」を表わす用法です。自分・目標・仕事・疑問形に分けて
整理しました。
例文の「おら」は一人称、「おら方」は所
属を表わす代名詞です。
疑問形は「わがらねァ・わがんねァ」に「
のが?(のか?)」が接続します。
津軽にも見られる「わがらねァ」
青森・津軽地方では、「まえねァ・まねァ」が「だめだ・いけない」の意味で使われてい
ますが、当方にて調べたところ、次の言語資
料に、津軽における「わがらねァ」が見られ
ました。
・津軽 森田村方言集(1979年)
・津軽方言考(1901年)
・東北方言集(1920年)
津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)
ワガラネ《補足》
〔意味〕駄目。いけない。やっては駄目。
森田村は、2005年の広域合併により、現在は
「つがる市」の一部となっており、藩政時代
の中心都市である弘前市から北に40kmほどに
位置します。
津軽方言考(武井水哉, 1901年)
※『津軽方言考』考(大嶋孜, 1984年)所収
わからない(形)東北方言集(仙台税務監督局, 1920年)
〔意味〕つまらない だめだなどにも用う。
〔解説〕
東京にて金銭など望みに応ぜざるをいうと
同語の転なり。
わからない(わかんない)【連語】この資料は、東北6県の代表的な語彙を収録
〔意味〕いけない
〔例〕そんなことをしては、わからない、およしなさい
〔使用地名〕宮北、宮南、青津、山村
したものですが、使用地域に青津(青森県津
軽地方)が見られます。
(宮北・宮南は宮城県仙北・仙南地方、山村
は山形県村山地方)
以上、これら三つの言語資料に、津軽におけ
る「わがらねァ」が見られました。
これを旧森田村など、あくまで津軽の一部の
地域に分布しているものとして捉えるべきか
、その一方で、津軽方言考や東北方言集でも
とりあげていることから、かつては津軽の広
範囲で使われていた可能性があるとすべきな
のか、結論を出すのは難しいようです。
「わがる」
東北全体では「わがらねァ」という、一語化した形容詞としての用法が一般的ですが、一
方で、終止形「わがる」として使われる用法
が、山形・宮城の言語資料に見られました。
米沢・仙台の資料から引用します。
米沢方言辞典(米沢女子短期大学国語研究部 編, 1969年)
わがる[~ga~]動詞(ラ・四)
①理解する
②間に合う。役立つ。
「この紐でもワガル」
③可能だ。できる。
「この位あれば、ワガル」
例文のように、「間に合う・できる」の意味
で、終止形「わがる」が使われています。
仙台の方言(土井八枝, 1938年 )
「おしごと頼みさまいりした。單物(ひとえ
もの)一枚明日中にわかっかわかんねか、聞
いて來い、つわって參りした」(お仕立物を
頼みに參りました。單物を一枚明日中に出來
るか出來ないかを聞いて來いと言はれて參り
ました)
例文のように「わがっか わがんねァが(出
来るか出来ないか)」、相手に聞く場面で使
われています。
以上、米沢・仙台の資料から引用しましたが、
この終止形の用法は、山形県・宮城県に限定
されるようです。
各地の言語資料より
各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。
注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名
青森(南部地方)
南部のことば(佐藤政五郎, 1982年)わがない(わがね—わがんね)
〔意味〕
知らない、駄目だ、いけない、できない
〔例〕
〇それば、わがんね(それは知らない)
〇そへば、わがねだ
(それすれば、駄目なんだ)
〇おら、そったごと、わがね
(私はそんなこと、出来ない)
わからね(わがないと同じ)※引用欄を二つに分けました。
わがんなー(わがないと同じ)(島守)
わがんにゃえ(わがないと同じ)(下北佐井)
わがんね(わがないと同じ)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
わがね(句)
〔解説〕
解る、分る、判るの否定句。
①駄目だ(承知しない)。
②判らない(明白でない)。
③分らない(区別がつかない)。
④解らない(理解できない)。
⑤嫌だ(欲しない)。
⑥いけない(駄目だ)。
⑦できない(不可能だ)。
⑧見込みがない。
⑨あきたらない。
わがねったら(句)※引用欄を二つに分けました。
〔意味〕駄目だといったら駄目だ。
嫌だといったら嫌だ。
わがらね(句)
①理解できない。
②だめだ。
わがらねったら(句)
〔意味〕拒否の強辞。
わがんね(句)
〔意味〕わがね(前述)の撥音便。
わがんねでァ(句)
〔意味〕でァ(助)は強めの助詞。だめですよ。
青森(下北地方)
下北半島 大利部落の方言(大嶋孜, 1986年)わがねぇ
〔意味〕だめだ。
〔解説〕
否定するときに使う。活用は形容詞と同じ
である。
〔用例〕いぢでぇでおわば わがねぇしてぇ
この資料では、活用は形容詞と同じとしています。
秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)わがねぁ(連)
〔意味〕いけない、分らない。
〔用例〕「そんなことするとわがねぁ。」
〔方言採集地〕鹿角郡
わがらねぁ(連)
〔意味〕駄目だ。
〔用例〕「もーわがらなぐなった。」
〔方言採集地〕山本郡、平鹿郡
例文の「わがらなぐなった」のように、打消
の助動詞「ない」の連用形「なく」に、動詞
「なる・なった」が接続する形も見られます。
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
わからない・わかない〔連語〕
〔意味〕だめだ。いけない。いやだ。役に立たない。
〔ワカラネァ〕 鹿
〔ワガラネァ〕 山 平 由
〔ワガネァ〕鹿 平
〔ワカネァ〕鹿
「ソンタ ゴド スルド、ワガラネァ」
「コノ 箱 小(チー)セァフ(ク)テ ワガネァ」
「ソレンダンバ ワガネァ」
「わかる」の未然形+打消しの助動詞「ない
」の連語であるが、意味上は一語化した形容
詞として用いられる。
この資料では、品詞を「連語」と位置付けて
いますが、意味上は一語化した「形容詞」と
して用いられるとしています。
秋田(県南)
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)ワガラネ 連語
〔意味〕①わからない。
②だめだ。なんにもならない。
ワガンネァ 連語
〔意味〕わからない。
岩手・旧盛岡藩(全般)
岩手方言集(小松代融一, 1959年)旧南部の部
ワガナェ
〔意味〕だめだ、わからない
ワガネァ
〔意味〕知らない、嫌だ、だめだ、
いけない、できない、よくない
ワガネァッタ
〔意味〕だめだよ
ワガネェ
〔意味〕だめだ、いけない
ワガラナイ
〔意味〕できない
ワガラネァ
〔意味〕承知できない、不可能だ、いけない
ワガンネァ
〔意味〕だめだ、いけない、わからない
ワガンネァガ
〔意味〕いやだ!
ワガンネァガンサァ
〔意味〕いけない!
岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米・ふるさと言葉(軽米町教育委員会, 1987年)ワガネァ・ワガンネァ
〔意味〕わからない。いけない。だめだ
〔解説〕「分らない。判らない」の変。
ワガナグサ
〔意味〕だめにした
〔例〕車をぶっつけてすっかりワガナグサ。
「ワガナグ+サ(わからなく+した)」のよ
うに、打消の助動詞「ない」の連用形「なく
」に、「する」の連用形「した」が接続する
形も見られます。
岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)ワガラネァ【わか・らな・い】(連語)《補足》
〔意味〕
駄目である。いやである。いけない。
ワガンネァ→ワガネァ
ワガネァ
→ワガラネァに同じ。
資料上は、「ガ」ではなく、「カ」の右上に
「・」を付して異濁音表記
岩手・旧盛岡藩(中部)
遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)ワガラ子ア
〔意味〕出來ナイ
この資料では、「ネ」を「子」と表記し、
「子ア」は「ナイ」の転訛としています。
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
ワガネェア・ワガラネェア
〔意味〕わからない、知らない、だめだ、いやだ
〔品詞〕助動詞
遠野民俗資料 遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
ワガネェー
〔意味〕だめだ、困る、いけない。
ワガンネェー
〔意味〕①判らない ②駄目だ ③いやだ
④困る
ワガンマヘン(ワガマヘン)
〔意味〕駄目だ、判らない。
〔例〕
(1) なんぼ頼まれでも、そんたな事ァハー
、ワガマヘン。あゝワガンマヘン・チャ。
(駄目だ)
(2) さっきがら探すてるが、さっぱりワガ
ンマヘン・ナー(判らない)
アッタッタッテ
〔意味〕あったとしても
〔例〕
そんな良いごとァ前にアッタッタッテ、
今度ァワガンネェー(駄目だろう)
見出し語の「アッタッタッテ」の用例に、
「ワガンネェー」が使われていました。
岩手県央部 紫波の言葉(山田長耕, 2007年)
わがなぇ
〔意味〕いけない・駄目
〔用例〕
百姓ぁ何つくても わがなぇぐなった。
何すろ手間の安す外国ど競争なんだも。
わがなぇんじぇ
〔意味〕だめですよ
わがばぇ
〔意味〕駄目だろう
岩手・旧仙台藩(内陸)
黄海村史(黄海村史編纂委員会, 1960年)わからない
〔意味〕いけない。だめだ。
胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
わがっか
〔意味〕わかるか。理解できるか(会話)
わがねぇ・わがんねぇ・わがらねぇ
〔意味〕わからない。知らない。駄目
わがねぇってがぁ・わがんねぇってがぁ
〔意味〕わからないのか。駄目だってか(会話)
わがねぇわがねぇ
〔意味〕駄目だ駄目だ。だめだめ(会話)
わがんべぇ
〔意味〕わかるだろう(会話)
わがんべぇだらやぁ
〔意味〕わかるでしょう(会話)
わがんめっちゃ
〔意味〕駄目でないか。わかるだろう
平泉町史 自然編・民俗編1(平泉町史編纂委員会, 1997年)
平泉の方言(小松代融一)
わがんねぁ《補足》
〔解説〕
わからない。つぎのようにいろいろと
打ち消しの意味に用いる。
〔例〕
「えもけらえ゜・・・わがんねぁ
=芋を下さい・・・だめだ」
「あそぴさえってぁ、わがんねぁ
=遊びに行くのは、許さない」
「これくれぁのかんじょぁ、わがんねぁのが
=これ位の計算が、不可能(できない)なのか」
例文の「え゜」は、息を鼻から抜きながら
発音(凡例より)
岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)ワガンネァ(形)
〔解説〕
「解らない」。
病気で助かる見込みのないのもワガンネァ、
頼まれて断わるのもワガンネァ、困ったこと
にもワガンネァ、試験問題の解らないのは勿
論ワガンネァ、恥ずかしい時にも「おらワガ
ンネァ」、言うことをきかない子供も「ワガ
ンネァわらし」
気仙方言辞典(金野菊三郎, 1978年)
わがんねァ「句」「形」
①理解出来ない。
〔例〕この本がわがんねァ。
②いけない。
〔例〕それェそごさ置いでァわがんねァ。
③だめだ。
〔例〕病人はどうしてもわがんねァようだ。
山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)ワがラネ(連語)
①わからない。不明。
〔例〕「すいぶん捜したが——け」
〔分布地点〕
山形市。東村山郡干布。北村山郡宮沢・
楯岡。最上郡。酒田市。東田川郡大泉。
飽海郡平田。
②だめだ、役に立たぬの意。
〔例〕
「そんなもの買っても——」
「あいつでは——」
〔分布地点〕
東置賜郡上郷。山形市。東村山郡干布・
楯山。北村山郡宮沢・楯岡。最上郡小国
。西田川郡鼠関。
ワがンネ(連語)※引用欄を二つに分けました。
〔意味〕わからない。不可能。だめだの意。
「もー —— ハー(助からないよの意)」。
〔分布地点〕
米沢市。東置賜郡上郷。西田川郡白鷹
・長井周辺。南置賜郡南原・中津川。
山形市周辺。西村山郡寒河江。南村山郡。
北村山郡楯岡。最上郡。
山形(庄内地方)
庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)ワガラネ
①わからない。
②だめだ。なんにもならない。
「あれではワガラネ」
(あれではだめだ・あの者では何の役にも
たたない)。
〔調査地〕湯野浜・温海・鼠ヶ関
山形(最上地方)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)ワガラナァェ
①理解できない。
②見付けられない。
③だめな(=だ)。——野郎だ。
ワガンナァェ
〔意味〕「ワガラナァェ」と同
〔例〕ドサアッカ(どこにあるか)——。
この資料では、「ない」を「ナァェ」と表記
しています。当方が呼称として用いる「え・
あ中間音」です。
山形(置賜地方)
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)わがんね
〔意味〕分らない、駄目だ
米沢方言辞典(米沢女子短期大学国語研究部 編, 1969年)
わがんなえ[~ga~e]連語
〔意味〕できない。「わがる」の否定語。
わがんね[~ga~]連語
〔意味〕わからない。できない。いけない。
駄目だ。「わからない」の転。
わかんめっちゃあ 連語
①駄目なことだよ。
②間に合わないよ。
③出来ないよ。
宮城(仙台)
仙台の方言(土井八枝, 1938年 )わからない(ワガンネ) 句《補足》
〔意味〕
1.いけない、駄目だ。
2.出來ない。
〔例〕
1、
「わかんね、わかんね、あんたそった無茶
すっからわかんねおね」
(いけないいけない、お前はそんな無茶を
するから駄目だよ)
2、
「おしごと頼みさまいりした。單物(ひとえ
もの)一枚明日中にわかっかわかんねか、
聞いて來い、つわって參りした」
(お仕立物を頼みに參りました。單物を一枚
明日中に出來るか出來ないかを聞いて來い
と言はれて參りました)
〔註〕
「了解する」の意には多くわけわかる
、わけわからないといふ。
見出し語の横のカタカナ表記は、資料上は
フリガナとして表示
宮城(三陸圏)
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)わがんねぁ
〔意味〕出来ない、いけない、駄目
等に使ふ。
〔例〕
「そえずわ他(ほか)貸てわがんねぁぞ」
「俺にはとってもわがんねぁ」
わがりえん、わがりえんと
〔意味〕いけない、いけませんよ。
〔例〕「あどがら行ったてわがりえんと」
文字通り「わからない」とも使ふのです。
宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年) 宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)わがんねー(わかんない)
(1) いけない・駄目だ。
「えってわがんねー(行ってはいけない・
行っては駄目だ)」
「えずまでも、あすんででは(遊んでいて
は)わがんねー」
(2) できない。
「この仕事ば今月の二十日までに仕上げで
もらえでーが、わがっか(できるか)、
わがんねーが(できないか)、なるべぐ
早ぐ知らしェでけろ」
標準語の意味(分からない)にも使う。
福島(全般)
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)ワカラナイ【句】《補足》
〔意味〕役に立たない、駄目だ
〔例〕
「わからないやつだ」(役に立たない人だ)
〔使用地域〕会津・県南・浜通
ワガンネェー【句】
〔意味〕わからない、出来ない
〔例〕
「算術などわがんね」(算術など出来ません)
〔使用地域〕県北・中部・県南
*「句」:語の連なったもの(凡例より)
*県北・中部・県南=中通り北部・中部・南部
福島(会津地方)
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)わからない わからなえ【句】
〔意味〕役に立たない、駄目な
〔用例〕「——やつだ」
福島・中通り北部(信夫地方)
福島方言集(香内佐一郎, 1953年)ワカンネ
〔意味〕駄目
ワカンネェ
〔意味〕役に立たない
福島・浜通り北部(相馬地方)
福島県中村町方言集(武藤要, 1931年)わかんねぇ
〔意味〕いけない、駄目だ
〔用例〕「そおだごとして、わかんねェ」。
相馬方言考(新妻三男, 1930年)
ワカンネェー(形) わかるの打消。《補足》
一、
はっきり了解出来ない、解し兼ねる、
合点が行かない、不明である。(本義)
〔例〕
・来っか来ねぇーかワカンネェー。
・算術一つ、一時間もかかってまだワカンネェー。
・この文章の中で何かワカンネェーことなえか。
二、
いけない、駄目だ、役に立たない。
(転義、多く使用)
〔例〕
・この蜜柑すっぱくてワカンネー。
・鮎釣んには竿まっと長くなくてぇーワカンネー。
・重たくてワカンネェー。
(重い荷を擔がうとして擔ぎかねた場合など。)
・あすなさ、五時に起きなくてぇワカンネェー。
擔がう(かつごう)、擔ぎ(かつぎ)
高平方言集(高平方言教室, 2005年)
ワガンネ
①【わからない】
なんぼ言ってもワガンネ人だ
②【だめだ】
この洗濯機はワガンネ
福島・浜通り南部(いわき地方)
いわき方言(高木稲水, 1975年)わがんねえ(句)
〔意味〕駄目だ。
富岡町史 第三巻 民俗 考古編(富岡町史編纂委員会, 1987年)
ワガンネエ
〔意味〕わからない・できない
いわき市小川町地方の方言(草野二郎, 1988年)
わがんねえ
〔意味〕分らない、駄目な、はっきりしない。
〔用例〕
あえづはどうもわがんねえやづだなあ、
どうがしてんだっぺ。
編集後記
かつての日高見国である奥州東北の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。
当方の提唱する文法・表記法は国語の東北版
(標準東北語)として、東北各地の言語資料
を基に、東北の広範囲に共通の用法で構成さ
れており、文章語として公文書や記事などに
使うことを想定しています。
尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。
当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。
編集者:千葉光