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1/19/2024

がんす・がす:語源 (B) 編

目次:

01. 語源探求 秋田方言辞典
 (B) がんす・がす
02. 編集後記

編集:千葉光

語源探求 秋田方言辞典

この資料では、「がんす・がす」を
二系統の別語としてとりあげています。

見出し語を
(A) がんす・がす
(B) がんす・がす
と区別して掲載し、
同音異義語であることを示しています。

ここでは「(B) がんす・がす」
についてとりあげます。

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(B) がんす・がす
主要な箇所を引用します。

用法は (1) (2) (3) と三通りありますが、
「がんす・がす」について解説のある
(2) をとりあげます。

(1)尊敬語(ゴザル)
(3)直接命令法(ガンセ)
については省略します。

語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
ござる〔自ラ五〕ごあんす・(B) がんす・がす〔自サ特活〕

【意味】
 (2)「ある」の丁寧語。
 あります。ございます。
 補助動詞として用いることも多い。

【音声表記・使用郡市名】
〔ゴザル〕鹿角郡・仙北郡・平鹿郡・由利郡(亀田)
〔ゴザリアンス〕由利郡
〔ゴアンス〕秋田市・由利郡

〔ガンス〕鹿角郡・由利郡(矢島)
〔ガス〕平鹿郡
〔ガシ〕山本郡

【用例】
「ソザル」鹿角郡
「カンブザル」(ありがとうございます)平鹿郡
「ソゴアンス
「良(ヨ)ゴアンス

「エー オ天気ガンス
「ソーガンス
「アリカ゚ドガンス
「毎朝 七時ニ起ギルガンス
「良(ヨ)ガス」平鹿郡
「良(ヨ)ガシベ」山本郡

【全国的分布】〈『日本方言大辞典』〉
《ござる》石川石川郡
《ごわんす》
 和歌山那賀郡 岡山上房郡 香川大川郡 鹿児島鹿児島郡
《ごあんす》
 岩手折爪山麓 山形庄内 埼玉川越市・入間郡
 石川羽咋郡 徳島 鹿児島

《がんす》
 岩手上閉伊郡 山形西田川郡 群馬
 埼玉秩父郡 静岡 岡山備中 広島
 徳島 香川高松市
《がす》
 青森津軽 岩手 宮城 群馬山田郡・桐生市
 埼玉秩父郡 岡山苫田郡 長崎南高来郡

【語源考察】
ござる〔御座〕〔自ラ四〕
(「ござある(御座有)〔自ラ四〕
 鎌倉時代に起こり、室町時代に多く
 用いられた語」の変化した語)

①「ある」「いる」の尊敬語。
*虎明本狂言・餅酒
「おそうしゃはどこもとに御ざるぞ」(室町期)

②「行く」「来る」の尊敬語。
*虎寛本狂言・止動方角
「おのれがおそいに依て、皆先へ御座った」(室町期)

③「ある」「いる」の丁寧語。
*天草本伊曾保 - イソポが生涯の事
「シタワ コレ ワザワイノ カド ナリト
 マウス コトワザガ ゴザレバ」(安土桃山期)

④補助動詞「ある」「いる」の丁寧語。
*虎明本狂言・宗論
「身どもは都六条辺の者でござるが」(室町期)

― 室町末期から江戸初期にかけては、
「ござある」と「ござる」が併存する。
これは当時が、ゴザアルからゴザールを経て、
ゴザルに移る過渡期的状態にあったことを示す。

江戸時代には「ござる」だけよりも、
「ます」を伴った「ござります」という形が
多く用いられるようになり、後期には
「ございます」も見られるようになる。
(『古語大辞典・語誌』)

ござんす〔自サ特活〕
「ござります」の転。近世以後の語。
 発生当初は遊女のことばであったが、
 元禄ころには若い一般女性間にも流行し、
 近世後期では男性も使用するようになった
 ②「ある」の丁寧語。
 ございます。あります。

ごわんす〔自サ特活〕(「ござんす」の転)
 ②補助動詞「ある」の丁寧語。
 ・・・であります。・・・でございます。

ごあんす〔自サ特活〕(「ござんす」の転)
 ②「ある」の意の丁寧語。
  あります。ございます。
 ③補助動詞「ある」の意の丁寧語。
  近世遊女など特別な人に用いられ、
  東国人や、中間・小者のことばとして、
 「でごあんすでござんす」
 「でごあんすでごあんす」
  の形でも用いる。
  あります。ございます。
 *歌舞伎・面向不背王 - 中
 「胴欲な仰せられやうでごあんすでござんす

がんす〔自サ特活〕
(「ござんす」の転の「ごわんす・ごあんす」の転)
 あります。ございます。
 *塩原多助一代記〈三遊亭円朝〉八
 「どうかお願ひでがんすから、
  命だけは助けて下さい」
 *山彦〈鈴木三重吉〉一
 「こっちへ行くと門ががんすけ」


次に(2) のゴザルは、
「ござる」③④に基づくもの。

ゴアンスは、「ごあんす」②③に基づくもの。

ガンスは「ごわんす」または「ごあんす」
の転化であるが、近代語として現れる。
形容詞連用形語尾の独立した形式様態詞の
接尾語グに丁寧の補助動詞アンスの塾合した
ガンス(別項「がんす」参照)と
混同しないよう注意を要する。

なお、
※ヨゴアンス、※ヨガンス、※ヨガスのヨは
形容詞ヨイの連用形ヨクの音便形ヨウの転。
(共通語で形容詞ウ音便形は「ございます」
「存じます」に連なるときに用いる)

ヨガンス・ヨガスは
㋑「ヨグ・アンス」の転と考えることも
できそうだが、
ヨゴアンスは㋺「ヨウ・ゴアンス」の転で
あることは明らかであるから、
これらは皆㋺の転とすべきであろう。

エガンス・エガスの場合は、
形容詞エ(良)の終止形に
形容詞連用形語尾の独立した形式様態詞の
接尾語グに丁寧の補助動詞アンスの付いた
グアンスの転ガンスの付いたもの。
--- 引用ここまで ---

語源考察では、「(B) ガンス」について、
「ごわんす」「ごあんす」の転化であり、
近代語として現れるとしています。

奥州語の文法では、この考察を基に、
「ごあんす系」として整理しました。

【がんす・がす】用法編 参照

東北6県の資料の用例を見ると、
④補助動詞として使われていることが、
ほとんどのようです。

一方、接尾語「グ」に補助動詞「アンス」の
塾合した「(A) ガンス」と混同しないよう
注意を要するともしています。

【がんす・がす】語源 (A) 編 参照

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(B) がんす・がす ↑

編集後記

奥州/東北の言語を100年後の
その先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、
言語を次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。

編集:千葉光

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