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12/22/2023

【ha助詞】語源編

「ha助詞」の語源について、「語源探求
秋田方言辞典」を基に整理しました。

<参照>
【ha助詞】用法編

編集:千葉光

目次:
・原形ファ〔Fa〕
・編集後記

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原形ファ〔Fa〕
語源探求 秋田方言辞典では、ha助詞の原形
を「フヮ」〔Fa〕としています。

ここでは見出し語とその意味、後半部の語源
考察の箇所を抜粋しました。

語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
は・はぁ・ふぁ・―ぁ・な〔間投助〕

ハ〔ha〕・ファ〔fa〕は、間投助詞で、
文節末または文末に付いて、主語を提示
したり念を押し意味を強めたりすると
ともに詠嘆の意を添える。

(中略)

〔語源考察〕
この ハ について『東北方言の概説』は
「付属化しない ハ〔ha〕」として次の
ように述べている。

―東北方言で、たとえば秋田で
アメァ(雨)フル(降)など、よく
「雨は降る」と誤解されるが、アメァは
「雨」を多少提起するまでで共通語の
「雨は」には当たらない。

共通語の「雨は」に近い表現を求めるなら
それは北奥羽ではアメダバ・アメダケァ
である。

それならアメァの由来するところはとなる
が、それはアメハ〔ameha〕である。

ハ は位置からいえば間投助詞、内容から
いえば感動助詞である。

その用法、意味は提起性・指定性を包んだ
詠嘆性とも言うべく、一応間投助詞といえる
が感動助詞のすべてがそうであるように
独立性を潜在している。

秋田からその間投性を見よう。

オラ(俺)モハァ 行グ
ソウ言ッテ 行ッタナダド(のだと)。
ハヤェグ(早く)行ゲ(命令)。

とり除いても文意は通ずるところに独立性
がある。

この ハ こそ国語の助詞の原形と原用法を
伝えているものである。付属化していない
と称したのは、用法もさることながら、
ワ〔wa〕と転化していないからである。

そして地域によっては、ハ〔ha〕の原形
フヮ〔Fa〕が生きている所もある。

つまり東北方言では
ハ助詞は国語(中央語)のように付属化
しきらず(中央語は付属化したので原音
フヮ〔Fa〕は中古にワ〔wa〕となったの
である)、語頭におけるハ行音のように
フヮ から ハ(〔Fa〕>〔ha〕)へ転化
したのである。

―『鹿角方言考』が(イ)の「―ァ」に
ついて「〝てにをは〟の ハ または ガ の
子音を省略して ア のみにて通用する」と
説明しているのは当たらない。

郷土の方言には主格助詞ガも係助詞ハ(ワ)
も存在しない。上接の語の語尾が撥音の場合
は、n と ha が融合して ナ (na) となるが、
これはほとんど主格提示の場合である。
(ただし、(イ)※《な》は、主格助詞 ガ
の転化〔ŋa→na〕か)

なお、「雨ァ 降ル」の ァ に提示の気持ち
はあるが、共通語のハ(wa)のように、分説
(他と区別して特に取り立てて言う心態)の
意はない。

『日本方言大辞典』は(ロ)や(ハ)に
挙げた《はー》《は》の類を感動詞として
いる。これはその独立性によったものと思
われるが、実際の用例からみて間投助詞と
みなした。
--- 引用ここまで ---

この資料では、『東北方言の概説』を基に、
付属化しない「ハ〔ha〕」の独立性について
とりあげています。

「雨ァ降る」という例文において、
「雨」は「雨」を多少提起するまでで、
「雨」には当たらず、その由来する
ところを「雨〔ameha〕」としています。

この「ハ」について、
「オラ(俺)モハァ 行グ」などの
話し言葉を例にあげ、「ハ」を取り除いても
文意が通ずるところに「独立性」があること
を指摘しています。

実際に例文から「ハ」を取り除き、
「オラモ 行グ」となっても、意味は通じます。

これに加えて、ワ〔wa〕と転化していない
ことも、付属化していない理由としてあげ、
この「ハ〔ha〕」こそ、国語の助詞の原形
と原用法を伝えているものとしています。

冒頭にあげた「ァ」について、東北各地の
資料では、助詞「は」「が」の子音脱落と
する解説が一般的なだけに、この考察は
一線を画すものといえます。

この「ハ〔ha〕」の原形を「フヮ〔Fa〕」と
しており、中央語の「ワ〔wa〕」との関連性
についても指摘しています。

「ファ〔Fa〕」が、東北の言語と中央語で
それぞれ転化した経路を、解説を基に整理
します。

【東北】
ファ〔Fa〕が付属化しきらず、
独立性を保ったまま、ハ〔ha〕へ転化。

【中央】
ファ〔Fa〕が付属化したため、
中古(平安期)に「ワ〔wa〕」へ転化。

東北各地の資料には、「歯・葉」などの
語彙を「ファ〔Fa〕」とするものも見られ、
用例にも「おら ファ ~」とするものが
見られます。

この「ファ〔Fa〕」は、古来の発音が残存
したものと見るのが妥当のようです。


解説の終盤に、「郷土の方言には主格助詞
ガも、係助詞ハ(ワ)も存在しない」と
ありますが、これも東北に共通します。

東北各地の資料にも、助詞「ガ・ハ(ワ)」
を省略する用例や解説が見られることから、
もともと東北の話し言葉には存在しない
用法だったと思われます。

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原形ファ〔Fa〕 ↑

編集後記

東北(旧奥州)の言語を100年後の
その先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

「奥州語の文法」は、国語の東北版です。
東北各地の言語資料を基に、広範囲に共通
の用法で構成されており、書き言葉として、
文書や新聞記事など、公的な場面などで使う
ことを想定しています。

公用語化を実現し、次世代に言語を継承
できる環境を整えていければ幸いです。

編集:千葉光

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