奥州/東北6県の言語資料を基に、
「丸ぐ」の意味・表記・活用などについて
整理しました。
*丸ぐ(まるぐ):語源編 はこちらから
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 漢字表記「丸ぐ」
03. 活用
04. 各地の言語資料より
【青森】全般 津軽 南部
【秋田】全般 鹿角 県北
【岩手】旧南部領 旧伊達領
【山形】全般 庄内 最上 村山 置賜
【宮城】県北 三陸圏 県南
【福島】会津 中通り(中) 中通り(南)
浜通り(北) 浜通り(南)
05. 編集後記
意味
丸ぐ(まるぐ)
〔意味〕
① 束ねる
② 縛る・結わえる(①の転義)
〔漢字表記〕
古語「丸ぐ(まろぐ)」、
近世の「丸げる(まるげる)」に基づく
漢字表記「丸ぐ」
「語源探求 秋田方言辞典」によると、「まるぐ」と、その同根の語である「まるける」は、
「丸(円)」を活用させた語であり、
「まるける」は中世の「まろぐ」から転じたもの
であろうとしています。
漢字表記「丸」を用いた文献としては、
江戸時代の「俳諧・炭俵(すみだはら)- 上巻」(1694年)に、
「ふとん丸げてものおもひ居る〈芭蕉〉」が見られます。
奥州/東北各地の言語資料でも、
漢字表記を用いた解説が見られます。
米澤言音考(1902年、内田慶三)
まるぐ カ四*「まるぐ」を「丸くナリ」としています。
〔意味〕束(ツガ)ねる。丸くナリ。丸め括(クヽ)る意。
〔例〕「薪お―」
宮城県史20 民俗Ⅱ 方言(1960年、宮城県・藤原勉)
まるぎ*「まるぎ」を「丸ぐ」の名詞形としており、
〔意味〕束。一まるぎ、二まるぎなど。丸ぐの名詞形。
まるぐ
〔意味〕たばねること。丸げる。古語まろぐ。
「まるぐ」の意味に、同根の語である「丸げる」を
挙げています。
漢字表記「丸ぐ」は、
これらの文献や言語資料に基づくものです。
尚、形容詞「丸い」の
連用形「丸く(する、なる)」とは重複しません。
奥州語の形容詞は「丸こえ」と、
語尾に「こえ」が付くため、
連用形も「丸こぐ(する、なる)」となります。
活用
「丸ぐ」の活用を整理しました。【活用】丸ぐ
*え・あ中間音:表記編 はこちらから
*「事」を合略仮名で表記 はこちらから
各地の言語資料より
各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。
注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名
青森(全般)
東奧日用語辞典及青森県方言集(1932年、東奥日報社)
マルグ
〔意味〕丸く結ぶ(柴など)
青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
マルグ
〔意味〕丸く結ぶ(柴など)
〔言語使用区域〕津軽、南部
青森(津軽地方)
津軽語彙 第15編 岩木語彙(1968年、松木明)マルギ
〔解説〕藁十二把を束ねたもの。これを一マルギという。
〔例〕
コノ マルギ ナンバズズ マロテラバ。
この藁束は何把ずつたばねてるのかね。
青森(南部地方)
青森県五戸語彙(1963年、能田多代子)マルグ
〔意味〕束にする
南部のことば(1992年、佐藤政五郎)
まるぐ、まるった
〔意味〕束ねる、束ねた
〔例〕薪よまるぐ。藁をまるぐ。
十和田の方言(1997年、国分良人)
まるぐ、まるげ
〔意味〕束ねる、束ねろ
秋田(全般)
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)まるぐ
〔意味〕束ねる
〔例〕その枝をまるげ。
〔方言採集地〕平鹿郡、雄勝郡
秋田(鹿角地方)
鹿角方言集(1936年、内田武志)マルグ
〔意味〕結ぶ。くくる。束ねる。
〔例〕「 柴・・・ 」
秋田(県北)
田代町史資料 第四輯 田代町の方言(1983年、秋田県田代町)マルグ
〔意味〕縛る・束ねる
読む方言辞典 秋田県 能代・山本編(1995年、工藤泰二)
まるぐ〔動詞〕
〔意味〕束ねる。まとめる。丸める。
〔例〕
かてきたかや藁でマルテおげ
(刈ってきた萱を藁で束ねておけ)
なにがマルグものもてこえ
(何か束ねる物を持ってこい)
岩手(旧南部領)
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)マルギ [丸](名)*資料ではマルギの「ギ」、マルグの「グ」の
〔意味〕
薪、柴など、束ねた物を数える単位。
「ひとまるき」
マルグ[丸](動)
〔意味〕束ねる。縛る。結わえる。
右上に黒点を置き、異濁音として表記
軽米・ふるさと言葉(1987年、軽米町教育委員会)
マルグ
〔意味〕束ねる。しばる。
〔解説〕古語:丸ぐ「まろぐ
(まるめる。ひとまとめにする)」。
マルギ
〔解説〕藁や草などを前項の状態にしたもの。
マルギツラ
〔解説〕束ねるのに用いる縄や蔓(つる)
古語:蔓「つら」。
種市のことば 沿岸北部編(1989年、堀米繁男)
まるぎ
〔意味〕括ったもの。
〔解説〕一(ひと)まるぎのように助数詞としても話される
まるぐ
〔意味〕括(くく)る。
〔解説〕刈り取った稲束や、柴薪など、適宜にまとめて括ること
藩境北上市周辺の話しことば(1993年、及川慶郎)
まるぎ
〔意味〕薪など束ねて一束をいう
まるぐ
〔意味〕束ねること、縛ること
まるげー
〔意味〕束ねろ
まるって
〔意味〕束ねて
まろぐ
〔意味〕束ねる、しばる
岩手県央部 紫波の言葉(2007年、山田長耕)
まるぐ
〔意味〕束ねる
〔例〕
稲(エネ)まるぐにぁ こえふにすてやるのよ。
今(エマ)機械化すて まるぐごどぁ なぐなっても
覚(オベ)でら方(ハ)え。
岩手(旧伊達領)
膽澤の方言(1983年、阿部松輔・穴戸敦)まるぐ
〔意味〕束ねる
気仙郡語彙集覧稿(2002年、菊池武人)
マルグ
〔意味〕括る、縛る、束ねる、結わえる
山形(全般)
山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)マル・ぐ (四)*集録語彙:「・」の前が語幹
〔意味〕木・草などをたばねる。
〔例〕「薪を―」「杉葉マルぎをする」
〔分布地点〕
米沢。東置賜郡上郷。西置賜郡白鷹。
南置賜郡南原・中津川。東村山郡楯山。
西村山郡谷地・大井沢。南村山郡山元。
北村山郡東郷・宮沢・楯岡。最上郡。
飽海郡平田。
マル・げル (下一)
〔意味〕「マルぐ」に同じ。
〔例〕「薪を―」
〔分布地点〕
米沢。西村山郡寒河江。最上郡小国。
マロ・ぐ (四)
〔意味〕束ねる。
〔例〕
豆はこう引けよ、ソレ こうして
マロ(ル)げ、トントヤーヤ(豆引唄の一節)
〔分布地点〕
置賜郡。村山郡。
山形(庄内)
庄内方言辞典(1992年、佐藤雪雄)マルグ
〔意味〕木や草などまとめてたばねる。
〔調査地〕遊佐・松山・立谷沢・千本杉・
三川・鶴岡・湯野浜・温海・大鳥
山形(最上)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(1978年、矢口中三)マルギ
〔意味〕束ねること。
〔例〕柴―。 杉の葉―。
マルグ
〔意味〕束ねる。束にしてくくる。
山形(村山)
羽前村山方言(1934年、斎藤義七郎)マルグ(マログ)
〔意味〕木、草などを束ねること
〔例〕
「今日 シェキサ マルギダ 」といふのは
今日 干し草を集めて適當に束ねる仕事だ
といふこと。
マロタ(マルッタ)ものを数へるに
一(ヒト)マルギ(マロギ)
ニ(フタ)マルギ(マロギ)
・・・
十(トー)マルギ(マロギ)
といふ。
明治のくらし 山形市本沢地区の民俗(1983年、本沢盛淳)
マルグ
〔意味〕たばねる。しばる。
山形(置賜)
白鷹方言 ぼんがら(1961年、奥村幸雄)まるぐ
〔意味〕束ねる
米沢方言辞典(1969年、米沢女子短期大学国語研究部)
まるぐ〔~gu〕動詞(ガ・四)*解説に「米沢言音考」からの引用が見られます。
〔意味〕束ねる。束にして結う。「丸くナリ」
米沢言音考(明治三十五年刊・内田慶三著)
丸め括る意。「薪をマルグ」
宮城(県北)
狼河原(おいのかわら)方言集(1993年、芳賀かね子)まるって かさねだでばぁ
〔意味〕(適当な大きさに)縄掛けて積み重ねた
宮城(三陸圏)
石之巻弁 語彙編(1932年、弁天丸孝)まるぐ
〔意味〕束ねるのこと。
〔例〕「薪をまるぐがら縄けさえ」
南三陸地方の方言(1984年、西條弥一郎)
まるぐ
〔意味〕縄で束ねる
けせんぬま方言アラカルト(2006年、菅原孝雄)
まるぐ
〔意味〕束(たば)ねる。集めて縛る。
〔例〕「一緒にまるっておいでけろ」
宮城(県南)
角田の方言(1994年、角田市郷土資料館)マルグ
〔意味〕束ねる
〔例〕
「すまねげんとも この割木ば まるぐ縄用意すてけんねがんや。」
済まないけど この割木を束ねる縄を用意してくれませんか。
白石地方の言葉(2007年、片倉信光)
マルグ
〔意味〕たばねる。
〔発音〕グは重く発音。
〔活用〕
マルッタ ・・・ たばねた。
マルガネー・・・ たばねない(動詞)
マルゲ(命令)・・・ まるきなさいよ。
〔例〕
コイヅ バ マルゲ(これをまるきなさいよ。)
三ッバリ マルッテ オゲヤ
福島(会津)
会津方言集(1978年、菊地芳男)まるぐ
〔意味〕結ぶ、しばる
会津方言辞典(1983年、龍川清・佐藤忠彦)
まるく、まるぐ
〔意味〕束ねる
〔例〕「柴を・・・」
只見町史資料集 第5集 会津只見の方言
(2002年、只見町史編さん委員会)
まるく 動詞
〔意味〕束ねる。一つにまとめてくくる。
会津方部 方言の手引書(2008年、蜃気楼)
まるく(まるめる)
〔意味〕束ねる
〔用例〕
干草まるってきたがら、二人で背負(しょ)ってくんべえ。
福島(中通り中部)
田村市史4 田村市のことば(2010年、福島県田村市教育委員会)マルク
〔意味〕束ねる
〔例〕木をマルク
福島(中通り南部)
鮫川村史 第一巻 通史・民俗編(2001年、鮫川村 鮫川村史編さん委員会)
マルグ
〔意味〕束ねる
石川町史 第七巻 下 各論編2 民俗
(2011年、福島県石川町町史編纂委員会)
まるぐ
〔意味〕束ねる
福島(浜通り北部)
高平方言集(2005年、高平方言教室)マルグ
〔意味〕束ねる
〔例〕わらマルグがら手伝え
大熊町方言集(2019年、おおくまふるさと塾)
マルグ
〔意味〕束ねる
〔用例〕今は稲刈りもコンバインだがらマルグごどなくて楽だどなあ
福島(浜通り南部)
いわき方言(1975年、高木稲水)まるぐ
〔意味〕束ねる。
〔解説〕
「丸」という名詞の動詞化。
「肩」という名詞が「かつぐ」という動詞になる。
いわき語の海へ(2013年、夏井芳徳)
まるぐ
〔意味〕束にする。束ねる。
〔例〕
「おめぇのまるぎ方、ばらばらでねぇがよ。
ちゃんとまるがねっか駄目だど」。
編集後記
奥州/東北の言語を後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。
奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。
公用語化により、
言語を次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。
編集者:千葉光