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6/10/2023

丸ぐ(まるぐ):語源編

「丸ぐ(まるぐ)」の語源について
「語源探求 秋田方言辞典」を基に整理しました。

丸ぐ(まるぐ):用法編 はこちらから

編集者:千葉光

目次:

01. 語源探求 秋田方言辞典
 ①まるぐ:地方語
 ②まるける:古語「まろぐ」との関連
02. 編集後記

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語源探求 秋田方言辞典

この言語資料の見出し語から
①まるく(まるぐ)
②まるける
の2語を抜粋し、
当方にてその意味合いや語源などについて
整理しました。

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①まるぐ:地方語
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
まるく・まろく〔他カ五〕

(1) 束ねる。くくる。
〔マルク〕鹿角郡 北秋田郡 仙北郡
〔マルグ〕鹿角郡 北秋田郡 山本郡 南秋田郡
     秋田市 仙北郡 平鹿郡 雄勝郡 由利郡
〔マログ〕山本郡 南秋田郡 由利郡

「今日 稲上ケ゚スルガラ、マルグニ 行ッテケレ」
「ソノ柴 縄デ シッカリ マルゲ」

《まるく》
 青森 岩手気仙郡 宮城 山形 福島安達郡
 茨城 栃木 群馬勢多郡 埼玉 千葉東葛飾郡・長生郡
 東京都南多摩郡 神奈川 長野佐久
《まーるく》茨城新治郡
《まるー》千葉夷隅郡
《まろく》青森津軽 山形
《まらぐん》沖縄石垣島
          〈『日本方言大辞典』〉

〔参考〕同義語。
《まるける》
 山形 埼玉南埼玉郡 東京都伊豆諸島 神奈川愛甲郡
 新潟 山梨 長野 静岡 徳島美馬郡 香川伊吹島 愛媛
《まらける》鹿児島肝属郡
《まろける》新潟
          〈『日本方言大辞典』〉

(2) 縛る。結わえる。
〔マルク〕鹿角郡
〔マルグ〕鹿角郡 北秋田郡

「ケカ゚シタ 手 手ヌキ゚デ マルゲ」

《まるく》東京都南多摩郡 神奈川
《まらぐん》沖縄石垣島
          〈『日本方言大辞典』〉

〔参考〕同義語。
《まるける》神奈川愛甲郡 山梨
          〈『日本方言大辞典』〉


〔語源考察〕
(1)「まるく」は、主として稲・麦・草・柴などを
  束ねるのに用いる。
(2)はその転義。

「(1) 束ねる。くくる」の〔参考〕に、
「まるける」を挙げたように、
「まるく」(他カ五)は
「まるける」(他カ下一)と同根の語である。


まるける〔丸〕〔他カ下一〕(「まるげる」とも)
丸くする。丸める。次項参照。

これらの語は、「丸(円)」を活用させた語で、
丸くする、丸めるが原義。
稲・柴などを束ねるには、縄や紐でそのまわりを
ぐるぐると巻きつけてしめることから、
「丸」をカ行五段(またはカ行下一段)に
活用させたもの。

さらに、束ねるには最後に縄または紐で
「結わえる、縛る」ことから、
(2)の意に転じたもの。

マルク(カ五)は、マルケル(カ下一)のように
文献には現れない。
マルケルから派生した地方語であろう。
--- 抜粋ここまで ---

前半部では、
(1)(2) の用法ごとに、
秋田県内における分布、例文
全国的な分布、同義語「まるける」を
とりあげており、
後半部では、
これらを基にした語源考察という構成です。

前半部:

「マルク・マルグ・マログ」の
秋田県における分布を示していますが、
語尾が濁音化する「マルグ」の
使用地域が圧倒的に多いことが分かります。

古語「マログ」の形で分布している
地域もあり、「マルグ」と関連する語で
あろうと推測できます。


例文の「マルニ 行ッテケレ」は、
終止形に助詞が接続していますが、
この志向法は秋田独自の表現のようです。

他の奥州/東北の地域では
「マルニ」と連用形に接続するのが
一般的です。


日本方言大辞典を基に
「まるく」の全国的な分布を示していますが、
奥州/東北を中心に、日本列島の東側に
限定されていることが分かります。


参考として同義語「まるける」(束ねる)
を挙げていますが、
この語は四国にも見られます。

後半部(語源考察):
「まるく」および、同根の語である
「まるける」は、共に「丸(円)」を
活用させた語であり、
「丸くする・丸める」が原義と
しています。

・マルク :「丸」のカ行五段化
・マルケル:「丸」のカ行下一段化

「マルク」は「マルケル」のように
文献には現れず、
「マルケル」から派生した地方語で
あろうと結んでいます。

ここまで前半部・後半部に分けて
整理してきました。

次項でとりあげる「まるける」では、
語源と思われる古語「まろぐ」を交えた
解説があります。

「まるぐ」は「まるける」と同根の語で
あることから、この資料に従えば、
丸(まろ)→ まろぐ → まろげる → まるける → まるぐ
という経路と捉えることも出来ます。

しかし、奥州/東北の視点に立つならば、
①丸(まろ)→ まろぐ → まるぐ
② 〃   → 丸(まる) → まるぐ
という、二通りの経路についても
検討する価値はあるはずです。

目次 ↑

①まるぐ:地方語 ↑

②まるける:古語「まろぐ」との関連
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
まるける・まんまるける・ままろける・ままらける
〔他カ下一〕

(1) 丸める。丸くする。
〔マルケル〕南秋田郡 平鹿郡 雄勝郡 由利郡
〔マンマルケル〕平鹿郡
〔ママルケル〕由利郡
〔ママロケル〕秋田市 河辺郡、
〔ママラケル〕仙北郡 由利郡

「糸屑 マルケル」
「団子 マンマルケル」

《まるける》富山礪波 岐阜山県郡 静岡安倍郡・榛原郡
《まろける》岐阜飛騨
《まるこめる》大阪市
          〈『日本方言大辞典』〉

(2) 物事をまとめる。和解させる。
〔マルケル〕平鹿郡 雄勝郡 由利郡

「アノ ムズガシ 縁談 ヨグ マルケダモンダ」

(3) 物をひとまとめにする。
〔マルケル〕雄勝郡 由利郡
「自分デ 脱イダ 物ァ ヒトマドメニ マルケデオゲ」

〔参考〕〔合わす。集める〕
《まるける》和歌山
          〈『日本方言大辞典』〉


〔語源考察〕
まろぐ〔丸ぐ・円ぐ〕〔他ガ下二〕
丸める。まとめる。ひとまとめにする。
*宇治拾遺 - 二・四
「これ(=金)を薄(はく)に打つに、七、八枚に打ちつ。
これをまろげてみな買はむ人もがなと思ひて」
(鎌倉前期)

まるける〔丸ける〕〔他カ下一〕
(「まるげる」とも)丸くする。丸める。
*俳諧・炭俵 - 上
「ふとん丸げてものおもひ居る〈芭蕉〉」

*滑稽本・続膝栗毛 - 一一・下
「ふところよりまるけたふみを出すと」
          〈以上『日本国語大辞典』〉

― 中世の「まろぐ(下二)」が下一段化して
マロゲルとなり、近世さらにマルゲル・マルケルと
転じたものであろう。

ちなみに、「まる〔丸・円〕〔名〕」も、
古くはマロが一般的で、
マルに転じてそれが定着したのは
室町期以降のこと。

マンマルケル、ママロケルの
マ・マンは接頭語「真」で、
語調を整えるとともに
「全く、完全に、ほんとうに」の意を添え
意味を強めたもの。

(1) が原義で、 (2) (3) はその転義。
この項の原形となる語は、マルケル。
語頭にマ・マンが付いて
〔マンマルケル・ママルケル→ママロケル→ママラケル〕と
転じたもの。
--- 抜粋ここまで ---

「まるぐ」の項と同様に、
前半部・後半部(語源考察)に分けて
整理していきます。

前半部:
「まるける」は、 (1)の用法にあるとおり、
糸くずや団子などを「丸める・丸くする」
という意味で使われます。

一方、「まるぐ」は「稲・柴・薪」など
大きめで重量のあるものに使われる傾向
にあり、対象物に違いがあるようです。

同じ奥州/東北でも、
山形県方言辞典(1970年)には
「まるげる」を「束ねる」と意味で
載せていますが、
この使い方は山形県内陸地方に限定される
ようです。

また、派生形として(2)(3)の用法が
みられますが、分布が限られているようです。

後半部(語源考察):
語源考察では、
古語「まろぐ」をとりあげています。

鎌倉時代の宇治拾遺と、
江戸時代の俳諧・滑稽本からの
引用がありますが、
両者ともほぼ同じ意味合いのようです。

「まろ(丸・円)」が「まる」に転じ
定着したのは、室町期以降であり、
この「まろぐ」が下一段化して
「まろげる」となり、
近世(江戸時代)に「まるげる・まるける」
と転じたものであろうとしています。

ここまで前半部・後半部に分けて
整理してきました。

前項では「まるく」を、
「まるける」から派生した地方語であろう
としています。

この資料に従えば、
丸(まろ)

まろぐ

まろる(か行下一段化)

げる・まける(ろ → る)

まる(か行四~五段化)
となりますが、
奥州/東北の視点に立つならば、
前述したとおり、別の経路についての
可能性も捨てきれません。

目次 ↑

②まるける:古語「まろぐ」との関連 ↑

編集後記

奥州/東北の言語を
100年後のその先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、
言語を次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。

編集者:千葉光

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