東北(旧奥州)6県の言語資料を基に、
「てで」の意味などについて整理しました。
編集:千葉光
目次:
01. 意味02. 浜荻(仙台)より
03. 各地の言語資料より
【青森】全般 津軽 南部
【秋田】県北 県南
【岩手:旧南部領】北部 中部
【山形】庄内 村山 置賜
【福島】会津 中部(安積地方)
04. 編集後記
意味
てで・てて
〔意味〕父
〔漢字表記〕父
てでなし・てでなしこ゚
〔意味〕私生児。父親のわからない子。
*漢字表記は古語に基づく浜荻(仙台)より
江戸末期の仙台の方言辞書である「浜荻(はまおぎ)」に「てゝ」が
見られます。
仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
【濱荻】--- 引用ここまで ---
てゝ
〔意味〕父の事。
〔解説〕
てゝがさきまひ末を見ろなどいふは、
始終おやの見通しの通りならんといふ事也。
諺草に父をてゝごと云は大鏡に有、
てはちと通ず、ごは御也、父御といふ意也。
とゝ(江戸)
〔補足〕
・諺草(ことわざぐさ):江戸中期の辞書
・大鏡(おおかがみ) :平安後期の歴史物語
浜荻は仙台と江戸の言葉を対比する構成に
なっており、仙台の「てゝ」に対応する
江戸言葉を「とゝ」としています。
文献としては、平安後期の「大鏡」より
「諺草に父をてゝごと云」をとりあげて
います。
「ててご」の「て」は「ち」と通じ、
「ご」は「御」であることから、
「父御」という意味であるとしています。
各地の言語資料より
各地の言語資料より、「てで・てて」に ついて整理しました。*言語資料名の( )内は、著者、発行年
【青森】全般
東奥日用語辞典及青森県方言集(東奥日報社, 1932年)テデ
〔意味〕父
テデナシ
〔意味〕私生子
青森県方言集(菅沼貴一, 1936年)
テデ
〔意味〕 夫のこと
〔品詞〕名詞
〔区域〕津軽・南部
【青森】津軽地方
津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)テデ
〔意味〕
①親父。「イコノ テデ」は、分家の親父。
②夫。
テデナシゴ
〔意味〕私生児。父のないこども。
津軽弁死語辞典(2000年、泉谷栄)
てで
〔意味〕父親。
【青森】南部地方
南部のことば(佐藤政五郎, 1982年)てで
〔意味〕父 たまには「祖父」にも。
〔例〕
昔、父は貧乏で粉も食えなくて死んだので、
子は鳥になって「てで、粉、食(け)え」
と鳴く。
ででさん
〔意味〕父さん
てでなし
〔意味〕私生児
【秋田】県北
二ツ井町史(二ツ井町町史編さん委員会, 1977年)デェ
〔意味〕父。下流家庭の呼称。
テデェ
〔意味〕デェに同じ、父。
【秋田】県南
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)テデ 名詞。人称代名詞。
〔意味〕父。おとうさん。
テテオヤ 名詞。
〔意味〕父親。
テデナシゴ 名詞。
〔意味〕父親がはっきりわからない子。私生子。
【岩手:旧南部領】北部
九戸郡誌(岩手県教育会九戸郡部会, 1936年)てで
〔意味〕父
ててなし
〔意味〕私生兒
軽米町誌(軽米町誌編纂委員会, 1975年)
てで
〔意味〕父(古語)
ててなし
〔意味〕私生児
【岩手:旧南部領】中部
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)テデナスコ゚【ててなし-ご】[父無子](名)コ゚:鼻濁音
〔意味〕父親のはっきりしない子。私生児。
【山形】庄内地方
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)てで
〔解説〕
海岸方面(小波渡、温海方面)では父。
一般には老年の寺の下男。
てでおや
〔意味〕父親
てでなしご
〔解説〕
父親が誰だか、はっきりわからないで生れた子。
不義の子。私生児。
【山形】村山地方
羽前村山方言(斎藤義七郎, 1934年)テデナスゴ
〔意味〕父無兒 私生兒
【山形】置賜地方
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)ててなしご
〔意味〕私生児
【福島】会津
会津方言集(菊地芳男, 1978年)てて*「こ゚」の半濁点は、資料上では文字の半分位の高さの丸印で表記
〔意味〕父
ててなしこ゚
〔意味〕私生児
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
ててなしご てでなしご
〔意味〕私生児
【福島:中通り】中部(安積地方)
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)テテ【名】
〔意味〕お父さん
〔使用地域〕中通り中部
郡山の方言(1989年、福島県郡山市教育委員会)
テデナシ(名)
〔意味〕私生児。
編集後記
東北(旧奥州)の言語を100年後のその先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。
奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。
公用語化により、言語を次世代に継承できる
環境を整えていければ幸いです。
編集:千葉光