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5/14/2023

潤がす:語源編

東北方言の公用語化の一環として、
「潤がす」の語源について整理しました。

編集:千葉光

目次:

01. 江戸時代の文献
02. 語源
 【秋田】語源探求 秋田方言辞典
 【岩手】岩手方言の語源
 【福島】会津ことば散歩
03. 「潤す」の関連語か?
04. 編集後記

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江戸時代の文献

江戸末期の方言辞書「浜荻(仙台)」に
「うるかす」が見られます。

仙台方言音韻考(小倉進平, 1932年)
【浜荻】
うるかす
〔意味〕水に入てふやかす事。
〔江戸〕ひやかす

浜荻は仙台言葉と江戸言葉を対比する構成
になっており、仙台の「うるかす」に対応
する江戸言葉を「ひやかす」としています。

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江戸時代の文献 ↑

語源

東北各地の言語資料では、「潤がす」の語源
を「潤す」に求めています。ここでは、その
語源について解説のある秋田・岩手・会津の
資料をとりあげます。

※引用欄の下の【まとめ】は当方によるものです。

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秋田
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
うるかす〔他サ五〕

〔意味〕
(1)
水につける。また、水に浸して柔らかくする。

〔例〕
「炊グ 前ニ 米 ウルガシテオゲ」
「洗濯物 シャボン水サ ウルガシタ」

(2)
わざとほうっておく。機の熟するのを待つ
ため間を置く。

〔例〕
「縁談アッテ 写真コ 送ラエデキテダドモ
  、マダ ウルガシテエダ」

「アンマリ ウルガシテ オガネァ
 返事コ ケレデァ」

「アノ 件 ナント シタラ エデロ」
「モシコシ ウルガシテ オデモエ」

〔語源考察〕
うるかす〔他サ四〕
 水にひたして水分を吸収させる。
 *浜荻(仙台)「うるかす 水に入れて
  ふやかす事 江戸 ひやかす」

うるおす〔潤〕〔他サ五(四)〕
 水気を含ませる。ひたす。

*白氏文集天永四年点 - 四
「烏膏唇を膏(うるほし)、唇泥のごとし」
(平安後期)

*平家 - 一・禿髪
「世のあまねく仰げる事、ふる雨の国土を
 うるほすに同じ」(鎌倉前期)

ふやかす〔他サ五(四)〕
 水にひたしてふくれさせる。水を吸わせ
 て柔らかくする。

*彼岸過迄〈夏目漱石〉風呂の後・二
「昨夕の雨が土を潤(ふや)かし抜いた処へ」

〈以上『日本国語大辞典』〉

——このウルオスとフヤカスの混交語か。
ウルケル(自カ下一)に対する語。
(1)は原義に基づくもの、(2)は
その転義。

【まとめ】
この資料では語源について「ウルオスと
フヤカスの混交語か」としています。

文献では、同じ東北の「浜荻 仙台」(江戸
後期)をとりあげています。

また、平安後期の「うるほし」、鎌倉前期
の「うるほす」、夏目漱石の作品から「ふ
やかし」をとりあげ、これらの語彙が混交
して「うるがす」が成立したのではないか
という見解のようです。

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秋田 ↑

岩手
岩手方言の語源(本堂寛, 2004年)
ウルガス(動詞)

〔意味〕水に漬ける。水に浸してふやかす

「コメ トイダラ チャント ウルガシテオゲ」
(米をといだならば、十分に水に浸して置きなさい)
のような言い方をする。

原形は「うるかす」であって、青森、岩手
、宮城、秋田、山形、福島、栃木・新潟の
ほぼ東日本と九州の熊本で使われている。

このような東西に分かれた分布の場合、かつ
て中央で使われていたものの古形残存と見る
のが普通であるが、文献では、江戸時代後期
の『浜荻(仙台)』に「うるかす 水に入れ
てふやかす事 江戸 ひやかす」とあるのを
見るだけで、それ以前の文献にはない。

(中略)

そこで考えられるのが、古くからの基本的な
日本語として使われている、湿り気や水分を
含んで生気を帯びる、という意味の「うるお
う」との関係である。

この語は、奈良時代前期の『日本書記』に、
「いづる(出る)汗、身に うるほひ、声乱
れ、手わななく」のように現れ、これの他動
詞「うるおす」も、鎌倉時代中期の『平家物
語』に「降る雨の国土を うるおす に同じ」
のような例を見る。

これらからの意味的・語形的な派生形とする
のが妥当なように思われる。

【まとめ】
この資料では「ウルガス」の語源について、
「うるおう、うるおすの意味的・語形的な
派生形とするのが妥当なように思われる」
としています。

文献では、江戸時代後期の『浜荻(仙台)』
に「うるかす」が見られますが、それ以前
の文献には見られないとのことです。

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岩手 ↑

福島
会津ことば散歩(江川義治, 1979年)
うるがす

「あの、姉ちゃこの茶碗など台所さ持って
行ってな。ようぐうるがしておけよ。」
なんて口調で姑が嫁に話しているコトバを
よく聞く。茶碗を洗い易いように、よく水
に漬けておけ、という意味である。

(中略)

ところで、「うるがす」というコトバの語
源は潤す(うるおす)、しみこませること
から出たもので、うるおすが「うるがす」
に転訛したものであろう。

「うるがす」と、しぜん「うるげる」こと
になるわけだが、これも潤(うる)む状態
をいう意味。

「なが湯をしたれば、身体がうるげた。」
なんてふうにも使われる。入浴して身体全
体がふやけた有様、そんな状態も「うるげ
た」である。

【まとめ】
この資料では「うるがす」の語源について、
「うるおす」が「うるがす」に転訛したも
のであろうとしています。

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福島 ↑

「潤す」の関連語か?

ここでは、秋田・岩手・会津の言語資料を
とりあげましたが、共通点は「うるがす」
「潤す」に語源を求めていることです。

「潤す、潤む」などの関連語と思われますが、
この「潤」に接尾語「~かす」が付き、
「潤がす」となったものと考えることもでき
ます。

接尾語「~かす」には、他動詞に付くことで
「そのようにさせる」という使役的な意味を
持たせる機能があります。

他の動詞では、
浮かす、動かす、驚かす
などが見られます。

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「潤す」の関連語か? ↑

編集後記

奥州/東北の言語を
後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、
言語を次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。

編集:千葉光

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