東北(旧:奥州)各地の言語資料を基に、
意味・用例などを整理しました。
目次:
・意味・清音
・各地の言語資料より
- 青森
- 秋田
- 岩手
- 山形(全般)
- 山形(庄内)
-山形(最上)
- 山形(置賜)
- 宮城
- 福島(全般)
- 福島(会津)
- 福島(浜通り南部)
- 福島(中通り南部)
・編集後記
意味
はしまる
〔意味〕始まる
〔品詞〕自動詞
はしめる
〔意味〕始める
〔品詞〕他動詞
はしめ
〔意味〕始め、初め
〔品詞〕名詞
はしめで
〔意味〕初めて
〔品詞〕副詞
清音
なぜ「はじまる」の「じ」が清音となり、且つ東北6県に分布しているのか不明ですが、
その音韻面について解説のある
青森・秋田・宮城の方言資料をとりあげます。
津軽木造新田地方の方言(2000年、田中茂)
ハシマル
意味:始まる
原形:はじまる
品詞:動詞
音韻:
「シ」は「じ」である。
どういうわけかこの語では、
濁点がとれて清音になるのである。
「シ」の母音は
「イ」と「ウ」の間の発音をする母音である。
その他:
「ハシマル」は自動詞、
他動詞は「ハシメル」となる。
用例:
時間ネ ナタモノ エツカ ハシマテラベァ。
(時間になったもの、もう始まってるだろうよ)
本荘・由利のことばっこ(2004年、本荘市教育委員会)
はしめ〔名〕
意味:始め。初め。
語源:「はじめ」の第二音節の子音が無声化した語。
細倉の言葉(1956年、世古正昭)
はしめ(名)
意味:始メ。
始メを濁らないで、
ハシメ というところに注意。
東北地方では
シ と ス の区別が困難で
何れも中間位の発言をし、
且つ清音も濁って
発音するのが常であるのに、
この語は明瞭に
ハシメ といい、
且つ普通語のハジメの濁りを
逆に清音にして
ハシメ とする所は、
全く東北方言の異端者である。
各地の言語資料より
各地の方言資料から、意味・用例などを整理しました。
注)方言資料名の( )内は、発行年、著者名
青森
津軽の標準語(2007年、久米田いさお)ハシメ
意味:始め・初め
例:
ナダバ、ハシメネ、ナニガラ、クバ、シギダヅガラナ
お前なら、初めに、何から、食べますか、好きなのからか
ハシメデ
意味:初めて
例:
オレ!ソタ、ハナシァ、ハシメデ、キグジャ
ほう!そんな、話は、初めて、聞くよ
秋田
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)はしめ(名)
意味:はじめ(始め)。
方言採集地:全県
岩手
岩手方言集(1959年、小松代融一)ハシメ
意味:はじめ
ハスメル
意味:はじめる
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
ハズメ【はじめ】[始・初](名)
意味:(動詞「はじめる(始)」の連用形の名詞化)ハシメ
軽米・ふるさと言葉(1987年、軽米町教育委員会)
ハスメデ
意味:初めて。
ハスメル
意味:始める。
山形(全般)
山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)ハシマ・ル(四段活用)「・」は、語幹と語尾の区分
意味:始まる。(清音にいう)他動詞「ハシメル」。
分布地点:全県的。
ハスマ・ル(四段活用)
意味:始まる。ハスメル。始める。
分布地点:西置賜郡。南村山郡。北村山郡。最上郡。
山形(庄内)
庄内方言集 おらが庄内弁(1984年、佐藤俊男)はしまる
意味:始まる。
はしめ
意味:はじめ。
山形(最上)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(1978年、矢口中三)ハシマッツォ
意味:始まるよ(=ぞ)。すぐ―。
ハシマル
意味:始(はじ)まる。
ハシメッツォ
意味:始めるよ(=ぞ)すぐ―。シ=ヂ。
ハシメル
意味:始(はじ)める。
山形(置賜)
宮内方言集(1970年、安達正巳)(一)矯正スベキ発音語ノ分類
二、濁音ヲ清音ニ発音スルモノ
はじめ(始め)・・・はしめ
宮城
仙台方言考(1916年、伊勢斎助)はすめる
意味:ハジメル(始)
宮城県史20 民俗Ⅱ(1960年、宮城県)
はしまる
意味:はじまる。
はしめる
意味:はじめる。
角田の方言(1994年、角田市郷土資料館)
ハすマル
意味:始まる
例:
「もう 宴会はすまる時間だがら 会場さ へっぺえんわ。」
もう 宴会の始まる時刻だから会場へ入りましょうよ。
福島(全般)
福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)ハシマル【動】
意味:はじまる
例:戦がはしまるそーだ
使用地域:県北・中部・県南・会津
ハシメル【動】
意味:はじめる
使用地域:県北・県南・会津
福島(会津)
会津方言辞典(1983年、龍川清・佐藤忠彦)はしまる【動】
意味:はじまる
例:「戦争が―そうだ」
はしめる【動】
意味:はじめる
福島(浜通り南部)
富岡町史 第三巻 民俗 考古編(1987年、富岡町史編纂委員会)ハシマル
意味:はじまる
福島(中通り南部)
西白河郡誌(1915年、福島県西白河郡役所)正語:はじめ(初)
方言或は訛語:ハシメ
編集後記
奥州/東北各地の言語を後世に残すためには、東北方言の公用語化が不可欠です。
奥州語は、
奥州/東北6県の方言資料を基に、
共通の用法で構成されています。
公用語化により、
各地の言語文化を
次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。
編集者:千葉光