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5/24/2021

どまづぐ

東北方言の公用語化の一環として、
東北(旧・奥州)6県の言語資料を基に、
「どまづぐ」の意味・活用・語源など
について整理しました。
目次:
01. 意味
02. 活用
03. 語源
04. 各地の言語資料より
 【青森】全般 津軽 南部
 【秋田】全般
 【岩手:旧南部領】北部 中部
 【岩手:旧伊達領】内陸
 【山形】全般 庄内
 【宮城】仙台 県南
 【福島】会津 中通り(中) 中通り(南)
     浜通り(北) 浜通り(南)
05. 編集後記

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意味

どまづぐ・どまづく

〔意味〕戸惑う、まごまごする、まごつく
    どぎまぎする、うろたえる
※語尾が濁音「ぐ」、静音「く」と
 二通りの言い方があります。

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活用

東北各地の言語資料を基に、活用を整理しました。

活用:
活用:どまづぐ
え・あ中間音 は、こちらを参照

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語源

語源については、
「語源探求 秋田方言辞典」に、
次のような解説がありました。

語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
どまづく〔自カ五〕

意味:
 あわてる。うろたえる。まごつく。

語源考察:
『弘前語彙』は「トマドウとマゴツクの合成語」、
『大館方言語源考』は
「トマドウのトマに接尾語ツクの付いたトマツクの転」
としている。
しかし、「とまどう(戸惑・途迷)」のトは接辞、
トマという語素ではない。

どまどま〔副〕
「どぎまぎ」に同じ。 おどろきあわてるさま。
うろたえあわてるさま。

*新世帯〈徳田秋声〉一一
「頭から誹謗(けな)されると、
お作の心はドマドマして、
何が何だか薩張(さっぱり)
解らなくなって来る」
〈『日本国語大辞典』〉

ドマツクは、
このドマに接尾語ツク
(擬声・擬態語に付いて動詞化し、
そういう動作をする状態、
そのような様子を示す状態に
なってくる意を表す)が付いたもので、
まごまご(どうしてよいか
わからないでうろたえるさま)の
マゴからマゴツクが出来たのと
同類の語であろう。
このドマツクの連濁を起こした形が
ドマヅク。
鹿角のトマヅクは
雅語意識がはたらいて
(あるいはトマドウへの類推によって)
語頭が静音化したもの。
*新世帯(あらじょたい)」(1908年)の
 著者・徳田秋声(とくだ しゅうせい)は、
 石川県出身の小説家です。

この言語資料では語源について、
「どまどま」の「どま」に
接尾語「つく」が付いたもので、
「まごまご」の「まご」から
「まごつく」が出来たのと
同類の語であろうとしています。

ほかに例を挙げると、
いらつく:「いらいら」の「いら」に「つく」が付いたもの
ざわつく:「ざわざわ」の「ざわ」に  〃   〃
びくつく:「びくびく」の「びく」に  〃   〃
などがあります。

ただし「どまどま」という語彙は、
東北各地の言語資料には見られないことから、
「どまづぐ」は東北独自の動詞と思われます。

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各地の言語資料より

各地の言語資料より、
意味・用例などを整理しました。

*言語資料名の( )内は、著者名、発行年

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青森(全般)
東奥日用語辞典及青森県方言集(1932年、東奥日報社)
ドマヅク
 意味:戸まどふ

青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
ドマヅグ

品詞:動詞
使用区域:津軽、南部
意味:迷ふ。戸迷ふ。どぎまぎするの意

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各地の言語資料より ↑

青森(津軽地方)
ふるさと歳時記 パート2 赤石奥地の方言記録(1999年、鶴田要一郎)
どまづく
 意味:まごまごする。とまどう。ちゅうちょする。

青森市旧安田の方言語彙(2001年、三浦義雄)
ドマズグ(動)

意味:
 うろうろする。迷う。
 予想がはずれてあわてる。
 びっくりして何もできない。

例:
 マズサ カズミメネ エッタキャ
 エトドリネ ヤゲデ
 ドゴガ ドゴダガサ
 ワガラネグ ナッテマッテ
 サカ°スネ ドマズダ
 (町に火事見舞いに行ったら、
  一面に焼けていて
  どこがどこなのか
  分からなくなってしまって、
  探すのにうろうろした)

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各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
教育適用 南部方言集(1906年、簗瀬栄)
どまづく

意味:
 まごつくの轉訛(てんくわ)にて
 物に惑(まど)ふことをいふ

青森県五戸語彙(1963年、能田多代子)
ドマズク
 意味:まごつく。

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各地の言語資料より ↑

秋田
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
どまづく〔自カ五〕

意味:
 あわてる。うろたえる。まごつく。

ドマズク:山本郡
ドマズグ:北秋田郡、山本郡
ドマジグ:北秋田郡
ドマツク:山本郡
トマズク:鹿角郡

例:
 「暗(クレァ)クテ トマズデ 入(ハ)ラエネガッタ」
 「ドッチャ 行ッテ エーガ ワガラネァクテ ドマズエダ」

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧南部領(北部)
軽米・ふるさと言葉(1987年、軽米町教育委員会)
ドマズグ

意味:あわてる
  「とまどい」と「まごつく」の合成語という

例:急に質問されればドマズグ。
岩手・旧南部領(中部)
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
ドマズグ(動)

意味:
 とまどう。まごつく。あわてる。
 (「とまどい(戸惑)」と「まごつく」の合成語か)
 *「グ」:異濁音表記

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各地の言語資料より ↑

岩手・旧伊達領(内陸)
胆沢町史9 民俗編2(1987年、胆沢町)
どまづく
 意味:狼狽。まごまごする。まごづく

平泉町史 自然編・民俗編1 平泉の方言(1997年、平泉町史編纂委員会、小松代融一)
どます°ぐ

意味:驚いたり、あわてたりしているとき、
   ことばがすらすら出てこないこと。
   「急性どもり」とでも言う状態。
 *「す°」:鼻濁音表記

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)
どマヅ・ぐ

①吃る。
 分布地点:北村山郡楯岡。新庄。最上郡小国。飽海郡内郷・飛島。

②まごつく。
 分布地点:北村山郡楯岡。庄内。

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各地の言語資料より ↑

山形(庄内)
庄内方言辞典(1992年、佐藤雪雄)
ドマジグ、ドマヅグ(動詞)

意味:
どもる。つまる。つまづく。
どぎまぎする。まごつく。
話などつまづく

例:
「ドマジイで しゃべらんね」
(どぎまぎして つまって 話されない)。

アクセントはマジグが高い。

(飛島・遊佐・松山・酒田・宮野浦
 立谷沢・千本杉・余目・藤島・羽黒・三川
 鶴岡・湯野浜・温海・櫛引・大鳥)。

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各地の言語資料より ↑

宮城(仙台)
自伝的仙台弁(1966年、石川鈴子)
どま-つく 自カ五

意味:とまどう。狼狽する。
例:「初対面なもんで―・いた」

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各地の言語資料より ↑

宮城(県南)
白石地方の言葉(2007年、片倉信光)
ドマヅグ

意味:
まごつく。やり損なう(物でなく行動が)
けつまづく。つまづく。

例:
ドマヅイダ
ドマヅガネ
ドマヅグネ ドマヅガンスナヨ
ドマヅガネヨーニ スランスヨ
ドマヅガイナヨ
ドマヅガネーヨーニ アスパセヨ(遊ばせよ)
ドマヅイデ ワガンネドッサ

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各地の言語資料より ↑

福島(会津)
会津方言集(1978年、菊地芳男)
どまずく

意味:まごつく とまどう
例 :流石の俺も どまずいた

会津方部 方言の手引書(2008年、蜃気楼)
どまづく

意味:まごつく

例:急に返事貰いてぇって言わっちぁっけが、
  どまづいっつまったぁ。

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各地の言語資料より ↑

福島(中通り中部)
郡山の方言(1989年、福島県郡山市教育委員会)
ドマツク(動)
 意味:まごつく。どもる。まごまごする。

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各地の言語資料より ↑

福島(中通り南部)
鮫川村史 第一巻 通史・民俗編(2001年、鮫川村 鮫川村史編さん委員会)
ドマヅグ
 意味:戸惑う

石川町史 第七巻 下 各論編2 民俗(2011年、福島県石川町町史編纂委員会)
どまづぐ
 意味:どもる

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り北部)
原町市の方言 わたしたちの古里言葉(1999年、高野徳)
どまづく

意味:戸惑う
例:どまづいた

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り南部)
いわき方言(1975年、高木稲水)
どまづぐ(動詞)
 意味:まごつく。

富岡町史 第三巻 民俗 考古編(1987年、富岡町史編纂委員会)
ドマヅク
 意味:とまどう

いわき語の海へ いわき叢書2(2013年、夏井芳徳)
どまづぐ

意味:
 まごつく。まごまごする。うろたえる。
 戸惑う。面喰らう。

例:
「あんな立派などごろさは
 行ったごどねぇがら、
 いやぁ、すっかり
 どまづいぢゃって、
 冷や汗たらたらだった」。

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各地の言語資料より ↑

編集後記

奥州/東北の言語を100年後の
その先へ継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、各地の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、
言語を次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。

編集:千葉光

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