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2/28/2021

おら方(おらほ)

東北言葉の公用語化の一環として、東北6県
の言語資料を基に、ここでとりあげる語の意
味・表記・用法などについて整理しました。

編集者:千葉光

目次:
01. 意味
02. 漢字表記
03. 所属代名詞
04. 各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】全般 県南 由利
 【岩手:旧南部領】北部 中部
 【岩手:旧伊達領】内陸
 【山形】全般 庄内 最上 村山 置賜
 【宮城】仙台 県北
 【福島】全般 会津
 【福島:中通り】中部(安積地方) 南部(白河地方)
 【福島:浜通り】北部(相馬地方) 南部(いわき地方)
05. 編集後記

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意味

おら方
〔意味〕俺の方、私の側(個人の所属を表す)
〔読み方〕オラホ・オラホー

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漢字表記

「おら方」は、一人称「おら」に接尾語
「方」が付き、個人の所属を表す代名詞
となったものです。

日本方言大辞典では、「おらほー」につ
いて「俺方」と補助注記をしています。

日本方言大辞典(小学館, 1989年)
おらほー【俺方】
〔意味〕私の方。私たちの所。

東北各地の言語資料では、
【おら方】ひろし爺さまの昔話(秋田)
【オラ方】細倉の言葉(宮城)
【俺方】 珍版 秋田語の教科書(秋田)
などの表記が見られます。

当方では、「おら方」という表記を採用
しています。

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漢字表記 ↑

所属代名詞

「おら方」について詳細な解説のある津軽
の言語資料をとりあげます。

津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
オラホで

【意味】うちの村で・うちの地域で
【原形】オレ方
【品詞】名詞

【音韻】
「オラ」は、原形は「オレ」であろう。語中
の「レ」が「ラ」へ転化している。「ホ」は
「方」の転化であろう。「ホウ」の「ウ」が
脱落している。

【その他】
津軽方言で「オラ」というと自分とか俺とか
の意味になる。ところが「オラホ」となると
「オラ」は「うちの村」とか「うちの地域」
とかの意になり、個人のことでなく、個人が
所属する地域や集団のことになるのである。
--- 引用ここまで ---

この資料では、「オラホ」について、一人称
の「オラ」に「ホ(方)」が付くことで、個人
のことでなく、「個人が所属する地域や集団
」のことになると定義しています。

これを踏まえて、東北各地の言語資料に目を
通すと、より理解が深まるのではないでしょ
うか。

尚、「所属代名詞」という呼称は、語の属性
を踏まえ、当方にて考案したものです。

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所属代名詞 ↑

各地の言語資料より

東北各地の言語資料より、意味・用例などを
整理しました。
※言語資料名の( )内は、著者名、発行年
【青森】津軽
津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)
オラホ

〔意味〕こちら
〔解説〕
東京に居れば青森県はオラホであり、
県内(南部)に居れば津軽がオラホであり、
さらに小地区、小集団になる。

津軽の標準語(久米田いさお, 2007年)
オラホ

〔意味〕我が方・家の方
〔例〕
オラホサ、ドンジョ、トネ、キテランズ、ドゴノ、フトダ
我が方に、どじょう、取りに、来てるのは、何処の、人だ

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各地の言語資料より ↑

【青森】南部
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)
おらほ
〔意味〕俺の家。俺の方。

南部のことば(佐藤政五郎, 1992年)
おらほ・おらほのほ

〔意味〕私の方
〔例〕
んだら、おらほのほ、通っていったら
(それじゃ私の家の方を通って行ったら?)

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各地の言語資料より ↑

【秋田】全般
ひろし爺さまの昔話(本城屋勝, 2009年)
おら方(ほ)

〔例〕
「可笑しな。おら方(ほ)でだば、
 木綿屋で売ってるばってなぁ?」

珍版 秋田語の教科書(加藤隆久, 2010年)
俺方(オラホ)

〔例〕
「俺方(オラホ)サだば、
 誰(ダエ)もああゆうナだば、
 居(エ)ネどもなぁ」

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各地の言語資料より ↑

【秋田】県南
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)
オラホ
〔意味〕おれの方。私の方。

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各地の言語資料より ↑

【秋田】由利
本荘の話しことば(佐藤勵子, 1988年)
おらほ
〔意味〕自分達・私の方

本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
おらほ

〔意味〕自分達。私の方。
〔例〕
こんな ざましてるな おらほばりだ。
(こんな様子をしているのは私の方ばかりだ)

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各地の言語資料より ↑

【岩手:旧南部領】北部
種市のことば 沿岸北部編(堀米繁男, 1989年)
おらぁほう
〔意味〕俺の方。私の方。又は私の家

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各地の言語資料より ↑

【岩手:旧南部領】中部
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)
オラホ

〔意味〕
①俺の方。私の方。私の家。
②家の亭主。うちの宿六。

遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
オラホ

〔意味〕当方、自分の方
〔例〕
おらほーのオガサン
足袋へェー(履いて)で足洗った。

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各地の言語資料より ↑

岩手:旧伊達領(内陸)
胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)
おらほう
〔意味〕私達の

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各地の言語資料より ↑

【山形】全般
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)
オラホ

〔意味〕私の方。自分の方。
〔分布地点〕置賜・村山・最上・庄内
〔例〕「明日・・・サ遊びにこい」

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各地の言語資料より ↑

【山形】庄内
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)
おらほ

〔意味〕自分の方。
〔例〕
おらほ の学校。
あの人 おらほ の人だ。

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各地の言語資料より ↑

【山形】最上
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)
オラホ

〔意味〕俺(私)達の方(組み・仲間)。
〔例〕 ・・・サハァェレ(に入れ)。

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各地の言語資料より ↑

【山形】村山
羽前村山方言(斎藤義七郎, 1934年)
オラホー
〔意味〕私の方

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各地の言語資料より ↑

【山形】(置賜)
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)
おらほ
〔意味〕俺達の方

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各地の言語資料より ↑

【宮城】仙台
仙台方言集(土井八枝, 1919年)
おらほ
〔意味〕私方

胸ば張って仙台弁(後藤彰三, 2001年)
オラホ

〔意味〕わが方
〔例〕「オラホノカヅダ」(おれたちの勝ちだ)

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各地の言語資料より ↑

【宮城】県北
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)
おらほう

〔意味〕我ガ方、私ノ側。
〔例〕「オラ方ノチーム」(我がチーム)
〔解説〕
オラ方であるが、私ノ側・我ガ方の他に
我ガ家の意ともなる

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各地の言語資料より ↑

【福島】全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)
オラホ

〔意味〕僕等の方
〔使用地域〕県北・中部・県南・会津・浜通

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各地の言語資料より ↑

【福島】会津
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)
おらほ

〔意味〕私の方
〔例〕「おらほの村には そんなのないぞ」

会津只見の方言(只見町史編さん委員会, 2002年)
おらーほー・おれーほー

〔意味〕自分の方。我が住む村。
〔例〕「・・・ではキノコがいっぺー採れる」

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各地の言語資料より ↑

【福島:中通り】中部(安積地方)
旧塩澤村地域遺産のことばと地名(菅野八作, 2013年)
オラホー

〔意味〕私の方
〔例〕オラホーは雪ふってねえよ

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各地の言語資料より ↑

【福島:中通り】南部(白河地方)
鏡石町史 第四巻 民俗編(鏡石町, 1984年)
オラ ホーニ
〔意味〕僕等の方に

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各地の言語資料より ↑

【福島:浜通り】北部(相馬地方)
相馬方言考(新妻三男, 1973年)
オラほー

〔意味〕おれの方
〔例〕オラほーの先生

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各地の言語資料より ↑

【福島:浜通り】南部(いわき地方)
いわき商業風土記(斎藤伊知郎, 1973年)
野球応援のある女性
「あっ、おらほのくみがまげそだ。なじょすっぺ」
(アッ、私ノ方ノ組ガマケソウダ、ドウシマショウ)

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各地の言語資料より ↑

編集後記

かつての日高見国である奥州東北の言語を
未来へ継承していくためには、公用語化が
不可欠です。

当方の提唱する「奥州語の文法・表記法」
は国語の東北版として、東北各地の言語
資料を基に、東北の広範囲に共通の用法
で構成されており、書き言葉として文書
や記事などに使うことを想定しています。

尚且つ、東北全土の言語に対応しているこ
とから、東北各地の言語の地域公用語化も
視野に入れています。

東北各地の言語を未来へ継承するための原
動力となれば幸いです。

編集者:千葉光

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