の言語資料を基に、ここでとりあげる語の意
味・表記・用法などについて整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 漢字表記
03. 所属代名詞
04. 各地の言語資料より
【青森】津軽 南部
【秋田】全般 県南 由利
【岩手:旧南部領】北部 中部
【岩手:旧伊達領】内陸
【山形】全般 庄内 最上 村山 置賜
【宮城】仙台 県北
【福島】全般 会津
【福島:中通り】中部(安積地方) 南部(白河地方)
【福島:浜通り】北部(相馬地方) 南部(いわき地方)
05. 編集後記
意味
おら方
〔意味〕俺の方、私の側(個人の所属を表す)
〔読み方〕オラホ・オラホー
漢字表記
「おら方」は、一人称「おら」に接尾語「方」が付き、個人の所属を表す代名詞
となったものです。
日本方言大辞典では、「おらほー」につ
いて「俺方」と補助注記をしています。
日本方言大辞典(小学館, 1989年)
おらほー【俺方】
〔意味〕私の方。私たちの所。
東北各地の言語資料では、
【おら方】ひろし爺さまの昔話(秋田)
【オラ方】細倉の言葉(宮城)
【俺方】 珍版 秋田語の教科書(秋田)
などの表記が見られます。当方では、「おら方」という表記を採用
しています。
所属代名詞
「おら方」について詳細な解説のある津軽の言語資料をとりあげます。
津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
オラホで--- 引用ここまで ---
【意味】うちの村で・うちの地域で
【原形】オレ方
【品詞】名詞
【音韻】
「オラ」は、原形は「オレ」であろう。語中
の「レ」が「ラ」へ転化している。「ホ」は
「方」の転化であろう。「ホウ」の「ウ」が
脱落している。
【その他】
津軽方言で「オラ」というと自分とか俺とか
の意味になる。ところが「オラホ」となると
「オラ」は「うちの村」とか「うちの地域」
とかの意になり、個人のことでなく、個人が
所属する地域や集団のことになるのである。
この資料では、「オラホ」について、一人称
の「オラ」に「ホ(方)」が付くことで、個人
のことでなく、「個人が所属する地域や集団
」のことになると定義しています。
これを踏まえて、東北各地の言語資料に目を
通すと、より理解が深まるのではないでしょ
うか。
尚、「所属代名詞」という呼称は、語の属性
を踏まえ、当方にて考案したものです。
各地の言語資料より
東北各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。
※言語資料名の( )内は、著者名、発行年
【青森】津軽
津軽 森田村方言集(木村国史郎, 1979年)オラホ
〔意味〕こちら
〔解説〕
東京に居れば青森県はオラホであり、
県内(南部)に居れば津軽がオラホであり、
さらに小地区、小集団になる。
津軽の標準語(久米田いさお, 2007年)
オラホ
〔意味〕我が方・家の方
〔例〕
オラホサ、ドンジョ、トネ、キテランズ、ドゴノ、フトダ
我が方に、どじょう、取りに、来てるのは、何処の、人だ
【青森】南部
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)おらほ
〔意味〕俺の家。俺の方。
南部のことば(佐藤政五郎, 1992年)
おらほ・おらほのほ
〔意味〕私の方
〔例〕
んだら、おらほのほ、通っていったら
(それじゃ私の家の方を通って行ったら?)
【秋田】全般
ひろし爺さまの昔話(本城屋勝, 2009年)おら方(ほ)
〔例〕
「可笑しな。おら方(ほ)でだば、
木綿屋で売ってるばってなぁ?」
珍版 秋田語の教科書(加藤隆久, 2010年)
俺方(オラホ)
〔例〕
「俺方(オラホ)サだば、
誰(ダエ)もああゆうナだば、
居(エ)ネどもなぁ」
【秋田】県南
おらほの言葉 西木村(佐藤ミキ子, 1997年)オラホ
〔意味〕おれの方。私の方。
【秋田】由利
本荘の話しことば(佐藤勵子, 1988年)おらほ
〔意味〕自分達・私の方
本荘・由利のことばっこ(本荘市教育委員会, 2004年)
おらほ
〔意味〕自分達。私の方。
〔例〕
こんな ざましてるな おらほばりだ。
(こんな様子をしているのは私の方ばかりだ)
【岩手:旧南部領】北部
種市のことば 沿岸北部編(堀米繁男, 1989年)おらぁほう
〔意味〕俺の方。私の方。又は私の家
【岩手:旧南部領】中部
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)オラホ
〔意味〕
①俺の方。私の方。私の家。
②家の亭主。うちの宿六。
遠野ことば(俵田藤次郎・高橋幸吉, 1982年)
オラホ
〔意味〕当方、自分の方
〔例〕
おらほーのオガサン
足袋へェー(履いて)で足洗った。
岩手:旧伊達領(内陸)
胆沢町史9 民俗編2(胆沢町, 1987年)おらほう
〔意味〕私達の
【山形】全般
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)オラホ
〔意味〕私の方。自分の方。
〔分布地点〕置賜・村山・最上・庄内
〔例〕「明日・・・サ遊びにこい」
【山形】庄内
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)おらほ
〔意味〕自分の方。
〔例〕
おらほ の学校。
あの人 おらほ の人だ。
【山形】最上
真室川の方言・民俗・子供の遊び(矢口中三, 1978年)オラホ
〔意味〕俺(私)達の方(組み・仲間)。
〔例〕 ・・・サハァェレ(に入れ)。
【山形】村山
羽前村山方言(斎藤義七郎, 1934年)オラホー
〔意味〕私の方
【山形】(置賜)
白鷹方言 ぼんがら(奥村幸雄, 1961年)おらほ
〔意味〕俺達の方
【宮城】仙台
仙台方言集(土井八枝, 1919年)おらほ
〔意味〕私方
胸ば張って仙台弁(後藤彰三, 2001年)
オラホ
〔意味〕わが方
〔例〕「オラホノカヅダ」(おれたちの勝ちだ)
【宮城】県北
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)おらほう
〔意味〕我ガ方、私ノ側。
〔例〕「オラ方ノチーム」(我がチーム)
〔解説〕
オラ方であるが、私ノ側・我ガ方の他に
我ガ家の意ともなる
【福島】全般
福島県方言辞典(児玉卯一郎, 1935年)オラホ
〔意味〕僕等の方
〔使用地域〕県北・中部・県南・会津・浜通
【福島】会津
会津方言辞典(龍川清・佐藤忠彦, 1983年)おらほ
〔意味〕私の方
〔例〕「おらほの村には そんなのないぞ」
会津只見の方言(只見町史編さん委員会, 2002年)
おらーほー・おれーほー
〔意味〕自分の方。我が住む村。
〔例〕「・・・ではキノコがいっぺー採れる」
【福島:中通り】中部(安積地方)
旧塩澤村地域遺産のことばと地名(菅野八作, 2013年)オラホー
〔意味〕私の方
〔例〕オラホーは雪ふってねえよ
【福島:中通り】南部(白河地方)
鏡石町史 第四巻 民俗編(鏡石町, 1984年)オラ ホーニ
〔意味〕僕等の方に
【福島:浜通り】北部(相馬地方)
相馬方言考(新妻三男, 1973年)オラほー
〔意味〕おれの方
〔例〕オラほーの先生
【福島:浜通り】南部(いわき地方)
いわき商業風土記(斎藤伊知郎, 1973年)野球応援のある女性
「あっ、おらほのくみがまげそだ。なじょすっぺ」
(アッ、私ノ方ノ組ガマケソウダ、ドウシマショウ)
編集後記
かつての日高見国である奥州東北の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が
不可欠です。
当方の提唱する「奥州語の文法・表記法」
は国語の東北版として、東北各地の言語
資料を基に、東北の広範囲に共通の用法
で構成されており、書き言葉として文書
や記事などに使うことを想定しています。
尚且つ、東北全土の言語に対応しているこ
とから、東北各地の言語の地域公用語化も
視野に入れています。
東北各地の言語を未来へ継承するための原
動力となれば幸いです。
編集者:千葉光