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11/29/2020

おら

東北方言の公用語化の一環として、
東北(旧:奥州)6県の言語資料を基に、
意味・語源などを整理しました。
目次:
01.意味
02. 語源
03. 江戸時代の言語資料
04. 各地の言語資料より
  青森:全般 津軽 南部
  秋田:全般 県北 由利
  岩手:旧南部領 旧伊達領
  山形:全般 庄内 置賜
  宮城:各地
  福島:全般 会津 新潟県東蒲原郡(旧会津藩領)
     中通中部 中通南部 浜通北部 浜通南部
05. 編集後記

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意味

おら

〔意味〕俺、わたし
〔品詞〕一人称代名詞

派生語として
・おら家(え):私の家・我が家
・おら方(ほ):私の方・我が方
・おら処(どご):私のところ
などがあります。

日本語の場合、所有や所属を表す
格助詞「の」が付きますが、
奥州語では「おら」に直接、
「家・方・どご」などが接続し、
一つの名詞となります。

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語源

語源について解説のある
・津軽のことば 第二巻
・津軽木造新田地方の方言
から引用します。


津軽のことば 第二巻(1958年、鳴海助一)
「おら」「おらだじ」などの語源について。
①おら=語源学の方では、
有史以前の、人類の声音が、
言語を形成するようになった時代、
原始時代後期とも名づくべきか...
その頃の言語生態を名づけて
第一次または、第一期の言語という。
そのすべては、
原始人の「叫び声」と「まねび声」とである。
前者は、人間の感動した時発する音で、
後者は、すべて物の音や状態を真似たもの。
以下略す。

「おら」の根本的な本元は(第一期)
「お」であったとみる。
「ア」「ワ」等と同じく、
自分を示す「叫び声」であったにちがいない。
その「お」に、
「の」がついて
「おの」となった。
「此の・其の・彼の」の
「の」である。
またこの「の」は、
「名・汝・兄・根(ナ・ニ・ネ)」と同じく、
おしみの意味をも含んでいる。
次に、
「此れ・其れ・彼れ・あれ」の
「れ」がついて
「おのれ」となる。
「れ」は「ら」に通ずる。
だから「おのら」ともいう。
また「我ら」の「ら」がついて、
「おのれら」という複数語ともなる。
これ等の語から、
略音によって再び単小な「おれ・おら」となった...
と私は信じている。
--- 引用ここまで ---

この言語資料では、
・おのれ  → おれ
・おのれら → おら
という経路ではないかとしています。

次項でとりあげる江戸時代の言語資料
浜荻(はまおぎ)仙台」に於いても、
「をら」を「をのれの約」としています。

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語源 ↑

津軽木造新田地方の方言(2000年、田中茂)>
オラ
〔意味〕自分(吾(ワ)よりも丁寧)
〔原形〕おれ
〔品詞〕人代名詞
〔音韻〕「オレァ」が「オラ」になったものだろうか。

〔その他〕
「オラ」は、自分の意であるが
丁寧な意味がこめられる。
普通の言い方は「ワ」である。
原形は「おれ」だろう。
それに津軽方言によく見られる
「ァ」がついて
「オレァ→オラ」となったと考えられる。

〔用例〕
 ドレ、オラヤッテケル。
(どれ、私がやってあげる)
--- 引用ここまで ---

この資料では、
オレァ → オラ
という経路ではないかとしています。

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語源 ↑

江戸時代の言語資料

江戸時代末期の
・浜荻(はまおぎ)・・・仙台
・苦界船乗合咄・・・山形(庄内)
・湯の垢・・・山形(庄内)
に、「をら、おら」がみられます。


仙台方言音韻考(1932年、小倉進平)
【浜荻】
をら
〔意味〕己等。をのれの約。をれに委し。
〔江戸〕わっちら

浜荻は仙台と江戸の言葉を
対比する構成になっており、
「をら(おら)」に対応する江戸言葉を
「わっちら」としています。


山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)
オラ(代)
〔意味〕俺。私。(男女とも)
〔分布地点〕全県的

江戸期庄内の女性の例に
「おらも酒呑みでちゃ」〔苦界船乗合咄〕、
「おら知ろばしな」〔湯の垢〕
など多く見える。

この資料では、
江戸時代の庄内地方の女性が
「おら」を使っていた例として、
江戸末期の「苦界船乗合咄」「湯の垢」を
とりあげています。

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江戸時代の言語資料 ↑

各地の言語資料より

各地の言語資料から、意味・用例などを整理しました。
 注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名

青森(全般)
東奥日用語辞典及青森県方言集(1932年、東奥日報社)
オラ
〔意味〕我等、己れ

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各地の言語資料より ↑

青森(津軽地方)
津輕方言詩集「ねぷた」(1936年、一戸謙三)
何處(ド)サ行(エ)ても、
おら達(ダヅ)ねだけァ
弘前(シロサギ)だけァえンたどごァ何處(ドゴ)ネある!
お岩木山(ユワキサマ)ね守(まも)らエで、
お城の周(まは)りサ展(フロダ)がる
此のあづましいおらの街(マヅ)・・・
注)太字は当方にて

青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
オラ

意味:俺。僕
品詞:代名詞
区域:津軽、南部

津軽のことば 第二巻(1958年、鳴海助一)
おら 代名詞(自称)。

「我・私・僕・俺(おれ)・自己(おのれ)」等の意。
この「おら」に複数的な接尾語がついて、
次のような言い方も、しばしば用いられる。

おらェ=私の家・僕の家・拙宅等にあたる。
おらけェんど=俺たち・僕等・私たち等。
おらたつおらだじ)=私共・私め(卑下)
おらェんたもの=俺みたいな者・私如き者(卑下)
おらんど=俺たち・私共・我々・僕たち等。

※おらハキモノァ、メナェグナタデァ。
〇僕の(俺の・私の)靴(下駄・ズック)が、見えなくなったぜ。

津軽 森田村方言集(1979年、木村国史郎)
オラ
 意味:俺。自分。私。

青森市旧安田の方言語彙(2001年、三浦義雄)
オラ(名)
 意味:俺。私。我。「ワ」「ワエ」とも言う。

オラダズバ(連)
 【オラダズ(名)、バ(助)】  意味:俺たちを。
 

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各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(1986年、寺井義弘)
おら(一人称人代単)
 意味:俺。

おらだづ(一人称人代複)
 俺達。

南部のことば(1992年、佐藤政五郎)
おら
 意味:俺・私・我

おらごと
 意味:わたしのこと
 用例:おらごと何てへてらぇ?あの人。

おらずのあ
 意味:私という奴は・私という人間は

おらだ・おらだず・おらど
 意味:俺達・私共

おら、は
 意味:私は、もう
 用例:おら、は、わがね年とって
   (私は、もう、駄目だ、年とって)
おらばり
 意味:私ばり  用例:おらばり一人っこねなってしまった。

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各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)
おら(代名)
〔意味〕私、私共。
〔方言採集地〕鹿角郡、山本郡、南秋田郡、秋田市、仙北郡、雄勝郡、由利郡

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各地の言語資料より ↑

秋田(県北)
田代町史資料 第四輯 田代町の方言(1983年、秋田県田代町)
オラ・オラダケ・オランケ・オンキャ
〔意味〕私・自分・私達・自分達ということである。

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各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
一九七三年版 象潟町史(1973年、象潟町郷土史編纂委員会)
おら(れ)
〔意味〕私、俺

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各地の言語資料より ↑

岩手(旧南部領)
遠野方言誌(1926年、伊能嘉矩)
オラア
 意味:吾等
 解説:己れ等の轉

花巻の歴史(1958年、熊谷章一)
オラ
 俺、自分

盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
オラ〔俺・己〕
 意味:私。自分。また複数の意にも用いられる。

遠野民俗資料 遠野ことば(1982年、俵田藤次郎・高橋幸吉)
オラ(オレ)
 意味:私、俺れ(男女共に使う言葉)

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各地の言語資料より ↑

岩手(旧伊達領)
気仙方言辞典(1978年、金野菊三郎)
おら
 意味:俺。俺等。
 解説:単数にも複数にも用いる。

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言集(1933年、山形県師範学校)
おら
 意味:僕、私(己)
 品詞:代名詞
 使用地方:庄内、村山、置賜
 用例:おらだもえぐであ。(僕等も行くよ。)

おらあ
 意味:僕、私
 品詞:代名詞
 使用地方:村山、置賜

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各地の言語資料より ↑

山形(庄内)
みかわの方言(1983年、佐藤武夫)
やんだおら(俺いやだ)

庄内方言集 おらが庄内弁(1984年、佐藤俊男)
おら

意味:おれ。僕。私。
解説:おめ に対する言葉
用例:おらだも 日露戦争さ えってきた。

庄内方言辞典(1992年、佐藤雪雄)
オラ

意味:おれ。私。自分。
用例:「オラしらね」(私は知らない)

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各地の言語資料より ↑

山形(置賜)
米澤言音考(1902年、内田慶三)
おえら。又、おら。又、えら。

意味:私
解説:
おえらハ、己等(オレラ)ノ、
れノ父音ヲ脱シタルモノナリ。

おらハ、おれらノ、
れヲ脱して、用ヒタル場合ト、
おれはト云フ複語ノ、れはヲ約シテ、
用ヒタル場合トノ、二ツアリ。

一ノ場合ハ、
・・・にもおしえなえ、
私にも教へないノ意

二ノ場合ハ、
・・・知らなえ、
・・・見なえナドノ如シ。

えらハ、おらノ轉。田舎語。

米沢方言辞典(1969年、米沢女子短期大学国語研究部)
おら
 意味:僕。私。俺ら。

置賜地方川西の方言集・おらだのことば(1998年、松村健治)
おらあだり
 意味:[名]私の近所.(「おらだり」ともいう).
 用例:おらあだりで そげなことはしねなぁ

おらししゃね
 意味:[句]私は知らない.
 用例:なにゆわっちゃたて おらししゃね

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各地の言語資料より ↑

宮城
仙台方言集(1919年、土井八枝)
おら
 意味:おのれ
 用例:おらしゃねえ(私は知らない)

自伝的仙台弁(1966年、石川鈴子)
おら

意味:自分。私。己。
   女の子まで使っていた。
   =おれ。
用例:「-やんだ」

細倉の言葉(1956年、世古正昭)
おら

意味:俺、私。
解説:
第一人称単数のオレ、オラは
男性代名詞としては全国共通であるが、
当地は女子でも自分のことを
オレ、オラという。
妙令の女子も言うのでギョッとする。

南三陸地方の方言(1984年、西條弥一郎)
おら
 意味:おれ・自分

方言 みなみかた(1997年、南方町文化財保護委員会)
おら

意味:
自分をいう
男女共に使う
おれと同じ

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各地の言語資料より ↑

福島(全般)
福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)
オラ、オラァ
 意味:私、俺
 使用地域:県北・中部・県南・浜通・会津

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各地の言語資料より ↑

福島(会津)
会津方言辞典(1983年、龍川清・佐藤忠彦)
おら
(1)自分
(2)複数、おらだち「・・・大嫌いだ」

おらあ
 意味:おれは、おれが

会津只見の方言(2002年、只見町史編さん委員会)
おら・おらー
 意味:俺。私。(単数にも複数にも通用)

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各地の言語資料より ↑

新潟県東蒲原郡(旧会津藩領)
上川のおんな語り(2003年、國學院大學 民俗文学研究会 説話研究会)
おらみたいなどん百姓が
おらも姉みてぇにお籠に乗ってみてえ
注)太字は当方にて

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各地の言語資料より ↑

福島(中通り中部)
忘れられつつある方言集(1968年、三浦孟義)
オラア
 意味:おれ、私

都路村史(1985年、都路村史編纂委員会)
オレ・オラア
 意味:私

郡山の方言(1989年、福島県郡山市教育委員会)
オラ、オラァ
 意味:私。僕。自分。俺。

旧塩澤村地域遺産のことばと地名(2013年、菅野八作)
オラァー

意味:俺、自分、私
解説:女性も使用する
用例:
 そだごどオラァーも知っていだ
 そんな事俺(私)も知っていだ

福島(中通り南部)
湯本山郷史 奥州白河領木地村とその周辺 上巻(1973、星勝晴)
おら
 意味:自分を言う。

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り北部)
相馬方言考(1930年、新妻三男)
オラ
 意味:おれ、おれら(単複兼用)

高平方言集(2005年、高平方言教室)
オラ
 意味:私
 用例:オラの生まれは原町だ

大熊町方言集(2019年、おおくまふるさと塾)
オラ
 意味:俺
 用例:オラも大学さ行きてえ

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各地の言語資料より ↑

福島(浜通り南部)
富岡町史 第三巻 民俗 考古編(1987年、富岡町史編纂委員会)
オラ
 意味:俺

いわき市小川町地方の方言(1988年、草野二郎)
用例:おら弱えもんで、おめえにばり苦労かげっちまな。

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各地の言語資料より ↑

編集後記

東北(旧・奥州)6県の言語を
後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、
奥州/東北6県の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、奥州/東北の言語を
次世代に継承できる環境を整えて
いければ幸いです。

編集者:千葉光

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