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9/01/2019

浮ぎる

東北方言の公用語化の一環として、
奥州/東北各地の言語資料を基に、
意味・活用などを整理しました。

編集:千葉光

目次:
・意味
・活用
・古語「うかる」の系統か
・各地の言語資料より
 【青森】津軽 南部
 【秋田】全般 鹿角 県北  県南 由利(由利郡)
 【岩手】旧南部領
 【山形】全般 庄内 最上
 【宮城】仙台 県北
 【福島】全般 会津 中通り南部
・編集後記

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意味

浮ぎる(うぎる)

〔意味〕
①浮く、浮かぶ
②調子づく(浮かれる)

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活用

各地の言語資料を基に、
「浮ぎる」の活用を整理しました。

【活用】
【活用】浮ぎる
え・あ中間音は、リンクを参照

また、「津軽木造新田地方の方言」に、
「浮ぎる」の活用が載っていました。

津軽木造新田地方の方言(2000年、田中茂)
ウギル
〔意味〕浮く・浮かぶ
〔活用〕
未然「ウギね」
連用「ウギしたじゃ」
終止「ウギル」
連体「ウギル時」
仮定「ウギレば」
命令「ウギレ」

「ヘル」を付けると「ウギラヘル」となる。
「べ」を付けると「浮ギベ」となって
終止形語尾の「ル」が脱落する。

〔例〕
船ダモノ 水サ ウギベナ。
(船だもの水に浮くだろう)

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活用 ↑

古語「うかる」の系統か

「津軽のことば 第一巻」では、
「浮ぎる」を、古語「うかる」の系統を
引くものとしています。

津軽のことば 第一巻(1957年、鳴海助一)
うぎる 動詞(が行上一段)。

「浮く・浮いてる」という
自動詞の言い方に同じ。
前項の「うきぶ」と同じ動詞のようだが、
実はそうではない。

1 水サうぎばナェ
 =ウカバナェウカバナイ
2 水サうぎナェ
 =ウガナェウカナイ

右のように、1と2とは同じ動詞ではない。
やはり、バ行の動詞とガ行の動詞である。

ただし、方言の場合は、
この二つの語が混同して用いられる。
標準の言い方のように、
六つの活用形が、正確には活用しないし、
便用もされていない。

これは、困ったことでもあり、
また、例の津軽のことばは
「なんでもテマナェグ言う」
(何事も手っ取り早く言う)という
原則からみると、むしろ、許されても
よいような面もある。
その理由は次の通り。

▲標準語の用法を調べて、もって、
「うぎぶ・うぎる」の正体を明らかにしよう。
縁遠いもので恐縮ながら、
やはり、古代の語法を例示しないと
都合がわるい。

「自」は自動詞、「他」は他動詞のこと。

イ うく
 =か・き・く・け・け(自・カ四)

ロ うく
 =け・・く・くる・くれ・けよ
 (自・カ下二)

右のイ・ロは、
漢字の「浮・泛」の意味で、
終止形はどちらも「うく」であるが、
自・他の用法によって、
活用の形だけはちがうのである。

太古からこの自・他の二つにわかれており、
盛んに用いられた。(用例省略)

その「」の名残が、
うきどり・うきね・うきぐも・うきぶくろ
(浮鳥・浮寝・浮雲・泛袋)などである。
「うき」の「」に注意。

次に「」の用例として、
明治以後のもの少々。

◯いざや小川のに舟浮けて、
 昼の暑さを忘れてん
(文部省唱歌の一節)

◯あゝ玉杯に花浮けて・・・
(二高校歌の一節、弘前出身 佐藤紅緑作詩)
この連用形の「」に注意。

ハ うかぶ
 =ば・び・ぶ・ぶ・べ・べ
  (自・バ四)

ニ うかぶ
 =べ・べ・ぶ・ぶる・ぶれ・べよ
 (他・バ下二)

このハ・ニが、現代口語となると、
「ハ」は
「浮かぶ・浮かばない・浮かびます」 のように、
昔のままの自動詞ハ行四段活用だが、
「ニ」は、
「浮べない・浮かべる」となって、
他動詞バ行下一段とかわるのである。

「うきぶ・うぎる」の正体は、
前項の例によって、
ほぼ明らかになったようだが、
もう一語だけ是非あげなければならない。

ホ うかる
 =れ・れ・る・るる・るれ・れよ
 (自・ラ下二)

これも、「浮・泛」の意味だが、
少しちがうところは、
なんとなく
ひとりでに浮いてくる・自然に浮いている」
というような意味をもっている。

この語も極めて古くから用いられ、
古事記・万葉・源氏物語その他に
用例が多いが、
今は実例をあげる暇もないので、
その名残りとして、現代にみられる
二・三の例を示しておくに止める。
すなわち
「浮かれ胡弓・浮かれめ(女)
・月に浮かれて狸がおどる」
等々である。

なお、「うか」という
マ行系のものもあるが、これは、
例のバ行相通の音転化のあらわれで、
これも、相当古くから用いられた。

▲以上のことがらを要約すれば、
「浮・泛」に関係ある語は、

うく 。
うく。
うかぶ。
うかぶ。
うかる。
うかむ。

の六つであり、それらの中では、
現代口語に至るまでの、
途中の変化があるということである。

しからば、それらのうちで、
津軽の「うぎぶ、うぎる」に、
最も縁故の深い語はどれか。

読者は既に気づいたにちがいない。

うぎぶ」は
」の「うかぶ」の訛りとみる。
うぎる」は決して
「うぎぶ」の別の訛りではなくて、
実に「」の「うかる」の系統を
引くものであることに注意して
もらいたい。

※シンダジャコァウギル
○死んだ雑魚は水に浮く。

※シッカェモノケバ、ファウギル
○しっぱいものを食べれば、歯が浮く。浮いてくる。

「うぎる」の妙味は、「ホ」の解説参照。
--- 抜粋 ここまで ---

この言語資料では、収録語彙にある、
同じ意味の「うぎぶ」を交えながら、
「浮ぎる」について解説しています。

古語の語法を数通り例示し、
「うぎぶ・うぎる」の正体を明らかに
していきます。

終盤に、終止形が共通する
「うかる」を例示し、
「浮ぎる」を「うかる」の「系統」を
引くものとしています。

尚、「うかる」には「気持が浮かれる」
という意味もありますが、
山形・福島の言語資料に、
この意味で収録されているものが、
みられます。

語源は断定できませんが、
「浮ぎる」は「うかる」の「系統」と
捉えるのが妥当のようです。

目次 ↑

古語「うかる」の系統か ↑

各地の言語資料より

各地の言語資料より、
意味・用例などを整理しました。

注)言語資料名の( )内は、発行年、著者名

青森(津軽地方)
津軽弁の世界 その音韻・語源をさぐる(1998年、小笠原功)
うぎる
〔意味〕浮く。
〔例〕
「体がら力抜げバ、体づものァ自然と うぎるもんだネ。
ホラ、何(な)して、そ バジャバジャすのや!」

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各地の言語資料より ↑

青森(南部地方)
五戸の方言(1938年、能田多代子)
ウギル
〔意味〕浮ぶ。浮く。
〔解説〕
次の如き場合の他、
浮揚する意に用ゐる例が多い。
〔例〕歯が、ウギル

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各地の言語資料より ↑

秋田(全般)
語源探求 秋田方言辞典(2001年、中山健)
うきる〔自カ上一〕
〔意味〕浮く。浮かぶ。
〔例〕
「体 水ニ 浮ギルエニ ナッタ」
「水ニ 浮ギル 種バ ダメダガラ、投ケ゚レ」
〔解説〕
ウキルはウクを上一段に活用させたもの。

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各地の言語資料より ↑

秋田(鹿角地方)
鹿角方言考(1953年、大里武八郎)
うきる
〔解説〕
浮く ノ延
浮かす ヲ うきらせる、
浮いた ヲ うきた 等
常ニ うき ヲ 語根トシテ
活用セシムル
此ノ地ノ方言ニ於ケル
変格ノ一ナリ。

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各地の言語資料より ↑

秋田(県北)
男鹿寒風山麓方言民俗誌(1971年、吉田三郎)
うぎる
〔意味〕浮く。
〔例〕「おれ この頃 歯が うぎる でば。」

田代町史資料 第四輯 田代町の方言(1983年、秋田県田代町)
ウギル
〔解説〕
浮くのことである。
水に浮く、宙に浮くなど、
ウギル、は、浮くの活用形である。
二音節が濁音に転じている。

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各地の言語資料より ↑

秋田(県南)
おらほの言葉 西木村(1997年、佐藤ミキ子)
ウギダ
〔意味〕ういた。浮き上った。経費などに余裕ができた。

ウギル
〔意味〕浮かぶ。

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各地の言語資料より ↑

秋田(由利)
本荘・由利のことばっこ(2004年、本荘市教育委員会)
うぎる
〔意味〕浮く
。 〔例〕「しじでだ あみ うぎできた。
   (沈んでいた網が浮いてきた)
〔解説〕他動詞「浮かす」に対し、自動詞「自然に浮く」を意味する語。

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各地の言語資料より ↑

岩手(旧南部領)
岩手方言集(1975年、小松代融一)
ウギダ 〔意味〕浮いた

盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
ウギル
〔意味〕浮く。浮かぶ。
「白玉は煮えると うきるから網杓子ですくえばいい」

種市のことば 沿岸北部編(1989年、堀米繁男)
うぎる〔浮きる〕
うぎらがす〔浮かす〕

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各地の言語資料より ↑

山形(全般)
山形県方言辞典(1970年、山形県方言研究会)
ウ・ぎル(上一)
〔意味〕
①浮く、浮ぶ。
〔例〕「水の上にウぎでいる」
〔分布地点〕全県的

②青梅など酸っぱい物を食べて歯が浮く感じになる。
〔例〕歯がウぎだ(ういた)」。
〔分布地点〕全県的
注)「ウ・ぎル」の「ウ」が語幹

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各地の言語資料より ↑

山形(庄内)
あつみ温泉の訛語と方言(1981年、和島泰賢)
うぎだ 〔意味〕浮いた
うぎる 〔意味〕浮きる

庄内方言集 おらが庄内弁(1984年、佐藤俊男)
うぎだ
〔意味〕ういた。
〔解説〕
"ういだ"ともいう。
宴会さえって折箱もらってきたもんだはげ、
あしたの弁当ぜ"うぎだ"。
この場合"ぜ"とは、おかずのこと

庄内方言辞典(1992年、佐藤雪雄)
ウギダ
〔意味〕浮いた。浮き上った。時間・経費など余裕が出た。
〔例〕
「あれ かわねさげ なんぼが ウギダ」
(あれを買わなかったのでいくらか浮いた)

ウギル
〔意味〕浮く。浮かぶ。

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各地の言語資料より ↑

山形(最上)
真室川の方言・民俗・子供の遊び(1978年、矢口中三)
ウギル
〔意味〕
①浮く。浮かぶ。
②歯が浮き上がるような気がする。
〔例〕歯ウギル。

続 かつろく風土記(1984年、笹喜四郎)
うぎる
〔意味〕浮きる
〔例〕水さ うぎった

続及位(のぞき)の方言(1987年、高橋良雄)
うげる うぎる
〔意味〕浮く。
〔例〕
1.「きのは みずさ うげる=木の葉が水に浮く」
2・「こんげつあ けいひあ うげだ=今月は経費が浮いた」
3・「わらしたずぁ うげできた=子供らが浮いてきた」

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各地の言語資料より ↑

宮城(仙台都市圏)
仙台の方言(1938年、土井八枝)
うきる
〔意味〕浮く、うかぶ。
〔例〕
「白玉団子ゆでてんのすか、にえっと うきっ からな、
うきたら 網杓子ですくわえ」
(白玉団子をゆでてゐるの、それは煮えると浮くからね、
浮いたら網杓子でお掬ひ)
「なーんだ、笹舟 うきねうち 沈みした」
(あらあら笹舟が浮かない中に沈んでしまった)

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各地の言語資料より ↑

宮城(県北)
細倉の言葉(1956年、世古正昭)
うきる
〔意味〕浮ク、浮カブ
〔例〕「木ノ葉ガウキル」(木の葉が浮く)」

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各地の言語資料より ↑

福島(全般)
福島県方言辞典(1935年、児玉卯一郎)
ウキテ
〔意味〕浮いて
〔地方〕中通り北、南、会津

ウキル
〔意味〕たはむれる
〔地方〕会津

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各地の言語資料より ↑

福島(会津)
会津方言集(1978年、菊地芳男)
うきる
〔意味〕浮いている
〔例〕水あび上手になって うきるようになった

うきる
〔意味〕はしゃぎたわむれる
〔例〕やかましぞ、うきていんな

会津只見の方言(2002年、只見町史編さん委員会)
うきる
〔意味〕
① 浮く。
② たわむれる。
③ はしゃぐ。調子づく。

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各地の言語資料より ↑

福島(中通り南部)
湯本山郷史 奥州白河領木地村とその周辺 上巻(1973、星勝晴)
うきる
〔意味〕子供がうきうきしてさわぐに言う。
酸っぱい果実を過食し歯がうきたと言う。

天栄村史 第四巻 民俗編(1989年、天栄村史編纂委員会)
うきる
〔意味〕酸っぱい梅などを食い歯がうきた

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各地の言語資料より ↑

編集後記

東北(旧・奥州)6県の言語を
後世に継承していくためには、
東北方言の公用語化が不可欠です。

奥州語の文法は、
東北6県の言語資料を基に、
広範囲に共通の用法で構成されています。

公用語化により、東北の言語を
次世代に継承できる環境を
整えていければ幸いです。

編集者:千葉光

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