ける(北奥編)
青森・秋田・岩手の方言資料から、意味・活用などを整理しました。
青森
津軽方言集(1902年、齋藤大衛・神正民)ける
意味:
與(アタ)フルコト。
又ハ「ケセ」(與ヘヨノ義)ナド、活用ス。
呉(ク)レ 呉レヨ ナドノ轉化ナラン
青森県方言集(1936年、菅沼貴一)
ケル
意味:呉れるの轉化
区域:津軽、南部
続津軽のことば 第二巻 補遺編二(1964年、鳴海助一)
ける 動詞:
活用:
くれナイ。(けナェ。)(未然形)
くれマス。(けダ。けデ、)(連用形)
くれる。(ける。)(終止形)
くれる人、(ける人。)(連体形)
くれれバ、(けれバ)(仮定形)
くれろ。(けろ。)(命令形)
例:
※ける、けナェトネカグ、アダッテバエデモ、ミルベシシ。
(アダルは交渉すること。)
○くれる、くれないはともかく、先方に話すだけでも話してみましょうよ。(手当ての要求など)
※けるネ、けラエナェシ、モラルネ、モララエナェ。
○くれるにも、くれられないし、もらうにも、もらわれない。
(ひとり娘の場合。婿どりするにも、おいそれと容易には、もらえない、という意)
青森(南部地方)
教育適用 南部方言集(1906年、簗瀬栄)ける
意味:
物を他人に與(やる)ことにて
くれるの轉訛(てんくわ)
十和田の方言(1997年、国分良人)
ける
意味:あげる、やる
けね
意味:あげない、やらない
けだ
意味:あげた、やった
けねが
意味:呉れないか
けだが
意味:あげたか、やったか
けらえね
意味:あげられない、やれない
けるが
意味:あげるか、やるか
青森(下北地方)
下北・薬研の風物誌(1981年、佐藤徳蔵)ケル
意味:相手に物をやる
秋田
秋田方言(1929年、秋田県学務部学務課)ける
品詞:動詞
意味:呉れる。
例:「錢けるから來い。」
方言採集地:南秋田郡
鹿角方言考(1953年、大里武八郎)
ける
意味:くれる(与フ)ノ約
例:
「ければよろこぶ=クレレバ喜ブ」
「これ、けてけろ=クレテクレロ、之オクレ、之ヲ頂戴」
本荘・由利のことばっこ(2004年、本荘市教育委員会)
例:
この本 ほしば ける。
(この本が欲しければ、あげる)
ほしば このとげー けでやる。
(欲しければ、この時計をあげる)
あんたさ うじの娘 けでやる。
(あなたに家の娘を嫁にやる)
岩手
遠野方言誌(1926年、伊能嘉矩)ケル 又 ケロ 又 ケナイ
意味:呉れる、呉れろ、呉れない
盛岡のことば(1981年、佐藤好文)
ケル
意味:人に物を与える。くれる。やる。
ケデ
意味:くれて
ケネァ
意味:くれない。やらない。
ケデヤル
意味:くれてやる。やる。与える。
ケネァガ
意味:呉れないか?
ケデケロ
意味:呉れてくれ
ケルナ、ケンナ
意味:くれるな。やるな。
種市のことば 沿岸北部編(1989年、堀米繁男)
けっか
意味:呉れようか。やろうか。呉れるか。呉れるのか
ける
意味:呉れる。あげる
例:「りんごー(を)ける」
ける
意味:・・・てやる。・・・て呉れる
例:「手伝ってける」「やっつけでける」
活用:
けだ。けで。ければ。けろ など
岩手(旧伊達領)
黄海村史(1960年、黄海村史編纂委員会)けろ
意味:与えろ。くれろ。
ける
意味:くれる。与える。
気仙方言辞典(1978年、金野菊三郎)
ける
意味:呉れる(ら下一)。
例:おやつゥけろ。
以上、北奥編でした。
編集:千葉光