言語の公用語化の一環として、各地の言語資
料を基に、ここでとりあげる語の用法につい
て整理しました。
編集者:千葉光
目次:
01. 意味02. 活用
03. 語源
04. 各地の言語資料より
【青森】全般 津軽 南部 下北
【秋田】全般 県北
【岩手:旧盛岡藩】北部 盛岡 中部
【岩手:旧仙台藩】沿岸
【山形】全般 庄内
【宮城】県北 三陸圏 県南
【福島:中通り】中部
05. 編集後記
意味
標準東北語としての意味や漢字表記について整理しました。
凍ばれる・凍ばえる
〔読み方〕しばれる・しばえる
〔意味〕厳しく冷え込む・酷く冷える
〔品詞〕動詞(ラ行下一段活用)
〔漢字表記〕「凍みる・凍み腫れる」に基づく
活用
「凍ばれる」の活用について整理しました。【活用】
参考:【え・あ中間音】母音・子音の一覧
ただし、東北各地の資料の用例には、未然形
・仮定形・命令形が、当方の調べた限りでは
見当たりません。日常会話で使われる場合、
ほとんどは終止形・連用形に限られてくるた
めと思われます。
尚、活用に付いては、次の津軽の資料を参考
にしました。
津軽木造新田地方の方言(田中茂, 2000年)
シンバレル
【意味】凍れる・寒さが厳しいこと
【品詞】動詞
【活用】
未然「シンバレね」
連用「シンバレしじゃ」
終止「シンバレル」
連体「シンバレル時」
仮定「シンバレレば」
命令「シンバレレ」「シンバレロ」
となる。下一段活用である。
【音韻】
「シ」は母音が「イ」と「ウ」の間の発音の
母音である。「シ」と「バ」の間に撥音「ン
」が入る。これは濁音「バ」の前に「ン」が
入るということである。「レ」は、日常の会
話の中では、子音が脱落して「エ」になるこ
とも多い。「シンバエル」
【その他】
原形は、何だろう。よく判らない。「縛る」
とでも関係あろうか。
【用例】
今日モ シンバレルキャネシ。
(今日もひえますねぇ)
語源
次の資料では、語源について詳細にとりあげています。
※引用欄外の補足は当方によるものです。
語源探求 秋田方言辞典(中山健, 2001年)
しばれる〔自ラ下一〕
〔意味〕厳しく冷え込む。
〔シンバレル〕鹿・北・山・南
〔例〕「今夜ンダンバ ホントニ シンバレルナ」
《しばれる》
北海道 青森 岩手 宮城栗原郡・石巻 山形
新潟佐渡・岩船郡
〈『日本方言大辞典』『北海道方言辞典』〉
〔語源考察〕
単に寒いというのではなく、寒さが厳しく、
およそ水分・湿気があるものはコチコチに凍
結するような場合の感じを表すことば。
この語は北国への旅情を誘う詩的な響きを持
つが、実は命にかかわるほどのものすごい寒
さを表すもので、このような状態の中で、毎
年雪道の中で凍死する人も出る。
語源については諸説がある。
(中略)
ⓔ凍傷をいうシミバレ(凍腫)は、シンバレ
、シバレと変化した。北海道語として有名な
「しばれる」という語は、語源的にはおそら
くこのシバレと関わりをもつだろう。
(『日本の方言地図』)
(中略)
——ⓔ凍ミ腫レルの連用形の名詞化のシミバ
レ、シンバレ、シバレが凍傷の意となる一方
、シミバレルがシンバレル、シバレルと転じ
て凍傷ができるほど厳しく冷え込む意となっ
たという考え方は、シミバレ、シンバレ、シ
バレ(凍傷)の語が実在するだけに説得力が
あろう。
けっきょくⓐかⓔであるが、ⓔに従っておき
たい。
【補足】
この資料の「語源考察」では、語源について
他の言語資料がとりあげている説をⓐ〜ⓔの
五項目に分け、考察していますが、著者自身
はⓔに従っておきたいとしています。
著者がⓔで解説した経路を漢字表記に置き換
えると、次のようになります。
凍み腫れる→凍みばれる→凍んばれる→凍ばれる
また、ここでは引用を割愛しましたが、ⓐ〜
ⓒの解説では「凍みる・凍む・凍み晴れる」
を挙げています。
語源と断定できるものはないようですが、い
ずれにしても、「凍みる」と関連する語と捉
えるのが妥当といえるかもしれません。
各地の言語資料より
東北各地の言語資料より、意味・用例などを整理しました。尚、引用欄外の補足は当方に
よるものです。
*言語資料名の( )内は、著者・発行年
青森(全般)
東奥日用語辞典及青森県方言集(東奥日報社, 1932年)シバレ(又はシンバレ)
〔意味〕凍傷、しもやけ
シバレル
〔意味〕寒気身に泌む
青森(津軽地方)
津輕方言集(齋藤大衛・神正民, 1902年)しばれる【補足】
〔意味〕カンズル(寒)、烈シキ寒サノコト
〔解説〕寒サ烈シク、身ヲ縛ラルヽガ如キヨリ云フカ
しばれ
〔意味〕シミバレ、シモヤケ、ユキヤケ(凍瘡)
腫物(ハレモノ)ノ名
〔解説〕
◯シモヤケ、ユキヤケノコト
◯手足ノ端ナド、烈シキ、寒サニ傷メラ
レテ、痒ク、痛ク、腫レテ、瘡(カサ)
トナルモノ
◯シミ腫(バレ)ノ義ニテ云フカ
名詞形の「しばれ」については、原形として
「しみ腫れ」を挙げています。
津軽のことば 第五巻(鳴海助一, 1958年)
しばえる・しばれる 動詞【補足】
〔解説〕
これは、単に「寒い」というのとは大いに異
なる。寒さが厳しくて、およそ水分・湿気の
あるものは、みなコチコチに凍結する、とい
うような場合に用いる。もちろん多少寒暖の
差があるにしても......。
だから、春充き、どんなに風が寒くても、秋
おそく、みぞれが降る頃でも、ほとんど「し
ばえる」とはいわない。
寒中月のある晩など、歩けば雪道がキリキリ
と鳴る。そんなとき、「今夜ずいぶんしばえ
でラデァ。」などという。また「寒あけても
、しばれァ、なんもおちない(寒気が衰えな
い)」など。
この語源も不詳。「冷え栄え」か「冷え張る
」か。
ただし、「冬・ふゆ」は「冷ゆ」からきたも
の。何か手掛りが得られそうだが......。
後考にまつ。
〔例〕
※コンニャ、ジンブしばえデキタデァ。
「ホシモジ」オンニャサカケルベァ。
◯こんやは、ずいぶん冷えてきましたゼ。
ほしもち(干餅・凍り餅)を、庭に掛けましょうよ。
「しばえる」の「え」はラ行の子音が抜け落
ちたものですが、この発音法則は東北六県共
通に見られます。
解説にあるとおり、この語は厳しい寒さを表
す動詞です。また、語源については不詳とし
ています。
青森(南部地方)
青森県五戸語彙(1963年、能田多代子)シバレル青森県南 岩手県北 八戸地方 方言辞典(寺井義弘, 1986年)br />
〔意味〕寒気の烈しこと。
すばれる(動ラ下)【補足】
〔意味〕寒さのきびしいこと。(語源不明)
すばれ(名)
〔意味〕寒気。語源に諸説ありて決めがたし。
語源に諸説あり、決めがたいとしています。
青森(下北地方)
下北・薬研の風物誌(佐藤徳蔵, 1981年)シバレル
〔意味〕寒さがきびしい
秋田(全般)
秋田方言(秋田県学務部学務課, 1929年)しばれる(形)
〔意味〕さむい(寒い)。
〔方言採集地〕鹿角郡・北秋田郡
〔例〕「今日はひどくしばれる。」
秋田(県北)
秋田県北部方言考(藤盛直治, 1974年)シバレ・ル【補足】
〔意味〕凍る しばれる。寒気の厳しきこと。
シバレ・ユキ
〔意味〕ばれ雪。凍て雪。凍りて降る雪。粉雪。湿り雪の対。
この資料では、名詞形「しばれ」の派生形と
して「しばれ雪」をとりあげています。
岩手・旧盛岡藩(北部)
軽米町誌(軽米町誌編纂委員会, 1975年)しばれる
〔意味〕寒気がきびしい
岩手・旧盛岡藩(盛岡)
盛岡のことば(佐藤好文, 1981年)スバレル【しばれ・る】(動)【補足】
〔意味〕きびしく冷えこむ。
スバレ【しばれ】(名)(動詞「しばれる」の連用形の名詞化)
〔意味〕きびしい冷えこみ。酷寒。シバレ
スバレユギ【しばれ-ゆき】(名)
〔意味〕酷寒の日などに降る粉雪。
動詞「スバレル」の連用形の名詞化したもの
として「スバレ」を、また、その派生形とし
て「スバレ雪」をとりあげています。
岩手・旧盛岡藩(中部)
遠野方言誌(伊能嘉矩, 1926年)シ(ス)バレル【補足】
〔意味〕厳しき寒さ
見出し語にあるとおり、「シ」が「ス」とも
発音される地域が東北の広範囲にあります。
おでぇあたっすか-花巻方言の整理と考察-(佐藤善助, 1976年)
シバレル 動【補足】
〔意味〕ひどく冷える
〔解説〕零下十度以下の気温をさす
各地の資料では、「厳しい寒さ」という解説
が多く見られますが、この資料では、「零下
十度以下の気温」と具体的に数値を出してい
ます。
岩手・旧仙台藩(沿岸)
気仙ことば(佐藤文治, 1965年)シバレル(動)【補足】
〔解説〕
名詞はシバレ。語系未考。
厳しく寒くなること、またその寒さ。これを
言うのは、雪の降っている時とか、吹雪の時
などでなく、よく晴れていて寒い時に限るよ
うだ。
「けさはシバレルなあ」と言う時は、きっと
空は晴れている。「シバレル晩だ」という時
は、雪もよいでなく星空。 すると「凍み晴
れる」の原形が想起される。
名詞として「シバレ」を、原形として
「凍み晴れる」を挙げています。
山形(全般)
山形県方言辞典(山形県方言研究会, 1970年)シバ・レル(下一)【補足】
〔意味〕酷く冷える。
〔分布地点〕北村山郡・東田川郡
スバ・レル(下一)
〔意味〕ひどく冷える。
〔例〕
「今夜みでに、ぴりぴり——時」
「スバレで、段々氷(スゴ)コ張って来た」
〔分布地点〕最上郡
見出し語にあるとおり、「シ」が「ス」とも
発音される地域が東北の広範囲にあります。
山形(庄内地方)
庄内方言集 おらが庄内弁(佐藤俊男, 1984年)すばれる庄内方言辞典(佐藤雪雄, 1992年)
〔意味〕ひどく寒い。
シバレル 動詞
〔意味〕寒くて凍る。ひどく冷える。
宮城(県北)
細倉の言葉(世古正昭, 1956年)しばれる(動,ラ行下一段)宮城県史20 民俗Ⅱ(宮城県, 1960年)
〔意味〕寒イ,冷エ込ム。
〔解説〕
寒イと言つても底冷えするように寒いこと,
身にじんじんとしみるような寒さを表現する
。無論動詞であるから寒イと訳さず、寒サ身
ニ沁ムとでも訳すべきであろう。骨身にこた
えて体の固くちぢみあがるような感じのよく
出た傑作方言の一つであろう。
方言(藤原勉)
しばれる【補足】
〔解説〕
寒さの凍みとおること。
しみれる>しびれる>しばれるか。
栗原郡。山形・秋田・青森・岩手県
使用地域に宮城県北の「栗原郡」とあります
が、当方にて調べたところ、宮城県南の白石
市の言語資料にも「すばれる(しばれる)」
が見られました。
古川市史 下巻(古川市史編纂委員会, 1972年)
すばれる
〔意味〕冷える
宮城(三陸圏)
石の巻弁 語彙編(弁天丸孝, 1932年)すばれる
〔意味〕厳しい寒さの意。
〔例〕「今朝はたまげですばれすてすね」
宮城(県南)
白石市史3の(3) 特別史(下)の2(白石市史編さん委員会, 1987年)宮城県白石地方の方言と訛語(菅野新一)
すばれる(しばれる)
〔解説〕寒さのために手足がしびれる。すばる、ともいう。
〔例〕「今朝、起きて、すばれるので、寒暖計を見たら、零下六度だった」。
福島(中通り中部)
どごんわらしえ 故郷福島県「正直」の言葉(鈴木節子, 2017年)しばれる
〔意味〕凍(い)て付く寒さのこと
〔例〕
「いやー、今朝はしばれるない」
「しばれる朝は凍豆腐(しみどうふ)がよくできんだとい」
編集後記
かつての日高見国である東北地方の言語を未来へ継承していくためには、公用語化が不可
欠です。
当方の提唱する標準東北語の用法は、国語の
東北版として、東北各地の言語資料を基に、
東北の広範囲に共通の用法で構成されており
、文章語として公文書や記事などに使うこと
を想定しています。
尚且つ、東北全土の言語に対応しているため
、東北各地の言語の地域公用語化にも貢献で
きるはずです。
当方では、標準東北語を、中国における北京
官話(普通語)に相当するものと位置付けて
いますが、「方言」から公用語化への脱却こ
そが、明治以降、自らの言語を否定され、劣
等感を植え付けられた東北の力を引き出す原
動力となるはずです。
編集者:千葉光
